第127話。夢の共演?
名前…サンジュウサン(ネロ)
種族…【闇竜】
性別…雌
年齢…不明
職種…なし
魔法…多数
特性…飛行、ブレス、【超位回復・超位自然治癒】
レベル…99
神の軍団の黒師団長。
異世界転移、27日目。
王都【アトランティーデ】王城のゲストルーム。
寝室を覗くと、みんな、まだ眠っていました。
さてと、【ドラゴニーア】に転移魔法陣を構築しておかなければいけませんね。
【タナカ・ビレッジ】からの【魔法草】エキスが、朝9時に【転送】されてしまいます。
私は、【ドラゴニーア】に【転移】しました。
・・・
私は、コンパニーアの工場管理責任者のイアンに、スマホで連絡をします。
「イアン、早朝にすみません。アブラメイリン・アルケミーの工場の場所をスマホにメールで送って下さい」
すぐに、イアンから、地図が送信されて来ました。
ふむふむ、なかなかアクセスが良い立地ですね。
アブラメイリン・アルケミーの製薬工場は、マリオネッタ工房の【自動人形】工場のすぐ近くでした。
・・・
アブラメイリン・アルケミーの製薬工場。
私は、守衛さんにギルド・カードを提示して、この工場を買収し、新しい所有者となった、コンパニーアのオーナーである事を示します。
守衛さん達は、姿勢を正して敬礼しました。
今後とも、よろしく。
入館証を受け取り、工場の中に入ります。
私は、ズカズカと工場の中を歩き、倉庫の一つに転移魔法陣を構築しました。
ここに、【タナカ・ビレッジ】から毎朝荷物が【転送】されて来ます。
私は、クイーンに連絡して、転移座標を伝えました。
夜勤なのか、宿直なのか、何人か見慣れない従業員が集まって来ます。
私は、身分証代わりのギルド・カードを提示しました。
私が、マリオネッタ工房とアブラメイリン・アルケミーの共同オーナーの1人だと知ると、皆、直立不動で挨拶をします。
今日は、忙しいので、私からの挨拶は、また後日という事で、ご勘弁を……。
転移魔法陣を構築し終えた私は、【転送】を発動させる【魔法装置】を設置しました。
また、【転送】の操作オペレーション担当として、【自動人形】・シグニチャー・エディションを【収納】から出して、起動させます。
ついでに、アブラメイリン・アルケミーの製薬工場で、ライン管理、従業員指導、警備の役割をする【自動人形】を3体、起動させました。
これで、よし。
私は、【自動人形】達に【宝物庫】を2個ずつ渡しました。
1個は武装を入れておき、もう1個は資材入れとして使ってもらいます。
本来なら、イアン達に【自動人形】達のマスター代行権限を与えたいところですが、今は、その時間がありません。
まだ、【ハイ・エリクサー】の製造は始まっていませんので、それは追い追いで大丈夫ですね。
私は、アブラメイリン・アルケミーの製薬工場を後にしました。
・・・
【ドラゴニーア】中央港・中央卸売市場貨物搬出入口。
私は、コンパニーアが専用で使える、ドックに入りました。
十分な大きさがあります。
30m級の大型【バージ】でも対応出来そうですね。
私の【バージ】は、5m……問題ありません。
このドックにも、転移魔法陣、【転送】の【魔法装置】を設置。
オペレーション担当の【自動人形】・シグニチャー・エディションを1体、起動。
作業員、兼、警備員として、3体を起動しました。
これで、よし、と。
さて、戻らなくては……。
私は、王都【アトランティーデ】の王城に【転移】します。
・・・
王都【アトランティーデ】の王城のゲストルーム。
ああ、慌ただしかった……。
何故か、いつもバタバタしますね。
それなりに計画は立てているつもりなのですが……。
本当に、私のスケジュール管理してくれるスタッフが必要かもしれません。
私が戻ると、既にファヴとトリニティは、起床していました。
ソフィアとウルスラは、まだ爆睡中。
ボチボチ、起こしますか。
今日の遺跡攻略は、1日がかりになります。
アペプ遺跡の入口には、強制転移魔法陣のトラップを設置してあるので、もはや、時間を消費して、スタンピードで魔物が地上に溢れ出す、という状況は終息していました。
遺跡は、私の管理下にあり、火急を要する自体は去っているので、私達は、今日、魔物の素材を徹底的に狩り尽くしてやるつもりなのです。
オピオン遺跡で、私達は、【誘引の角笛】を入手しました。
あれを使えば、狩の効率が高まります。
とはいえ、魔物を狩り尽くそうとすれば、それなりに時間はかかるでしょう。
なので、なるべく早めに出発したいところ。
「オラクル。そろそろソフィアを起こしましょうか」
「畏まりました」
オラクルは、ソフィアの背中を撫り優しく起こします。
「ん、ウルスラ、我のケーキなのじゃ……ムニャムニャ……」
ソフィアは、寝言を言いました。
「ソフィア様……これは、あたしんだよ……ムニャムニャ……」
ソフィアのベッドのヘッドボードの上でハンドタオルを掛け布団代わりにして眠るウルスラが寝言で返事をします。
ふふふ、寝言で会話をしていますよ……。
この2人は盟約の主従ですから、案外、パスを通じて同じ夢を見ているのかもしれません。
やがて、ソフィアとウルスラが目覚めました。
「我のケーキ……山のように大きなケーキが……」
ソフィアは、寝ぼけています。
「あれは、あたしのだよ……あたしが最初に見つけたんだからね〜……」
ウルスラも寝ぼけていました。
「見つけたのは、同時じゃ。それに、ウルスラは我の盟約の妖精で、我は盟約主なのじゃ。じゃから、ウルスラのケーキは我のモノじゃ。そして、我のケーキは我のモノなのじゃ」
ソフィアが、やや意識を覚醒させながら言います。
それは、有名なジャ〇アン・セオリーですね。
「ソフィア様、ずっこい〜。あのケーキには、もう、あたしの名前を書いたもんね〜。だから、あたしんだよ」
ウルスラが、やや意識を覚醒させながら言いました。
「ぐぬぬ……其方の名前は、我が付けた名前じゃ。じゃから、その名が印されたケーキは、当然、我のモノなのじゃ」
ソフィアは、フンスッと胸を張って言います。
「ブー、それなら、ソフィア様の名前は、ノヒト様が付けたんだから、ケーキは、ソフィア様のモノじゃないもんね。あれは、あたしのだよ!」
ウルスラがソフィアの顔の前で、どうだ、と言わんばかりに、踏ん反り返りました。
「ぬぐぐぐ……」
「むー……」
威嚇し合うソフィアとウルスラ……。
ゴツンッ!
ゴツンッ!
私は、ソフィアとウルスラにゲンコツを落としました。
「起きて早々いい加減にしなさい。夢の中のケーキを取り合うだなんて、くだらない」
「くおーーっ!頭が痛いのじゃ」
「頭が割れるっ!ノヒト様、酷いっ!何なのよ、その凶悪な拳は?」
私のゲンコツは、特別なのです。
「ウルスラよ。ノヒトのゲンコツは、【防御】を貫通するのじゃ。ダメージ判定は0なのじゃが……何故か、とんでもなく痛いのじゃ。ダメージ0じゃから【治癒】をかけても痛みが取れぬのじゃ」
ソフィアは、両手で頭を押さえながら言いました。
「威力値0なのに、メチャクチャ痛い、とか、意味がわからないんですけど〜」
ウルスラは、涙目で言います。
意味がわからない?
ふふふ、このゲンコツは、ゲームマスター・オリジナルの、そういう技なのですよ。
いわゆる教育的指導専用技という訳です。
ソフィアとウルスラは、まだ文句を言い合いながら、オラクル、ヴィクトーリア、ディエチに手伝ってもらって着替えていますが、私がゲンコツに、ハァーッと息をかける仕草をして見せると、静かになりました。
「さあ、今日は、アペプ遺跡を攻略しますよ」
「うむ、やってやるのじゃ」
ソフィアは、言います。
「アペプなんか、あたしの究極魔法でイチコロだよ」
ウルスラは、言いました。
ウルスラの攻撃魔法は、子猫がじゃれつく程度の威力しかないほど激弱ですが、その気合いだけは買ってあげましょう。
ファヴ、オラクル、トリニティ、ヴィクトーリアは、静かに頷きました。
さあ、いよいよスタンピードを止める日が来ましたね。
・・・
朝食。
テーブルを囲むのは、いつもと変わらない面子ですが、ゴトフリード王達、王家の面々は、今朝は何だかソワソワと落ち着かない様子。
今日、スタンピードが止まる、という事がわかっているからでしょう。
テーブルを囲む面々からは、順番に武運長久を祈念されます。
まあ、私達にとっては、もはや事務処理的にミッションをこなせば良いだけなので、気負いはありません。
「ゴトフリードよ。そう、浮き足立つな。我らにとっては、もはや戦という局面ではない。たかが遺跡の一つを攻略するくらい、食後の運動でしかないのじゃ」
ソフィアは言いました。
「ははっ。何だか、気持ちが高ぶってしまいまして。申し訳ありません」
ゴトフリード王は、姿勢を正します。
油断は禁物ですが、ソフィアの言葉は、けして大言壮語ではありません。
ただの遺跡の攻略なら、私は、プライベート・キャラで、大量の【アンデッド】による人海戦術を仕掛けて、単身で踏破した経験もあります。
あのキャラは、ユーザーですので、もちろん【神位魔法】などのチートは、使えません。
ゲームマスターである私や、守護竜であるソフィアやファヴの戦闘力でなら、ヘソが茶を沸かすくらいにイージーモードでした。
私達は、【神格者】が3柱、【超位魔法】を駆使する者が2人、【高位魔法】を駆使する者が1人……オマケが1人……という、この世界の歴史上最高のパーティなのです。
オマケのウルスラにしても、【攻撃魔法】は激弱ですが、支援・防御・回復・治癒……などなどの魔法は、【超位】を使え、祝福に関しては【神位】を使えるのですからね。
足手まとい、という訳ではありません。
・・・
食後。
完全武装に身を包んだ私達は、王家に見送られていました。
剣聖達や、ファヴの使徒たる【巫女】達の姿も見えます。
「ご武運を、お祈り申し上げます」
ゴトフリード王は、今日何度目かの言葉を言いました。
「うむ。任せておくのじゃ」
ソフィアは、鷹揚に頷きます。
「王陛下。夕刻までには、遺跡を攻略しますが、祝勝の宴などには、一切参加しませんよ。それは、よろしいですね?」
私は釘を刺しました。
「はっ。それは、もちろんでございます」
ゴトフリード王は、襟を正して言います。
オピオン遺跡攻略の後に催された宴席は、関係国の政治家達による醜悪な欲望のはけ口にされました。
あんなモノに時間を使うくらいなら、ほかにやるべき事は、幾らでもあるのです。
私は、こう見えて忙しいのですから。
私達は、【ムームー】の首都【ラニブラ】に【転移】しました。
・・・
【ラニブラ】の中央塔。
ファヴを迎えに、既に緑師団長のヴェルデが待機していました。
「では、正午にまた……」
ファヴは、言います。
今日もファヴは、午前中、別行動。
ファヴは、私が自然環境を完膚なきまでに破壊してしまった【ムームー】で、大地の祝福を行い生態系を再生するのです。
「うむ。ファヴもしっかりの」
私達は、ファヴと別れて、アペプ遺跡に【転移】しました。
・・・
アペプ遺跡、60階層ボス部屋奥の転移魔法陣部屋。
おやおや、私の強制転移魔法陣のトラップで、魔物が、かなり溜まっていますね。
ナントカ・ホイホイを想起させる様子でした。
そう考えると、少し気持ち悪いですね。
すかさず、ソフィアとオラクルとトリニティが、魔物を皆殺しにしてしまいました。
私は死体回収係。
私達は、次の階層に続く階段を降りて行きます。
61階層から先は、亜空間フィールド。
さて、どのようなエリアでしょうね。
・・・
61階層〜69階層は、森林エリア。
ブワーーッ!
私は、【誘引の角笛】を吹きました。
すると、【マップ】上の敵性個体を示す、赤い光点反応が私に向かって集まって来るのがわかります。
「ウルスラには、ヘイトを惹きつける役割を、お願いします。【誘引の角笛】を吹き続けて下さい」
「まっかせといて〜」
ウルスラは、【誘引の角笛】を受け取って言いました。
【神の遺物】である【誘引の角笛】は、ウルスラが持つと、【妖精】サイズのウルスラの身体に合わせて小さく縮みます。
ブワーーッ!ブワーーッ!ブワーーッ!
ウルスラは、【誘引の角笛】を繰り返し吹きました。
うん、小さくなっても音量は変わりません。
いや、この【誘引の角笛】の音は、きっと魔法的な何か、なのでしょう。
私達ウルスラを中心に円陣を組んで、群がって来る魔物を駆逐し始めました。
魔物を倒しながら移動します。
・・・
だいたい、こんな感じでしょうかね。
遺跡1階層の魔物は、概ね100頭。
私達は、80頭ほどを倒しました。
残りは、おそらく水生の魔物で陸上を移動出来ない個体や、1箇所に留まって獲物を待ち伏せするタイプの魔物、などなのでしょう。
それを、探し回るのは、幾ら何でも非効率です。
このくらいにして、先に進む事にしました。
階層ごとにウルスラが【誘引の角笛】を吹き、集まって来る魔物を駆逐。
想像していたより、ずっと効率が良いですね。
むしろ、こちらから攻め込まなくても良い分だけ、楽チンです。
サクサク進軍して、70階層のボス部屋に到着しました。
・・・
70階層のボスは、【キング・ワーム】。
5頭の【翼竜】を眷属として率いていました。
【ワーム】には、大別して2種類の系統がいます。
私達がオピオン遺跡の砂漠エリアで倒した【サンド・ワーム】のような、ミミズのバケモノみたいな系統と、もう一つは、脚がない竜や、翼のある蛇のように見える系統。
【キング・ワーム】は、後者の、脚がない【竜】の系統でした。
ソフィアが【神竜の斬撃】を放って、【キング・ワーム】を真っ二つにしてしまいます。
残った【翼竜】は、オラクルとトリニティが始末しました。
【宝箱】の中身は、【アダマンタイトの戦斧】と【コンティニュー・ストーン】が3個。
【アダマンタイトの戦斧】……いりませんね。
このアペプ遺跡の60階層までは、非生物系の遺跡でした。
なので、私は既に【アダマンタイト】を、【ゴーレム】などを倒して大量に回収しています。
しかし、私のような【超位】の【加工】を自由自在に扱える者は少ないので、アダマンタイトのような超硬度金属を鍛えられる職人は、希少。
つまり、大量のアダマンタイト鉱より、武器や防具に加工された装備品の一つの方が、一般的には価値が高いのです。
「よし、次じゃ、次。どんどん行くのじゃ」
ソフィアの気合いを合図に、私達は、次の階層を目指して階段を降りて行きました。
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