第126話。コンパーニア。
名前…ニセン(ビアンキ)
種族…【帝竜】
性別…雄
年齢…不明
職種…なし
魔法…多数
特性…飛行、ブレス、【超位回復・超位自然治癒】
レベル…99
神の軍団の白師団長。
ノヒトとソフィアが直接指揮を執らない場合は、全5師団の長でもある。
【竜】族は、一般的に雌の方が巨体で強力な傾向がある。
しかしビアンキは、【帝竜】というレア種の【古代竜】である為、珍しい強力な雄の個体。
【竜】族は、強い個体がモテる為、ビアンキは、神の軍団ではハーレム状態である。
夕食後。
王都【アトランティーデ】王城のゲストルーム。
ソフィアとウルスラ、ファヴ、トリニティは順番に入浴を済ませました。
ソフィアとファヴとウルスラは、牛乳を飲みます。
トリニティは、高級ラウレンティア・ワインを寝酒に一杯。
スプマンテと呼ばれる発泡白ワインが、トリニティの好みのようです。
ソフィアがバックアップ・コアを取り出し、オラクルが記憶を上書きしました。
就寝前のルーティンです。
「ノヒトよ。クイーンのバックアップ・コアは、どうなっておるのじゃ?」
「もう、出来ている。今晩、渡して来るよ」
「なぬっ、1人で行くのか?」
「ソフィアも来るかい?」
「うーむ、眠いのじゃ。行きたいが、起きていられないと思うのじゃ」
「クイーンには、いつでも会えるよ。今晩は、少し工事もあるし、1人で行って来る」
「そうか。クイーンによろしくの」
「うん。おやすみソフィア」
「おやすみなさい、なのじゃ」
ソフィアは、巨大な卵型のクッションを抱えて、ベッドに潜り込み、すぐ寝息を立て始めました。
トリニティも、ソフィアの就寝を見届けて、自分のベッドに入ります。
ファヴは、今晩も、何やら書付けていました。
新しい【パラディーゾ】と【ムームー】の施政に関しての助言でしょう。
「ファヴ、オラクル、ヴィクトーリア。日の出頃には戻ります。こちらは頼みますね」
「はい。行ってらっしゃい」
「「畏まりました」」
私は【タナカ・ビレッジ】に【転移】しました。
・・・
【タナカ・ビレッジ】。
私がスマホで連絡すると、クイーンが【自動人形】・シグニチャー・エディションのジョーカーと【ガーゴイル】2体を伴って迎えに出て来ました。
ジョーカーは、どうやらクイーンの近衛隊長を任されているようです。
「こんばんは」
私は、クイーンに挨拶をします。
「ようこそ、ノヒト様」
私は、早速、オピオン遺跡で倒した【オピオン】のコアを、クイーンに手渡しました。
これは、クイーンのバックアップ・コアです。
「毎日、記憶を上書きして下さいね。もしもの場合には、これを装填すれば、問題なく再起動出来るはずです。配下の【自動人形】達に、その時の対応を指示しておいて下さい」
「畏まりました。ありがとうございます」
クイーンは、深く頭を下げました。
「では、工事をしますね」
「何か、お手伝い出来る事はありますか?」
「ありがとう。基礎工事が終わったら、街区のデザインについてクイーンの要望を聞かせて下さい」
「そうですか。では、その時になりましたら、お声をかけて下さい」
私は、一旦クイーンと別れて、【タナカ・ビレッジ】の隣……北側の土地に向かいます。
・・・
工事の目的は、【タナカ・ビレッジ】の街区整備。
現在、クイーンは、【タナカ・ビレッジ】の南側と東側に農地を拡大しています。
西側には森林があるので、切り開いて街道を通す予定です。
西に伸びた街道は、サウス大陸を縦横に走る中央街道まで繋げる予定。
ただし、この街道整備は追い追いで良いでしょう。
まだ、【パラディーゾ】には、誰も人種は暮らしていませんので。
まずは、城壁と空堀を造ります。
形状は、【タナカ・ビレッジ】を囲んだ物と同じ。
城門を造り、城壁の角には尖塔を建てます。
街区の壁と【タナカ・ビレッジ】の壁は接して造ったので、尖塔は2つ。
各種の【永続バフ】をかけて完成……いや、【超位コア】が売るほどあるので、少し贅沢をして【自動修復】の【魔法公式】を組んだ【魔法石】を建造物全てに埋め込んでおきましょう。
私はスマホでクイーンを呼び出しました。
・・・
「【自動人形】・シグニチャー・エディションを8体、オーセンティック・エディションを18体追加します。シグニチャー・エディション4体とオーセンティック・エディション9体には土木と建築の技能をプログラムしておきますので、建築物の内装は、クイーンが指示して、彼らに任せれば良いでしょう」
「ありがとうございます」
これで、クイーンに与えた【自動人形】は、52体。
【自動人形】・シグニチャー・エディションの絵札が16体。
【自動人形】・オーセンティック・エディションの数札が36体。
トランプが揃いましたね。
実は、クイーンの配下の【自動人形】達には、ハート、ダイヤ、クラブ、スペードのマークと数字を、それぞれの個体の目尻に小さくプリントしてあるのです。
これで、個体識別が可能。
ちょっとした遊び心です。
農業を得意とするのは、ハート。
彼らは、最初に、クイーンに譲渡した【自動人形】達です。
防衛・警備を得意とするのは、スペード。
彼らは、【タナカ・ビレッジ】を城塞集落化した時に、クイーンに譲渡した【自動人形】達です。
土木・建築を得意とするのは、クラブ。
彼らは、今回、追加しました。
これから【タナカ・ビレッジ】の各建物の内装工事を行い、それが完了したら、日々のメンテナンスを行う他、街道整備にも従事させます。
調理・接客を得意とするのは、ダイヤ。
彼らも、今回、追加しました。
クイーンが目的とするホテル・レストランの運営を支える人員となります。
もちろん、汎用性の高い【自動人形】達の事……得意な分野以外の事も卒なくこなせます。
特に絵札の【自動人形】・シグニチャー・エディション16体は、私が貸与した【神の遺物】の装備品類も含めて強力な戦闘力を持っていました。
【神の遺物】の【自動人形】であるクイーンを含めれば、一軍にも匹敵するでしょう。
「クイーン。この【自動人形】達を中心としながら、人手が足りなければ人種を随時雇えば良いでしょう」
「はい、畏まりました」
「ホテルとレストラン業は、【パラディーゾ】の復興が進んでからでないと軌道に乗せるのは、難しいかもしれません。なので、当面は、農作物の販売でシッカリ収益を確保して下さいね」
「はい」
・・・
城壁の中は、クイーンと相談しながら造って行きます。
魔法的に強化した鋼鉄で骨組みを建て、壁は石材を【加工】して造りました。
外壁は石積のように見えますが、【加工】で成形しているので、建物全部が継ぎ目のない一枚岩で造られています。
床や天井は、鉄骨を芯材にした強化コンクリート。
この世界は、特定のイベント・エリア以外では地震が発生しませんし、私が【バフ】をかけた建築物は、地球の現代建築より、はるかに強固なので、まず問題ないはずですが、もしも、ヒビなどが入っても、瞬時に【自動修復】で修復されるでしょう。
クイーンの屋敷に近い場所には、農作物の加工施設と出荷施設を建築しました。
アブラメイリン・アルケミーに卸してもらう【魔法草】の加工施設も、この区画にあります。
この【魔法草】加工施設で、新鮮な【魔法草】から薬効成分を抽出。
抽出されたエキスをタンクに詰めて、アブラメイリン・アルケミーに向けて出荷してもらう手はずです。
とはいえ、特別な装置は必要ありません。
【掘削車】の格納庫で、自動選別が可能ですので。
【掘削車】を2台を建屋の中に設置して、ラインを引けば出来上がり。
収穫された【魔法草】を投入口に置けば、後はオートメーションで、抽出、タンク詰め、出荷までが行えます。
・・・
次に、マリオネッタ工房の工場と、アブラメイリン・アルケミーの工場と、両社の合同オフィスを建築しました。
マリオネッタ工房の工場には、【自動人形】・レプリカ・エディションと、廉価版スマホの通話専用機を製造するラインを造ります。
【ドラゴニーア】から必要な工作機械を送ってもらい、クイーン配下の【自動人形】達に組み立ててもらう予定。
後で、製造ライン統括制御用のプロトコルをクイーンに預けておきましょう。
工場の人員は、当面、クイーン配下の【自動人形】達に手伝ってもらいますが、将来的には【パラディーゾ】の人種を雇用します。
アブラメイリン・アルケミーの工場には、【ハイ・エリクサー】の製造ラインを造りました。
【ハイ・エリクサー】の生成は、高品質の【古代竜】の血液と、高品質の【魔法草】があれば、比較的簡単に作れます。
高品質の【古代竜】の血液の入手が、私以外には絶望的に困難なのですが……。
【古代竜】の血液タンクも幾つか、クイーンに預けてしまいます。
こちらの工場の操業も、当面はクイーン配下の【自動人形】達に手伝ってもらいますが、将来的には【パラディーゾ】の人種を雇用します。
【タナカ・ビレッジ】のマリオネッタ工房とアブラメイリン・アルケミーの雇用に関しては、特に孤児院出身者縛りなどは設けません。
ファヴや、大巫女のローズマリーさんに任せます。
マリオネッタ工房とアブラメイリン・アルケミーのグループ企業をまとめて呼称する社名は、実は、ソフィアと相談して決定し、もう登記もしてあります。
ソフィア&ノヒト(通称コンパーニア)。
【タナカ・ビレッジ】の社屋と工場は、【タナカ・ビレッジ】支社と呼びましょう。
・・・
続いて、街区の中央に銀行ギルドなどが入る、オフィス・ビルや、コンベンションセンターや、商店の誘致を想定した建物などを建てました。
こちらも、内装は【自動人形】達に丸投げ。
東側の畑に面したエリアには、ホテル、レストラン、カフェ、バーなどを建築。
・・・
最後に、町外れに飛空船の港とドックを建設。
ドックの幾つかは、コンパーニア専用。
さてと、街の器だけは、出来上がりました。
後は、クイーンに頑張って発展させてもらいましょう。
・・・
私は、クイーンの屋敷で、お茶を飲みながら、会議をしています。
議題は、【タナカ・ビレッジ】の収穫物の販売について。
実は、サウス大陸の農業に適した気候と、この世界が地球より農業が簡単な設定によって、【タナカ・ビレッジ】の収穫量が私の想定した数百倍はある事が判明したのです。
クイーンは、現在、【自動人形】達を使い、さらに、農地を拡大していました。
クイーンの作る農作物は、私が全て買い取る契約を結んでいます。
しかし、あまりにも量が多過ぎて、私やソフィアが食べた余剰分を、竜城や、ファミリアーレやコンパーニアの従業員達の寮となっている宿屋パベッラに配ったとしても、とてもではありませんが消費しきれません。
なので、私が消費可能な量以外は、【ドラゴニーア】の中央市場に出荷して売却してもらおう、と考えました。
クイーンの作る農作物は、極めて高品質ですから、私が契約で提示した買取金額より、高値で取引されるかもしれません。
クイーンにも、利がある話でした。
もちろん、将来、【パラディーゾ】に住民が増えれば、【パラディーゾ】にも出荷するつもりですが……現在、【パラディーゾ】に消費地は存在しません。
「クイーン。この【バージ】を輸送に使います。収穫した農作物を【宝物庫】に入れ、【バージ】に載せて輸送する訳です」
私は、【収納】から、オピオン遺跡で入手した艀船の【バージ】を取り出しました。
「1隻で、ですか?」
クイーンは、怪訝な顔をします。
クイーンの疑問は当然です。
この【タナカ・ビレッジ】から【ドラゴニーア】までは、1万5千km以上。
【バージ】の最高速度は、せいぜい数十km毎時。
【宝物庫】を、たくさん使用すれば、同時に大量の物資を運べるとはいえ、【バージ】1隻では、輸送の間隔が開き過ぎて効率が悪過ぎますからね。
因みに、この世界の舞台となる惑星は、地球よりも大きく、都市間は、とても遠いのです。
「実際に飛行させて運ぶ訳ではありません。この専用ドックから、【ドラゴニーア】の港のドックに【転送】させてしまいますので、1時間で1往復しますよ」
「なるほど。畏まりました」
【転送】は、【転移】と同じ【超位】の【空間魔法】。
【転移】と違い、生体を飛ばす事は不可能ですが、物体を転移座標が設置された遠隔地に飛ばす事が可能でした。
因みに、私が遺跡の入口に仕掛けたトラップの強制転移魔法陣は、【神位】の【空間魔法】です。
【神位】の強制転移は、【抵抗】出来ません。
【転送】は、現在では、失われた魔法でしたが、クイーンの常識は900年前のモノなので、すんなり受け入れられました。
「【超位コア】で【転送】の【魔法装置】を幾つか造りました。登録者以外が操作しても起動しません。クイーンと【タナカ・ビレッジ】の【自動人形】・シグニチャー・エディション達を登録してあります」
「畏まりました。つかぬ事をお聞きしますが、【転送】で輸送するなら、ワザワザ【バージ】に載せる必要はないのでは?」
「【バージ】を使う理由は、【ドラゴニーア】の受け入れ側の都合です。【ドラゴニーア】の港に隣接して、中央市場があるのです。荷降ろし、荷捌き、税関……などなどは、港で行いますが、船での輸送を想定して港と中央市場の搬入・搬出施設の規格が定まっているので、船に載せた状態の方が、中央市場でも運用がしやすいそうです」
「なるほど」
クイーンは、納得しました。
「私の買取分は、【ドラゴニーア】の竜城に……【魔法草】の抽出エキスは、アブラメイリン・アルケミーの倉庫に直接【転送】させてしまって構いませんよ」
「畏まりました」
クイーンは、頷きます。
「【魔法草】の抽出エキスですが、明日から、毎日、朝9時にアブラメイリン・アルケミーの倉庫に向けて出荷という予定で良いでしょうか?」
「はい、構いません」
ならば、よし。
さてと、大体、やるべき事は済みましたね。
ふと、畑の方を眺めると、深夜だというのに、数台の浮遊移動機が動き、【自動人形】・オーセンティック・エディションが、何やら作業をしていました。
「こんな夜中まで、作業をするのですね?」
「特別なトマトの品種なのです。夜に収穫すると、甘みが強くなるのですよ。まるで、果物のような糖度があります」
へえ……色々と工夫があるのですね。
「そのトマトを、ソフィア達の、お土産に少し持って帰りたいな」
「畏まりました」
クイーンは、【自動人形】達に指示して、カゴいっぱいのトマトを持たせてくれました。
「お幾らですか?」
「とんでもない。村をこれだけ立派にして下さって、お代は頂けません」
「そうですか、では、遠慮なく頂きますね」
「はい」
クイーンは、ニコリと微笑みます。
私は、クイーンに挨拶して、【タナカ・ビレッジ】を後にしました。
・・・
私は、ハロルド、イヴェット、イアン、ロルフ、リスベット……などコンパーニアの関係者にスマホでメールを一斉送信しました。
予定通り、明日の朝9時から毎日同時刻に【ハイ・エリクサー】の原料【魔法草】抽出エキスがアブラメイリン・アルケミーの倉庫に届きます。
原料の受け取りと、生産体制の手配をお願いします。
これでよし、と。
【タナカ・ビレッジ】のコンパーニアの工場で必要になる工作機械などは、後日、【バージ】の往復【転送】のついでに送ってもらいます。
マリオネッタ工房の工場責任者であるイアンに指示してあるので、問題なくやってくれるでしょう。
私は、明日、【ドラゴニーア】に戻ったら、【ドラゴニーア】の港の専用ドックにも、【転送】の【魔法装置】を設置しなければいけませんね。
忘れないように、リマインダーに記録しておきましょう。
東の空が明るくなり始めた頃、私は、王都【アトランティーデ】王城に【転移】しました。
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