第125話。パクス・ドラゴニーア。
名前…ヴィクトーリア
種族…【自動人形】
性別…女性型
年齢…なし
職種…なし
魔法…【闘気】、【高位魔法】
特性…【自動修復】
レベル…99(固定)
【願いの石板】による注文で遺跡の【宝箱】から出現した。
オラクルの妹という設定をソフィアから与えられている。
千年要塞。
私達は、冒険者ギルド千年要塞支部にいました。
昨日の買取査定の結果を確認します。
「これで結構です。買取して下さい」
「ありがとうございます。では、手続きを致します」
ギルマスのフランクさんが言いました。
【高位】の魔物1350頭のコアと血液と肉以外の部位……104万金貨(1040億円相当)。
これを、ソフィア、ファヴ、オラクル、トリニティで4当分します。
各自で、入金の確認。
私には入金はありませんが、遺跡のアイテム(【神の遺物】)と、鉱物素材と、魔物のコアと血液は全て所有権をもらっていました。
なので、実質、私が一番多くを得ています。
現在の保有現金(可処分所得)。
私……1085万金貨(1兆850億円相当)。
ソフィア……1705万金貨(1兆7050億円相当)。
ファヴ……1082万金貨(1兆820億円相当)。
オラクル……1065万金貨(1兆650億円相当)。
トリニティ……356万金貨(3560億円相当)。
そして……。
ウルスラ……ホール・ケーキ7個。
ヴィクトーリア……0。
ウルスラ、1日で、既にホール・ケーキを3つも食べたのですか?
あの小さな身体のどこに入るのでしょうか?
ソフィアもそうですが、胃袋の中が亜空間に繋がっているとしか思えません。
まあ、【神竜】と【妖精女王】ですから、2人とも病気にはならないでしょうが……。
ヴィクトーリアの冒険者登録とパーティ登録をします。
事前に、ゴトフリード王、剣聖、アルフォンシーナさんに根回しをしていたので、問題なく手続きが出来ました。
セントラル大陸も、サウス大陸も……知性と自我と感情を持つ【神の遺物】の【自動人形】に関しては人権を認める……という新規立法が成立しています。
「ノヒト様。トリニティ様にも、ドラゴン・スレイヤーの称号が与えられ、冒険者クラスが銅クラスに昇格します。同様にウルスラ様も銅に昇格します。これは、【妖精女王】たるウルスラ様だけに認められた超法規的な特例と、お考え下さいませ。原則、盟約の妖精には、人権は、認められないというのが、法学者の一致した見解でしたので……」
フランクさんは、特例を強調して言います。
トリニティの種族【エキドナ】は、【魔人】。
この世界では、NPCの【魔人】は、人種の敵対者として設定・プログラムされていました。
しかし、中には例外的に、人種と友好的な【魔人】も存在します。
それは、ユーザーがキャラメイクした【魔人】達。
ユーザーの中には、【バンパイア】や【サキュバス】などの【魔人】をキャラメイクで選択していた者が少なくなかったのです。
こうした、ユーザー・キャラの【魔人】の存在があったおかげで、人種の国家やコミュニティでは、【魔人】は、畏怖の対象ではあるけれど、全ての個体が敵対者という訳ではない、という認識が定着していました。
私のプライベート・キャラのパーティ・メンバーにも、強力な【バンパイア】がいましたからね……。
一方で、ウルスラの種族である【妖精】には、過去に人権が認められた例はないそうです。
「そうですか、わかりました。何か、無理を、お願いしたようで申し訳ありません」
私は頭を下げました。
「いえ、とんでもございません」
フランクさんは、かえって恐縮してしまいます。
この世界では、【妖精】は、人種から敬われる存在ではあるけれど、人権はない、という解釈が定説。
今回は、【神竜】の依頼であったので、あくまでも特例なのだそうです。
確かに、【妖精】全てに特例を認めて、人権を与えてしまった場合、戸籍は、公共サービスは、社会保障は、選挙権は、徴兵は、義務教育は……などといった、諸々の問題が生じますからね。
基本的に、【妖精】は、パスが繋がって思念を伝え合える盟約主以外の人種とはコミュニケーションは、とれません。
【妖精】は言語概念が人種のそれとは全く違うからです。
【妖精女王】であるウルスラは、特別な存在で、飛び抜けて高い知性があるからこそ、人種の言語を理解して話す事が出来ました。
ウルスラの少しアレな言動を観察する限り、その設定は、少し解せない部分ではありますが……。
色々とアレな同類のソフィアも、設定上、間違いなく、至高の叡智を持つ存在として創造されているのです。
なので、私の印象は、ともかく……ソフィアやウルスラが人種をはるかに超える高い知性を持つ、という設定は、確かなのだと思います。
私達は、フランクさんに挨拶をして、冒険者ギルドを後にしました。
・・・
冒険者ギルドを出ると、スマホにメールの着信。
ハロルドでした。
ふむふむ、毎日の報告書ですね。
今日は、項目が多いようで、色々と書かれています。
私は、面倒なので、ハロルド、イヴェット、イアン、ロルフ、リスベットのマリオネッタ工房経営陣にチャット通話をしました。
ソフィアにもスマホを使わせ、チャット通話に参加させます。
「ハロルド。報告書は後で目を通しておきます。港の専用ドックの件を先に教えて下さい」
私は、ハロルドに【ドラゴニーア】の港で飛空船の専用ドックを確保しておくように指示していました。
「はい。港の専用ドックは無事確保出来ました。今日から、使用可能です」
「ありがとう。では、明日朝一から、ピストン輸送を開始しますね。各工場に送ったシグニチャー・エディション達の様子は、どうですか?」
現在、マリオネッタ工房は、竜都【ドラゴニーア】に2工場、【ラウレンティア】と【ルガーニ】にそれぞれ1工場ずつ操業を開始しています。
その4工場に、私は、【自動人形】・シグニチャー・エディション達を送っていました。
シグニチャー・エディション達は、工場のライン管理や、従業員の指導……それから、工場の警備を命じてあります。
4箇所の工場とオフィスの人員として総勢24体。
「はい。シグニチャー・エディション達は、操業を開始した4工場と、オフィスに着任して、業務に従事してくれています。極めて優秀で、従業員の指導が予定より早く済みそうですわ」
労務管理責任者でもある副社長のイヴェットが報告してくれました。
「それは、結構。アブラメイリン・アルケミーのオフィスと工場はどうですか?」
「【ドラゴニーア】南の工業地区に工場を確保しました。最優先で、との事でしたので、操業中の製薬工場を丸ごと買収しました」
ハロルドが言います。
買収?
想定外ですね。
「買収に際して、軋轢などを生じさていませんよね?」
マリオネッタ工房とアブラメイリン・アルケミーの経営は、孤児院出身者の支援が第一目的です。
社会からヒンシュクを買うような、強引な事は避けなければいけません。
会社の悪評は、孤児院出身者へと跳ね返って来てしまいます。
それは、私やソフィアの理念からは逸脱していますし、賢明な経営判断ではありませんよ。
「問題ありません。友好的な買収です」
「既存の従業員は、どうするのですか?」
「全員、継続雇用します。給与も引き上げましたので、むしろ歓迎されています」
「そうですか。既存の従業員を継続雇用するとなると、孤児院出身者の雇用は、相対的に少なくなってしまいますね。製薬事業では、孤児院出身者を、どのくらい雇用出来ますか?」
「製薬工場の方は今季は少数です。来期から、新卒採用者は、孤児院出身者をメインとします。ですが、直営販売店、及び、オフィスの方で多数の雇用が可能です」
ハロルドが言いました。
ならば、良いでしょう。
買収企業の既存従業員を継続雇用する事は、致し方ない部分もありますしね。
その分、孤児院出身者の雇用の受け皿が少なくなりますが、製薬事業は専門職の従事が不可欠です。
素人の孤児院出身者だけで、製薬会社の運営が回るはずはありません。
「わかりました。明日の朝、【ハイ・エリクサー】の原料と機材を、第一陣として、そちらに送りますので、受け取りを、お願いします」
「わかりました」
在庫管理者のイアンが答えます。
「リスベット。明日の夜、【ハイ・エリクサー】の生成法を指導します」
「え?ノヒト先生、こちらに戻って来られるのですか?」
リスベットは、声に喜色を滲ませて言いました。
「はい。明日からは、【ドラゴニーア】から、こちらに通いになる予定です」
「それは、楽しみです。ノヒト先生に、みんな、会いたがっています」
リスベットは、言います。
「私も会いたかったですよ」
「我もじゃ」
ソフィアが言いました。
「リスベット。グロリアに連絡して、明日の夜7時、竜城にファミリアーレを集合させて下さい。夕食を一緒にします。新しいメンバーの紹介もしなければいけませんからね」
「わかりました」
リスベットは、嬉しそうに言います。
私達は、その後、少し会議をして、チャット通話を終了しました。
・・・
銀行ギルド千年要塞出張所。
私は、ヴィクトーリアのパーティ積立金を肩代わりして、払いました。
「ソフィア様、ノヒト様、お久しぶりでございます」
銀行ギルドの職員の女性から、丁寧に挨拶されます。
ん?
誰でしたっけ?
私のステータス画面にあるアーカイブが発動して、過去に出会った人物の照合をしながら、瞬時に魔力反応を識別します。
【ドラゴニーア】の銀行ギルド本部にいた銀行ギルドの職員だと、判明しました。
「久しいの……」
ソフィアは、キョトンとした表情で言います。
ソフィアは、わかっていませんね。
「お久しぶりです、ウェンディさん、でしたね。どうされたのですか?」
「名前を覚えて下さっていたのですね?感激です。この度、サウス大陸の代表に着任致しました」
ウェンディさんは、言いました。
「栄転ですか?」
「ええ、まあ。責任が重いので、身の引き締まる思いです」
「で、千年要塞に?」
「はい、調査に参りました。今後、サウス大陸は発展致します。私共、銀行ギルドと致しましても、融資などでは、大いに需要があると考えております。ソフィア様とノヒト様の奪還作戦が終了し次第、サウス大陸全土の調査を本格的に開始致します」
サウス大陸は、900年間、人種の進入を拒んでいた広大な未開地です。
あの腹黒な……いいえ、商機を逃さない銀行ギルド頭取のビルテさんが、手をこまねいている訳はありませんよね。
「なるほど。頑張って下さい。あ、そうだ。【パラディーゾ】に、【タナカ・ビレッジ】という開拓村があります。そこは、発展が期待出来る有望な場所ですよ。私の会社、マリオネッタ工房やアブラメイリン・アルケミーも支社と工場を構える予定です。もし、よろしければ、銀行ギルドも出店を検討してみてはいかがですか?」
「【タナカ・ビレッジ】。報告書にはない名前ですね。場所は、どこでしょうか?」
「首都【パラディーゾ】の北、【ベルベトリア】の南です。中央街道からは、少し東に外れています。地図はありますか?」
「はい。少しお待ち下さい……」
私は、ウェンディさんが持って来た地図に【タナカ・ビレッジ】の場所を示します。
「ここの、主人は、ユーザーで、消失してしまっていますが、全権代行として、クイーン・タナカという者が管理をしています。私の身内であるオラクルなどと同様に、セントラル大陸の守護竜ソフィアと、サウス大陸の守護竜【ファヴニール】と、ゴトフリード・アトランティーデ王陛下の裁可あって、人権を認められた【自動人形】です。クイーンは、事業の拡大を望んでいますので、出来る範囲で結構ですので協力してあげて下さい」
「畏まりました。有益な情報を下さり、ありがとうございます」
ウェンディさんは、丁寧に礼を言いました。
「うむ。我からも頼むのじゃ」
ソフィアが言います。
「僕からも、お願いします」
ファヴも言いました。
ウェンディさんは、ファヴの正体については、知らなかったようですが、ソフィアの正体は知っています。
なので、背格好がソフィアとよく似ているファヴを見て、その正体を即座に推測したのでしょう。
折り目正しく、ファヴにも礼を執りました。
私達は、銀行ギルド出張所を後にして、王都【アトランティーデ】の王城に【転移】します。
・・・
王都【アトランティーデ】王城。
ゴトフリード王達と、夕食を食べます。
諸々の情報を共有しました。
うん、順調ですね。
「ゴトフリード王。私達は、明日から、そろそろ【ドラゴニーア】から通う体制に切り替えようと考えています。事後処理には、関与しませんが、大丈夫でしょうか?」
「そうですか……。畏まりました。事後処理は、お任せ下さい。【パラディーゾ】のローズマリー大巫女様や、【ムームー】のチェレステ女王陛下、それから【ドラゴニーア】のアルフォンシーナ大神官様と協力して、事に当たる所存です」
ゴトフリード王は、言いました。
「安全保障体制に関しては、予定通りで問題ありませんか?」
「はい。十分でございます」
私は、当面、神の軍団の2個師団をサウス大陸に駐留させておくつもりです。
黒師団を【パラディーゾ】に、緑師団を【ムームー】に、という配備。
サウス大陸奪還作戦が完了し次第となりますが……千年要塞、【ティオピーア】、【オフィール】に展開している白、赤、青の3個師団は、【ドラゴニーア】に撤退させてしまいます。
代わりに、【ドラゴニーア】から新たに編成された第2艦隊が千年要塞に入り、同盟国【アトランティーデ海洋国】、【パラディーゾ】、【ムームー】の防衛に協力するのだ、とか。
これは、事前にソフィアとゴトフリード王との間で取り交わされていた、軍事協定に基づく措置を発展させた計画でした。
現在、この【ドラゴニーア】と【アトランティーデ海洋国】の安全保障協定には、【パラディーゾ】と【ムームー】も加わる事になっています。
奪還作戦完了後の利権絡みで、サウス大陸は、色々とキナ臭い匂いがしていますので、安全保障協定と、それを裏付ける実力行使組織は、必要不可欠でしょう。
第2艦隊は、改修航空母艦【グレート・ドラゴニーア】を旗艦とする新たな空母打撃群です。
実は、【ドラゴニーア】には、ユーザーが消失してしまって以来、修理が出来ずにドックで眠っていた多数の艦艇がありました。
私は、これらを修理する技術と知識をアルフォンシーナさんに供与したのです。
私は、これをゲームマスターの遵守条項には違反しない、と解釈しました。
何故なら、これらの技術・知識は、900年前には、ありふれたモノでしたので。
しかし、特定の国家に与しない、という条項には、抵触する可能性があります。
確かに、そこは、グレーゾーン。
なので、私は、アルフォンシーナさんに一つの約束をしてもらいました。
これから先、未来永劫、【ドラゴニーア】は、自国と同盟国、及び、友好国を防衛する目的以外で、軍事力を行使しない事。
アルフォンシーナさんは、それを【契約】で約束してくれました。
この【契約】は、【ドラゴニーア】が存在する限り、永続します。
もっとも、この専守防衛の【契約】の内容自体は、【ドラゴニーア】の憲法にもうたわれていました。
なので、アルフォンシーナさんは……何も問題ない……と即断。
今後、この世界は、【ドラゴニーア】を中心とした世界規模の安全保障体制が築かれる事になるでしょう。
パクス・ドラゴニーア(【ドラゴニーア】による平和)。
私は、この安全保障体制を、こう名付けました。
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