第124話。新たなアーティファクトのオートマタ。
名前…ウルスラ
種族…【妖精女王】
性別…女性
年齢…なし
職種…盟約の妖精
魔法…多数(攻撃魔法は激弱)
特性…飛行、祝福
レベル…99(固定)
【妖精】族の女王。
ダンジョンの【宝箱】から出た【召喚の祭壇】で呼び出され、ソフィアの盟約の妖精となった。
好物は甘い物。
アペプ遺跡。
今日は、60階層までを目処として、進むつもりでした。
オラクルが【超位魔法】に覚醒しているので、昨日までより戦力が増強されています。
攻略は、オピオン遺跡より簡単になっているでしょう。
きっと、今日は、小手調べにもなりません。
明日以降61階層に潜りますが、私は、じっくりと腰を据えて、魔物を刈り尽くす勢いで進撃するつもりでした。
入口には、アッズーロ達、神の軍団が待ち構えています。
スタンピードの魔物は、地上に溢れる事は出来ないでしょう。
現時点で、実質、スタンピードは、止まったと見なして良く、急ぐ理由がないのです。
・・・
30階層までは、巨大な洞窟エリア。
1階層〜9階層。
敵は、【ボール】が現れました。
【ボール】は、球体の非生物で、空中を飛んで体当たりを仕掛けて来ます。
階層が深くなると、魔法を行使する【ボール】も現れました。
非生物……つまり、厳密に言えば、【ボール】は、魔物ではありません。
ダンジョン・コアが操作する、言わばリモコン・ロボットなのです。
なるほど。
つまり、このアペプ遺跡は、非生物系の遺跡なのですね。
私達は、浅層階の魔物素材は無視して進むつもりでしたが、非生物系遺跡なら、予定変更。
きっちり素材回収をする事にしましょう。
遺跡には、傾向があるモノなのですが、どうやら、このアペプ遺跡は、非生物系の魔物を出す傾向があるようです。
この傾向は、リセットされるごとに、ランダムで改変されました。
非生物系遺跡は、鉱山としての価値が高い為に人気です。
逆に、不死者系や、蟲系は、不人気でした。
私達は、【高位闇魔法】の【重力波】で魔物を殲滅して行きます。
非生物系の遺跡の敵には、オピオン遺跡の浅層階で活躍した雷魔法は、効き難いので、【重力波】を使用。
非生物系の敵には、総じて魔法が効き辛い傾向があるのです。
例外的に、生産系魔法の【加工】は、【ゴーレム】や【ガーゴイル】などには、劇的に効果が高いのですが、【加工】は、近接、もしくは、接触しなければ発動させられないので、安全性という観点では、一般の冒険者パーティには、おすすめしません。
10階層のボスは、【クレイ・ゴーレム】。
非生物には、オラクルが持つ盾【アイギス】に埋め込まれた【メデューサ】の頭による【石化】は、効きません。
なので、ソフィアがドラゴン・パンチで【クレイ・ゴーレム】を粉砕しました。
【クレイ・ゴーレム】のボディは、魔力を流しやすい【魔法粘土】なので、素材として回収しておきます。
【宝箱】が出現。
「ノヒト、早く、早く。【神の遺物】の【自動人形】を出すのじゃ」
ソフィアが急かしました。
私は、【収納】から、昨日、オピオン遺跡で、入手した【願いの石板】を取り出します。
【願いの石板】に魔力を流しながら……【神の遺物】の【自動人形】を所望……と書いて、【宝箱】の上に置くと……。
【願いの石板】は、光の粒子となって消えました。
願いが聞き届けられた、という印です。
ソフィアが私の許可を受けて、【宝箱】の蓋を開けました。
中には圧縮箱が一つ。
ソフィアは、圧縮箱を地面に置きました。
すると、新品の【神の遺物】の【自動人形】が出現します。
「オラクル。其方の妹じゃ。可愛がるのじゃぞ」
「私の妹……ですか?」
オラクルは、少し驚いたように言いました。
「そうじゃ」
ソフィアは、満面の笑みで言います。
「畏まりました。全力でソフィア様に、お仕えするよう、妹を指導致します」
オラクルは、ソフィアの突然の妹設定を、丸っと受け入れました。
この辺りは、ソフィアとオラクルの阿吽の呼吸です。
ソフィアは、新品の【自動人形】に魔力流して、起動しました。
ブインッ……。
【自動人形】から起動音が聞こえ、眠りから目覚めたかのように、まぶたが開きました。
「マイ・ミストレスの、お名前を、教えて下さいませ」
起動した【自動人形】は、全く淀みのない口調で告げました。
「ソフィアじゃ」
「ソフィア様ですね。私の名前を付けて下さいませ」
「其方は、ヴィクトーリアじゃ」
「私は、ヴィクトーリア。勝利、という単語からの由来でしょうか?」
ヴィクトーリアは、ソフィアに訊ねます。
「その通りじゃ。我は、卵の次くらいに、勝利が好きなのじゃ」
「素敵な名前を付けて下さってありがとうございます」
【自動人形】のヴィクトーリアは、ニコリと微笑みました。
「うむ。よろしく頼むのじゃ」
「こちらこそ、よろしくお願い致します。ソフィア様。私に使命を与えて下さいますか?もし、特になければ、ベーシック・プログラムに基づいて行動致します」
「ヴィクトーリア。其方の使命は、自らを守り、我の傍で、永遠の時を生き続ける事じゃ」
「ソフィア様を、お守りするのではないのですか?」
「我は、世界最強の存在なのじゃ。其方のスペックでは、我を守りきる事は叶わぬ」
「……わかりました。私は、ソフィア様の、傍で、永遠の時を生き続けます」
ヴィクトーリアは、一瞬、思考した後、納得したよう言います。
これは、オラクルの起動時と同様に、【認識阻害】の指輪を外したソフィアの魔力反応を確認し、その強大さを認識して、ヴィクトーリアはソフィアを守る為の役には立たない、と理解したのでしょう。
「ヴィクトーリア。其方のマスター代行権限を、このノヒトを次席、こちらのオラクルを三席、として与えるのじゃ。ノヒトは、我と同格の者として扱うのじゃ。オラクルは、其方の姉じゃ。姉のオラクルを頼り、敬い、指導を受けよ。良いな?」
「畏まりました。ノヒト様、オラクルお姉様、どうぞ、よろしく、お願い致します」
ヴィクトーリアは、恭しく礼を執ります。
私は、ヴィクトーリアに一言断った上で、彼女の【メイン・コア】に必要なプログラムを書き加えました。
【認識阻害】やスマホ機能などなど。
これらは、オラクルにもプログラムされています。
こうして、ヴィクトーリアが仲間に加わりました。
・・・
さて、ヴィクトーリアの装備は……と。
オラクル同様に堅牢な防御力を主眼に置く事は、ソフィアとの相談で確定していますが……。
【アテーナーの鎧】も、盾の【アイギス】も、もう、私の【収納】には、一つずつしかありません。
私は、原則として、ストックのない装備品は、他者に貸与しない事にしています。
「ソフィア、オラクル。ヴィクトーリアの装備は、どうしましょうか?」
私は、装備品リストを取り出して、2人に訊ねました。
困った時は、誰かに頼るべきですね。
「うーむ。安全マージンは、幾らでも欲しいのじゃ。最強の防御力がある【神の遺物】は、どれじゃ?」
最強の防御力ね……。
「最強の防御力を持つアイテムは、これなんだけれど……」
私は、装備品リストの欄外に記載された項目の一つを示しました。
欄外項目の表題は、ギャグ・アイテム。
ギャグ・アイテムは、周年イベントや、ハロウィン企画、クリスマス企画などで、期間限定で実装される、少し、おふざけな装備品類です。
私が、ソフィアにプレゼントした、潜水艦やアヒルなどの【お風呂の玩具】シリーズもギャグ・アイテムの一種。
これらは、本来、玩具ですが、巨大化して本物の潜水艦や高速アヒル・ボートとして実用する事も可能です。
ギャグ・アイテムとはいえ、案外、高性能な物が多いので侮れません。
最強防御力を誇る装備も、ギャグ・アイテム。
その名も、【パンダの着ぐるみ】。
この【パンダの着ぐるみ】は、防御力は設定上最強ですが、その代わりに、全ての攻撃力が0になります。
「これでは、使えぬの……」
ソフィアは、ボソリと呟きました。
「次に強力なのは、オラクルが持つ【アイギス】だね。それに準ずるのは、これかな……」
私は、一つのアイテムを示します。
「うむ。良さそうじゃ。これにするのじゃ」
私達が選択したのは、【神の遺物】の盾【アンキレー】。
【アンキレー】は、シンプルな【丸盾】ですが、手に持つ本体から、11個の盾が分かれて、それが使用者の周りに浮かび、敵の攻撃から守る、というギミックがありました。
【神の遺物】の剣【クラウ・ソラス】と似たようなギミックです。
【クラウ・ソラス】は、9本の剣が使用者の周りを高速で飛びながら守り、また、剣を飛ばし敵への攻撃も行えるというギミックを持っていました。
【ドラゴニーア】所属の冒険者パーティ月虹のリーダー、ペネロペさんが、【神竜】復活記念武道大会の優勝商品として受け取った剣です。
ペネロペさんの【クラウ・ソラス】は、元々、私が所蔵していた剣でした。
【アンキレー】は、【クラウ・ソラス】とは違い、攻撃武器としては使えません。
その代わり、盾の枚数が増え、より堅固な守りを実現しています。
ヴィクトーリアは、【アンキレー】の具合を確認して、大きく頷きました。
どうやら、使い熟せるという判断をしたようです。
ヴィクトーリアの装備は、【アンキレー】の他に【ヴァルキリーの鎧】(兵士バージョン)。
ソフィア、ファヴ、トリニティが着る指揮官バージョンの【ヴァルキリーの鎧】よりも、装飾は素っ気ないですが、カタログ・スペックは同等です。
武器関係は、オラクルにしているのと同様に、【神の遺物】の色々な武器を詰めた【宝物庫】をヴィクトーリアに貸与して、適宜適切に使用する権限を与えました。
・・・
11階層〜19階層。
ヴィクトーリアの試運転。
【アンキレー】を浮かべて敵の攻撃を完全に防ぎながら、【重力波】で、敵を蹂躙。
うん、問題ないですね。
20階層のボスは、【アイアン・ゴーレム】。
ソフィアがドロップ・キック一発で撃破しました。
【ゴーレム】には、魔法が効き辛いので、倒すには魔法の出力を上げる必要があります。
下手に出力を上げ過ぎると、【ゴーレム】を消滅させてしまいかねません。
素材を残らず回収する為に、ソフィアは、殴る蹴る、という原始的な戦闘方法を選択。
長巻の【クワイタス】で、斬り倒す事も出来ますが、今日のソフィアは、素手で暴れたい気分のようです。
【宝箱】の中身は、【鋼の剣】。
私は、【アイアン・ゴーレム】を鋼のインゴットに変えて【収納】に回収します。
人種が製造する【ゴーレム】は、外装の中に、骨格やら、配線やら、駆動装置やら、が入っていますが、遺跡で出現する【ゴーレム】は、コアがある以外は、体の中には、鉱物が、みっしりと詰まっていました。
高品質の鉱物をt単位で回収出来るので、遺跡の【ゴーレム】は、素材として美味しいのです。
「お昼ご飯にしましょうか」
「うむ。ノヒトよ、今回は時間がかかるの」
「この遺跡は、非生物系の遺跡だからね。素材は【低位】から全部回収したい。遺跡で手に入る鉱物素材は、純度と品質が高いから、確保しておきたいんだよ」
「うむ。ならば、止むを得まい」
私達は、ボス部屋の奥の安全地帯で、ディエチが作ってくれた、お弁当を食べました。
・・・
昼食後。
21階層〜29階層。
ヴィクトーリアが、【重力波】で敵を殲滅しながら進みます。
30階層のボスは、【魔鋼のガーゴイル】。
ボス個体が【魔鋼のガーゴイル】2体を率いています。
突撃したソフィアが、ダイビング・ヘッドバットでボス個体の【魔鋼のガーゴイル】を破壊しました。
残りの【魔鋼のガーゴイル】2体の内1体の腕を掴み、もう1体に投げ付け、両方を破壊します。
私が残骸を回収しました。
【宝箱】の中身は、【魔鋼の盾】。
・・・
31階層から、60階層までは、トンネル・エリア。
31階層〜39階層。
ヴィクトーリアが、【重力波】で敵を殲滅しながら進みます。
ウルスラは、お腹がいっぱいになって眠くなったのか、オラクルの【アテーナーの鎧】の中に潜り込んで寝てしまいました。
緊張感がなさ過ぎますね。
まあ、このメンバーなら、危険はありませんが……。
40階層のボスは、【ミスリル・ガーゴイル】。
【ミスリル・ガーゴイル】のボディは、魔力を帯びた無垢のミスリルなので、ソフィアもさすがに素手では硬いのでしょう。
ソフィアは、この遺跡で初めて【クワイタス】を抜きました。
ソフィアが無造作に【クワイタス】を振り抜くと、【ミスリル・ガーゴイル】スッパリと真っ二つ。
見事な断面です。
【宝箱】の中身は、【ミスリルの兜】。
その時、私のリマインダーのアラームが鳴りました。
3時です。
「ファヴを迎えに行きましょう」
「うむ」
・・・
【ムームー】の首都【ラニブラ】。
私達が【転移】して来ると、既に、ファヴが緑師団と共に待っていました。
「ファヴよ。大地の祝福は、どうじゃ?」
「順調です。北側は完了しました。東側に着手しています」
「昼食は、ちゃんと食べたのか?」
ソフィアは、ファヴを気にかけます。
こういうところは、お姉さんですね。
「はい。ディエチのお弁当を、おいしく食べましたよ」
ファヴは、ニッコリ笑いました。
「そうか」
ソフィアは、満足気に頷きます。
ファヴをメンバーに加えた私達は、アペプ遺跡に取って返しました。
・・・
41階層〜49階層。
ヴィクトーリアが、【重力波】で敵を殲滅しながら進みます。
50階層のボスは、【アダマンタイト・ゴーレム】。
ソフィアが【クワイタス】で両断しました。
【宝箱】の中身は、【不思議な鞄】。
【不思議な鞄】は、【収納】アイテムです。
それなりに希少で有用なアイテムですが、【宝物庫】の下位互換なので、大量に【宝物庫】を所有する私たちには、ゴミ・アイテムですね。
・・・
51階層〜59階層。
ヴィクトーリアが、【重力波】で敵を殲滅しながら進みます。
60階層のボスは、【オリハルコン・ガーゴイル】。
ボス個体が【オリハルコン・ガーゴイル】を2体率いていました。
ボスをソフィアが【クワイタス】で真っ二つに斬り捨てます。
残り2体は、ファヴの【クルセイダー】と、トリニティの【トライデント】が串刺しにしました。
私は、残骸を回収する係。
【宝箱】の中身は、腕輪状の【コンティニュー・ストーン】。
「今日は、ここまでにしましょう」
「ノヒトよ。この先の階層も非生物ばかりか?」
「亜空間フィールドの61階層からは、普通だね」
「そうか……」
ソフィアは、少し残念そうに言いました。
「どうしたの?」
「もしかしたら、深層階では、【自動人形】が敵として、たくさん歩いているのかと思ったのじゃ。倒した後、コアを書き換えて、全部、味方にしてしまえる、と期待したのじゃが、そうは行かぬのじゃな?」
「遺跡は、複雑な内部構造の機械を敵として生み出せないんだよ」
遺跡の敵として、【自動人形】が出現するとしたら、遺跡で回収された【自動人形】が地上に運ばれ、プログラムを書き換えられて修理され、【自動人形】の技術が失われず、現在も、たくさん【自動人形】が地上で活動していたはずです。
私達、60階層の転移魔法陣部屋から、遺跡の入口に【転移】しました。
・・・
オピオン遺跡入口。
辺りは、夕闇に包まれていました。
今日は、浅い階層から素材を回収して進んだので、予定より、かなり時間がかかりました。
しかし、その甲斐があって、大量の鉱物を手に入れられました。
私の【収納】の容量は、無限なので、有用で高価なオリハルコンやミスリルは、幾らあっても邪魔にはなりません。
私は、オピオン遺跡の時と同様に、【神位】の強制転移魔法陣のトラップを仕掛け、遺跡の魔物がスタンピードで溢れ出さないようにします。
遺跡の外に出て来た魔物は、私達がさっきまでいた、60階層のボス部屋の奥の部屋にある転移魔法陣に強制転移するという仕掛け。
魔物は、グルグルとループして、地上には出られない、というトラップなのです。
この強制転移魔法陣は、【神位】の魔法なので、人種には使えません。
これで、よし。
「アッズーロ、ご苦労様。【オフィール】の防衛任務に戻って下さい」
アッズーロ達は、頷いて、翼をはためかせ、飛び立ちました。
上空で何度か旋回し、やがて、超音速に加速して北の方角に飛び去ります。
「私達も、戻りましょう」
「うむ。今日は、大量に鉱物が手に入ったのじゃ」
「鉱物は、本当に、私が全部もらって良いの?売却すれば、それなりの金額にはなるよ」
「うむ。売ってしまうより、ノヒトが活用した方が、はるかに価値があるのじゃ」
ソフィアが言うと、一同は同意を示しました。
「それじゃ、遠慮なく使わせてもらうよ」
私は、鉱物を無限に複製出来ますが……それは、それ。
家族の気遣いは、素直に受け取っておきましょう。
私達は、【転移】しました。
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