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第1233話。厄介な【精神支配】。

【フエンテ・サルガード】の【竜神信仰教会】の礼拝堂。


 私は、ウィローとリントとティファニーを伴って【フエンテ・サルガード】の教会の礼拝堂に戻って来ました。


「彼女が()()【フエンテ・サルガード】に居る者達の中で最上位者だと思います。様々な指示や差配をしていましたので」


 私が【ログ】を調べて回った限り、礼拝堂に倒れているイシドーラという名前の【ノーム】の女性が、【フエンテ・サルガード】の最上位者だと思われます。


「【精神支配】を受けているなら、(わらわ)達の質問には答えない可能性が高いのよね?カウンターで【精神支配】し返して話を聴いたら如何(どう)かしら?」

 リントが訊ねました。


「理屈としては可能ですが、今回の件では2つの理由で出来ません。まず、()()()()()【精神支配】自体が自分に対して直接的に敵意や害意を向けて来た相手にしか行えません。つまり、無辜の民に対して【精神支配】を行使する事は【世界の(ことわり)】にもゲームマスターの遵守条項にも反します。【フエンテ・サルガード】の住民は、何者かに【精神支配】を受けて心神喪失状態にあります。心神喪失状態で【世界の(ことわり)】違反や犯罪を行った【フエンテ・サルガード】の住民は、即ち無辜の民ですので、彼らを【精神支配】する事は出来ません」


「でも、【イスプリカ】の【ブリリア王国】方面軍キャンプで、ノヒトは無辜の民3万人も含めて広域の【精神支配】を行ったのでしょう?」


 私の行動は、ミネルヴァから逐一リント達にも情報共有されています。


「原則と言う場合、必ず例外が存在します。より重大で切迫した問題への対応の為に、一時的且つ限定された範囲内ならば、緊急避難の超法規的措置としてゲームマスターは、【世界の(ことわり)】やゲームマスター遵守条項を逸脱する権限が【創造主(クリエイター)】(ゲーム会社)から認められています(事後にゲーム会社から査問を受けて、問題があると判断されれば処分される)。【イスプリカ】軍キャンプのケースは、その例外に適合しました。しかし、今回のケースでは、【フエンテ・サルガード】の住民に【精神支配】をしている者が現在何処(どこ)に居るかわかりません。広大な捜索範囲に無差別・無制限で【精神支配】を行う事は出来ません」

 私は説明しました。


「【堕天】病の蔓延を食い止める……という理由は、緊急避難の超法規的措置という解釈が可能なのでは?」

 リントが訊ねます。


「このケースでは、あくまでも【フエンテ・サルガード】の住民に対して【精神支配】を行い、奴隷として購入した子供達に【世界の(ことわり)】に反する惨虐な行為をしている事が対象になります。そして、【堕天】病の発生源は事情聴取をするまでもなく見付かりましたので、そもそも緊急避難の超法規的措置の理由にはなりません」


「えっ?【堕天】病の発生源は見付かったの?」

 リントは驚きました。


「はい。この【フエンテ・サルガード】の直下【ルピナス山脈】の内部に異常な魔力反応があります。それが、おそらく【堕天】した【天使(アンゲロス)】の成れの果て、【堕天】病の発生源である異形の獣の魔力反応と考えて差し支えないでしょう」


【プエブロ・デ・モンターニャ】を中心に【堕天】病を蔓延させている河川や地下水を遡った水源地は、洞窟の奥深くにある……神聖な泉……が最も疑われています。

 神聖な泉で祭祀を行っている……水守(みずもり)……なる一族は【フエンテ・サルガード】で暮らしていると聴いていました。


 ならば、【フエンテ・サルガード】と神聖な泉は近い筈。

 少なくとも何十kmも離れているとは思えません。


【知の回廊】のアーカイブを調べたミネルヴァによると、【天使(アンゲロス)】が【堕天】した異形の獣というのは、魔力量が10万単位であるとの事。

 10万単位という魔力量は、【ダンジョン・ボス】と同等で、カンスト・ユーザーなら10万人分に相当しました。


 つまり、【フエンテ・サルガード】近くの地下に、1個体で【ダンジョン・ボス】と同等の魔力反応があれば、それが【堕天】した【天使(アンゲロス)】であり、【堕天】病の発生源であると考えられます。


「見付けたの?さすがね……。で、【精神支配】を行使出来ない理由の、もう1つの理由というのは?」


「2つ目の理由は、もっとシンプルな話です。【精神支配】を受けている者は、【精神支配】を受けている期間の記憶を覚えていない事が普通です。【オペッハ・ペルディーダ】のバルバラ・ブランカが、【上位悪魔(アーク・デーモン)】のブルヘリア・マルディシオンに【憑依(ポゼッション)】されていた期間の記憶がないのと同様です。なので、【フエンテ・サルガード】の住民に【精神支配】を行使している誰かを自供させる為に、私達がカウンターで【精神支配】を行使すると、おそらく肝心の記憶が失われてしまうので、意味がありません」


「そうなのね……わかったわ」


【精神支配】を受けている期間の記憶は、残っている場合と、失われている場合がありました。

 それは【精神支配】を行使する術者が任意に選択出来ます。


 今回のように明らかな悪事に【精神支配】を利用する場合、基本的には記憶を失わされる事が普通でした。

【精神支配】された者が【精神支配】されていた時の事を何も覚えていない……というのが、【精神支配】の極めて厄介なところなのです。


「【フエンテ・サルガード】の住民に【精神支配】を行使している何者かは、この大人数に対して強力な【精神支配】を行使して、私が彼らの【ログ】を調べても誰が【精神支配】をしたのかわからないように隠蔽を行っています。相当の手練(てだ)れで抜け目がありません」


「あっ、ユグドラの【完全記憶媒体(アカシック・レコード)】の能力で、【フエンテ・サルガード】の民に【精神支配】を行った者を見付けられないのかしら?」


「ミネルヴァが既にユグドラに訊ねましたが、わかりません。ユグドラは視覚と聴覚の情報を集めて記憶します。【フエンテ・サルガード】の住民に【精神支配】している誰かは、視覚・聴覚ではわからないように行動しながら【精神支配】を行っています。おそらく、この【フエンテ・サルガード】に訪問した参拝者や巡礼者や行商人などの中に犯人がいたのでしょう。そして、例えば、その犯人自身も別の誰かに【精神支配】や【憑依(ポゼッション)】されていれば、【精神支配】中の記憶が失われていて真犯人の黒幕を知らない可能性が高いでしょう。また、真犯人が自分の姿や音を消して活動していると、そもそもユグドラには何も見えませんし聞こえません。私が真犯人の立場なら、そういう偽装方法を取るでしょうね」


「なら、足取りは追えない公算が高いのね?」


「ええ。もちろん、これは最悪の想定です。【フエンテ・サルガード】の住民に【精神支配】をしている何者かが、私やミネルヴァの推定より頭が悪いなら、尻尾を掴ませる痕跡を何か残しているかもしれません。また、【フエンテ・サルガード】の住民の【精神支配】を解いて話を聴けば、彼らの記憶がある最終時点が【精神支配】された日である事は確定出来ます。それが、ほぼ唯一の手掛かりになるでしょう」


「それも二重に偽装されていれば、その手掛かりも役に立たたないかもしれないわね?」


「二重偽装に使われた誰かの記憶がある最終時点が、【精神支配】された日であるは確定出来ます。しかし、尚も三重に偽装されているかもしれません」


「堂々巡りね……」


「強力な【精神支配】や【憑依(ポゼッション)】を行使可能な誰かというヒントはありますが、【精神支配】系の【神の遺物(アーティファクト)】などを使われている場合、容疑者数は(ほとん)ど無限です」


「なら、一通り【フエンテ・サルガード】の民に事情聴取したら、【堕天】病の制圧の方に向かいましょう」


 私は、礼拝堂に倒れている聖職者らしき者達の最上位者と(おぼ)しき女性を、オリハルコンの手枷(てかせ)足枷(あしかせ)で拘束して行動の自由を阻害し、魔力を収束出来ない措置を講じて、舌を噛んで自傷しないようにオリハルコンのマウス・ピースを噛ませました。

 彼女は、【麻痺(パラライシス)】によって運動機能は奪われていますが、意識はあるので自分が置かれた状況は認識・理解しています。

 なので、【麻痺(パラライシス)】を解いた瞬間に襲い掛かって来たり、自殺を図るかもしれません。


「【魔法中断(マジック・キャンセル)】」

 私は、【フエンテ・サルガード】の最上位聖職者らしき【ノーム】の女性の【麻痺(パラライシス)】を解きました。


「うーーっ!ふーーっ!」

 最上位聖職者らしき【ノーム】の女性は、暴れ出します。


 しかし、身体の自由が奪われていて何も出来ません。


「あなたの名前は、イシドーラですね?」

 私は【ログ】とステータスを調べて判明した、最上位聖職者らしき【ノーム】の女性の名前を呼びました。


「うーーっ!」

 最上位聖職者らしき【ノーム】の女性……改めイシドーラは尚も暴れます。


「あなた達に【精神支配】を行い、地下牢で子供達に惨虐な儀式を行なっていた者は誰ですか?」


「ふーーっ!んーーっ!」


「なるほど。やはり、話すつもりはありませんか?」


「何を言っているか、わかるの?」

 リントは訊ねました。


「イシドーラに噛ませたマウス・ピースは多少不明瞭にはなりますが言葉自体は発せます。彼女は唸っているだけですよ」


「あ〜、思念波を読み取ったのね?」


「思念波で、イシドーラが私の質問に対して肯定的な反応を示したのか、否定的な反応を示したのかはわかります。イシドーラは、私の質問への解答を拒絶しました」


「くっ、殺せっ!」

 イシドーラは言います。


 イシドーラは【ノーム】の女性でした。

【エルフ】以外も……くっころ……を使用するのですね。

 如何(どう)でも良い話ですが……。


 ・・・


 私は、教会に居た聖職者らしき者達全員の行動を拘束してから順番に【麻痺(パラライシス)】を解きました。

 結局、彼女達に【精神支配】をしている真犯人が誰かはわからず終い。


「リント。大した情報も得られないので、【フエンテ・サルガード】の住民全員の【麻痺(パラライシス)】と【精神支配】を解いてしまおうと思いますが、【精神支配】状態で何か訊ねたい事はありますか?」


「ないわ」

 リントは首を振ります。


 プロスペール……【フエンテ・サルガード】の住民の【麻痺(パラライシス)】を解きます……【精神支配】も一緒に解きますので、彼らは無辜の民になります……配下に命じて、【フエンテ・サルガード】の住民に攻撃を行わせないように命じなさい……また、何者かによって【精神支配】を受けていた【フエンテ・サルガード】の住民に対して、ゲームマスターの私と、ウエスト大陸の守護竜である【リントヴルム】と、プロスペール達【スクリメージ・スクアッド】が協力して治療活動を行ったと説明しなさい……【フエンテ・サルガード】の住民の【精神支配】が解かれれば、彼らは【スクリメージ・スクアッド】と敵対しないと思いますが、一応不測の事態に備えて警戒はしておいて下さい。


 私はプロスペールに【念話(テレパシー)】で命じました。


 了解しました……御命令の周知徹底に3分時間を下さい。


 プロスペールは【念話(テレパシー)】で言います。


 わかりました。


 私は【念話(テレパシー)】で了解しました。


 3分をカウントすると、プロスペールから【念話(テレパシー)】で……配下に命令が周知された……という報告がされます。

 私は、イシドーラ達聖職者に施した拘束具を取り外してオリハルコン・インゴットに戻して【収納(ストレージ)】に回収しました。


「では、【超神位(運営者権限)……状態(キャンセレーション)異常(・ステータス・)解除(エイルメンツ)】」

 私は【フエンテ・サルガード】の住民全員の【麻痺(パラライシス)】と【精神支配】を同時に解除します。


 今回は、無限魔力の力技で範囲指定内に無理矢理ギミックを発動するのではなく、【マップ】を使用した複数目標への標的指定(ターゲッティング)により【状態異常】を解除しました。

 私が【フエンテ・サルガード】の中を回って全住民の個体識別が可能になったので、この魔法の運用としてエレガントな方法を選択出来ます。


 範囲指定の丸ごと魔法では、現在【フエンテ・サルガード】の中に入って活動している【スクリメージ・スクアッド】の【トランサルピナ】大隊にノート・エインヘリヤルが行っている【精神支配】系のギミックも全て解除されてしまいますからね。


「……えっ?何?」

 正気に戻ったイシドーラが言いました。


「イシドーラ。私はゲームマスターのノヒト・ナカです。あなた方【フエンテ・サルガード】の住民は全員何者かに【精神支配】され操られていましたが、私とウエスト大陸の守護竜【リントヴルム】が救護措置を講じました。混乱していると思いますが、もう何も心配はありません」


「【リントヴルム】よ。大変な目に遭ったわね」


「【精神支配】?【調停者(ゲームマスター)】様と、守護竜の【リントヴルム】様!」

 イシドーラは、飛び起きて居住まい正して跪きます。


 イシドーラは、カルト宗教である【竜神信仰教会】の聖職者だと思われますが、彼女の態度から正当な【神格者】である私や【リントヴルム(リント)】に対しても崇敬や畏怖をする気持ちがあるという事がわかりました。

 私は、イシドーラ達聖職者に幾つか質問をしましたが、予想通りイシドーラ達は【精神支配】されていた期間の記憶は何も覚えていません。


 イシドーラ達は、この教会の地下牢で行われていた奴隷にされた子供達に対する残虐な儀式の件を聞かされ、戦慄していました。

 イシドーラ達によると……【フエンテ・サルガード】では、過去(【精神支配】される以前)に奴隷を使役した事はなかったそうです。


 そして、イシドーラ達が覚えている最後の記憶を遡及した結果、【フエンテ・サルガード】の住民が何者かに【精神支配】された時期は、昨年の夏頃。

 同日ではなく微妙に誤差があるので、【フエンテ・サルガード】の住民は、少人数ずつ徐々に【精神支配】された事が判明しました。

お読み頂き、ありがとうございます。

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活動報告、登場人物紹介&設定集もご確認下さると幸いでございます。


・・・


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心より感謝申し上げます。

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