第1231話。教会内の捜索。
本日2話目の投稿です。
【フエンテ・サルガード】の中央教会。
私と【スクリメージ・スクアッド】の【トランサルピナ】大隊隊長であるプロスペールが、地下牢から階段で地上階に上がると、何人かの聖職者と思しき者達が、私の【麻痺】によって倒れていました。
ここは聖堂……いや、教会と呼ぶべきでしょう。
この世界の一般常識として、各大陸の守護竜を祀る建物や信仰を主導する組織には、それぞれ呼び名がありました。
セントラル大陸の【神竜】を祀るのは神殿で、総本山は【竜都】の【竜城】。
この神殿という呼び名は、一般名詞化しているので【創造主】など【神格者】全般を信仰する建物や組織を纏めて総称する場合も、神殿の呼称が使われます。
つまり、【創造主】の直轄地【シエーロ・マップ】の中央に聳え建つ【知の回廊】は神殿であり、【創造主】の御使のゲームマスター達が所属するゲームマスター本部は神殿勢力という事になりました。
イースト大陸の【アジ・ダハーカ】を祀るのは寺院で、総本山は【シャンバラ】の【大寺院】。
ただし、イースト大陸の東方国家【タカマガハラ皇国】だけは……【社】や【大社】……という特殊な呼称を用いる事が認められています。
ウエスト大陸の【リントヴルム】を祀るのは聖堂で、総本山は【サントゥアリーオ】の【大聖堂】。
サウス大陸の【ファヴニール】を祀るのは塔で、総本山は【パラディーゾ】の【時の塔】。
ノース大陸の【ニーズヘッグ】を祀るのは聖域で、総本山は【エルフヘイム】の【世界樹】。
それぞれの大陸に紐付いた【隠しマップ】の守護竜の場合は、紐付く大陸の守護竜を祀る建物や組織に倣って呼ばれる場合と、総称の神殿で呼ばれる場合がありました。
前者の例なら、サウス大陸に紐付いた【隠しマップ】である【プレスタンツァ】の守護竜【アンピプテラ】を祀るのは塔で、ノース大陸に紐付いた【アーズガルズ】の守護竜【ヨルムンガンド】を祀るのは聖域である訳です。
そして、【創造主】や守護竜など【神格者】以外のローカルな信仰対象を祀る建物や組織を呼ぶ場合は、一般的に……教会……の呼称が用いられていました。
つまりは、【唯一神信仰教会】や【妖精信仰教会】や【精霊信仰教会】や【竜神信仰教会】という具合に。
教会という呼称は、【創造主】や守護竜など、この世界の正しい信仰を行う使徒や信徒達からは、多少の侮蔑の意味を含みます。
お前達の信仰は偽物だ……というニュアンスなのでしょうね。
なので、教会勢力が侮蔑の意味を含む……教会……の呼称を嫌って、独自の呼称を用いる場合もありました。
閑話休題。
この聖職者らしき者達が……水守……という【呪術師】なのでしょうか?
【プエブロ・デ・モンターニャ】のマウリシオ村長代理は……水守は【呪術士】の一族……だと言っていました。
一族というのは、血縁関係を意味する筈。
ステータスを見ると、この聖職者らしき者達には、遺伝的血縁関係は見受けられません。
ならば、この聖職者らしき者達は、水守ではないという事なのでしょうか?
良くわかりませんね。
【フエンテ・サルガード】の城門前で行われていた戦闘と、地下牢で行われていた残虐行為で忘れそうになりましたが、そもそも私が此処に来た目的は【堕天】病を発生させている水源と推定される……神聖な泉……の場所を知る水守に会って案内させる為でした。
現時点では、私が【ログ】を調べた限り、倒れている聖職者らしき者達の中に……神聖な泉……の場所を知る者は見付かりません。
聖職者らしき者達は、綿のキトンの上に羊毛で織られた厚手のヒマティオンを重ね着するという格好をしています。
「この聖職者らしき者達の法衣(らしき衣類)は、【リントヴルム聖堂】の法衣とも、【イスプリカ】の【ブリリア王国】方面侵攻軍キャンプに居た【イスプリカ】の国教である【竜神信仰教会】の従軍司祭が着ていた法衣とも異なるデザインですね?つまり、【フエンテ・サルガード】の聖職者らしき者達は、【リントヴルム教会】とも【竜神信仰教会】とも違う系統の宗派なのでしょうか?」
「あの……単に、寒いから羊毛製の防寒着を着込んでいるという事なんじゃ……」
プロスペールが言いました。
「……なるほど」
あ〜、標高が高い【ルピナス山脈】の尾根に築かれた集落である【フエンテ・サルガード】は、当然寒いですよね。
失念していました。
ゲームマスターである私は、【完全気候耐性】を持っているので、暑さ寒さは無視出来ます。
これは、環境情報から得られる重要な知見を見逃してしまう可能性があるので、平時は【完全気候耐性】を切っておいた方が良いかもしれません。
いや、止めておきましょう。
私は、寒いのが苦手ですので。
私は、倒れている聖職者達の【ログ】を片端から調べて回りました。
【ログ】情報によると、倒れている聖職者らしき者達は……神聖な泉……の場所を知りません。
また、この聖職者らしき者達は、教会の地下牢で行われていた残虐行為の事を知っていましたが、子供達の殺害に直接関与していたり、その命令を出した者は見付かりませんね。
というか、この倒れている聖職者達は、何らかの【精神支配】を受けています。
私は、【フエンテ・サルガード】に到着した直後、話を聴いてもらおうと戦闘を強制的に中断させました。
その際に私が行使した【超神位……麻痺】と、双方の怪我人を治療した【超神位】の【治癒】と【回復】には、位階が高い強力な【精神支配】を解除する効果はありません。
より強力な【超神位】の【完全治癒】であれば、【精神支配】も丸っと解除してしまえましたが、私は……基本的に人種の紛争には介入しない……という、ゲームマスターの遵守条項に従って、意図的に【治癒】だけに留めていました。
【スクリメージ・スクアッド】の【トランサルピナ】大隊のメンバー達に施されていたノート・エインヘリヤルによる【魅了】や【精神支配】が解除されなかったので結果的には良かった訳です。
しかし、この【フエンテ・サルガード】の聖職者らしき者達に施された【精神支配】も維持されているのが、気になりますね。
私の【超神位……治癒】は、強力な【精神支配】を解除する事は出来ませんが、逆に言えば、弱い【精神支配】は解除してしまえました。
つまり、この【フエンテ・サルガード】の聖職者らしき者達に対して行われている【精神支配】は、ノート・エインヘリヤルの【精神支配】と同程度には強力だという事です。
ユーザーであり、種族的に【精神支配】が得意な【真祖】の【リリン】であるノート・エインヘリヤルの【精神支配】は強力でした。
そのノート・エインヘリヤルと同程度の【精神支配】を、人種NPCが行使したとするなら、その人物も相当な能力があります。
【フエンテ・サルガード】の聖職者らしき者達は、それなりに人数が多く、相応に魔法制御と魔力のコストが掛かりますからね。
「う〜ん……」
「如何されました?」
プロスペールが訊ねました。
「この聖職者らしき者達は、全員強力な【精神支配】を受けています。ユーザーのノートならともかく、そのように強力な【精神支配】をこの世界の住人が行使しているのが不自然に思います。【プエブロ・デ・モンターニャ】で聴いた話によると、【フエンテ・サルガード】の水守は【呪術士】だという事です。【呪術士】は確かに【神官】や【僧侶】などに比べて【精神支配】が得意な【職種】系統ではありますが、それにしても強力過ぎるような印象を受けます」
「あの、【スクリメージ・スクアッド】が独自に調べた結果、この【フエンテ・サルガード】が悪魔崇拝……あ、いや奴隷の子供達を購入して生贄の儀式なんかをやり始めたのは、大体1年前からのようです。それ以前の【フエンテ・サルガード】は真面……というか水源で祭祀を行う素朴な田舎の土着信仰として、この辺り一帯の住民達から、それなりに崇敬されていたそうです」
「なるほど。【堕天】病の流行と時期を同じくして、【フエンテ・サルガード】の水守達の様子が変わったのですね?」
「はい。【スクリメージ・スクアッド】が調べた限り、そのようです」
「ふ〜む。神聖な泉とやらに行ってみれば、その辺りの疑問も全てわかりそうですが……」
神聖な泉に【堕天】した【天使】が居る事は、ほぼ確定ですが、その【堕天】した【天使】は自我が崩壊して捕食衝動だけを持つ異形の獣に変わっています。
【堕天】した【天使】には、意図を持って他者を【精神支配】するような自我がありません。
つまり、【堕天】した【天使】とは別に、【フエンテ・サルガード】の聖職者らしき者達に【精神支配】を行使した何者かが居る筈です。
私がステータスを調べれば、【フエンテ・サルガード】の聖職者らしき者達に【精神支配】を行使する能力を持つ何者かはわかりますので、その人物を見付けて話を聞くのが手っ取り早いのですが……。
この教会の上階にも幾つかの光点反応があるので、その光点反応が水守か、地下牢で行われていた残虐行使の犯人か、【精神支配】を行使している者なのでしょうか?
まだ、この教会の外にも【フエンテ・サルガード】の住民が大勢倒れていますので、其方に居るのかもしれません。
当該者が、【スクリメージ・スクアッド】との戦闘の指揮に当たっていたなら、城門の上などに居る可能性もありますね。
ともあれ、虱潰しに調べて行けば良いのです。
「上階にも人種の反応があるので行ってみましょう」
「はっ!」
プロスペールは敬礼します。
私とプロスペールは、教会の上階に上がりました。
・・・
【フエンテ・サルガード教会】の礼拝堂。
礼拝堂には、竜の形を模った彫像……いや、この像は鋳物ですので、鋳像が置いてあります。
しかし、この竜の像は、頭部が破壊されていました。
この像は、【リントヴルム】でしょうか?
如何やら違いますね。
この像の竜には、指が4本しかありません。
この世界の設定的に4本指は、【古代竜】です。
【リントヴルム】など守護竜の手足の指は5本ありました。
因みに【竜】は3本指です。
「この像は【古代竜】ですので、【イスプリカ】の国教である【竜神信仰教会】が祀る【古代竜】でしょうか?」
「そう思います。これに良く似た竜の像を、俺達は【イスプリカ】各地の街・町・村の教会で見ました。たぶん、これが【竜神】とやらなんでしょう」
「なるほど。だとするなら、【フエンテ・サルガード】の聖職者らしき者達も、水守なる【呪術士】も、本来は【竜神信仰教会】に所属する聖職者達なのかもしれません」
地球の東洋思想でも……竜神……と云えば、慈雨神や泉や井戸の守り神として信仰される場合がありますからね。
【フエンテ・サルガード】の【呪術士】である水守が……神聖な泉……で祭祀を行い水源を守る役目であるなら、【竜神信仰教会】とも親和性があるのかもしれません。
ミネルヴァ……【イスプリカ】の【竜神信仰教会】には、人種の心臓を生贄に捧げるような教義がありますか?
私は【念話】で訊ねました。
私がサーベイランスした限り、ありません……むしろ、【イスプリカ】の【竜神信仰教会】では、人身御供や生贄などの誤った風習を強く戒めています。
ミネルヴァは【念話】で報告します。
そうでしょうね。
【イスプリカ】軍のキャンプにいた【竜神信仰教会】の従軍司祭ファティマ・フエンテスは、優秀な【回復・治癒職】でした。
【回復・治癒職】などの信仰系の【魔法使い】は、この世界の正しい信仰……つまり【創造主】を中心とする【神格者】への信仰体系に従って敬虔な祈りを捧げていれば、魔法適性に覚醒し易くなりますし、覚醒後の能力もブーストされます。
逆に、この世界の正しい信仰体系に反した誤った信仰に祈っても【回復・治癒職】として覚醒し易くはなりませんし、能力もブーストされません。
つまり、【竜神信仰教会】の背景には、【創造主】を中心とする【神格者】への正しい信仰が存在している筈です。
他方、この世界の正しい信仰体系では、人身御供や生贄などは禁忌として戒められていました。
信仰の名の下に人身御供や生贄などの残虐な儀式が行われていれば、その信仰や宗教全体が【創造主】(【世界の理】)からの恩恵が受けられなくなります。
なので、優秀な【回復・治癒職】を輩出する信仰や宗教は、遡及して【世界の理】に反するような事はしていないと考えて差し支えありません。
では何故、本来は正しい信仰体系を背景に持つ筈の【竜神信仰教会】に連なる【フエンテ・サルガード】の教会で、あのような残虐な行為(儀式?)が行われていたのでしょうか?
1年前から【フエンテ・サルガード】のローカルな信仰が変質したのなら、当然ながら同時期に発生した【堕天】病との関連が想起されます。
私が1人1人【ログ】とステータスを調べた結果、この教会の内部には、水守も、地下牢で行われていた残虐行使の犯人も、【精神支配】を行使している者も見付かりませんでした。
「ここには、私が探している者は居ませんね。次は外を探します」
「はっ!」
プロスペールは敬礼します。
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