第123話。秘書官さんが、女王?
名前…トリニティ
種族…【エキドナ】
性別…女性
年齢…なし
職種…【徘徊者】
魔法…【闘気】、【収納】、鑑定】、【マッピング】、【空間魔法】、【呪詛魔法】など。
特性…飛行、遺跡適応、【超位回復・超位自然治癒】、【才能……王権、王威、攻撃力S】
レベル…99(固定)
異世界転移、26日目。
早朝、私が徹夜内職の片付けをしていると、ファヴが多少眠そうに起き出してきました。
ソフィア、トリニティ、ウルスラは、まだ寝ています。
今日は、出発を少し遅くしました。
何故なら、昨夜、オピオン遺跡攻略の祝いなどと言って、宴席が供され、そのせいで就寝が少し遅くなってしまったからです。
何でも、サウス大陸の各国の代表が、王都【アトランティーデ】王城に押しかけ、ソフィアやファヴに拝謁を求め、ゴトフリード王は対処に困っていたのだ、とか。
私とソフィアとファヴが許可をした為に、昨晩の宴席が執り行われた訳です。
正直、迷惑だ、という気持ちがあったのですが、何しろ900年ぶりに遺跡が一つ攻略された吉事なので、止むを得ない、との判断もあり、付き合っていたのですが……。
ソフィアは、途中で寝落ち。
オラクルは、ソフィアを抱いて寝室へ。
トリニティは、付き合いきれない、と中座。
最後は、ファヴが……未だ、アペプ遺跡は、スタンピードを継続しているというのに、緊張感を弛緩させるな……と叱責して、強制的に宴会は終了となりました。
どうやら、サウス大陸各国の代表者達には、何やら、腹に含むところがあるようです。
さしずめ、私達がサウス大陸を解放する事が、もはや疑いようもない既定路線に達した事で、戦後の利害を巡って、魑魅魍魎の類が、一斉に蠢き始めた、という事なのでしょう。
ファヴの怒りは、もっともです。
私も、話を聞いていて、途中から頭に来ました。
私が当事者なら、【神威】を発動していたでしょう。
散会した後になって、ゴトフリード王や剣聖は、盛んに謝罪していましたが、旧【パラディーゾ】の貴族筋と、【オフィール】の王族、それから【ティオピーア】の現有力者達が、とにかくしつこかったのです。
戦後処理が済んだ後の利権を獲ようと、私やソフィアやファヴに取り入ろうとする連中は、必死なのでしょう。
宴会は、醜い主導権争いの場となってしまいました。
私は、原則として、政治には不介入を宣言しています。
セントラル大陸の守護竜であるソフィアも、サウス大陸の統治には口を出しません。
で、ファヴがキレました。
「サウス大陸の守護竜として、旧【パラディーゾ】の貴族家の爵位の復活は、一切認めぬ。新生【パラディーゾ】は、民主主義国家として再興する。【オフィール】の権益が及ぶ範囲は900年前の国境線まで、それ以上は認めぬ。【ティオピーア】も同様。【ムームー】の統治に関しては、僕が適任者を選任して、統治を委ねる。異論ある者は、今この場で申してみよ。後日の異論は、僕への反乱とみなし、討伐軍を差しむける!」
ファヴは、サウス大陸の守護竜としての、統治者の大権を発動して、一喝します。
宴会は、終了。
ファヴが……言いたい事があれば、今この場で言え……と許可した後は、もはや醜悪な欲望を剥き出しにした利己主義の発露合戦が開始されました。
あからさまに、自分の利益だけを主張する、各国の代表者達。
【パラディーゾ】や【ムームー】に領地を要求したり、資源の採掘権を要求したり、あまつさえ、【パラディーゾ】や【ムームー】の統治権を望む者さえいました。
あいつらは、自分の利益の事しか頭にないようです。
私は、連中を、敵、と認定しました。
私は、ファヴを1人にしてはいけない、と最後まで、ファヴの隣にいました。
私は、一言も喋らず、ただ黙ってファヴの隣に座っていましたが、もしも、何かあれば、【神剣】を抜くつもりでしたよ。
ゲームマスターは、人種の政には関与しませんが、守護竜が決めた事に人種が叛意を示した場合は、それを排除出来る権限があります。
業務上必要であれば、人種を滅殺する事も厭いません。
昨夜の狂騒が、ソフィアやトリニティが宴席からいなくなった後で良かったです。
ソフィアやトリニティなら、あの場で、攻撃魔法を撃ちかねない状況でしたからね。
「昨夜は、ありがとうございました」
起床して来た、ファヴは開口一番言いました。
「私は、何もしていませんよ。ただ座っていただけです」
「いいえ、僕の隣に【調停者】たるノヒトが居てくれただけで、最大限の助力となりました。僕の決定は、【創造主】の代行者である【調停者】の信認あってのモノだ、という、これ以上ないアピールとなりましたので」
「連中は、大人しく引き下がるかな?」
「【パラディーゾ】の旧貴族家は、納得しないでしょうね。彼らにとっても既得権は、生き死にに関わる事ですので。彼らから、権威を奪えば、何も残りませんから。使徒達に少し調べさせたところによると、連中は、金銭をバラ撒いて戦後統治の多数派工作をしているようです。もしも【パラディーゾ】が僕が目指すような民主主義国家となってしまえば、連中の買収工作は無駄になり破産。悪くすると、約定を違えたとして、利害関係者からの暗殺もあり得ます。なので、なり振り構ってはいられないのでしょう。僕は、彼らにも、新生【パラディーゾ】の国籍を与えるつもりですが、今後、場合によっては、彼らが武装蜂起や、反政府活動を扇動するかもしれません」
厄介極まりないですね。
だから、政治は大嫌いなのですよ。
しかし、守護竜は、善い民も悪い民も、普く、等しく、庇護しなければならない立場なのです。
本当に、面倒な役割ですね。
私には、とても務まりませんよ。
「諜報を厳重にして、陰謀や反乱の証拠を押さえておくと良いね。もしも、ファヴに対して反乱を企図したら、計画段階でも証拠があれば、私が動ける。神の軍団も動かせる」
つまり、実力行使をして、物理的排除も辞しませんよ。
それも、ゲームマスターの業務の内ですので。
「ありがとうございます。抜かりなく手を尽くします」
「ところで、【ムームー】の統治は、ファヴが適任者を選らんで委ねる、との事だったけれど、誰か候補者はいるの?」
「それが全く……。あの場では、連中が【ムームー】に対して領土的野心を持っている事が明らかでしたから、あのように言いましたが、正直、候補者は誰もいません。しばらくは、ゴトフリードに頼んで保護領として間接統治をしてもらう事も選択肢かと」
「【アトランティーデ海洋国】と【ムームー】は、遠過ぎるよ。非現実的だね」
ゴトフリード王は、以前、剣聖に【ムームー】の王となるように言っていましたが、実際、それが一番収まりが良いのですよね。
人格、見識、武力……そして民衆の支持を持つ剣聖なら、適任でしょう。
しかし、剣聖は固辞しています。
私からも、非公式に打診はしましたが、本人は……向こう100年は、国家には属さず、一武人として修行をする……と、頑なですからね。
「ソフィアお姉様に相談してみます。こういう事は、昔から、ソフィアお姉様が得意で、その判断には間違いがないのです」
ファヴは、言いました。
ソフィアが?
あの、ワガママな幼稚園児が?
ちょっと信じられません。
・・・
朝食。
ゴトフリード王は、昨夜の各国代表による醜態を盛んに詫びていました。
まあ、ゴトフリード王には、直接的な責任はありませんが、あの宴席の主催者でしたからね。
「馬鹿者どもが、身のほども弁えず、ファヴに利権を強請るとは。見せしめに2、3人踏み潰してやれば良かったのじゃ」
ソフィアは、言いました。
ソフィアなら、やりかねません。
「ソフィアお姉様、それで、【ムームー】の統治を委ねる者を、探しています。誰か適任者は、いないでしょうか?」
ファヴは、訊ねます。
「おるのじゃ。旧【ムームー】の有力な部族長の血を引き、国家統治のノウハウを持つ絶好の人材に心当たりがあるのじゃ」
「それは、どなたでしょうか?」
「【ドラゴニーア】大神官付き筆頭秘書官であるチェレステじゃ。あの者は、大神官アルフォンシーナに仕え、長らく、その施政と振る舞いを、一番近くで見て学んでおる。アルフォンシーナの身に万が一があれば、チェレステが後継の大神官なのじゃ。その為に帝王学をアルフォンシーナより叩き込まれておったのじゃ。能力にも疑いの余地はない。チェレステ以上の候補者はおらぬのじゃ」
秘書官さん……いや、チェレステさんが?
初めて知りました。
チェレステさんの祖先は、900年前に【ムームー】から【ドラゴニーア】に避難して来た一族なのだそうです。
【ムームー】では、魔力が強い一族が族長として、緩やかな統治をしていました。
だから、チェレステさんは、遺伝的に強い魔力を持つのですね。
「チェレステ殿と、お話出来ますか?」
「うむ。しばし待て……」
ソフィアが神託を出します。
ほどなくして、ソフィアのスマホに着信が……。
チェレステさんです。
ソフィアは、スマホをオープン通話にして、テーブルに置きました。
「チェレステよ。話は伝えた通りじゃ。其方の存念を申してみよ」
ソフィアが言います。
「チェレステでございます。この度の、お話ですが、ソフィア様の、たっての、ご要望でございますので、お引き受け致します。非才の身ながら、懸命に相勤めます故、お引き立て頂けますれば幸いでございます」
現世神の最高位にあるソフィアの指名ですので、居並ぶ者達に異論があろうはずもなく、【ムームー】の暫定政府の長として、チェレステさんを選任する事が決定しました。
チェレステさんは、【ドラゴニーア】での職務の引継ぎが終わり次第、サウス大陸に上陸し、【ムームー】の女王として、就任する運びとなります。
その戴冠式には、ソフィアとファヴが出席し、直接、チェレステさんに王権を神授する儀式を執り行うのだ、とか。
私も、列席を依頼され二つ返事で引き受けました。
私の権限が及ぶ範囲で、最大限の協力をしてあげましょう。
・・・
朝食後。
私達は、武装に身を包み、出発しました。
千年要塞に【転移】し、昨日の買取査定の結果を確認します。
【超位】の魔物が500頭超。
【掘削車】による解体で、全てのコアと肉、それから【古代竜】の血液は、私があらかじめ確保済みです。
査定結果は、1250万金貨(1兆2500億円相当)。
この金額に、昨日、商業ギルドに売却した遺跡アイテムの買取金額30万金貨(300億円相当)も加えます。
これを、ソフィア、ファヴ、オラクル、トリニティの4人で分配し、1人当たりの取り分は、320万金貨(3200億円相当)でした。
所有現金(可処分所得)。
私……1085万金貨(1兆850億円相当)。
ソフィア……1679万金貨(1兆6790億円相当)。
ファヴ……1056万金貨(1兆560億円相当)。
オラクル……1039万金貨(1兆390億円相当)。
トリニティ……330万金貨(3300億円相当)。
そして、ウルスラ……ホールケーキ10個。
入金を確認して、昨日、冒険者ギルドが預かりきれなかった、残りの素材も買取査定をお願いしました。
冒険者ギルド千年要塞支部のギルマスであるフランクさんから……解体が必要ないので量は、増やしても対応出来る……との了解があったので、残りを全て預けてしまいます。
【高位】の魔物のコアと血液と肉以外の部位でした。
フランクさんは、商業ギルドに持ち込めば、冒険者ギルドより、高く買い取ってもらえるので、恐縮していましたが、私達は、冒険者ギルドに儲けさせてあげるつもりです。
商業ギルドは、今回のサウス大陸奪還作戦には、何ら寄与していないのですからね。
私達は、冒険者ギルドを後にして、航路ギルドの出張所に向かいました。
【掘削車】で解体した【高位】の魔物の肉を【ドラゴニーア】の騎竜繁用施設に輸送してもらう手続きの為です。
今までは、冒険者ギルドに任せていれば良かった手続きですが、自分で解体したので、自分で手続きをしなければいけません。
輸送費は着払いで……。
これは、事前にアルフォンシーナさんと話し合って、輸送費は、【ドラゴニーア】の負担という事にしてもらっていました。
まあ、私は、高価な魔物の肉を無償で提供している訳ですから、そのくらいは、やってもらってもバチは当たらないでしょう。
手続きを終え、私達は、航路ギルドを後にしました。
千年要塞を防衛している白師団長のビアンキに挨拶します。
任務、ご苦労様。
ビアンキは、凛々しい顔付きで、頭を下げます。
余談ですが、このビアンキ。
実は、【帝竜】というレア種です。
私は、始め、【青竜】の無色素個体だと思っていたのですが、【鑑定】したら、【帝竜】と表示されました。
強いです……【帝竜】ですので。
まあ、私やソフィアにかかれば、誤差みたいな差しかありませんが、【古代竜】の中では隔絶した強さを持ちます。
ビアンキは、【帝竜】の雄。
【竜】族は、概して雌の方が、体が大きく、魔力も強大でした。
実際、私が選りすぐって【調伏】した、神の軍団の神兵達は、ほとんど雌ばかりなのです。
そして、【竜】族は、より強い個体が、繁殖に有利でした。
なので、強力な雄は希少で、モテまくります。
つまり、【帝竜】のビアンキは、神の軍団の中では、ハーレム状態なのだ、とか。
どうでも良い話ですね。
私達は、千年要塞の転移座標部屋から、青師団長のアッズーロに連絡します。
私と神の軍団の神兵達とは、パスが繋がっているので、何処にいても会話が出来ますので。
「準備は整っているようだよ。さあ、アペプ遺跡に向かおうか」
神の軍団の神兵達には、全個体の腹と背に転移魔法陣が刻まれています。
これは、神の軍団と、ただの魔物を識別する目的で刻んだのですが、その副産物として、神兵がいる場所へなら、私は何処にでも、【転移】出来るようになっていました。
私は、昨日の内に、【オフィール】に展開していたアッズーロの青師団の一部をアペプ遺跡に派遣していたのです。
「やってやるのじゃ」
ソフィアが、気合い十分で言いました。
オラクル、トリニティは頷きます。
「あたしの、チョー強い魔法で、魔物なんかケッチョンケチョンだかんね〜」
ウルスラが言いました。
因みに、ウルスラの攻撃魔法は、虫も殺せないほどに、激弱です。
「みんな、武運を祈ります。また、後ほど……」
ファヴが言いました。
ファヴは、今日も午前中は、【ムームー】で大地の祝福を行い生態系の修復に努め、午後から私達と合流して遺跡に潜る予定。
今日は、朝がゆっくりだったので、合流は、午後3時を予定しています。
【ムームー】の防衛任務に当たる緑師団の師団長ヴェルデが、ファヴを迎えに来ました。
ヴェルデ、ファヴの警護を頼みますよ。
ヴェルデは、頷きます。
私、ソフィア、オラクル、トリニティ、ウルスラは、アペプ遺跡に向けて【転移】しました。
・・・
アペプ遺跡。
私達の【転移】した場所は、遺跡の入口正面。
当初は、遺跡の上空高高度をランデブー・ポイントにする想定でしたが、アッズーロと青師団の神兵達が、周辺の魔物を掃討してくれていたおかげで、地上は安全になっていました。
私達は、アッズーロ達を労って、各自、その場に転移座標を設置します。
因みに、ウルスラも転移能力者でした。
ウルスラは、攻撃魔法以外は、強力な魔法を駆使出来るのです。
さてと、もう一踏ん張り、働きますか……。
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