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第1224話。【プエブロ・デ・モンターニャ】。

【プエブロ・デ・モンターニャ】。

 村長の家。


 私とウィローは、無事に【プエブロ・デ・モンターニャ】の中に入れてもらって、役場を兼ねる村長の家に案内されました。


 お茶を勧められましたが、丁重にお断りします。

 そのお茶は、確実に汚染されていますからね。


 まあ、当たり判定なし・ダメージ不透過の私と【知性体】のウィローは、汚染水を飲んでも毒性を無効化出来ますが、確実に汚染されているとわかっている飲み物は気分的に飲みたくありません。


 無事に村長の家に案内されたと言いましたが、正確には、若い門番との不毛な押し問答の末、いきなり矢を射掛けられた私がイラッとして力尽くで(ゲート)を押し通った結果戦闘が起こり、私が抵抗する者を全員無力化した後で話が通じそうな年配の者を捕まえて事情を説明し、今に至ります。


 そんな面倒臭い事になった理由も、(くだん)の流行り病が原因でした。

【プエブロ・デ・モンターニャ】は、(くだん)の流行り病の重症患者が増えてしまった為に、経験豊富なベテラン門番達が皆寝込んでしまい、辛うじて軽症な若者達が門番をせざるを得なくなってしまったのです。


 実際に門番をしていた者達は、まだ子供みたいな年端も行かない者達ばかりでした。

 若く経験が足りないので、私が色々と事情を説明しても、彼らは合理的な判断が出来ず馬鹿で過剰な対応をしてしまったのでしょう。


【イスプリカ】は野盗や山賊や奴隷狩りなどが出没する治安が最悪な国でした。

 そんな国で、夜中に上等な服を着ている見るからに金持ちそうな男女が、護衛も連れず武装もせずに徒歩で辺境の村に現れたら、警戒されるのも致し方ないとは思います。


 しかし、幾ら何でも非武装で無抵抗な私とウィローに、いきなり矢を射掛けるのは行き過ぎた対応だと思いますよ。

 少し頭を働かせれば……身分詐称が不可能な【ギルド・カード】を提示させる……などの取り得る方法は幾らでもあったのですから。


 まあ、彼らにも殺意はなく……射掛けられた矢は私とウィローに当たらないように、私達の足元から数m離れた地面を狙ったモノ……だと弾道計算の結果わかっているので許しましたけれどね。


 村長の家に着き、【プエブロ・デ・モンターニャ】のマウリシオ村長()()に迎えられた私は、取り敢えず【アンサリング・ストーン】を取り出して……【プエブロ・デ・モンターニャ】で奴隷を使役していないか?その他【世界の(ことわり)】に違反していないか?……と問い質しました。

 取り調べの結果、【プエブロ・デ・モンターニャ】で奴隷は使役されておらず、【プエブロ・デ・モンターニャ】の村人が奴隷狩りに関与していない事はわかりました。


 奴隷は、それなりに高価なので、貴族や、大規模なプランテーション農場主や、工場経営者などでなければ使役出来ないそうです。

 しかし、【プエブロ・デ・モンターニャ】が奴隷制に全く関与していないのか?と問われれば、彼らもガッツリ奴隷制に関与していました。


【プエブロ・デ・モンターニャ】の住民は、奴隷の人身売買を行っています。

 人身売買と言っても、【プエブロ・デ・モンターニャ】の住民が、外部の人達を拉致したり誘拐して奴隷にしてしまうような程度が悪いモノではありません。


 例えば、【プエブロ・デ・モンターニャ】で罪を犯した者や、借金を返せなくなった者は、奴隷商に売られてしまうそうです。

 もちろん【世界の(ことわり)】では……犯罪者や債務不履行者だから、奴隷として人身売買をしても構わない……などという理屈は通りません。


 程度問題で比較的マシというだけで、人身売買自体が(れっき)とした【世界の(ことわり)】違反です。

 奴隷が居ない【プエブロ・デ・モンターニャ】も、紛れもなく奴隷制を実施して【世界の(ことわり)】に違反する村でした。


「【調停者】ノヒト様が、()()を治療して下さる為に御降臨なさったとは知らず、門番達が非礼な真似を致しまして誠に申し訳ありません。門番達の非礼は、全て村長()()である私の不徳の致すところ……。どうぞ、神罰は村長代理の私にお与え下さい。私の生命を差し上げますので、如何(どう)か何卒門番達には寛大なる処分をお願い致します」

 村長代理のマウリシオは、平伏して懇願しました。


「マウリシオ村長代理。()()()()()()()罰を与えるつもりはありませんし、あなたの生命も要りません。もちろん、先程勧告したように……今後は奴隷売買などを含む【世界の(ことわり)】違反を行わない……という【契約(コントラクト)】は必ず履行してもらいますし、過去の人身売買への関与事実には追って何らかの処分が下るモノと考えておいて下さい。ただし、生命が取られるような罰にはならないので、逃亡を企てたりせず神妙に罰を受けた方が良いですよ。逃げても、私は絶対に探し出して捕まえますし、逃げた者は厳罰になると覚悟して下さい」


「ははっ!ご寛恕ありがとうございます。御言葉を肝に銘じ、審判が下される時を厳粛にお待ち申し上げ、その旨を村人達にも伝えます」


 私は、【イスプリカ】の【世界の(ことわり)】違反に対する処罰執行は、【魔界(ネーラ)】平定戦が落ち着いた後、【イスプリカ】を滅ぼし国体を変更する時に(まと)めてやるつもりです。

 なので、【プエブロ・デ・モンターニャ】で行われていた【世界の(ことわり)】違反の処罰は執行を一時的に猶予しました。


「実の所、既に【プエブロ・デ・モンターニャ】を含む広域に発生していた謎の流行り病は、私が丸っと治療してしまいました。なので、当面は流行り病による被害は起きません」


「本当ですか?あ……そう言われてみれば、腹痛も節々(ふしぶし)の痛みも消えている……。おお、治ったっ!ノヒト様、ありがとうございます」

 マウリシオ村長代理は、再び平伏して言います。


「ですが、病原がわからなければ、いずれ流行り病は再発します。なので、私達の調査に協力して下さい」


「わかりました。最大限全面的に協力致します。全ての村人をお使い下さい。直ぐに村人を全員集合させますので」


「この流行り病は、おそらく水に起因します。井戸や地下水や水源地などに詳しい人物、それから村で病気の治療に当たっている医師や【回復・治癒職(ヒーラー)】などには調査に協力してもらいたいと思います。しかし、全員を集合させる必要はありません」


 むしろ、村人全員に集合されたら邪魔ですよ。


 私は先程広域治療を行いました。

 治療が1秒でも遅れれば、その間に亡くなってしまう人が増えたかもしれないので、可及的(かきゅうてき)速やかにに治療を行った事は当然の対応です。


 しかし、治療をしてしまった事で病原の解明が困難になるかもしれません。

 病原解明は、病原に蝕まれている患者を診察するのが最も確実で手っ取り早い方法なのです。


 人道を優先して迅速に治療を行った事を後悔していませんが、これで病原解明に時間が掛かると面倒ですね。

 まあ、致し方ありません。


 私は、最大多数の最大幸福を達成する為に、少数の生命を犠牲にする事を善しと考えるような功利主義者ではありませんからね。

 私は、局面局面で最善と思われる選択を取り続ける事を善しとする現実主義者です。


「畏まりました。ですが、この村には医師や医療魔法使いはおりません。治療は月に1度【竜神教会】の聖職者様が巡回された時に行われております」


「そうですか。ところで、あなたは村長代理ですが、この村に村長は居ないのですか?」


 もしかしたら、村長は既に流行り病で死亡したとか?


 いや、それなら後任の村長が選ばれる筈です。

 代理を立てているという事は、村長は病の影響で寝込んでいて執務を行えないのかもしれません。


「ナルバエス村長は、この奇病の惨状を王様にお伝えして手立てを講じて頂けるよう訴える為、【シエラ】に向かいました。3か月前の事です。その後、音沙汰がありません。村長自身も病に冒されている病身を押して出掛けたので心配です。伴の者達や護衛を引き連れて出立したので、途中で体調が悪化して行き倒れているような事はないと思うのですが……」


 辺境の【プエブロ・デ・モンターニャ】から、この地域の中心都市【シエラ】までは、1千km程の距離があります。

 往復なら2千km。


 2千kmとは北海道の端から九州の端と同じくらいの距離でした。

 東京から2千kmなら台湾に着きます。


【イスプリカ】は途上国なので、交通機関も通信手段も未発達でした。

 また、治安が悪いので長距離の移動には危険が伴います。


 移動に3か月掛かっても、それ自体は別に不思議ではありません。


 しかし、3か月も音沙汰なしというのはおかしいですね。


【イスプリカ】は途上国なので、辺境の【プエブロ・デ・モンターニャ】には【魔法通信機】がないのかもしれません。

 ただし、長距離移動に際して、中継地(ごと)に伝令を出し……何月何日に何処其処(どこそこ)の町に着いた……などという経過報告を村に伝える位の事はする筈です。

 その経過報告が途絶えたら捜索隊を出すなりの対応が取れますからね。


「村長一行の移動手段は何ですか?まさか徒歩で【シエラ】に向かったという事はないでしょう?」


 私が上空から見た【プエブロ・デ・モンターニャ】には、少ないですが【乗り物(ビークル)】も見えましたし、相当数の馬も飼われていました。


「村に1隻だけある飛空艇に乗って出立しました。旧式の舟ですが、【シエラ】までなら3か月有れば十分に往復出来る筈です」


「【魔法通信機】は?」


「この村にはありません。緊急の通信が必要なら、飛空艇の【魔法通信機】を使用します。しかし、その飛空艇が現在出払っておりますので……」

 マウリシオ村長代理は苦笑します。


 なるほど。

 村長一行が飛空艇で移動しているなら、途中で伝令は出さないでしょうね。

 空の上なら、飛行する魔物との【遭遇(エンカウント)】する危険はありますが、飛行能力がない魔物や野盗や山賊や奴隷狩りなどに遭う危険は少なくなります。


 飛空艇で移動する村長一行が【プエブロ・デ・モンターニャ】に伝令を送る際には、伝令は地上に降りて村までの長距離を移動しなければいけません。

 折角、飛空艇での移動で、ある程度の安全性が担保されているのに、わざわざ伝令を送り地上を移動させて危険に曝すなんて不合理で馬鹿馬鹿しいですからね。


 村長一行が飛空艇で出発したなら、その後連絡が付かなくても考えられる話です。


 マウリシオ村長代理が言ったように、航空管制国際法で規定されているので、航路を飛ぶ飛空船や飛空艇には、【魔法通信機】に限らず、電波通信機や、ライトの点滅によるモールスなど、何かしら通信出来る手段の搭載が義務付けられていますが、【プエブロ・デ・モンターニャ】に【魔法通信機】がなければ、飛空艇が出先から【プエブロ・デ・モンターニャ】に【魔法通信】を送っても受信する方法がありません。


 村長一行が、空賊に襲われた可能性?


 空賊という如何(いか)にもファンタジーっぽい言葉の響きが中二心をくすぐりますが、少なくとも日本サーバー(【地上界(テッラ)】)に空賊なる業態の悪党は存在しません。


 何故なら、利得を得る目的の犯罪行為として非効率だからです。


 野盗や山賊や奴隷狩りが移動手段や逃亡手段として飛空船や飛空艇を使用している可能性はあるにしても、飛行する飛空船や飛空艇を狙って襲うような仕事は悪党や犯罪者にとってもハイ・リスク、ロー・リターンで全く割に合いません。


 待ち伏せをするにしても、いつ何処(どこ)の空域を飛空船や飛空艇が通るのかがわからなければ襲撃しようがないのです。

 偶然通り掛かった飛空船や飛空艇に、金銭や価値のある物品が積んであるか如何(どう)かも不明でした。

 大都市の周辺なら飛空船や飛空艇の航路は大体決まっていますが、大都市の周辺空域は防衛体制も相応に厳重です。


 そして、空賊の商売が成り立たない最も大きな理由は、飛空船や飛空艇を襲う行為は【航路ギルド】を敵に回す事になるからでした。

【航路ギルド】に睨まれたら、その国や地域は国際航路が完全に閉鎖されてしまい、莫大な損失を覚悟しなければいけません。


【ドラゴニーア】など自由同盟諸国から……ならず者国家……と呼ばれている【ザナドゥ】や【アガルータ】でさえ……航路の安全……には真剣に取り組んでいるのです。

 もしも、飛空船や飛空艇を襲って略奪を働くような盗賊が現れれば、在地国家に徹底的な取り締まりを受けて厳罰に処され存続出来ません。

 逆に言えば、空賊を取り締まれないような国は、国際社会から主権国家とは認められないのです。


 なので、日本サーバー(【地上界(テッラ)】)では、空賊という業態は非効率で商売にはなりません。


「王様とは【シエラ】選帝侯ですか?」


「はい」

 マウリシオ村長代理は頷きました。


 確か【イスプリカ】の選帝侯達は、王を僭称(せんしょう)しているのでしたね。


「今【シエラ】選帝侯は、【ブリリア王国】方面に出兵しているので不在ですよ。まあ、選帝侯の留守を預かる代理の者くらいは【シエラ】に居るでしょうけれどね」


「そうですか。御不在なので取り次ぎに時間が掛かっているのかもしれません」


【シエラ】選帝侯デシデリオ・シエラは、【イスプリカ】が【ブリリア王国】を侵攻する為に差し向けた方面軍の()司令官です。

 あの【イスプリカ】軍は、私が解体し開拓団【ピオニエーリ】に再編されました。


 その際、私は、デシデリオ元選帝侯に……【イスプリカ】軍が奴隷制を施行し【世界の(ことわり)】に違反している罪……の責任を取らせ、【ピオニエーリ】のキャンプで身柄を拘束させています。

 なので、デシデリオ元選帝侯は、二度と【シエラ】には戻らないかもしれません。


 まあ、【ピオニエーリ】の管理はリントに丸投げしたので、デシデリオ元選帝侯が如何(どう)なろうと、もはや私の知った事ではありませんが……。


「では、井戸を調べますので案内して下さい」


「畏まりました」

 マウリシオ村長代理は立ち上がりました。


 私達は、井戸に向かいます。

お読み頂き、ありがとうございます。

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・・・


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