1221話。アレステリア・デイパラ。
【ログレス】の【リントヴルム聖堂】のホール。
私は、以前からカルネディアが彼女のレベルに対して能力が高過ぎる問題について不思議に思っていました。
その理由は未だ不明なのですが、私とミネルヴァで分析・推定した結果、1つの可能性が高いという事で意見が一致しています。
それは、ユニークNPCの可能性でした。
ただし、カルネディア自身がユニークNPCなのではありません。
ユニークNPCとは、ゲーム会社が配置した名持ちのNPCなので、約10年前に【誕生の家】の【赤ちゃんスポナー】で生まれ、私達に保護されるまで固有名を持っていなかったカルネディアが、ゲーム会社が配置した名持ちNPCである可能性は皆無です。
この世界の設定的に、NPCはモブNPCと名持ちNPCに分類されました。
そして、名持ちNPCの下位分類に、ユニークNPCという特別なNPCが存在します。
モブNPCとは、ゲーム時代に存在していた固有の名前が設定されていない……【冒険者ギルド】の受付……とか……酒場の店主……などの人種NPC、あるいは【魔人】や魔物や【知性体】など固有名を持たないNPC達の事を指しました。
しかし、ゲームが現実化した現在の人種NPCは、基本的に固有名を持っていますけれどね。
名持ちNPCとは、ゲーム会社が固有名を与えて【マップ】に配置したNPC達の事です。
【遺跡】の【徘徊者】の最上位に君臨する【エキドナ】(トリニティの種族)・【モルモー】・【エンプーサ】・【デルピュネー】の4大【魔人】、【遺跡・ボス】、【精霊王】や【悪魔主】……などなど。
ただし、4大【魔人】と、【テュポーン】・【ウロボロス】・【ケツァルコアトル】など【遺跡・ボス】の固有名は種族名を兼ねています。
この名持ちNPC達は、建前上世界に1体ずつしかいないとされる固有キャラでありながら、実際にはトリニティのように【調伏】されたり、【召喚】されたり【盟約】されたりして同時複数体が存在していました。
まあ、ゲームの世界観のお約束です。
ユニークNPCは、【世界樹】が枯れないように救う【イベント・秘跡】の【導き手】であったディーテ・エクセルシオールや、【箱庭の書】の1つ【ドゥーム・シナリオ】の【導き手】で現在【神竜海洋神殿】の神官長になっているメディア・ヘプタメロンなどが代表格でした。
彼女達も、建前上この世界に1個体ずつしか存在しない事になっている特別なNPC達です。
とはいえ、複数のユーザー個人やユーザー・パーティが、別々に【世界樹】のイベント・シナリオや、【箱庭の書】の【ドゥーム・シナリオ】に挑んでいれば、メタ的にはディーテ・エクセルシオールやメディア・ヘプタメロンがサーバー内で複数同時に存在していた瞬間はあるのですけれどね。
これも、ゲームの世界観のお約束でした。
つまり、ユニークNPC達がユニークなのは、ディーテ・エクセルシオールやメディア・ヘプタメロンというように種族名とは別に固体名を、ゲーム会社によって設定されているという事なのです。
ゲーム時代には、世界に1人しか居ない筈のユニークNPCが鉢合わせする矛盾によって起きる【複製バグ】 という【矛盾・バグ】が発生しないように、ゲームのお約束で複数同時に存在する場合があるユニークNPCを別々の【マップ】に強制誘導する【反重複原則】というプログラムで対応していました。
異世界転移以降、ディーテ・エクセルシオールやメディア・ヘプタメロンが同時に複数世界に存在する矛盾は発生しないので、現在【反重複原則】が起動するケースはありませんけれどね。
とにかく、ユニークNPCはゲームの世界観的に特別で重要な位置付けのキャラクター達なので、ディーテ・エクセルシオールやメディア・ヘプタメロンのようにステータスやスペックが傑出して高く設定されている場合があるのです。
そして、カルネディアも、このユニークNPCが持つ通常ではあり得ない高スペックの影響を受けている可能性がありました。
しかし、前述の通りカルネディア自身はユニークNPCではありません。
ユニークNPCなのは、カルネディアの遺伝的親に相当する人物。
つまり、私とミネルヴァは、カルネディアのステータスやスペックが通常ではあり得ない程に高い理由は、遺伝だと考えたのです。
カルネディアは、【誕生の家】の【赤ちゃんスポナー】から【スポーン】しました。
【七色星・マップ】から実装された【赤ちゃんスポナー】という施設は、【ゴルゴーン】など繁殖が出来ないタイプの【魔人】が、自分の遺伝形質を受け継いだ子供を授かれる仕様です。
当然、カルネディアを授かった【ゴルゴーン】が居ました。
【誕生の家】で御葬式をした際に、荼毘に付した大人の【ゴルゴーン】が遺伝形質的にカルネディアの遺伝的母親の可能性が高いと思います。
あの女性が、高スペックのユニークNPCであれば、その遺伝形質を受け継いだカルネディアが高スペックである事にも整合性が見出せました。
実際、ユニークNPCのディーテ・エクセルシオールと、同じくユニークNPCである夫のマウリッツ・モルテンセンから遺伝形質を受け継いだ子や孫達は、皆高スペックですからね。
カルネディアにも同じ事が起きた可能性が高いと推定されます。
先日、私によって【七色星・マップ】が【ストーリア・マップ】にエントリーされた結果、ミネルヴァには【七色星・マップ】の膨大なデータがイン・ストールされました。
その中には【七色星】のユニークNPCについてのデータもあります。
【七色星】のデータ・ベースに存在していた【ゴルゴーン】のユニークNPCは1個体だけしか居ませんでした。
その【ゴルゴーン】のユニークNPCの名前は、アレステリア・デイパラと云います。
アレステリア・デイパラのステータスは、ディーテ・エクセルシオールやメディア・ヘプタメロンと比較しても全く遜色ない強力なモノでした。
もしも彼女が、カルネディアの遺伝的母親だとするなら、カルネディアが破格のスペックを持つ理由が納得出来ます。
しかし、カルネディアの遺伝的母親の可能性が高いと思われる亡くなっていた大人の【ゴルゴーン】が、アレステリア・デイパラの遺体であるか如何かは不明でした。
亡くなった後の遺体は、ステータス画面が開けなくなるので、カルネディアの母親かもしれない【ゴルゴーン】の遺体からは名前などのプロフィールを調べようがないのです。
遺伝子情報は採取しましたが、その遺伝子情報が個人のデータとして記録されていないので照合する事が出来ません。
例えば、グレモリー・グリモワールが使役している【不死者】達も、ステータス画面が開けないので生前の名前などの個人プロフィールは読めなくなくなっていました。
まあ、【七色星】のユニークNPCであるアレステリア・デイパラが、カルネディアの遺伝的母親でなくとも、遺伝的祖母など先祖である可能性も有り得ますが……。
本来なら、ゲーム会社から重要な役割を与えられているユニークNPCは死なないようになっています。
より正確に言うなら、死んでしまった場合にはゲーム会社が外部端末を操作して復活させていました。
しかし、外部からのアクセスが途絶している現在は……不死身……という設定がゲーム会社によってプログラムされていないNPCは、ディーテ・エクセルシオールやメディア・ヘプタメロンのようなユニークNPCでも死亡してしまうと復活出来ません。
なので、先日の御葬式で荼毘に付した、件の【ゴルゴーン】が、ユニークNPCのアレステリア・デイパラの可能性がある訳です。
あの遺体は、アレステリア・デイパラなのでしょうか?
【完全記憶媒体】の【世界樹】であるユグドラならば、その辺りの詳しい経緯を見聞き出来た可能性が高いのですが、生憎カルネディアが【誕生の家】の【赤ちゃんスポナー】から生まれた当時は、私によって【七色星・マップ】が【ストーリア・マップ】にエントリーされる前だったので、ユグドラは以前の【七色星】の事は見聞きしていませんでした。
まあ、カルネディアの遺伝的母親が誰であっても、今は私とトリニティがカルネディアの保護者なので関係はありませんけれどね。
それに、考えてもわからない事は、考えるだけ時間の無駄です。
「カルネディア。トリニティのテレビ収録の様子を見学して楽しかったですか?」
私は訊ねました。
今日の午後トリニティは、彼女のイメージ戦略や広報活動の一環として来年から放映されるテレビの冠レギュラー番組の収録に向かいました。
カルネディアも一緒にスタジオに付いて行ったのです。
「はい、楽しかったです。ジーナお姉さんとジアーナちゃんに仲良くしてもらいました」
「それは良かったですね」
ジーナお姉さんとは、トリニティの共演者で番組レギュラーの世界的有名女優ジーナ・アットリーチェの事です。
ジアーナちゃんとは、ジーナ・アットリーチェがトリニティに紹介する為、スタジオに連れて来ていた彼女の娘さんでした。
偶然にもジアーナちゃんは、11月1日からカルネディアが通う事に決まっている【竜都】の第1国立学校の生徒さんなので、カルネディアと学校で会うかもしれません。
ジアーナちゃんはカルネディアより歳下で学年が違うのでクラス・メートにはなりませんが、顔見知りの子が既に同じ学校に通学していると知れば、カルネディアも学校に通う不安が緩和するでしょう。
まあ、【パス】を通じて伝わって来るカルネディアの感情から察するに、彼女は学校を全く不安には思っていませんけれどね。
うちの娘は大物なのですよ。
「トリニティは、収録に参加して如何でしたか?」
「初めての経験で少し戸惑いましたが、ジーナに助けてもらい無事収録を熟せました」
トリニティは言います。
収録の様子は【共有アクセス権】を通じて私も見ていました。
番組名は……トリニティ&ジーナ……ベタです。
今日は、テレビ出演など全くした事がないトリニティに様々な説明をしながらの収録になったので余裕を持って2本撮りでした。
今後は1回のスタジオ入りで纏めて4本撮りとかになるそうです。
トリニティ&ジーナの記念すべき第1回ゲストは、ソフィアとウルスラ。
トリニティのイメージ戦略と広報の目的から言って……トリニティが【神竜】と親しい関係……だというアピールは役に立ちました。
ああ見えて【神竜】は、この世界の住人達から現世最高神として崇敬されているので、【神竜】と親しいトリニティも敬意を払われるだろうという打算ですけれどね。
それは、ソフィアや【ドラゴニーア】やセントラル大陸にとっても同じ事でしょう。
ゲームマスター代理のトリニティと、ソフィアが親しいというのは、ソフィアが権威上の国家元首を務める【ドラゴニーア】や、ソフィアが守護竜として君臨するセントラル大陸にとって、敵性国や非友好国に対する強力な示威になりますからね。
実際には、私やトリニティやゲームマスター本部が、ソフィアや【ドラゴニーア】やセントラル大陸に対して、常識の範囲を超えて過剰に便宜を図る事はありませんが、敵対国や非友好国が勝手に勘違いするのは、私達には関係ありません。
つまり、この共演は両者にとってウィン・ウィンです。
なので、ソフィアもウルスラも今回ノー・ギャラで出演してくれました。
番組内容は、トリニティとジーナ・アットリーチェが、ソフィアとウルスラと一緒に有名パティスリーやカフェや食品メーカーなどのプリンを食べ比べて食レポをするというモノ。
如何やらソフィアからの持ち込み企画だったようですね。
ソフィアが……1個では味がわからない……と無茶苦茶な理屈を言って、食レポ無視で只ひたすらプリンを食べまくるという暴挙に出ましたが、私の個人的感想としては……あんな大食いチャレンジみたいな食レポは観た事がないので……逆に面白かったですよ。
それに、ソフィアとウルスラは、トリニティのイメージ戦略と広報に協力する為、それなりに忙しい中スケジュールを空けてくれたのですから、番組の演出意図を無視してフリーダムに振る舞っても出演してくれただけで有難い事でした。
ソフィアもウルスラも、トリニティ&ジーナがバラエティ番組初出演なので、新番組にとって最高の宣伝にもなる筈です。
第2回ゲストは、大神官のアルフォンシーナさん。
アルフォンシーナさんも喜んでノー・ギャラ出演してくれました。
番組内容は、アルフォンシーナさんがトリニティとジーナ・アットリーチェに手料理を振る舞いながらトークをするという趣向です。
トーク内容は、アルフォンシーナさんの大神官としての公務についてなどではなく、プライベートは何をしているのか?趣味は?普段着は?いつも使っている化粧品は?などの話題が中心でした。
アルフォンシーナさんの趣味は料理で、お休みの日は大概料理を作っているそうです。
そう言うだけあって、アルフォンシーナさんは本当に料理が上手でした。
番組では別に手の込んだ料理などは作りませんでしたが、料理が上手か如何かは手際を見ればわかります。
アルフォンシーナさんは短時間でパパッとパスタとミネストローネの2品を作りました。
料理系の番組では、お約束の……出来上がったモノはこちらです……という完成品が出て来る演出はなしで、アルフォンシーナさんが収録中に最初から全て作ったのです。
もちろん、冗長になりがちな調理時間は、適当に編集されて、放映時にはダイジェストになるのでしょうが……。
その調理中アルフォンシーナさんは、トリニティとジーナ・アットリーチェとトークもしていていました。
本当に普段から料理を作り慣れていないと、会話をしながら段取り良く調理は出来ません。
ジーナ・アットリーチェは女優さんですが子育て中のママだけあって普通に料理も出来るので、番組進行を仕切りながらアルフォンシーナさんの調理アシスタントも熟していました。
トリニティもお手伝いをしたのですが、料理経験0の彼女は完全に邪魔しているような状態になっていましたね。
トマトを切ろうとしたら、まな板まで切れてしまう……などという失敗をしていました。
まあ、あれはあれで笑いが取れましたし、トリニティの親しみ易さが絶妙に醸し出せたので、番組の構成的にはOKでしょう。
トリニティ&ジーナの今後のゲストは、各ギルドのギルド・マスター、大企業の経営者、俳優・歌手・タレントなどの芸能人、作家や芸術家など文化人、スポーツ選手、学者、政治家、有名冒険者……などなど錚々たる顔ぶれの各界の著名人が予定されていました。
取り敢えずブッキングが決定しているのは、【世界銀行ギルド】頭取のビルテ・エクセルシオール、【世界冒険者ギルド】グランド・ギルド・マスターの【剣聖】クインシー・クイン、【ドラゴニーア】首席国家魔導師の【研聖】ロザリア・ロンバルディア、勇者ピルエット・ルミナス、有名冒険者にして天才学者のペネロペさん……など。
私が視聴者の立場だったら観たいと思うような大物ゲストばかりです。
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