第1220話。謎の高スペック。
【ログレス】の【リントヴルム聖堂】のホール。
【サンタ・グレモリア】と【ログレス】の同盟が締結され首脳会談が行われています。
早速グレモリー・グリモワールから【ログレス】に対して人材交流が提案されました。
つまり、【ログレス】の人材を【サンタ・グレモリア】に留学させるという施策です。
【ブリリア王国】は、ようやく来月から義務教育が開始されますが、その領土内に存在する自由都市の【サンタ・グレモリア】と【ログレス】では既に義務教育が実施されていました。
更に【サンタ・グレモリア】では、大学や大学院や専門学校なども複数建設中です。
【サンタ・グレモリア】の教育機関建設は、ある種ブームのような様相を呈していました。
まず、グレモリー・グリモワール自身が主導している【サンタ・グレモリア国際保健衛生総合大学】と【グレモリー・グリモワール魔法芸術学校】(通称【マジック・アーツ】)は着実に準備が進捗し、募集定員を遥かに上回る入学希望者が世界中から殺到しています。
この2校は現在の世界ではトップ・クラスの指導を受けられる事が予想されていますからね。
【マジック・アーツ】に関しては、リスベットが……私の弟子としての修行期間を終えたら入学したい……と希望していました。
既に教育ママっぷりを発揮しているトリニティも、カルネディアの進路として【マジック・アーツ】への進学を選択肢の1つとして考えているようです。
それに加えて、イースト大陸の列強【イスタール帝国】の皇帝ラーラ・グレモリー・イスタールの強い希望があり【帝立グレモリー・グリモワール大学】が【サンタ・グレモリア】に第2キャンパスを開設する事が決定していました。
【帝立グレモリー・グリモワール大学】とは、【イスタール帝国大学】と国内の評価を二分する大学です。
【イスタール帝国大学】は900年前にグレモリー・グリモワール自身が設立した学問の殿堂と呼ばれる国立総合大学で、【帝立グレモリー・グリモワール大学】は皇帝アベスターグ家がパトロンとなる私立総合大学でした。
グレモリー・グリモワールの名を冠する大学なのだから、グレモリー・グリモワールが庇護する【サンタ・グレモリア】にキャンパスを置くのは当然……という理屈のようです。
また、私立大学の雄【自由の大学】も系列大学及び大学院を【サンタ・グレモリア】に開設したい意向を、グレモリー・グリモワールに伝えていました。
これも受け入れられる方向で話が進んでいるようです。
来年1月に各校が始まれば、【サンタ・グレモリア】には世界中から学生が集まり、世界的な学園都市になるでしょうね。
グレモリー・グリモワールからの【ログレス】に対する提案は、これらの教育機関に【ログレス】の優秀な若者を奨学生として受け入れ、学費はもちろん生活費も無償で留学させるという趣旨でした。
「費用は【サンタ・グレモリア】側の負担で構わないよ」
グレモリー・グリモワールは言います。
「それは【ログレス】にとっては有難いご提案ですが、グレモリー様と【サンタ・グレモリア】にとっては一体どんなメリットがあるのでしょうか?」
コーデリア長老会代表が訊ねました。
「メリットは2つ。1つは、【サンタ・グレモリア】で学んだ【ログレス】の有望な学生達は、将来【ログレス】の指導者や識者として重要なポジションに就き、【サンタ・グレモリア】に友好的な政策を推進してもらえると期待出来る事。もう1つは、単純に【サンタ・グレモリア】で学んだ学生達が留学を終えて【ログレス】に知識や技術を持ち帰って、【ログレス】が更に発展する事で同盟としてのパワーが高まって様々な外的リスクを低減させられる事だね。この2つのメリットは【サンタ・グレモリア】として、【ログレス】からの留学生を無償で受け入れる価値がある」
グレモリー・グリモワールは説明します。
「なるほど。率直なお話ですね……」
「率直に勝る交渉なし……だからね」
「わかりました。ご厚意をお受けする方向で前向きに検討致します」
コーデリア長老会代表が、グレモリー・グリモワールの話を……率直……と評した理由は、留学生を無償で受け入れるメリットの1つ目にグレモリー・グリモワールが挙げた理由でした。
【サンタ・グレモリア】で教育を受けたエリートが、将来的に【ログレス】で指導的な立場に就く……という事は、穿った解釈をすれば【サンタ・グレモリア】による【ログレス】の教化や影響力工作……と受け取られかねません。
【ドラゴニーア】なども同じ理由で他国からの無償遊学生を多数受け入れていました。
教育は良い意味でも悪い意味でも、最も効率が良い投資になりますからね。
グレモリー・グリモワールが……この施策は、やろうと思えば余り良くない使い方も出来る……というネタバレを敢えて包み隠さずに大っぴらに伝えてしまったので、コーデリア長老会代表は率直と評したのです。
それを了解した上で、コーデリア長老会代表は留学生を送る意思表示をしました。
これはお互いに……相手の事を信用しているポーズ……を見せた格好です。
同盟などの信頼関係構築においては、それが例えポーズであったとしても相手を信用している姿勢を実際に演じて見せ、それを繰り返し積み重ねて少しずつ本物の信頼関係が醸成されて行くモノでした。
グレモリー・グリモワールが言った……率直に勝る交渉なし……はシンプルですが事実なのです。
リントとティファニーが合意の履行を担保する形で、グレモリー・グリモワールら【サンタ・グレモリア】のメンバーと、コーデリア長老会代表ら【ログレス】のメンバーは様々な協議を始めました。
もはや、【ログレス】側にグレモリー・グリモワールと【サンタ・グレモリア】を侮るような態度は微塵もありません。
【ログレス】のメンバー達は、グレモリー・グリモワールが圧倒的強者であり、【サンタ・グレモリア】が軍事力・産業力を兼ね備えた同盟の盟主たり得る存在である事を理解したのでしょう。
アリス・アップルツリー侯爵とコーデリア長老会代表は、【サンタ・グレモリア】と【ログレス】の双方に大使館や領事館に相当する駐在事務所を開設する事に合意し、自由貿易協定の話し合いを始めました。
ピオさんと、【ログレス】側のカウンター・パートに相当する人物は投資や資本提携や共同事業などの話し合いを始めています。
基本的には、経済力と技術力を持つ【サンタ・グレモリア】が資本と技術を提供し、人口が【サンタ・グレモリア】の10倍ある【ログレス】が労力を提供する方向で、今後の都市間交流に必要な各種インフラなどの整備事業が行われる方向性で話が行われていました。
【サンタ・グレモリア】と【ログレス】の同盟の船出は、まずまず順調に滑り出したようです。
私は、国境の【イスプリカ】軍を片付けて、【フルドラ】達を帰還させた後、【サンタ・グレモリア】と【ログレス】の首脳会談では特に何もする事がありません。
【サンタ・グレモリア】と【ログレス】の事は、両都市の代表達と、ウエスト大陸の守護竜である【リントヴルム】に任せておけば良いですからね。
これ、私が同席する意味はありますか?
多分ありません。
「トリニティとカルネディアは、今日1日は如何でしたか?」
私は暇になったのでプライベートな話を始めました。
今日の2人の様子は、予定消化と仕事の片手間に【共有アクセス権】のプラット・フォームから覗いていましたが、本人達から直接話を聴くと印象が変わる場合があります。
「訓練は面白かったです」
カルネディアは満面の笑顔で答えました。
「それは良かったですね」
カルネディアが笑うと、私も嬉しい気持ちになります。
今日の午前中トリニティとカルネディアは【ファミリアーレ】と【フラテッリ】と一緒に、【竜城】の【闘技場】で【ドラゴニーア】軍や竜騎士団の訓練に参加していました。
「想像していた通り、カルネディアの近接防空能力の高さは傑出しています。9個の【オリハルコン・ボール】と【クラウ・ソラス】と【アンキレー】を同時に操り、敵の攻撃を完全に封殺していました。カルネディア自身の機動力や演算能力も高く、回避行動や正確な弾道計算によって一定以下の威力値の遠隔攻撃ならば完全に無効化して個体防御もパーティ防衛も極めて固いですね。頭の蛇達に防御を任せて、カルネディアが魔力を収束して高火力の【攻撃魔法】を放てるので、【飛行】を併用するカルネディアは、圧倒的な防御能力を誇る高速重爆撃機として機能します。私の目から見てもカルネディアの将来は本当に楽しみです」
トリニティは誇らしげに言います。
【オリハルコン・ボール】とは、【ボール】系最上位の【神の遺物】で、独立運用が可能な硬くて重い【ドローン】でした。
【ボール】はアイテムだけでなく、【チュートリアル】や【遺跡】などの【敵性個体】としても登場するので、この世界【ストーリア】では有名な存在です。
【ボール】をアイテムとして運用する際には、使役者の頭上に【ボール】が浮かんで、防御時には射線に移動して自動的に防御を行い、攻撃時には使役者が操作して敵にぶつけて運用しました。
9本に分かれて飛翔する【神の遺物】の魔法剣【クラウ・ソラス】と、12枚の飛翔する【神の遺物】の魔法盾【アンキレー】も運用方法は基本的に同じです。
【ボール】は硬度と質量が攻守に効果を発揮し、剣の【クラウ・ソラス】は防御にも使えますが基本的には高速飛翔して斬撃・刺突などを加える攻撃特化、盾の【アンキレー】は攻撃にも使えますが基本的には防御特化という棲み分けになっていました。
カルネディアの種族【ゴルゴーン】は、頭髪に相当する部分が蛇になっています。
その蛇の髪の1本1本が、それぞれ独立してサーチを行い【ボール】や【クラウ・ソラス】や【アンキレー】を操作する事で敵の飽和攻撃を自動迎撃出来ました。
もちろん、それは髪の蛇達の母体であるカルネディアのスペックが高いからこそ可能な事ではあるのですが……。
「なるほど。ふ〜む……」
私は考え込みます。
「如何しましたか?」
トリニティが訊ねました。
「カルネディアの現在のレベル的に、能力が高過ぎると思います。もちろん、能力が高いのは悪い事ではありません。しかし、カルネディアは、【クラウ・ソラス】の9本の剣と、【アンキレー】の12枚の盾と、【オリハルコン・ボール】9個を合わせて、合計30個の【神の遺物】の飛翔端末を操作している訳です。カルネディアの頭の蛇が、それぞれ個別に操作可能とは言っても、演算能力自体は母体のカルネディアの脳が統合運用している訳ですから、今のカルネディアのレベルで、それが可能なのが不思議です。【完全管制】持ちのグレモリーでも30個の【神の遺物】を個別に任意操作するのは簡単ではありません。まして、カルネディアは【完全管制】はおろか、【操作】系の【能力】自体を持っておらず、【チュートリアル】も未だ行っていない状態です。明らかに今のカルネディアはアンダー・スペックだと思うのですが……。もちろん、個体差もあるので、一概には言えませんけれどね」
私が【共有アクセス権】で見ていたら、カルネディアは午前中の訓練時に、【オリハルコン・ボール】9個と【クラウ・ソラス】と【アンキレー】を全て自分(頭の蛇)で操作していたのです。
【ボール】も【クラウ・ソラス】も【アンキレー】も独立で自動迎撃させておくだけなら、同時に何個でも運用する事が可能でした。
もちろん、使用するアイテムが増えれば、それに応じて増える魔力コストを捻出しなければならないので、それ自体も決して簡単な話ではありませんが……。
しかし、自動迎撃では防御が間に合わないなどの場合や、攻撃などで任意に使用する際には、使役者が飛翔端末を操作する必要があります。
名前…カルネディア・ナカ
種族…【ゴルゴーン】
性別…女性
年齢…なし
職種…【魔導士】
魔法…【闘気】、【闇魔法】など多数。
特性…【石化】、【トリニティの使徒】、【才能……闇魔法】
レベル…50
カルネディアは、【魔人】の【ゴルゴーン】ですので【レベル・クオリティ】が人種より高く設定されていました。
また、彼女は人種の【聖格】に相当する【真相格】を持っています。
しかし、カルネディアは、あくまでもこの世界の住人であり、ユーザーではありません。
そして彼女は、【チュートリアル】にも未だ参加していませんでした。
如何考えても、カルネディアのレベルに対して実際に行使している能力が高過ぎると思うのですよね?
【七色星・マップ】由来の【魔人】であるカルネディアは、【ストーリア・マップ】の【魔人】より強化されている可能性も考えましたが、同じ【七色星・マップ】由来の【魔人】(【アブラクサス】)であるカリュプソは、【ストーリア】の【アブラクサス】と全く変わりません。
カリュプソは【遺跡】の【徘徊者】として【スポーン】し、カルネディアは【誕生の家】の【赤ちゃんスポナー】で【スポーン】したという違いはあります。
ただし、カリュプソから……【誕生の家】の【赤ちゃんスポナー】生まれの【魔人】は能力が強化される……などという話は聞いていませんし、既に【七色星・マップ】の全データがイン・ストールされデータ解析が完了しているミネルヴァからも、そんな報告は上がって来ていません。
カルネディアが強力な個体である理由は謎なのです。
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