第1219話。【サンタ・グレモリア】の都市力。
【ログレス】の【リントヴルム聖堂】のホール。
「【ハイ・エリクサー】……そのようなモノが……」
コーデリア長老会代表は驚きました。
コーデリア長老会代表に限らず、【ログレス】の人達は自分達のコミュニティは由緒ある歴史を持ち、【フルドラ】達の【祝福】によって農業生産力が高く、先進都市だという自負があります。
なので、【ログレス】の人達は……グレモリー・グリモワールが庇護する【サンタ・グレモリア】など軍事力を頼りに成り上がった新興勢力で、【ログレス】の豊かさの恩恵に預かりたいから同盟を持ち掛けて来たに違いない……と、多少舐めていたのかもしれません。
しかし、グレモリー・グリモワールと【サンタ・グレモリア】が、伝説の万能回復薬【エリクサー】の更に上位互換品である【ハイ・エリクサー】を自領で大量生産していて、100セットをポンと無償供給出来る国力……いや、都市力を見せ付けた事で、コーデリア長老会代表は、【ログレス】と【サンタ・グレモリア】の何方が立場が上なのか直感的に悟ったのでしょう。
【ハイ・エリクサー】は、原料の効能成分を極限まで純化しなければならないので、極めて清浄な無菌室と製造ラインが必要となり、また高度な【錬金術】による製造が必要でした。
ただし、設備を整えて、私の【プロトコル】を利用すれば良いので、【ハイ・エリクサー】の製造技術は移管可能です。
グレモリー・グリモワールと【サンタ・グレモリア】は、【アブラメイリン・アルケミー】の製品をライセンス生産しているだけなので、単に【ハイ・エリクサー】を生産するだけなら、【ログレス】も【アブラメイリン・アルケミー】から生産技術と設備を移管してもらえば何とかなりました。
しかし、現実には【ハイ・エリクサー】は、誰でも何処でも生産出来る訳ではありません。
【ハイ・エリクサー】の製法を知らなくても、多少なりとも化学や薬学や【錬金術】の知識があれば、【エリクサー】や【ハイ・ポーション】や【ポーション】の製法は知っているでしょう。
【ログレス】は、それなりに発展した都市なのですから。
【ハイ・ポーション】や【ポーション】の原料は、【魔法草】と【竜】族の血液でした。
【エリクサー】ともなれば、【古代竜】の血液が必要になります。
更に【ハイ・エリクサー】は【エリクサー】の上位版。
ならば、当然【古代竜】の血液と、高品質の【魔法草】が必要です。
それを、グレモリー・グリモワールは100セットも無償提供して、今後も経費を負担してくれるなら幾らでも販売出来るという口ぶりでした。
実際【サンタ・グレモリア】の【工場】では大量の【ハイ・エリクサー】を生産する能力があり、その原料供給体制も備えています。
【ログレス】は、【ハイ・エリクサー】を大量生産出来る程、多数の【古代竜】を狩る事が【ログレス】には不可能でした。
また、もう一方の原料である【魔法草】も【ログレス】では大量に栽培する事が出来ません。
【サンタ・グレモリア】には、グレモリー・グリモワールが作った【魔法草】栽培用の魔力供給【魔法装置】がありますが、【ログレス】の技術力では作れないでしょう。
森に入れば、【魔法草】の野生株である【魔法草】は自生しているでしょうが、【魔法草】は品質がマチマチで最高品質の【ハイ・エリクサー】の原料には適しません。
つまり、ライセンス生産とはいえ、【サンタ・グレモリア】には【ハイ・エリクサー】を大量生産可能な高品質の原料を、大量に自給する能力があるという事です。
それは、コーデリア長老会代表を始めとする【ログレス】のメンバーを戦慄させるのに十分な理由になりました。
私は【サンタ・グレモリア】の【ハイ・エリクサー】生産の為に、最初こそ【古代竜】の血液を大量に卸しましたが、追加分はグレモリー・グリモワールと【サンタ・グレモリア】の自前リソースで【古代竜】を入手しています。
そして、もしかしたら【ハイ・エリクサー】という超高付加価値の基幹製品を大量生産する能力を保有する【サンタ・グレモリア】を侵略して、それを奪おうと考える国や勢力があるかもしれません。
しかし、グレモリー・グリモワールや【サンタ・グレモリア】は、そういう国や勢力の侵略から都市を防衛可能な圧倒的戦力を保有しています。
だからこそ、私は【サンタ・グレモリア】での【ハイ・エリクサー】のライセンス生産を認めました。
「そんで、【サンタ・グレモリア】と【ログレス】間に飛空船の定期航路を開設したいんだけれど、【ログレス】に数百m級の飛空船が係留可能な港の整備をお願い出来ないかな?そうすれば定期的に大量の物流が行えて、自由に人の行き来も出来るし、緊急時には安全保障上の兵站にも使えるからさ」
グレモリー・グリモワールは言います。
「定期航路ですか?港を拡張する事は出来ます。しかし、残念ながら【ログレス】には【アトランティーデ海洋国】から購入した小型の戦闘艦はありますが、都市間物流を担える程の大型輸送船はありません」
「それは心配ないよ。【サンタ・グレモリア】で輸送船を用意するから」
「航路の安全面は大丈夫でしょうか?この近辺は【ルピナス山脈】から【翼竜】や【竜】、時には【古代竜】も飛来します。【ログレス】一帯は【フルドラ】様達の【幻影】のおかげで隠蔽されて襲撃を免れますが、その範囲外は相応に危険です」
「護衛が付くから問題ないよ。【サンタ・グレモリア】は、ノヒトと【神竜】ちゃんが運用している【神の軍団】に基地と食糧を提供する代わりに、【サンタ・グレモリア】の安全保障を助けてもらう協定を結んでいるからね」
「【神の軍団】ですか?」
「そう。ノヒトが【調伏】した【古代竜】の強化個体の部隊だよ」
「【古代竜】の強化個体……」
「あ〜、でも、【ログレス】は、【サンタ・グレモリア】から結構遠いから、もしかしたら【ログレス】側でも【神の軍団】の神兵達が休憩したり食事したりする必要が生じるかも。アイツら馬鹿デカいから巨大な厩舎が必要だし、毎日とんでもない量の肉を食うから、【ログレス】に負担を掛ける事になると悪いな……」
「巨大な【古代竜】なら、沢山の肉が必要でしょうね……」
「【サンタ・グレモリア】が餌代を負担するにしても、神兵達にお腹一杯食事をさせたら、多分【ログレス】の家畜は直ぐになくなっちゃう。あ、でも、【神の軍団】の神兵は全個体【宝物庫】を標準装備しているから、【サンタ・グレモリア】から弁当持たせりゃ良いのか。コーデリアさん、やっぱ大丈夫だ。弁当作戦で行くから」
「あのう、逆に言えば、【サンタ・グレモリア】は【神の軍団】なる【古代竜】部隊の食糧を賄えるというのですか?」
「賄えるよ。【サンタ・グレモリア】は近隣の原野に【パイア】がクッソ程湧くし、それを餌にする【地竜】や【コカトリス】も湧く。それから、【竜の湖】の魚も【神の軍団】の食糧になるから【神の軍団】の餌の供給は全く問題ない。てか、【神の軍団】の神兵達がガンガン食糧を消費してくれないと、冷凍・冷蔵倉庫が足りなくて、余剰分を輸出する前に肉が傷むんだよ。ノヒトから大量に貸与されている【宝物庫】を単なる倉庫代わりに使うのも何か勿体ないしね」
「そんなに【パイア】が【スポーン】するのですか?【竜の湖】の畔は、確かに【パイア】などの群生地だと聞いた事がありますが、幾ら【スポーン】する魔物とはいえ、乱獲すれば捕獲頭数が【スポーン】数を上回り徐々に生息数が減少してしまうのではありませんか?」
「いや。この世界における魔物の【スポーン】の仕組みは、一定期間の、一定領域に、一定密度で魔物が湧く。だから、群生地を狩り尽せば、一定期間経過すると一定密度を回復する為に、狩られた魔物が一気に【スポーン】するんだよ。一定領域の【スポーン】最大数に上限はあるけれど、魔物は毎回狩り尽くした方が狩場の回転効率は上がる」
「群生地を狩り尽くす……。つまり、裏を返せば、【サンタ・グレモリア】には魔物の群生地1つを短期間で丸ごと狩り尽くせるだけの戦力があると?」
「ま〜ね。【竜の湖】と湖畔は【キブリ警備隊】が巡回しているし、【神の軍団】も非番の時は交代で狩をしてくれるけれど、やっぱ【ウルフ・パックス】が本格的に稼働し始めたのが大きいね。相応の武器と防具を装備した【ウルフ・パックス】の組織戦闘は、私の予想以上に優秀だった。【ワー・ウルフ】ってのは優秀なアルファ個体に率いられた集団になると、個体戦闘力の総和を上回って強くなるみたいなんだよ。あんなに強いなら、900年前に【ワー・ウルフ】を大量に【調伏】しとけば良かったね」
「【キブリ警備隊】?【ウルフ・パックス】?【ワー・ウルフ】?」
「あ、【キブリ警備隊】ってのは【ヴイーヴル】が率いる【竜魚】の群なんだ。もう増え過ぎちゃって正確な数はわかんないんだけれど、最低でも300頭以上は居る。【ウルフ・パックス】は【ワー・ウルフ】の群で、こっちは総勢1千人以上だよ」
「【ヴイーヴル】に率いられた【竜魚】が300頭に、【魔人】の【ワー・ウルフ】が1千人……。そんな馬鹿な……」
「馬鹿な話だと思うよね?気持ちは良くわかるよ。私も何でこうなったのか意味がわからないもん」
「まさか……」
「コーデリア。グレモリーの言っている事は全て事実よ」
リントが言いました。
「……」
コーデリア長老会代表は絶句します。
コーデリア長老会代表以外の【ログレス】のメンバー達も表情が青褪めました。
「グレモリー様。護衛は【神の軍団】ではなく、もう間もなく就役する【サンタ・グレモリア艦隊】の何隻かを回すという方法もございます。【神の軍団】はパニックを引き起こす場合がありますので」
ピオさんが、グレモリー・グリモワールに助言します。
「あ、その手もあるか……。【サンタ・グレモリア】や【イースタリア】や【ノースタリア】、それから【サントゥアリーオ】の住民は、【神の軍団】を見慣れているだろうけれど、【神の軍団】は初見さんには恐がられるからね」
グレモリー・グリモワールは言いました。
「定期航路が開設されれば【ログレス】の民も、やがて【神の軍団】の姿を見慣れるでしょうが、遠隔地を往復していると【サンタ・グレモリア】に【神の軍団】が駐屯している情報を知らない外地から訪れた者が見掛ければ、輸送船の護衛をしている【神の軍団】の神兵は、輸送船を襲っていると見間違える可能性があります」
「だね。なら、輸送船は【サンタ・グレモリア艦隊】の新造艦に護衛させる方向で考えよう」
「グレモリー。【サンタ・グレモリア艦隊】の建造に着手したのですか?」
私は訊ねます。
「うん。ようやく建造を開始出来た。乾・ドック3つで【サンタ・グレモリア艦隊】の1〜3番艦の船体が完成して、現在【竜の湖】に浮かべて艤装中。ドックでは4〜6番艦の船体を造っているところ。【プロパー・プロダクツ】に【造船ドロイド】を発注したら、当日に全機納品されたから本当に助かるよ」
「艦級は?」
「6番艦までは【駆逐艦】を造る。その後は【フリゲート】だね。【グリモワール艦隊】の性能には遠く及ばないけれど、ま、そこいら辺の国の軍隊相手なら何とかなるっしょ。【飛空航空母艦】や【飛空戦艦】はロマンだけれど、現在の【サンタ・グレモリア】の防衛予算では建造コストも運用コストも足りない。でも、来年末までには旗艦になる【飛空巡航艦】を1隻建造して、何とか艦隊の体裁を整えるよ」
「【サンタ・グレモリア】で造った船を売って予算を捻出する手もありますよ?高性能の軍艦は高く売れますからね」
「あ〜、それも一応は考慮してみたんだけれど止めた。民間商船ならまだしも、【サンタ・グレモリア】で輸出用に軍艦を造る気はない。ノヒトは兵器にバック・ドア・プログラムを組み込んで、絶対に【世界の理】や国際法に反する用途に使えないように出来るけれど、私のスペックだとノヒトみたいに完璧なプログラムは組めない。ファイア・ウォールを破られたら悪用出来ちゃう。【サンタ・グレモリア】で造られた軍艦が、他国の戦争犯罪に使われたりしたら寝覚が悪いからね。兵器関係の輸出はしない」
「なるほど。それも1つの考え方ですね」
「うん。で、コーデリアさん。定期航路開設の件は具体的に進めても構わないかな?」
「は、はい。宜しくお願い致します」
「大規模な飛空船港を【ログレス】のリソースで建設してもらう件も大丈夫?費用は【サンタ・グレモリア】で持つからさ。取り敢えず、広いスペースと、スムーズに積み込み・荷降ろしが出来る設備があれば良いよ」
「はい。費用を負担して下さるのでしたら、建設作業の方は当方で承ります」
「ありがとう。ピオさん、あと私から言っておく事は何かあるかな?」
「概ね宜しいでしょう。細かな商談や交渉事などは、私やアリス侯爵閣下と、【ログレス】の方々で行いますので」
ピオさんは言いました。
アリス侯爵も頷きます。
「なら、後の事は頼むよ」
「お任せ下さい」
「畏まりました」
ピオさんとアリス侯爵は言いました。
コーデリア長老会代表と【ログレス】のメンバーは、舐めていた【サンタ・グレモリア】の都市力を見せ付けられて呆気に取られた様子です。
こうなると、外交交渉はグレモリー・グリモワールと【サンタ・グレモリア】のペースで進捗する事になるでしょうね。
まあ、そもそもグレモリー・グリモワールや【サンタ・グレモリア】と、がっぷり四つに組んで外交が行える国や勢力は、私とゲームマスター本部が直轄する【シエーロ】と【ドゥーム】を除けば、【ドラゴニーア】や【ユグドラシル連邦】や【イスタール帝国】や【タカマガハラ皇国】など一部の大国だけなのです。
【ログレス】如き……と言っては失礼ですが、【サンタ・グレモリア】は都市相手はもちろん、主権国家が相手でも舐められるような都市ではありません。
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