第1217話。同盟調印。
本日2話目の投稿です。
【ログレス】の【リントヴルム聖堂】。
私達は、【ログレス】の公会議場から聖堂に移りました。
私とリントとティファニーを饗応する晩餐会に出席する為です。
現地【ログレス】の時間では、まだ夕食には少し早いのですが、私達は【ドラゴニーア】(【シエーロ】)標準時で行動しているので、私達の腹時計的には夕食に丁度良い時間帯でした。
ただし、私とリントが【ログレス】を公式訪問する事がミネルヴァから【ログレス】自治政府に伝えられたのが直前だったのと、現地時間では夕食の時間に早かった事もあり、晩餐会の開始には少し待たされています。
もちろん、事前のアポイントもなく勝手に押し掛けたのは私達の方ですし、現在【ログレス】の人達が必死になって準備をしてくれているのはわかっているので、待たされて気分を害したりはしません。
喜んで待たせてもらいます。
ソフィアが居たら……食事をお預けされるのは嫌いじゃ……などと機嫌が悪くなるかもしれませんけれどね。
そして、私は、トリニティとカルネディアを呼び、リントはグレモリー・グリモワールを呼びました。
一応、私達が【ログレス】から招かれた今回の夕食は、公式晩餐会なので国際儀礼上はパートナーとの同席が望ましいのだとか。
私の職務上のパートナーはミネルヴァですが、この場合のパートナーとは配偶者を意味しました。
私は未婚ですが、カルネディアを養子に迎えた経緯でトリニティと共同でカルネディアの親権者になっているので、法的には私とトリニティは配偶者として見做されるそうです。
まあ、【神格者】である私には、人種の戸籍の概念は当てはまらないので……便宜上の解釈としてそうなる……という事らしいのですけれどね。
今後、公の式典などに私が参加する場合、トリニティを事実上の配偶者として同席させるケースが多くなるのかもしれません。
それから演説の後、聴衆の前でウエスト大陸の守護竜である【リントヴルム】から、【ログレス】のコーデリア長老会代表と、同じく【リントヴルム聖堂】のドミティーレ聖堂長に、正式な【指名】が行われ、【ログレス】が自由都市として正式承認されました。
【指名】に際してリントは、コーデリア長老会代表には……デリゲート……ドミティーレ聖堂長には……ディヴァウト……という家名も与えています。
敬虔な、信心深い……などの意味を持つディヴァウトの方は、まだマシですが、デリゲートの方は……組織から選ばれた人……つまり、代表を意味していました。
長老会の代表だから、代表……。
「命名が安直過ぎませんか?」
「あら?ノヒトの真似をしているのよ」
リントは答えます。
あ、そう。
確かに私のネーミングは安直ですけれどね。
「【ログレス】の代表なのですから、家名はログレスで良かったのでは?」
「【ログレス】は君主制ではないから、統治責任者に土地の名前を名乗らせるのは慣例に反するわ。【サンタ・グレモリア】の領主アリス・アップルツリーも、サンタ・グレモリアを称していないでしょう?」
「そういうルールがあるのですか?初めて知りました」
「まあ、慣例だから厳格な決まりではないけれどね。【クレオール王国】の女王スライマーナ・トランスペアレントは、スライマーナ・クレオールを名乗らず、主人であるノートから【名付け】を受けた旧姓を尊重して、そのまま名乗っている。それから例えば、王朝が交代して前朝が非道な悪政を行っていてイメージが悪い場合なんかは、前朝の王家とは無関係だという事を内外にアピールする目的で、敢えて君主が国号を称さない例もあるわ。その辺りは柔軟な解釈が許容されているのよ」
「なるほど。勉強になります」
程なくして、トリニティが、カルネディアとフェリシテとセグレタリアを伴って、【共有アクセス権】で私を目標にして【転移】して来ます。
「【創造主】様の御使たる【調停者】ノヒト・ナカ様の筆頭従者にして、【調停者】代理たるトリニティ様……」
コーデリア・デリゲート長老会代表が【ログレス】を代表して挨拶の口上を述べようとしました。
すると、セグレタリアが素早く移動します。
「……」
セグレタリアは、コーデリア長老会代表に何やら耳打ちしました。
「……あ、はい。失礼致しました。【創造主】様の御使たる【調停者】ノヒト・ナカ様の……神聖なる御妃様……で在らせられるトリニティ・ナカ様。神聖なる御息女カルネディア・ナカ様。御尊顔を拝し奉り誠に光栄でございます」
トリニティ達は、コーデリア長老会代表から恭しく挨拶を受けます。
ユア・セイクリッドネスとは、フェリシテが言った事で定着したトリニティ固有の敬称でした。
何だかわかりませんが、トリニティは、この敬称が気に入っているみたいなのですよね。
私としては……中二病臭くて呼ばれて恥ずかしくないのか?……とも思いますが、本人が気に入っているなら、まあ、良いでしょう。
少し遅れて、グレモリー・グリモワールが彼女の2人の養子フェリシアとレイニール、ディーテ・エクセルシオール、それからグレモリー・グリモワールの会社のCEOであるピオさんと彼の秘書ヘザーさん、そして【サンタ・グレモリア】の領主アリス・アップルツリー侯爵と、グレース・シダーウッド伯爵、グレース伯爵の妹でアリス侯爵の筆頭近衛であるヴァネッサ騎士爵を伴って【転移】して来ました。
「ようこそ、おいで下さいました。湖畔の聖女グレモリー・グリモワール様、アリス・アップルツリー侯爵閣下、ご一同様。この度【リントヴルム】様より、【ログレス】の長老会代表を正式に拝命致しましたコーデリア・デリゲートでございます」
コーデリア長老会代表は挨拶をします。
コーデリア長老会代表は、既にグレモリー・グリモワールと会見していました。
しかし、前回グレモリー・グリモワールが【ログレス】を訪問した際には、コーデリア長老会代表はリントから家名を与えられていなかったので、改めての自己紹介なのでしょう。
「お疲れ。待たせて、ごめん」
グレモリー・グリモワールは謝罪しました。
「慌しく呼び立てて、こちらこそごめんなさい」
リントは言います。
私達は、グレモリー・グリモワール一行と挨拶を交わしました。
グレモリー・グリモワールは、リントから急遽【ログレス】の晩餐会に招聘されたので、準備に手間取ってしまったのだとか。
今回の【ログレス】訪問は、一応【サンタ・グレモリア】としての公式訪問という事になったので、服装やら同行するメンバーやら、儀礼格式上失礼に当たらない体裁を整える必要があったからのようです。
なので、【サンタ・グレモリア】の統治責任者であるアリス侯爵も連れて来たのでしょうね。
私やトリニティやカルネディアなどは、ゲームマスター本部の事実上の制服である【天蚕糸】で織られた純白のローブを着ていれば、どんなTPOでも失礼にはなりませんが、アリス侯爵など貴族の公式訪問となれば当然ドレス・コードなどにも配慮しなければいけません。
早速、リントとティファニーを立会証人として、【サンタ・グレモリア】と【ログレス】の同盟が締結されました。
【サンタ・グレモリア】を代表してグレモリー・グリモワールとアリス・アップルツリー侯爵、【ログレス】を代表してコーデリア長老会代表とドミティーレ聖堂長が同盟の【契約】文書に調印します。
これは、単に……対等な同盟を結ぶ……という事だけを合意した仮調印に過ぎないので、同盟の詳細は後日詰めて改めて諸々の協定が結ばれるのだとか。
ただし、グレモリー・グリモワールもアリス侯爵も、【サンタ・グレモリア】として【ログレス】に要求は行わず……【ログレス】が攻撃を受けたら、【サンタ・グレモリア】が援軍を派遣する……という事だけを約束した同盟なので、全く損がない【ログレス】の側から同盟を断られる事はないと思います。
「お待たせして恐縮です。晩餐の支度が整いましたのでホールにご案内致します」
コーデリア長老会代表は促しました。
私達は、ホールに移動します。
・・・
【ログレス】の【リントヴルム聖堂】のホール。
ホールに入るとテーブルにはカトラリーが並べられていました。
私とトリニティとカルネディア、リントとティファニーと【フルドラ】達が上座に座り、私から見て左側に【ログレス】の代表者達が座り、右側に【サンタ・グレモリア】の代表者達が座ります。
リントが音頭を取り、地元【ログレス】産のワインで乾杯しました。
ふむふむ、フルーティで中々美味しいワインです。
日本時代にワイン通の知人に聞いた話によると、概して高級なワイン程、熟成の年月が長い場合が多いので重厚な味わいになり、ワインの味でフルーティと形容する時には、暗に……熟成が足りない……という悪い意味にも解釈出来るので、必ずしも褒め言葉とは限らないのだとか。
ワインの香りを……腐葉土、濡れたイヌ、蝉の脱殻……などと表現したり、味を……燻製、スパイス、ナッツ……などと表現する場合もありますからね。
直感的には、良い匂いや美味しそうな味には思えませんが……。
私はワインのウンチクを語るような知識はないので、普通にフルーティなら美味しいと判断してしまいますが……如何なのでしょう?
ディナー・コースが始まり、前菜として温野菜サラダのようなモノが運ばれて来ました。
炭火焼きにした野菜だそうです。
焼いた、赤かぶ(ビーツではなくラディッシュ)、長ねぎ、ほうれん草、トマト、アーティチョーク、ジャガイモ、そしてキノコ類に、ニンニクと松の実と白ワイン・ビネガーとオリーブオイルと塩胡椒のドレッシングが掛かっていました。
シンプル・イズ・ベスト。
余計な味付けをしなくても野菜自体が美味しいので、これが最良の調理なのだそうです。
確かに美味い野菜ですね。
炭火焼きの少し煤けた風味がアクセントになっています。
【ブリリア王国】と【イスプリカ】の国境にある【ログレス】の料理は、【ブリリア王国料理】と【イスプリカ料理】の特徴を兼ね備えているのだとか。
そして【フルドラ】達の【祝福】によって【ログレス】は食材が豊富。
内陸で海に面していないので海鮮はありませんが、それ以外は何でもあるそうです。
【ログレス料理】に頻繁に使われる食材は、トマト、ニンニク、ジャガイモ、キノコ類、そして香辛料。
イメージとしては、スペインのカタルーニャ料理に似たような感じかもしれません。
また、様々な果物を生のまま食べるだけではなく、乾燥したり加熱して料理のソースに多用する事も【ログレス料理】の特徴なのだとか。
「ノヒト。ミネルヴァさんから報告があったんだけれど、【イスプリカ】軍が拘束していた【犬人】の女の子を救出してくれたんだって?」
グレモリー・グリモワールが訊ねました。
「はい。【ワールド・コア・ルーム】で保護していますよ」
「良かった。ずっと気になっていたんだよ」
「ん?知り合いですか?」
「いや、知り合いではないよ。まだ、ミネルヴァさんから聞いてない?」
「ええ。あ、いや、報告が上がって来ていますね。私がチェックを後回しにしていただけでした」
「あ、そう……」
あの子の腕が【サンタ・グレモリア】の【冒険者ギルド】が解体した【翼竜】の胃の中から見付かったんだよ……その【翼竜】は【サンタ・グレモリア】に駐屯している【神の軍団】の神兵(【古代竜】)が狩って来た獲物だった……【冒険者ギルド】の規定で、持ち込まれた魔物の体内から捕食された人種の身体が発見された場合は、当該地の政府に報告して【冒険者ギルド】のデータ・ベースに遺伝子情報を登録しておく決まりがあるんだけれど、ミネルヴァさんが、ノヒトの保護した【犬人】の女の子の遺伝子情報を照会したら、【冒険者ギルド】のデータがヒットして、元を辿ったら【サンタ・グレモリア】の【冒険者ギルド】で解体された【翼竜】に食べられていたとわかった訳……私は、腕だけ発見されたから、さすがに生きてないだろうなって思ってたけれど助かって良かったよ。
グレモリー・グリモワールは【念話】で言います。
【念話】を用いた理由は……人種の腕が魔物の胃の中から発見された……などというグロい内容が、余り食事の席で話すような類のモノではないからでしょうね。
そうだったのですね……あの【犬人】の少女は【イスプリカ】軍によって拘束され、自分の肉体部位を切断され、それを【イスプリカ】軍の騎竜である【翼竜】に食べさせて、その様子を見させられるという凄惨な拷問を受けていました……おそらく、その拷問に利用された【翼竜】は【調伏】された個体で、偵察の為に【ブリリア王国】側に侵入して、【サンタ・グレモリア】に駐屯している【神の軍団】の神兵の哨戒範囲に侵入して狩られたのでしょう。
私は【念話】で見解を述べました。
「ま、そういう事だろうね。でも、【翼竜】を【ブリリア王国】の奥深くまで偵察に飛ばしていたという事は、もう間もなく【イスプリカ】軍は【ブリリア王国】に侵略する気だったって事だよね?【グリモワール艦隊】ならノー・ダメージで連中を殲滅出来ただろうけれど、地上に居る人達には被害が出たかもしれない。ノヒトが動いてくれて良かったよ」
グレモリー・グリモワールは言います。
「【イスプリカ】軍は、侵攻開始を11月1日に予定していました」
「ギリだったね?」
「そうですね」
私とグレモリー・グリモワールの会話を、【ログレス】の代表者達は耳をそば立てて聴いていました。
国境に展開していた【イスプリカ】軍は50万人。
侵攻が開始されれば、真っ先に攻撃を受けるのは、グレモリー・グリモワールが言う所の……地上に居る人達……つまり、【ログレス】です。
【ログレス】にとっても他人事ではありません。
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【お願い】
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