第1210話。【アマゾネス】。
【イスプリカ】の【ブリリア王国】との国境地帯。
私とリントとティファニーは、【イスプリカ】軍のキャンプ上空に【転移】して来ました。
私は【超神位……結界】を解除して、リントとティファニーと一緒にキャンプに降ります。
【結界】がなくても、既にキャンプにいる【イスプリカ】軍47万人は、私の【精神支配】下にあるので逃亡などは出来ません。
私達は、司令部のテントに入りました。
誰も居ない?
あ、南側に集合させたままでしたね。
将官は全員司令部のテントに集合しなさい……それ以外の者は順番に昼食を摂って所属部隊ごとに各テントで待機しなさい。
私は【イスプリカ】軍に思念を飛ばして指示しました。
「リント。昼食は?」
「まだ食べてないわ」
リントは答えます。
「なら、遅ればせながら私達も昼食にしましょう」
「わかったわ」
私は【収納】から【自動人形】・シグニチャー・エディションを取り出して、食事の準備を始めました。
程なくして、呼集した将官が司令部のテントに集まって来ます。
・・・
司令部に集まった将官の数は50人でした。
50万人規模の方面軍としては普通かもしれませんが、この【イスプリカ】軍のキャンプは半数以上が、労役・雑役を行う奴隷にされていた人達を含む非戦闘員ですので、そう考えると将官が多いかもしれません。
司令部のテントは広いのですが、50人が全員テーブルに着く事は出来ません。
なので、上級将官をテーブルに着席させ、他の将官はベンチに並んで座らせました。
【自動人形】・シグニチャー・エディションによってサンドイッチとフライド・チキンに【ソフィア・フード・コンツェルン】のペット・ボトル飲料が用意され、各自に配られます。
私とリントには、サラダとスープが付いていました。
ランチ・ミーティングが始まります。
私は、将官達に名前と氏素性を自己紹介させました。
時間が勿体ないので略式儀礼で簡潔に済ませます。
主要な人物を列挙すると……。
【イスプリカ】軍【ブリリア王国】方面軍司令官デシデリオ・シエラ……【シエラ】選帝侯。
同副司令官エスピリディオン・ルシタニア……【ルシタニア】選帝侯の長男。
フォンシエ・フォルテア……【フォルテア】辺境伯。
ガスパル・ガリンド……【ガリンド】辺境伯。
エルナンド・エルナンデス……【アストリア】の将軍。
このキャンプは、各選帝侯領から集められた連合軍という話でしたが、司令部も寄り合い所帯です。
これで指揮命令系統が機能するのでしょうか?
私には関係ありませんけれどね。
【シエラ】は【イスプリカ】の北方都市で、【ルシタニア】は同西方都市、【アストリア】は同南方都市です。
現在、【イスプリカ】の各選帝侯領は、半ば独立した国家になっているのだとか。
とはいえ、途上国の【イスプリカ】は領域支配が確立しておらず、1歩都市城壁を出ると無法地帯の様相を呈しています。
都市国家連合のような体裁なのかもしれません。
このキャンプの50万人は、【ブリリア王国】への侵攻を企図した軍隊なので、【ブリリア王国】と国境を接する【シエラ】と【ルシタニア】が主力になっているのでしょう。
南の【アストリア】は選帝侯やその親族は参陣せず、将軍と兵力を派遣していました。
【アストリア】は、【ブリリア王国】と国境を接していないので、【ブリリア王国】に攻め込んで仮に占領地を得ても本領国からは飛び地になる為、【アストリア】は【ブリリア王国】侵攻に熱心ではないのかもしれません。
【イスプリカ】東方の選帝侯領【アラゴニア】に至っては将兵共に従軍すらしていませんね。
【アラゴニア】は、ノート・エインヘリヤルが庇護する【クレオール王国】と国境を接していて、現在進行形で【クレオール王国】に領地をゴリゴリ削られているので、反対方面の【ブリリア王国】侵攻に兵力を出している余裕がないのでしょう。
【フォルテア】と【ガリンド】は、当地【ログレス渓谷】入口の近郊にある辺境伯領でした。
その他、【イスプリカ】の同盟勢力から戦闘騎馬民族の【アマゾネス】が参戦しています。
ヒッポリュテー……【アマゾネス】の女王。
メラニッペー……【アマゾネス】の将軍。
ペンテシレイア……【アマゾネス】の将軍。
ゲーム時代、【アマゾネス】という種族は、ウエスト大陸南部とサウス大陸で部族社会を形成していました。
【アマゾネス】は人種の中では唯一の珍しい種族特性を持ち、女性しか居ません。
【アマゾネス】に女性しか居ない理由は、【アマゾネス】からは女性しか生まれないからです。
女性しか生まれないので、繁殖を行う場合には他種族の男性を相手にしていました。
しかし、他種族の男性は繁殖するだけでしかなく、結婚はもちろん同居もしません。
【アマゾネス】は女性だけでコミュニティを形成し、戦闘騎馬民族として各地を移動し続けながら魔物を狩って暮らしていました。
【アマゾネス】は騎馬、弓、投槍、投げ斧の扱いに長け、個人差はありますが各種族の平均を比較するなら人種の中ではトップ・クラスに戦闘力が高いです。
それから、このキャンプにいる将官としては、本来もう1人エビータ・エスパルテロという人物がいたのだとか。
エビータ・エスパルテロは、この【イスプリカ】軍【ブリリア王国】方面軍の軍医・衛生部のトップでした。
何故、エビータ・エスパルテロが、この場に不在なのかというと、彼女は【世界の理】に違反していなかったので無辜の民と判断された3万人に含まれて【シエーロ】に移動したからです。
一通り簡単な自己紹介が終わりました。
「取り敢えず、デシデリオ・シエラ。あなたは、このキャンプの最高司令官で、軍中で奴隷を使役していた【世界の理】違反と、【犬人】の未成年少女と【ニンフ】に残虐な拷問を行っていた国際法違反に責任を負う立場です。なので、あなたの貴族の身分と、軍での階級と、軍の指揮権を剥奪し拘留します。後で、【リントヴルム】から正式に刑罰が科されます。誰か、憲兵に命じて罪人デジデリオに手錠と足枷をして牢屋に入れておきなさい」
私は指示します。
デシデリオ・シエラ元【シエラ】選帝侯は、憲兵に連行されて行きました。
「そうなると、このキャンプの最高司令官は、繰り上がりでエスピリディオン・ルシタニアになりますが、あなたは何歳ですか?」
「21歳です」
エスピリディオン・ルシタニアは答えます。
若いですね……。
別に年齢の若い嵩いで能力が変わるとは思いませんが、経験がないよりは、あった方が良いでしょうね。
それに、貴族としての格によって序列が付いているとするなら、デシデリオ・シエラやエスピリディオン・ルシタニアは名目だけの上席者かもしれません。
「この方面軍の序列でエスピリディオンの次の者は……」
「私だ」
【アマゾネス】の女王ヒッポリュテーが言いました。
あ、そう。
ただし、同盟勢力から参陣している【アマゾネス】のヒッポリュテーは、【イスプリカ】軍側の将兵に対する指揮権限を持たない可能性がありますからね。
「取り敢えず、ヒッポリュテーは除外です。その次席は誰ですか?」
「私ですね」
【アストリア】から従軍しているエルナンド・エルナンデスが言います。
エルナンド・エルナンデスの種族は【蜥蜴人】で、右目に眼帯をしていていました。
眼帯をしている理由は一目瞭然。
縦に大きな傷痕が額から右目を通り下顎まで続いていました。
剣などの刃物傷でしょうね。
如何にも歴戦の将という感じです。
きっと経験も豊富な筈。
【鑑定】すると、なるほど中々の高ステータスです。
そして【聖格】持ち。
彼に決めました。
「わかりました。では、以後エルナンド・エルナンデスに便宜上このキャンプの最高司令官を任せます」
「あなた。もしかして隻眼のエルエル?」
リントがエルナンド・エルナンデスに訊ねました。
「はい。確かに、そのような二つ名で呼ばれております」
エルナンド・エルナンデスは肯定します。
エルナンド・エルナンデスだから、エルエルでしょうか?
たぶん、そうでしょうね。
「リント。彼を知っているのですか?」
「ええ、知っているわ。有名な傭兵団の隊長よ。今は【アストリア】に雇われているのね?」
「はい。もう、ボチボチ引退しようと考えて、仲間達と最後に一稼ぎを目論んだのですが、【調停者】様と守護竜様の手入れを受けるとは……ついてませんね」
エルナンド・エルナンデスは嘆息しました。
エルナンド・エルナンデスのログを調べると【世界の理】に違反していましたが、彼自身の違反ではなく、彼が率いている傭兵団の団員達が【世界の理】違反をした事の管理責任で、彼も【世界の理】違反になっています。
自分の罪ではなく配下の罪に連座するのは少し気の毒かもしれませんが、エルナンド・エルナンデス配下の傭兵団は……無辜の民を誘拐して奴隷として売ったり、無辜の民を虐殺したり……など、結構エグい事をしていました。
略奪や乱暴狼藉などは枚挙に暇がありません。
これは傭兵団のリーダーとして管理責任を問われるのも当然です。
「さてと、あなた達【イスプリカ】の【ブリリア王国】方面軍は、今から【イスプリカ】の未開地開拓団になります。47万人で開拓を行い定住してもらいます。人数が多いので、軍団単位で別々の開拓地に入植してもらう事になるでしょう」
私は言います。
将官一同は頷きました。
彼らは【精神支配】が効いているので、私の指示には絶対服従します。
1個師団を1万人として計算すると、軍団は5万人。
47万人なら10個軍団に相当しました。
開拓集落としては相当大きいですね。
日本サーバー(【地上界】)の規定では、人口1万人以上は街、人口10万人以上は都市の規模でした。
コミュニティの人口が増えると、魔物の襲撃に遭うリスクも高まりますが、この連中は戦闘のプロである軍隊ですし、【イスプリカ】の精鋭だというのですから魔物への対抗力は、それなりに高い筈ですので大丈夫でしょう。
【イスプリカ】軍には労役・雑役を行わせる為に奴隷にされている人達が半数以上含まれているので、純粋な兵力としては半分以下でした。
まあ、大丈夫じゃなくても、知った事ではありませんよ。
魔物の餌になりたくなければ、頑張ってもらうしかありません。
ただし、頑張っても【イスプリカ】での開拓は、見返りが少ないでしょうね。
直近の統計によると、【イスプリカ】の名目国内総生産に占める農業・畜産業の割合は10%に及び、かなり高いです。
しかし、【イスプリカ】は農業大国ではありません。
例えば、【タカマガハラ皇国】の名目国内総生産に占める農業・畜産業の割合は5%しかありませんが、金額ベースの農業・畜産業の生産額は【イスプリカ】の5倍。
つまり、【タカマガハラ皇国】の名目国内総生産は、【イスプリカ】の10倍。
人口は【タカマガハラ皇国】が【イスプリカ】の2倍ですので、【タカマガハラ皇国】の1人当たり名目国内総生産は【イスプリカ】の5倍。
つまり、【イスプリカ】は単に途上国だという話なのです。
統計によると【イスプリカ】の農業生産額は、ウエスト大陸では【ガレリア共和国】、【ウトピーア】、【ブリリア王国】に次ぐ第4位。
最近まで【サントゥアリーオ】には国家も国民も存在せず農業生産自体がなかったので、つまり【イスプリカ】の農業生産額は、実質ウエスト大陸最下位。
これは、金額ベースの話で、穀物などの主要農産物の生産量では現状【イスプリカ】が【ブリリア王国】を僅かに上回りました。
ただし、【ブリリア王国】は畜産に強みがあるので、畜産も含めた食糧生産力ならば、比較にならないレベルで【ブリリア王国】が【イスプリカ】を圧倒します。
また、現在【ブリリア王国】は、グレモリー・グリモワールが庇護する【サンタ・グレモリア】などを中心にイノベーションや産業構造改革が起きていますし、【ウトピーア法皇国】との戦争に勝利した事で得た莫大な賠償金で今後大規模な公共事業が行われますので、将来的に大きな発展が見込めました。
このまま何も変化がなければ、将来【イスプリカ】は、ウエスト大陸の圧倒的最貧国の地位に甘んじるでしょうね。
国自体がなかった【サントゥアリーオ】や、【スタンピード】の影響で人種生存圏がないか、あるいは限定されていたサウス大陸の4か国、それから国際法上国家承認を受けていない【ゴブリン自治領】などの地域を除けば、現在【ブリリア王国】と【イスプリカ】は堂々世界最貧国の2トップなので、【ブリリア王国】との比較になっている事自体が、【イスプリカ】の農業や畜産業の低調な実態を表しています。
というか、【イスプリカ】は食糧の大半を、生産するのではなく狩猟で得られる魔物の肉に頼っていました。
原始時代ですか?
まあ、食糧供給で狩猟の割合が高いのは【エルフヘイム】も同じですが、【エルフヘイム】は魔法技術が世界トップ・レベルの先進国なので国情の比較にはなりません。
【イスプリカ】の主要農産物は、大麦、小麦、ぶどう、オリーブ、タバコ、綿花……などなど。
基本的に奴隷労働に頼ったプランテーション農業が行われています。
そもそも、【イスプリカ】の産業構造自体が奴隷労働に頼りきっていました。
奴隷にされている人達は、雇用主から給与などの労働対価が支払われませんので、労働意欲が低く生産性も下がります。
というか、【イスプリカ】の為政者や資本家は、生産性が低くかろうが何だろうが、大量の奴隷を無報酬で家畜か機械のように働かせれば良いという考え方なので、生産性を向上させるという発想自体がありません。
産業構造が極めて低質なのです。
【イスプリカ】の農業潜在力が低い大元の理由は、気候と土壌の悪さに起因していました。
【イスプリカ】は乾燥地帯で年間の降水量が少なく、国土の大半は特徴的な赤土の【荒野】や【不毛の地】が広がっています。
帝都【イスポリス】を含む皇帝直轄地の【イスプリカ】中央部は内陸性の気候で、夏は酷暑の旱魃、冬は厳寒の旱魃という農業不適格地でした。
【イスプリカ】北部は【ルピナス山脈】が連なり山がちの地形で、西は岩場だらけ、東は【クレオール森林】が広がり、何処も彼処も基本的に耕作には向きません。
【イスプリカ】の内陸部では、広大な【荒野】や【不毛の地】の中にポツポツと点在する狭い【原野】や【平原】を細々と耕作して農業が行われている状態です。
【イスプリカ】南部と沿岸部は、比較的農業も盛んで世界的な名産のオリーブやトマトやナツメヤシや柑橘類、ワイン用のブドウ、タバコや綿花など商品作物、麦類や長粒種の米など穀物が栽培されていました。
畜産業では【パイア】を家畜化した【ヒュージ・ピッグ】の生産が有名です。
総じて言えば、【イスプリカ】は南部と沿岸部以外では農業に厳しい環境なのです。
しかし、それでも日本サーバー(【地上界】)の農業はイージー・モード。
乾燥は【給水の魔法装置】もありますし、土壌が悪くても比較的温暖な【イスプリカ】なら年間4〜5期作の作付けが可能でした。
1期作の収量が他の地域より少なくても、作付け回数の多さで補えます。
下手な鉄砲、数撃ちゃ当たる……は、ちょっと違いますか。
まあ、何とかなるでしょう。
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