1209話。面倒な事後処理。
本日2話目の投稿です。
【シエーロ】中央領域【エンピレオ】。
【知の回廊】最上部【ハブ・ゲート・ステーション】。
私は【イスプリカ】軍に従軍していた3万人の人種を連れて一旦【知の回廊】に戻りました。
【ハブ・ゲート・ステーション】には、オペレーターの【天使】達の他、3万人の移送者達の受け入れを担当するゲームマスター本部の【コンシェルジュ】達と、私の支配下にある【天使】達が待っています。
さすがはミネルヴァ。
私の意図を汲み取って必要な差配をしてくれていましたね。
3万人の受け入れを担当する【コンシェルジュ】達と【天使】達が、速やかに3万人を案内してゾロゾロと移動して行きました。
この辺りは、連日の【パンゲア】の【パノニア王国】移民作戦と、【サントゥアリーオ】国民の【保育器】輸送作戦で、双方200万人規模の大量輸送の経験があるで、たった3万人程度ならば対応に全く淀みがありません。
何事にも慣れというモノがあるのです。
こちらは任せておいて問題なさそうですね。
私は、一旦【ワールド・コア・ルーム】に向かいました。
・・・
【ワールド・コア・ルーム】。
「ミネルヴァ。3万人の移送者達の中で【イスプリカ】によって奴隷にされていた人達は、【サントゥアリーオ】などに移民として受け入れて貰えるようにリントに打診して下さい。それ以外の者達は簡単な聞き取り調査を行った上で家に帰して構いませんが、如何やって帰宅させましょうか?」
「解放奴隷の受け入れについては、リントさんに了解を取ってあります。解放奴隷の自立支援もリントさんと【サントゥアリーオ】の方で行ってくれるそうです。それ以外の者も【サントゥアリーオ】などに亡命を望むなら、リントさんの方で手配してくれるそうです。帰宅希望者については居ないか、居ても少数の筈ですから、【輸送機】で送ってしまえば事足りるでしょう」
ミネルヴァが報告と推定をします。
取り敢えず面倒事は、ある程度リントと【サントゥアリーオ】に丸投げ出来そうですね。
まあ、既に現時点で私は、リントから面倒事を押し付けられている格好なのですが……。
「帰宅希望者が居ないというのは、如何いう事でしょうか?」
「【イスプリカ】軍の軍規では、彼らは逃亡兵の扱いになります。帰宅しても、【イスプリカ】政府に逮捕され軍法会議に掛けられて最悪の場合は処刑されますので、処刑を覚悟してまで帰宅を希望する者は基本的には居ないと推定されます」
ミネルヴァは説明しました。
「なるほど。あ〜、だとすると、彼らの家族も保護対象になる可能性がありますね?」
「はい」
これは面倒が増えますね。
もはや乗り掛かった船なので致し方ありませんが……。
私は最強無敵のゲームマスターですので、目の前の問題はゲームマスターの権限と能力をブン回して実力行使してしまう事は簡単です。
しかし、その後始末や事後処理が、今回のケースのように概してクッソ面倒なのですよね。
ゲームマスターは、ほぼ何でも出来てしまいますが、それはあくまでも能力的な話であって、実際にはゲーム会社が定めた諸々の規則や規範や手続きに縛られていて自分の好き勝手に何をやっても許される訳ではありません。
「ならば、その家族達も救出と亡命を前提に段取りをしておいて下さい」
「了解です」
無辜の民3万人の処遇は、一応これで良し。
私が、【イスプリカ】軍のキャンプ地でサンプル調査として【イスプリカ】軍の司令部の者達と、奴隷にされていた人達の事情を知っていそうな者達の代表者に、簡単な聞き取りをした結果……此処(キャンプ)に居る奴隷達には基本的に家族は居ない。従軍して功績を立てれば、家族を持つなどのインセンティブが認められる可能性がある……と話していたので、奴隷にされていた人達に関しては、ほぼ家族などはいないそうです。
しかし、私がサンプルとして聞き取りをした者達は……基本的な話……をしただけで、彼らが個別の状況を全て詳細に把握している訳ではありません。
軍への奴隷動員の差配は現地司令部ではなく、後方の政府の裁量で行われていたそうですので。
実際には家族を【イスプリカ】に置いて従軍している奴隷にされていた人達がいるかもしれませんし、少なくとも奴隷にされていた人達にも両親や祖父母はいる筈で、そういう親族が存命なら一般論としては一緒に暮らしたいと考えるでしょうからね。
つまり、一応念の為に解放した奴隷にされていた人達全員に個別面談をして事情聴取をしてみないと詳しい状況はわかりません。
そして、そういう手間隙が掛かるけれどもゲームマスターの私がやる必要がない事は、【コンシェルジュ】や【天使】達に丸投げにしてやらせれば良いのです。
事情聴取の結果、私が解放した奴隷にされていた人達に家族などがいて、その人達を【イスプリカ】から連れて来る(救出する)必要があれば、私かブリギット(ミネルヴァ)かトリニティ、あるいはウエスト大陸の守護竜である【リントヴルム】が働かなければいけません。
カリュプソやウィローやガブリエルや【コンシェルジュ】の【輸送機】部隊、あるいは【リントヴルム聖堂】関係者を派遣して救出・移送作業をやらせても構いませんが、彼女達のスペックでは状況によっては対応に苦慮する可能性もあり得ます。
私が解放した奴隷にされていた人達に家族などがいなければ、私やゲームマスター本部が加えて何かしらの対応をする必要がないので問題はありません。
しかし、【イスプリカ】が制度として施行している犯罪奴隷などであれば、犯罪奴隷の家族が【イスプリカ】の一般市民として暮らしている可能性があり得ました。
また、奴隷にされている人達の家族も又奴隷にされている可能性もあります。
何れの場合でも、カリュプソやウィローやガブリエルや【輸送機】部隊や【リントヴルム聖堂】関係者が救出に向かったとして、現地で【イスプリカ】政府当局に家族などの救出・移送を妨害されたり、奴隷の所有者や使役者達などに抵抗されたり、救出対象者達を人質に取られるような形になってしまうと、彼女達では対応に苦慮する状況になりました。
抵抗勢力側の強度や規模によっては、カリュプソやウィローやガブリエルや【輸送機】部隊や【リントヴルム聖堂】関係者、あるいは人質に危険があるかもしれません。
その点、私やブリギット(ミネルヴァ)やトリニティやリントなら、私が【イスプリカ】軍のキャンプ地で行ったような広範囲の【精神支配】などで比較的容易に状況を打開出来ますからね。
「チーフ。リントさんが、此方に合流するそうです」
ミネルヴァが報告しました。
「あ、そう。わかりました」
・・・
すると、リントとティファニーが【転移】して来ました。
「ノヒト。強制執行をしてくれたのね?色々と助かるわ。ありがとう」
リントが言います。
色々とは、本来なら第一義的にウエスト大陸の【領域守護者】である【リントヴルム】の責任において対応しなければならない問題を、私やゲームマスター本部が相当分を肩代わりしてあげている事ですね。
私が……やる……と言質を取られてしまったので致し方ありませんが、本当に面倒です。
「これからやるべき事を整理しておきましょう」
「わかったわ」
リントは頷きました。
「私が解放した奴隷にされていた人達と、それ以外の人達、合計3万人の無辜の民の処遇で決めなければならない事は、彼らの恒久的な帰属先の選定ですが、それは【サントゥアリーオ】で良いですね?もちろん、彼ら自身の希望を確認した上ではありますが……」
「もちろん良いわ」
「彼らに家族などがいた場合、その人達も全員【サントゥアリーオ】を前提とした新しい帰属先で受け入れて貰えますね?」
「問題ないわ。でも……など……の範囲は?」
「現時点では家族でなくても、将来的に結婚などを考えている相手が居るかもしれません。それから戸籍上は家族でなくても、内縁関係であったり非嫡出子がいる可能性もあります。そして、将来的な結婚相手や内縁の配偶者の家族も……など……に含まざるを得ないでしょう」
「なるほど。そういう場合も包括的に受け入れるわ。定義を確認したいのだけれど、結婚相手や内縁の配偶者の家族とは、何親等までを対象とするのかしら?」
「地球の一般論としては、概ね3親等までを所謂……家族……に含めるようですね」
「なら、3親等までにしましょう」
「宜しい。で、その家族などを救出・移送する段取りは如何しますか?」
「基本的には妾がやるわ」
「そうですか。ゲームマスター本部でやらなければならないと考えていたので、リントがやってくれるなら有り難いですね」
「さすがに、このくらいはしないと悪いわよ。そもそもウエスト大陸の問題は、妾の専権事項であり、責任事項なのだから。今回ノヒトに動いて貰ったのは……【イスプリカ】の奴隷制に関する【世界の理】違反で、ノヒトやゲームマスター本部を巻き込めるから、手伝って貰えば良い……というグレモリーの悪巧みに乗ったからで、本来は妾がやるべき事だもの。あ、でもグレモリーを責めないであげてね。グレモリーが、このプランをアドバイスしてくれた経緯は、妾の陣営の手が足りなくて、嫌がるグレモリーに泣き付いて無理矢理知恵を借りたのだから」
リントは苦笑します。
「わかりました」
「でも、その解放奴隷の家族などが、【イスプリカ】政府などによって隠蔽されてしまうと、妾には捜索が出来ないかもしれないから、それだけはミネルヴァのサーベイランス能力を頼らせて貰えるかしら?既にユグドラには協力をお願いしているけれど……」
「もちろん構いませんよ」
「喜んで手伝います」
ミネルヴァが言いました。
「どうもありがとう」
リントは深く頭を下げます。
ティファニーも頭を下げました。
「で、無辜の民3万人以外の47万人の処遇ですが、連中はノートの陣営が行っている対【イスプリカ】戦略を参考にして、【イスプリカ】の未開地に開拓村を築かせて土着農民に変えてしまうつもりですが、構いませんか?」
「基本的には異存ないわ。でも、あの50万人の兵力を供出している【イスプリカ】の各選帝侯達が黙っていないと思うのだけれど?スライマーナからの情報では、あの【ブリリア王国】との国境地帯に集結した大軍は【イスプリカ】陸上戦力の最精鋭らしいわ。【イスプリカ】の選帝侯達は精鋭の全てを【ブリリア王国】方面に振り向けたみたい。もう、【イスプリカ】には同規模・同戦力のお代わりはないのよ。そんな精鋭軍を丸ごと引き抜かれて、自分達のコントロールが及ばないフリーランスの開拓団に編入されてしまえば、当然選帝侯達は、自分達の兵力を奪還しようと画策するのではなくて?【サントゥアリーオ】で受け入れる者達は、妾の庇護下に入るのだから【イスプリカ】などに手出しはさせないけれど、【イスプリカ】領土内で開拓させるとなると、当然【イスプリカ】側の介入はあるわよ」
「選帝侯達?確認しますが、あの47万人(総数50万人から無辜の民3万人を除く)は、【イスプリカ】皇帝が派遣した軍ではないのですか?」
「いいえ。【イスプリカ】皇帝は、選帝侯達による選挙で選ばれるのは周知の通りだけれど、選帝侯達は皇帝権力が大きくなり過ぎないようにしているわ。だから、【イスプリカ】皇帝は直轄地【イスポリス】周辺にしか実権が及ばない名前だけの君主で、【イスプリカ】の実権は各選帝侯領を統治する選帝侯達が握っている。この【ブリリア王国】侵攻を企図したのも兵力を供出したのも選帝侯達よ」
「なるほど」
「だから、選帝侯達は自分達が供出した軍を、ノヒトが開拓団に編入してしまうのは困るのよ。おそらく選帝侯達は協力して、開拓団が築いた開拓村に兵力を送り開拓団の兵力を奪還しようとすると思うわ」
「関係ありませんね。選帝侯達が軍を派遣して開拓団の奪還に来たなら、開拓団に自力で迎撃させます。開拓団には銃も砲も戦車もあります。あの47万人が【イスプリカ】の各選帝侯達の供出した精鋭軍なら自力で撃退も可能でしょう。そもそも、あの連中は無辜の民ではない【世界の理】違反者ですから、【イスプリカ】が内戦になって潰し合う事になっても自己責任ですので……そこまでの面倒は看る必要がない……というのが、ゲームマスターである私の公式見解です。私は、リントとグレモリーから……何とかしてくれ……と頼まれた、【ブリリア王国】に攻め込もうとしている【イスプリカ】軍の対処はした訳ですから、後の始末はウエスト大陸の守護竜であるリントに任せます」
「妾の陣営のリソースでは手が回らないから、最悪【世界の理】に反する【イスプリカ】が内戦になっても致し方ないと半ば諦めてはいるのだけれど、人種を管理して必要があれば守る役割がある守護竜としては悩ましいところだわね。例えばの話、ノヒトが開拓団に編入しようとしている47万人の【イスプリカ】の【ブリリア王国】方面軍と、【イスプリカ】の選帝侯軍が内戦になった場合、【魔界】平定戦が落ち着いたら、ノヒトとゲームマスター本部から何かしらの支援をして貰えると期待しても良いのかしら?」
「状況によります。一般論としては、47万人の開拓団が【世界の理】を守って平和に暮らしていて、【世界の理】に違反する選帝侯達の軍と内戦を戦う局面になれば、私とゲームマスター本部は【世界の理】を守っている側に味方する事は当然の話です。しかし、実際に私やゲームマスター本部が問題に介入するか如何かは、現時点では何も約束は出来ません」
「……わかったわ。最悪の事態にならないように妾の手持ちリソースで可能な限り働き掛けながら、推移を見守るしかないわね」
こうして、取り敢えずの方針は決まります。
「リント。もう【サントゥアリーオ】の【保育器】輸送を始めなければならない時間ですが、まだ【イスプリカ】軍のキャンプ地に残っている47万人の処遇をしなければいけません。今日の午後のスケジュールが押して、最悪の場合【保育器】輸送自体が出来なくなるかもしれません」
「この問題の対処は、妾がノヒトに頼んだ事なのだから致し方ないわね。最悪、今日の【サントゥアリーオ】の【保育器】輸送はキャンセルしてしまっても構わないわよ」
「では、そういう事で……」
「あ、妾とティファニーも連れて行って。妾達も其方の仕事をするから」
「わかりました」
私は、リントとティファニーを連れて【転移】しました。
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活動報告、登場人物紹介&設定集もご確認下さると幸いでございます。
・・・
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