第1206話。目には目を、拷問には拷問を。
残酷なシーンがありますので、ご注意下さい。
【ブリリア王国】と【イスプリカ】の国境。
【イスプリカ】軍の陣営。
私は【認識阻害】や光学迷彩やステルスを発動しながら、ミネルヴァが展開している【スパイ・ドローン】の【キー・ホール】を目標に【転移】して来ました。
私は圧倒的な暴力で、あらゆる障害を薙ぎ倒して進めますが、敢えて隠蔽工作をしている理由は、取り敢えず状況把握をしようと考えたからです。
また、私は先程のミネルヴァからの報告で相当頭に来ているので、姿を隠し意識的に隠密行動をする事で……少し冷静になろう……という意図もありました。
姿を見せたままで【イスプリカ】軍の兵に発見され攻撃されたら、私は怒りに任せて迎撃した結果、勢い余って【イスプリカ】軍の全員を一瞬で素粒子に分解してしまうかもしれません。
それは、ゲームマスターの対応としては、幾らなんでも過剰防衛過ぎますからね。
私が出現した場所は、広い軍用テントのようです。
テントの中には警備の歩哨が2人、テントの出入り口の外にも2人の歩哨がいました。
それから、テント内の簡易ベッドで寝ている男……。
そして、テントの奥にも2つの光点反応があります。
!
見付けました。
しかし、これは酷い……。
1個体の【ニンフ】と、その主人……いいえ、【主人】だと推定される【犬人】の女性が1人。
一見しただけでは、種族や性別、大まかな推定年齢すらわからないような状態です。
【鑑定】でステータスを確認すると、【犬人】は年端も行かない少女でした。
【犬人】の少女と、彼女の【盟約の妖精】と推定される【ニンフ】は、両名とも魔力を封じる【効果付与】が施された鎖で首を繋がれ、断続的な浅い呼吸と共に、か細い呻き声を上げています。
【ニンフ】は四肢が欠損し、鼻と耳が削がれていました。
同様に、彼女の主人だと推定される【犬人】の少女も四肢と尻尾が切断され、耳と鼻が削がれています。
両名とも衣類を着用していませんでした。
傷口がグチャグチャなので、鋭利な刃物などではなく、鈍な刃物や、ノコギリのようなモノを使用したか、あるいは、もっとエゲツない方法で部位欠損をさせたのかもしれません。
もちろん、より強く肉体的苦痛と精神的苦痛を与える拷問としてワザとそうしたのでしょう。
また、両名共に目と口から血を流していました。
眼球を抉り出され、舌を切断され、歯を抜かれているのです。
欠損した四肢の患部には簡単に死なせないように止血がしてありますが、傷口が保護されていないので感染症などの対策は全くしてありません。
進軍の妨げとなる【ログレス渓谷】の【フルドラ】を追い払えれば、その後この【犬人】の少女が死亡しても如何でも良い……と考えていたのでしょう。
直ぐに私は、【犬人】の少女と【ニンフ】に【無痛】と【精神安定】と【睡眠】を掛けてから、【完全治癒】と【完全回復】で治療しました。
瞬時に両名の傷は完治します。
私は、【犬人】の少女と【ニンフ】の鎖を外してやり、【収納】から取り出したブランケットを掛けてやりました。
取り敢えずは、これで良し。
私は、テントの中を見回します。
激しい拷問の様子を物語る夥しい血痕と、用途不明の悍しい拷問器具の数々……。
そして、簡易ベッドで高鼾を立てて寝ている男が拷問官でしょうね。
コイツの衣服は返り血で汚れていました。
この状況で昼寝が出来るなんて、コイツの頭は如何なっているのでしょうか?
拷問官のログを調べると、正視に耐えない残虐な拷問の数々が列挙されました。
先ず、拷問官は【犬人】の少女を繰り返し陵辱してから、何らかの薬物を注射して、手足の爪を剥がし、そこに針を突き刺し、それが終わると耳と鼻を順番に削ぎ、四肢を切断して、【犬人】の少女に見せ付けながら【イスプリカ】軍の騎竜である【ワイバーン】達に彼女の肉体部位を投げて餌として食わせたのです……。
この段階で【犬人】の少女の精神は完全に崩壊してしまいました。
精神が崩壊した【犬人】の少女は、拷問官に命じられるがまま、自分の【盟約の妖精】である【ニンフ】を【召喚】して……【物質的肉体】を維持したまま動くな……と、【命令強要】を行使して命じてしまったのです。
動けなくなった【ニンフ】も、主人である【犬人】の少女と同じ拷問を受けました。
その結果、拷問を受ける【ニンフ】の苦痛の思念を受信した【フルドラ】達は住処から逃げ出してしまった訳です。
【フルドラ】達が居なくなったので、【フルドラ】達が見せる【幻影】も消えました。
なので、【ログレス渓谷】は、【イスプリカ】軍が進軍可能になっています。
ただし、現在【グリモワール艦隊】が【認識阻害】をせず国境の【ブリリア王国】側上空で睨みを利かせているので、【イスプリカ】軍は直ちに国境は越えず、このキャンプで後方から来る援軍を待っていました。
何れにせよ、【フルドラ】の【幻影】が消失した現在、【イスプリカ】軍は進軍経路上の障害を排除出来たので既に目的が果たされています。
なので、それ以上の拷問をする必要はありません。
しかし、このクソ拷問官は、本来やる必要がないにも拘らず、【犬人】の少女と【ニンフ】を拷問し続けました。
拷問官は、【犬人】の少女と【ニンフ】の歯を抜き、舌を切断して、眼球を抉り出したのです。
拷問官が両名の口と目の損壊を最後にした理由は、【犬人】の少女に【ニンフ】への【命令強要】を行わせる目的と、そうして自分の肉体が破壊される様子を見せ付ける事で、より大きな苦痛と絶望を与える為でしょうね。
もう拷問をする必要がないのですから、この行為は単に拷問官の個人的な嗜虐欲を満足させる為だけの意味しかありません。
鬼畜の所業です。
私は一瞬、ベッドで昼寝をしている拷問官の頭蓋を踏み潰してやりたい衝動に駆られましたが、頭の中で素数を数えて我慢しました。
ゲームマスターは【世界の理】の執行者です。
【世界の理】の範囲外の事柄については、それがどんなに不法で非道な行いであっても、基本的にゲームマスターは私的制裁を行いません。
まあ、仮に怒りに任せて私的制裁をしても……ゲーム会社の査問を受けて、問題があれば処分される……というだけの話で、この世界の中にいる誰からも、ゲームマスターは行動を制限されませんけれどね。
私は、ゲームマスター権限で【犬人】の少女と【ニンフ】の記憶を一部消去します。
私の【完全治癒】は、傷病や障害は完全に治りますが、心の傷までは癒せません。
思い出したくない記憶は思い出さないように消してしまうのも治療の範疇として許されると思います。
私は【防音】をテント内に張りました。
これでテント内の音は、外部に漏れません。
私はテント内の歩哨を【昏睡】で昏倒させます。
そして、拷問官の男に【覚醒】を掛けて強制的に目覚めさせました。
さてと、拷問なら私も出来ます。
そして、恐らく宇宙で最も拷問が得意なのが、ゲームマスターでしょうね。
拷問は好きではありませんが、必要なら幾らでもやりますよ。
「ん……。な、何だ、お前は!?」
拷問官の男は言います。
「【超神位……激痛】」
私は、答える替わりに魔法を詠唱しました。
「ぐっ!ぐきゃーーっ!」
拷問官の男は、途端にベッドから転落して床をのたうち回ります。
【激痛】は、全身にあり得ない程の激痛が発生する魔法でした。
痛みの基準は、人間が知覚可能な最大限の痛みの数億倍という設定になっています。
また、【激痛】はダメージ判定を伴わないので【治癒】でも痛みは消えませんし、麻酔や痛覚を麻痺させる系統の薬物や施術でも痛みを止める事が不可能でした。
通常、生物は激しい痛みに見舞われると、痛みの影響から脳や神経を守る為に、脳内麻薬を出したり、失神したり発狂したり、それが過剰に作用してショック死してしまう場合があります。
しかし、【超神位】による【激痛】は失神や発狂やショック死すら出来ず、明瞭な意識を完全に維持したまま永遠に耐え難い痛みが続く最悪の魔法でした。
これは、【ウトピーア法皇国】の独裁者であった6人の枢機卿達が刑罰として受けている魔法と同じモノです。
「【魔法中断】。お前が、あの【犬人】の少女と【ニンフ】を拷問したのですね?」
私は【激痛】を止めて、質問しました。
「な、な、何……」
拷問官の男は、私の質問には答えません。
いや、自分が置かれている状況が理解出来ていない可能性がありますね。
ならば、状況が良く理解出来るように、身体に教えてあげましょう。
「【超神位……激痛】」
「ひぎゃーーっ!」
「【魔法中断】。あの【犬人】の少女の素性は?如何して拷問を受けているのですか?それを命じたのは誰ですか?」
「え?な、何が……」
「【超神位……激痛】」
「あばばばばーーっ!」
・・・
こうして、私は都合20回【激痛】と【魔法中断】を繰り返し、私が知りたくて拷問官が知り得る限りの情報を全て聞き出しました。
ゲームマスターの私は、ログを見れば生命体の過去の行動を詳かに調べられますが、それでは拷問官を拷問をする必要がなくなってしまいます。
この鬼畜のような拷問官には、是非とも身を以て拷問を体験してもらって、自分がやった事の意味を理解してもらいたいですからね。
スパイやテロリストを尋問する際などに拷問を行う場合もあるようですが、それは相手が不法行為を働いているから許される……あ、いや、建前上国際法では戦争捕虜や犯罪者はもちろん、スパイやテロリスト相手にも拷問は許されていないらしいのですが、本音では……爆弾テロなどを防ぐ為に、テロリストの一味を拷問して爆弾を仕掛けた場所を喋らせたりする……ような緊急避難の超法規的措置の実例は、過去に【ドラゴニーア】などでも行われたようです。
まあ、私は【世界の理】に違反しない限り、その辺りの国際法運用上の本音と建前は見て見ぬフリをしてあげますよ。
綺麗事だけでは安全保障が守れない事くらい、私も理解していますので。
アルフォンシーナさんは、そういう【ドラゴニーア】の暗部や負の側面も含めて、私とミネルヴァに全ての情報を隠さず開示してくれました。
それも、私やミネルヴァからは何も要請していないのにです。
自発的にそんな事をしてくれた政府は、現時点で【ドラゴニーア】1国しかありません。
とはいえ、ミネルヴァのサーベイランスは、一度でもサーバーや魔法通信機を介してやり取りされた情報ならば、世界中のあらゆる政府・ギルド・企業・組織・個人のデータを全て知る事が出来ますけれどね。
とにかく、アルフォンシーナさんと【ドラゴニーア】政府は、私とゲームマスター本部に全く情報を隠すつもりがないという事を行動で示してくれました。
なので、私もミネルヴァも、アルフォンシーナさんと【ドラゴニーア】政府を、他国よりも信用しています。
話が脇道に逸れました。
拷問は国際法違反ですが、緊急避難的に止むを得ず拷問をしなければならないような致し方ない理由があれば、私はそれを見て見ぬフリをするという話です。
しかし、私がログを調べた限り、あれ程酷い拷問を受けていた【犬人】の少女も、その【盟約の妖精】の【ニンフ】も、拷問を受けても致し方ないような理由は全く見当たりませんでした。
何ら非がない無辜の相手に拷問を行う事が認められるなら、同じ理屈で拷問官自身が拷問されても文句は言えない筈です。
なので、私は拷問官にも拷問を行いました。
もちろん、私はゲームマスターの職業意識を振り絞って、最終的には拷問官の【超神位……激痛】を解除します。
ただし、それまでは出来るだけ長く痛め付けてやるつもりですよ。
国家紛争における戦時国際法違反や、その他【世界の理】には関係ない雑多な犯罪行為を取り締まったり刑罰を執行するのは、ゲームマスターの役割ではありません。
まあ、やろうと思えば、ゲームマスターは、それをやる権限も能力も【創造主】から与えられていますけれどね。
「ぎゃーーっ!あぎゃーーっ!ひっ、ひっ、ひぎゃーーっ!」
拷問官は、痛みにのたうち回りながら、拷問器具に手を伸ばしました。
おそらく、刃物系の拷問器具を使って自殺して、痛みから解放されようとしているのでしょう。
そうは問屋が卸しません。
「【麻痺】」
私は、拷問官を麻痺させました。
拷問官はバタリと倒れます。
「……!」
拷問官は苦悶の表情を浮かべて叫んだままの状態で、麻痺して硬直しました。
身体が麻痺しても、【超神位……激痛】の効果は永続します。
拷問官は、色々な場所から様々な液体や半固体を垂れ流していました。
汚ね……。
私は、拷問官が垂れ流す汚物が流れて来ないように、拷問官の周りに【結界】を張ります。
叫び声は止まりましたが、まだ拷問官の気配が煩いですね。
こういう下衆は、気配まで下卑ています。
ウィロー……こちらに来て下さい。
私は【念話】で指示しました。
畏まりました。
ウィローは【念話】で了解します。
私直属の部下であるトリニティやカリュプソではなく、トリニティの従者であるウィローを呼んだ理由は、彼女の午前中のスケジュールは【研究室】にいて暇……あ、いや、比較的行動の自由があるからでした。
「ノヒト様。如何されましたか?」
ウィローが【共有アクセス権】を通じて私を目標に【転移】して来ます。
「この【犬人】の少女と【ニンフ】を【ワールド・コア・ルーム】に運んで、医務室で安静に寝かせておいて下さい。両名とも重要保護対象者ですし、四肢や感覚器官が欠損していたので、しばらくは満足に動けないでしょうから扱いは丁重にお願いします。詳しい事情はミネルヴァが知っています」
「……畏まりました。では……」
ウィローは、麻痺して動かない拷問官の方をチラッと見た後で、【犬人】の少女と【ニンフ】を連れて【転移】しました。
さてと、これから面倒な仕事をしなければいけません。
予定が立て込んでいて時間もありませんので、面倒事は多少乱暴でも手取り早い方法で片付けてしまいましょう。
私は、自分で上空に飛んでいる【キー・ホール】の位置を微調整してから【転移】しました。
お読み頂き、ありがとうございます。
もしも宜しければ、いいね、ご感想、ご評価、レビュー、ブックマークをお願い致します。
活動報告、登場人物紹介&設定集もご確認下さると幸いでございます。
・・・
【お願い】
誤字報告をして下さる皆様、いつもありがとうございます。
心より感謝申し上げます。
誤字報告には、訂正箇所以外のご説明ご意見などは書き込まないようお願い致します。
ご意見ご質問などは、ご感想の方にお寄せ下さいませ。
何卒よろしくお願い申し上げます。