第1203話。【シエーロ】武道大会。
本日2話目の投稿です。
【ドラキュラ城】の広間。
私達は、お茶を飲んで休憩しながら、【シエーロ】の【巨人】族の自治領域である【ゴライアス帝国】の皇帝ユルドルム・ゴライアスを待っていました。
ユルドルム帝には、末娘のバーガンディア・ゴライアスを迎えに来てもらいます。
私は、グレモリー・グリモワールとリントに頼まれて、今日中に【キララウス山】の麓にある【獣人】の自由自治領【ログレス】の様子を見に行かなくてはならないので暇ではありません。
ミネルヴァが策定した本来のスケジュールでは、私は午前中の予定を消化したら昼食前に【ログレス】に飛んで、2時間程現地の様子を見て来る予定でしたが、バーガンディアの所為で時間的に余裕がなくなりつつあります。
午後は【サントゥアリーオ】で【保育器】輸送、夜間は【パンゲア】の【パノニア王国】民の移民事業と、スケジュールがピッチピチに詰まっているので、昼食前しか空きがないのですよ。
本当にバーガンディアは迷惑ですね。
バーガンディアは、アポなしで私の元に押し掛け……家来にして欲しい……と仕官を要請しました。
このような私やゲームマスター本部への飛び込み就職活動は迷惑なだけなので、ミネルヴァから世界に一斉通達を出してもらい一律で禁止していたのです。
バーガンディアは、その通達に違反しました。
一応、ゲームマスター本部の職員採用窓口というモノは、ある事はあります。
基本的に面倒な採用応募を、ミネルヴァが一括して断る前提の窓口なので、採用窓口というか不採用窓口なのですけれどね。
勇者ピルエット・ルミナスや、高ランク冒険者パーティ、現役の各国政府関係者や各ギルドの関係者などが、多数不採用窓口に応募して来ました。
珍しい所では、【悪魔王】の【アレーテイア】などという者もいましたね。
【アレーテイア】には……現在採用枠はないが、将来的に採用の可能性があるので、それまで【世界の理】を守って穏当に暮らしていれば、声を掛けるかもしれない……と、お茶を濁して、彼女が人種コミュニティなどに対して悪事を働かないように牽制しておきました。
「ま、【巨人】は基本的に物事を深く考えないで行動する性質があるから、致し方ないよね」
グレモリー・グリモワールは言います。
「物事を深く考えないのなら、ミネルヴァからの……売り込み禁止……の通達に盲目的に従っていれば良いのです」
「【巨人】は直情即断で、思い立ったら直ぐ行動ってのがテンプレだしさ」
「グレモリー。やけに、バーガンディアを擁護しますね?」
「いや、擁護なんかはしないよ。ゲームマスター本部の決めたルールは守らなきゃならない。でもさ、バーガンディアの抜け駆けは良くないにしても、ノヒトの部下として【巨人】を雇うのは、ワン・チャンありなんじゃね?【巨人】は理想的な【前衛壁職】だしね」
「規律と統制という意味で【巨人】はなしですね。【調伏】が可能で、完全に行動を支配出来る【巨魔人】や【炎巨魔人】、それから【鬼】族などなら一考の余地がありますが……」
【調伏】された【魔人】や魔物は、主人に服従しますし、【命令】という形で行動を強制する事が可能でした。
しかし、【巨人】族は、人種同様【調伏】する事が出来ません。
一方で、【巨魔人】や【炎巨魔人】は【巨人】系の【魔人】なので、【調伏】が可能です。
【巨魔人】や【炎巨魔人】を味方ユニットとしてパーティに組み込めば強力な【前衛壁職】として運用出来るでしょうね。
【巨人】系の【魔人】は【超位】の自然回復力を持ち、【防御力】や【耐久力】のステータスが【巨人】よりも高いので、【調伏】すればパーティの守りは鉄壁になります。
【調伏】出来れば……ですけれどね。
【調伏士】の最上位【大調伏師】のユーザーでも、【巨魔人】や【炎巨魔人】を【調伏】するのは超高難易度・超低確率なのです。
過去に【巨魔人】や【炎巨魔人】の【調伏】に成功したユーザーは数例、【巨魔人】や【炎巨魔人】の【調伏】に成功したNPCはいません。
一般的に【魔人】や魔物を【調伏】するには、その前段階で【調伏】する対象を死亡寸前まで弱らせるか、自分の力が【調伏】対象より圧倒的に強大である事を見せ付けて屈服させる必要があります。
【巨魔人】や【炎巨魔人】は、まずクッソ強いので屈服させるのが困難極まりありません。
そもそも【巨魔人】や【炎巨魔人】は数が少なく【遭遇】自体が稀ですしね。
【鬼】は巨体ではありますが、最大でも身長4m程度なので、【巨人】系の【魔人】ではありません。
どちらかと言えば、人種の【オーガ】に近似します。
対して【巨人】族と、【巨魔人】や【炎巨魔人】など【巨人】系の【魔人】の身長は最大で10mにも及び、巨体の桁が違いますからね。
【竜】と比肩する大きさです。
因みに、ユーザーは【鬼】を始め【魔人】のキャラ・メイクをする事が可能ですが、【巨人】、【巨魔人】や【炎巨魔人】などの【巨人】系【魔人】のキャラ・メイクは出来ない仕様になっていました。
人種コミュニティの都市や、人種の店舗や各ギルドなどは基本的に人種のサイズ感で造られているので、身長10mだなんて馬鹿気たサイズでは、ユーザーがゲームを快適にプレイ出来なくなりますからね。
「でもさ……ノヒトの家来になりたい……っていう気持ちが強い連中は、きっちり指導して、行動を【契約】で縛れば問題ないんじゃね?」
「恣意的な解釈の余地が残るので、【契約】は完璧ではありません」
「それは、【調伏】にも言えるっしょ?」
「【調伏】された【魔人】や魔物は、自ら主人に絶対服従の意思を持つという点で【契約】より拘束力と信用が高まります」
「でもさ〜……家来になりたい……っていう連中を頭ごなしに全く受け入れない方針だと、拒否られた連中が鬱屈したネガティブな感情を溜め込んで良くないんじゃね?自分は採用を断られたのに、ゲームマスター本部の職員は狡い。アイツらを亡き者にすれば、採用枠が空くのでは?……なんて物騒な事を考える馬鹿が出るかもよ。【巨人】って基本的に頭がアレだし」
「……そういう事がないとは断言出来ませんが、ゲームマスター本部の外勤組は、【巨人】如きに襲われたところで歯牙にも掛けない強者ばかりですし、内勤組は基本的に【ワールド・コア・ルーム】から外に出ませんので安全です。グレモリーが想定するような事態は起きませんよ」
「内勤組も外出するっしょ?休みの日は?お昼休憩に【竜都】のレストランに行ってみたい……と思ったら?纏まった休暇で海外旅行に行きたいと思ったら?まさか、一生【ワールド・コア・ルーム】に閉じ込めておくつもり?」
「【知の回廊】の中の商店街や飲食店、それから【シエーロ】にも観光地はありますよ」
「そこで襲われない保証は?」
「ないとは言えませんが、【知の回廊】に入る際に【知の回廊の人工知能】がセキュリティ・チェックはします。旅行には護衛を付けさせるとか手立ては幾らでもありますよ」
「結局は自由に行動出来ないって事じゃん」
「では、如何しろと?」
「で、考えたんだけれど、試験をしたら良いんじゃね?応募を断る前提なら、その試験をクッソ難しくすれば良いじゃん。そのクッソ難しい試験をクリア出来るんなら、ゲームマスター本部に採用しても損はないよね?仮に試験に落ちたら、当人もある程度納得するんじゃね?つまり、オーディションだよ」
「そういう観点はありませんでしたね。文官なら筆記試験と論文と面接。武官は如何するのですか?」
「武道大会を開けば?優勝商品はゲームマスター本部への採用。参加資格は【世界の理】を遵守し、今後も遵守し続ける事。種族・年齢・性別・学歴などは一切問いませんってね。そんで事前に……ノヒトの独断と偏見に基づく合否判定に一切文句を言うな。後で文句を言うなら、オーディションに参加するな……って【契約】しておく。それから、ゲームマスター本部採用の【シエーロ】武道大会には1回しか挑戦出来ないとしておけば、不採用者を1回で排除出来る。要は……ノヒトの家来になりたい……とか……ゲームマスター本部で働きたい……っていう志望者を、取り敢えずオーディションって形で結果を出して断る口実を作れれば良い。それで、気分的に多少は納得する奴も居るっしょ?」
「優勝者が、私やミネルヴァが欲しいような、能力・人格・見識を備えているとは限りませんよ」
「なら、決勝シードでノヒトやトリニティさんが出て行けば良いでしょ。決勝に勝ち進んで来た奴が気に入らないならノヒトが一瞬でブッ飛ばして、気に入った相手なら何合か打ち合ってからブッ飛ばして……私にガードを取らせたな。中々やるじゃないか……とか適当な事を言って採用しちゃえば良いじゃん」
「インチキですよね?」
「細け〜事は〜良いんだよ。雰囲気、雰囲気」
「で、決勝以前で敗退した者を採用したい場合は?」
「そんなの、後でコッソリ採用しちゃえば?オーディションのレギュレーション的には不合格だったけれど、見るべき所があったから育成枠でスカウトした……とか適当な理由を付けてさ」
「う〜ん……」
「てかさ、これはオーディションってより、武道大会の立て付けに意味があるんだよ。世界同時生中継にして、ノヒトやトリニティさんがクッソ強いって事を世界中にアピールする機会に使う訳。あの【レジョーネ】対【熾天使】の団体対抗戦の視聴率は歴代最高を叩き出して、今もちょくちょく再放送している。アレを観て……やっぱり守護竜やアルフォンシーナさんはヤバいんだ……って事実が視聴者に再認識された。アルフォンシーナさんによると、あの後元老院でのアルフォンシーナさんの求心力は爆上がりしたらしいよ。同じように、ノヒトってマジ半端ないって、わからせれば、世界中の知的生命体の教化に役立って【世界の理】を破ろうとする輩も減ると思うんだよね〜。そんで、テレビの放映権でもゲームマスター本部は儲かる。一石三鳥」
「なるほど。予選は【闘技場】を保有する各国に丸投げしてしまえば良い、と」
「そう。ゲームマスター本部採用を掛けた【シエーロ】武道大会の予選会なら、観客やテレビ視聴者も多いし、賭けの対象としても収益が見込めるから、各国は喜んで予選会の運営を引き受けてくれるっしょ」
「ミネルヴァ……」
チーフ……一定の効果が期待出来る悪くないアイデアだと思います。
ミネルヴァが【念話】で言いました。
あ、そう。
「グレモリー。前向きに検討したいと思います。アイデアを頂き、ありがとうございます」
「私は……何かしら祭になれば面白い……と思っただけだよ」
「そういう訳ですので、バーガンディア。私の家来になるチャンスは武道大会で掴んで下さい。今後アポなしで押し掛けて仕官を願い出て来たら、次は本当に酷いですからね」
私は、バーガンディアに釘を刺しました。
「はいっ!……」
バーガンディアは元気良く返事をすると、勢い良く立ち上がろうとします。
ガンッ!
「ほげっ!痛〜……。ぜ、絶対に優勝して、ノヒト様の家来になります……」
バーガンディアは、勢い良く天井に頭を打ちました。
やれやれ……。
大丈夫ですか、この娘は?
・・・
程なくして、バーガンディアの父親である、【ゴライアス帝国】の皇帝ユルドルム・ゴライアスが、少人数の護衛と共に到着しました。
「こぉ〜のっ、馬鹿者が〜っ!」
ビターーンッ!
「へぶぉっ……」
うわっ、痛そう……。
ユルドルム帝は腰を屈めて大広間に入って来ると、一旦私に頭を下げてから、バーガンディアに向き直り彼女を引っ叩きました。
思い切り振り被ってのフル・スイング、ジャスト・ミート。
【高位】の攻撃威力値を計測する、一般的な人種なら即死の一撃です。
バーガンディアの下顎が顎関節の可動域を超えて、おかしな方向にズレてしまっていますが、【巨人】族には、自然治癒力の上位【常時発動能力】である【自己再生能力】がありますので、このくらいの怪我ではビクともしません。
直ぐに外れた顎が勝手に治ってしまいます。
【巨人】族は、この【自己再生能力】によって恐るべきタフネスを誇りますが、その代わり【治癒】や【回復】が効き難いという性質がありました。
「ノヒト様。不肖の馬鹿娘が、とんでもない粗相を致しました。この上は、このユルドルム……老腹を掻っ捌いて、自刃して果てる所存。なので如何か、この馬鹿娘のバーガンディアと、その共廻りの両人の生命は助命嘆願申し上げます」
ユルドルム帝は平伏して言います。
「あ〜、城が汚れるから、ここで切腹しないでよ」
グレモリー・グリモワールが制しました。
ユルドルム帝は、自分の生命と引き換えに娘の助命を請うたのです。
1国の君主の在り様としては無責任にも思えますが、同じ娘を持つ父親としてユルドルム帝の気持ちには共感出来ますね。
「自刃は必要ありません。そもそもバーガンディア達の生命を取る気などありませんよ。バーガンディアには……二度と同じ事をするな……と言って聞かせました。それを守ってくれれば、もう結構」
「おお、何たる慈悲深い御裁定。誠にありがとうございます」
ユルドルム帝は……ガンッ!……と、床に額を打ち付けながら言います。
なにやら面倒臭そうなのが増えましたね……。
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