第1201話。閑話…守護竜は辛いよ…中編。
【サントゥアリーオ】の【リントヴルム大聖堂】。
妾が管轄するウエスト大陸は、問題山積。
頭を抱える事態になっている。
その対応に当たる中枢を成すべき聖堂の体制が整備されていないのが痛い。
でも、それは英雄大消失による混迷を何とか打破しようとして、かつての法皇ウルリーカ・プルミエールが行った力による支配の結果起きた独裁と暴虐を見て、妾が人種に絶望し【サントゥアリーオ】国境を封鎖して一切の接触を絶った事が原因。
つまりは、妾の自業自得。
ウルリーカは、妾が過去の首席使徒で最も期待して目を掛けた傑物。
彼女が妾の期待通りに大成すれば、ウエスト大陸は千年の繁栄が約束される……筈だった。
妾は、今でもウルリーカの能力は、ニーズのところの大祭司だったディーテ・エクセルシオールや、ソフィアお姉様のところの大神官アルフォンシーナ・ロマリアと比べて、全く遜色ないと信じている。
でも、ウルリーカは深淵に魅入られ、闇に飲み込まれてしまった。
ウルリーカは彼女なりに……ウエスト大陸を善くしたい……と真摯に、そして切実に希求したのよ。
ディーテやアルフォンシーナも、ウルリーカと同じように、力を背景にした強権的な方法で、血の代償を伴った改革を断行したわ。
そして、ディーテとアルフォンシーナの改革は成功した。
2人の成功例が、ウルリーカが暴走した遠因にはなっているのかもしれない。
ウルリーカと、ディーテやアルフォンシーナの違いは、ウルリーカが独裁による絶対権力を目指したのに対して、ディーテやアルフォンシーナは民主主義を至向した事。
独裁は、意思決定の早さや、選択と集中の論理において優れる。
でも、独裁者が判断を誤れば致命的な失策に繋がりかねない。
ウルリーカ自身も、それは折り込み済で選んだ荊棘の道だったのだけれど、彼女は独裁の暗闇に抗えなかった。
民主主義は、意思決定が遅く、方針が曖昧な折衷に帰結する傾向があり、衆愚に陥る例が散見される。
でも、集合知による効能が生まれ易く、民衆の意思を正しく糾合出来れば、妾のような【神格者】すら驚愕するような成果の結実を得る可能性もあり得るのよ。
ディーテとアルフォンシーナは、民主主義の明光に照らされた。
明暗が如実に分かれた訳。
でも、これは【創造主】が振ったサイコロの出目が偶々そうだったというだけ。
独裁が誤った悪とも、民主主義が正しい善とも限らない。
【創造主】のサイコロの出目によっては、結果が正反対に転がる可能性もあった。
どちらが正しいかは、結果を見るまでは誰にもわからないのよ。
ウルリーカは、少しだけ幸運に恵まれなかったに過ぎないわ。
ダメね……。
いつまでもウルリーカの事ばかりに囚われてはいられないのよ。
今のウエスト大陸の問題に対処しなくちゃ。
【ブリリア王国】。
途上国問題。
妖精信仰教会問題。
内戦処理問題。
インフレ問題。
対【イスプリカ】問題。
対【ウトピーア】問題。
ウエスト大陸の諸問題で重要な命題が所謂……途上国問題……というモノ。
途上国問題っというのは、読んで字の如しよ。
つまり、貧困問題、雇用問題、格差問題、治安問題、医療問題、教育問題……その他諸々という途上国には付き物の問題。
貧困問題……永遠のテーマね。
つまり、特効薬はないわ。
生産力と生産性を上げて、税収を増やし富の再分配を行う。
これに尽きる。
雇用問題も同じ。
雇用を生む施策を行うしかない。
ただし、【ブリリア王国】には有利な点がある。
それは、ノヒトとグレモリーのおかげで【ブリリア王国】は【ウトピーア法皇国】との戦争に勝った。
その賠償金をアテに出来るのは大きい。
【ブリリア王国】は、ノヒトに滅ぼされた【ウトピーア法皇国】を後継した【ウトピーア】から支払われる賠償金で公共事業を行い、雇用を創出して、産業インフラを整備して、国内総生産も上げられる。
それによって生み出された富を公正に再分配すれば、格差問題も是正出来るわ。
税収が増えて積極財政が行えるようになれば、投資として治安も医療も、ある程度は整備出来るわね。
教育問題は、【ブリリア王国】は来年初頭から義務教育制度を採用する事になった。
かなり見切り発車の感は否めないけれど、致し方ないわ。
これは、多少強引にでも始めてしまって、問題があれば逐次対応して行くしかない。
妖精信仰教会問題。
以前の【ブリリア王国】は、ニンフェル・ファルマファータとかいう実在しない【妖精】を信仰する教義を掲げるカルトを国教として信仰していた。
妖精信仰教会の内実は、単なる既得権化した集金装置の詐欺集団に過ぎない。
【妖精女王】のウルスラが配下の【妖精】族を動かして……ニンフェル・ファルマファータなんか存在しない。妖精信仰教会は【ブリリア王国】民を騙している……って事実を広報して回ってくれているおかげで、【ブリリア王国】民は急速に妖精信仰教会から、妾への信仰に改宗している。
それから、妖精信仰教会は、グレモリーも怒らせているわ。
これが妖精信仰教会にとっては致命的。
グレモリーの愛する養子のフェリシアとレイニールが、妖精信仰教会の教義と戒律の所為で【湖竜】の生贄にされ掛けた事件で、グレモリーは妖精信仰教会に対して心底激怒している。
グレモリーは妖精信仰教会を絶対に許さないでしょうね。
現在【ブリリア王国】の王マクシミリアンが、妖精信仰教会を潰す為に色々と動いているけれど、マクシミリアンの施策が手緩いと思えば、グレモリーが直接妖精信仰教会の殲滅に動き出す筈。
既に、王都【アヴァロン】と【イースタリア】と【ノースタリア】の妖精信仰教会と所属聖職者は全て妾とグレモリーへの信仰に改宗済。
もはや妖精信仰教会は死に体だわ。
因みに、妾と並んで、グレモリーも【サンタ・グレモリア】や【イースタリア】や【ノースタリア】では、ローカルな信仰対象として人々から祈りを捧げられている。
【ブリリア王国】の庶民の間では、グレモリーは……湖畔の聖女……という通り名の方が有名なくらい。
その事を本人は知らないけれど……。
内戦処理問題は、対【ウトピーア法皇国】戦争に呼応して、【ブリリア王国】のバーソロミュー公爵が、マクシミリアンに対して叛乱の挙兵をした事件よ。
ところが、対【ウトピーア法皇国】戦争は、グレモリーが自前の私兵で勝利してしまった。
マクシミリアンと【イースタリア】の領主で前侯爵(現【イースタリア】と【ノースタリア】の領主で公爵)のリーンハルトは、対【ウトピーア法皇国】方面をグレモリーが受け持ってくれたおかげで、騎士団と国軍・領軍の最精鋭をそのまま、バーソロミュー達叛乱軍にぶつける事が出来たわ。
結果、バーソロミュー達叛乱軍は、呆気なく鎮圧されてしまった。
これの事後処理が残っている。
でも、これはマクシミリアンがやれば良いわね。
現在マクシミリアンは、対【ウトピーア法皇国】戦争と、バーソロミュー達叛乱軍との内戦に完全勝利した事で、国民からの支持と求心力が上がっているから、政治的リソースは十分な筈。
妾はマクシミリアンを【ブリリア王国】王に【指名】して王権神授した。
妾が権威を与えたのだから、マクシミリアンには、しっかり働いてもらうわ。
インフレ問題。
【ブリリア王国】は独自通貨を持っている。
歴代王が、その自国通貨を無軌道に乱発した所為で【ブリリア王国】はハイパー・インフレを起こしていた。
この解決の為に、現在【ブリリア王国】は、グレモリーの助言で、デノミと変動為替相場制を維持しながら、ある程度国際基軸通貨の【ドラゴニーア通貨】をキャッチ・アップする金融政策に転換している。
この政策のおかげで、【ブリリア王国】の物価は安定した。
【ドラゴニーア】政府と【世界銀行ギルド】による、中・長期的な国債の引き受けも、【ブリリア王国】の通貨価値安定に寄与しているわ。
おそらく、将来的に【ブリリア王国】は自由同盟に加入する事になるでしょうね。
対【イスプリカ】問題は、【ブリリア王国】は長年【イスプリカ】と安全保障上対立関係にある事。
でも、これはグレモリーと【サンタ・グレモリア】が【ブリリア王国】側に付いている事で、【イスプリカ】には勝ち目がない。
それ程大きな問題ではなないわね。
対【ウトピーア】問題は、【ウトピーア】が【ウトピーア法皇国】時代の対外覇権主義を止めて国際協調路線に転向した事で、表面上は対立が解消している。
でも、今後【ブリリア王国】と【ウトピーア】は貿易で激しく競合する事が予想され、【ブリリア王国】にとっては、ある意味では戦争より厳しい状況になるかもしれない。
【ブリリア王国】と【ウトピーア】は、戦後処理で自由貿易協定を結んだ。
【ブリリア王国】は産業的に立ち遅れた途上国で、【ウトピーア】は工業先進国。
そして両国は国境を接している。
自由貿易協定によって、今後【ウトピーア】から大量の工業製品が輸入されれば、下手をすると【ブリリア王国】の国内産業は完全に駆逐されてしまうかもしれない。
【ブリリア王国】が【ウトピーア】から受け取る巨額の賠償金も、【ウトピーア】からの先行投資として回収されてしまう可能性もある。
この舵取りを誤ると、【ブリリア王国】は【ウトピーア】の狩場になるだけだ。
グレモリー曰く……マクシミリアンは経済に弱い……から心配。
でも、貿易などルールに基づいた2国間の競争に妾は介入しない方針だから、マクシミリアンと【ブリリア王国】は自力で難局を乗り越えて欲しいわ。
【ブリリア王国】は農業・畜産などの分野では、【ウトピーア】より気候的に有利なのだから、自由貿易協定を上手く利用すれば、【ブリリア王国】と【ウトピーア】の双方に利がある。
マクシミリアンと【ブリリア王国】には精々頑張ってもらう他はない。
【イスプリカ】。
奴隷制問題。
途上国問題。
竜神信仰教会問題。
内戦問題。
盗賊・海賊問題。
対【クレオール王国】戦争問題。
対【ブリリア王国】問題。
対【ニダヴェリール】問題。
【イスプリカ】の問題はわかってはいても、【イスプリカ】は妾の命令を全く聞かないから、現時点では如何にもならない。
でも一応、分析だけは行っている。
【魔界】平定戦が始まって【魔界】の状況が落ち着けば、いずれノヒトが【イスプリカ】を処断して、妾が対応する事になるのだから。
【イスプリカ】は帝都【イスポリス】に居る皇帝と、皇帝が死んだら次代の皇帝を選ぶ権限を持った選帝侯と呼ばれる諸侯が治める封建連合国家。
【イスプリカ】も【ガレリア共和国】同様にウエスト大陸に残る奴隷制採用国家ね。
そして【ガレリア共和国】と違って【イスプリカ】は、ノヒトからの奴隷制廃止勧告を無視している。
【イスプリカ】は【ガレリア共和国】より悪質。
従って、【イスプリカ】は早晩ノヒトに滅ぼされるわ。
ただし、【イスプリカ】には中々難しい国内事情があるのよ。
【イスプリカ】皇帝の権力は、帝都【イスポリス】を中心とした皇帝直轄領にしか及ばず、その他の都市は半ば独立国家として好き勝手にやっている。
事実、【イスプリカ】皇帝は、ノヒトの勧告を受けて速やかに奴隷解放を行った。
でも、そのやり方が余りにも無造作だったから、大問題を引き起こしている。
【イスプリカ】皇帝は、ある日突然……奴隷解放……の勅令を出して、皇帝直轄領で勅令に従わない者を問答無用で逮捕して財産を没収してしまった。
解放された元奴隷は如何なったのか?
解放奴隷の元使役者から没収された財産を頭割にして分配されて、それで終わり。
後は自力で勝手に生きて行け、と。
そんな無茶苦茶な方法って考えられない。
解放された元奴隷達は、単純労働や肉体労働に携わって来ただけで、経営などの知識やノウハウを全く持っていないのだから。
読み書き計算すら満足に出来ない者が大半だわ。
そんな状況で、分割された農地だったり、工場や鉱山や店舗などの分割された権利を貰ったって、真面に農業や工鉱業や商業で身を立てて行ける訳がない。
実際、【イスポリス】の皇帝直轄領は、経済が破綻してしまった。
更には解放奴隷による争乱と略奪すら始まっているわ。
呆れて物が言えない。
愚か極まりないのよ。
その他の選帝侯領では、奴隷制を採用していたり、廃止していたり、廃止しようとしていたり、と方針が様々だけれど、奴隷商が領内で堂々と商売をして人身売買が行われている事では【世界の理】違反には変わりないわね。
途上国問題。
【イスプリカ】も途上国問題を抱えている。
対応策は【ブリリア王国】と同じ。
でも、【イスプリカ】が妾の命令を聞かないのだから、対応策が実行出来ない。
竜神信仰教会問題。
【イスプリカ】が国教として信仰する竜神というのは、セントラル大陸の守護竜で現世最高神たる【神竜】のソフィアお姉様の事ではなく、どうやら複数の【古代竜】の総称らしい。
つまりは、竜神なる【古代竜】は【神格者】ではないのだから、偽教や邪教の類よ。
ただし、【ガレリア共和国】の精霊信仰や、【ブリリア王国】の妖精信仰とは違い、【イスプリカ】の竜神と呼ばれる【古代竜】達には実体と実益がある。
【古代竜】達は、【イスプリカ】の皇帝権力の後盾となり、【イスプリカ】国内の魔物を討伐し、【イスプリカ】国民から事実感謝され崇敬されているわ。
これが厄介。
実体と実益を伴った信仰は、その教義や教会が偽物だと暴いて、妾の信仰に改宗させるスキームが使えない。
これは、仮に【魔界】平定戦が落ち着いて、ノヒトが介入した後も変わらず残る構図だから、困った状況なのよ。
現状では有効な手立てがない。
将来的に【イスプリカ】が【世界の理】を守って穏当に統治されるなら、この際妾への信仰なんか如何でも良いのだけれど……。
内戦問題。
【イスプリカ】は皇帝と各選帝侯達が相争うバトル・ロイヤルの状況よ。
酷い有様ね。
この内戦が延々と続いている所為で、敵対関係にある双方が、お互いの捕虜を奴隷として使役し、それが巨大な奴隷ビジネスになっている。
ビジネスになっているから……商品の奴隷を仕入れる為に他の領地に戦争を仕掛けて人を拐って奴隷を確保する……という悪循環が起きているわ。
盗賊・海賊問題も同じ構図。
Aという領国の盗賊は、Bという領国で犯罪を犯しても、A国に戻れば処罰されない。
盗賊・海賊を取り締まろうにも、Bにとっての犯罪者は、Aでは英雄になるのだから。
なので【イスプリカ】の治安は最悪。
ノヒトとグレモリーは【イスプリカ】を……修羅の国……と呼んでいるわ。
対【クレオール王国】戦争問題。
これは、妾は【クレオール王国】を支持する……以上。
対【ブリリア王国】問題。
これも同じ、妾は【ブリリア王国】を支持する……以下同文。
でも、こちらは【キララウス山】の麓に暮らす【獣人】自治領域【ログレス】の帰属問題が絡むから、少し状況が複雑ね。
でも、これはグレモリーの策略でノヒトが動いてくれる事になったから問題ない。
卑怯な策でノヒトに面倒を押し付けたグレモリーには少しヒヤヒヤしたけれど、ノヒトってグレモリーに全幅の信頼を預けているのよね。
ノヒトとグレモリーは神界では身内だったらしいけれど……。
身内って親戚?
それとも元恋人とか?
両者の関係は謎だわ。
対【ニダヴェリール】問題。
これは、他の大陸が絡む国際問題だから、少し対応が難しいわね。
【イスプリカ】の選帝侯領の1つ【アラゴニア】の前選帝侯は、ノース大陸の【ニダヴェリール】王家からヴィヴィ・アムダールという姫を娶った。
その後選帝侯は、弟に謀反を起こされ殺されたのよ。
ヴィヴィ・アムダール・アラゴニアは、【アラゴニア】から脱出して東の【クレオール森林】に逃げ込んだ。
ヴィヴィは、【クレオール森林】に偶々居たノート・エインヘリヤルに運良く庇護され、以後ヴィヴィはノートの陣営に参与している。
【ニダヴェリール】の王ヴァルト・ニダヴェリールは、愛娘が行方不明になり、また愛娘の夫を殺されて激怒していた。
ヴァルトは、選帝侯領【アラゴニア】、延いては【イスプリカ】との全面戦争も辞さずという剣幕なのよ。
ヴィヴィ本人と、【ニダヴェリール】からヴィヴィに付いて行った側仕え達、それから前【アラゴニア】選帝侯とヴィヴィの間に生まれた子供が、ノートと【クレオール王国】に庇護されていて無事だとわかった事と、ノヒトとグレモリーとディーテがヴァルト王を抑えてくれたおかげで、戦争は当面避けられたけれど、今後の推移次第では如何なるかは依然として予断を許さない。
現在、ウエスト大陸を管轄する妾と、ノース大陸の守護竜ニーズが、日々情報共有をして緊密に連携を取り合っているから、仮に戦争になっても守護竜同士が敵対する最悪の事態にはならないと思うのだけれど、人種の喧嘩に守護竜が出て行くと問題が大きくなるから、慎重に対処しなければならない事だけは確かね。
お読み頂き、ありがとうございます。
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