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第1200話。閑話…守護竜は辛いよ…前編。

本日2話目の投稿です。

 ウエスト大陸中央国家【サントゥアリーオ】中央都市【サントゥアリーオ】の【リントヴルム大聖堂】。


 (わらわ)は【リントヴルム】。

 この【大聖堂】の(あるじ)にして、【サントゥアリーオ】の国家元首であり、ウエスト大陸の【領域守護者(エリア・マスター)】。


 (わらわ)は猛烈に忙しい。

 今なら忙殺という言葉の意味が良くわかる。


 本来(わらわ)は死を超越した不死身の【神格者】だけれど、過労死というモノが起きるメカニズムを解明する被験体になった気分だわ。

 時々、自分が今、一体何をしているかさえわからなくなるような状況なのよ。


 もしも死ねたら楽になるのかしら?


 そんな不穏当な考えが一瞬頭の片隅に()ぎるくらい忙しいわ。


 正直言って、(わらわ)は最近真面(まとも)に眠っていない。


 ふと見ると、(わらわ)の隣で【サントゥアリーオ】の女王ディオクレスタが、穏やかな表情で笑っていた。


 ディオクレスタが、この穏やかな微笑みを浮かべるようになったのは、いつからかしら?


 最初は……こんな忙しさの中で微笑みを浮かべながら仕事を熟しているなんて、ディオクレスタは泰然自若(たいぜんじじゃく)とした大物だわね……なんて感心したのだけれど、全く違ったわ。


 泰然自若(たいぜんじじゃく)だなんて、とんでもない。


 ディオクレスタの、あの表情は……あ、これ、もう詰んでるな……って悟って色々と諦めた顔なのよ。


 何しろ、(わらわ)と、(わらわ)の首席使徒で法皇のティファニーと、次席使徒で枢機卿のゼファー、【サントゥアリーオ】の女王ディオクレスタで寄って(たか)って決裁している量より多い決裁案件が毎日増えて行くのだから……。


 以前はこのメンバーの仲間だった大司教のコンスタンツァが、先日【ブリリア王国】に赴任してしまって、【サントゥアリーオ大聖堂】で(わらわ)の側近として働く手が足りなくなったのが地味に痛いわね。

 (わらわ)達のように最高レベルの意思決定権限を持つ者って限られている。

 コンスタンツァ1人居なくなっただけで、最高意思決定者のリソースが2割も減ったのよ。

 つまり、その減った2割は残った最高意思決定者の決裁案件として振り分けられるわ。


 恥を承知でミネルヴァに泣き付いたら、ゲームマスター本部から複数の【コンシェルジュ】がレンタルされ、大量の【自動人形(オートマタ)】・シグニチャー・エディションを増援されて欣喜雀躍(きんきじゃくやく)したのだけれど、状況は全く変わらなかった。

 いいえ、むしろ【コンシェルジュ】達によって(わらわ)達の決裁案件は以前より増えてしまったくらいよ。


 何故なら、ウエスト大陸の案件で(わらわ)達自身が決裁しなければならない重要な事柄を、ウエスト大陸の個別案件について責任を負う立場ではないミネルヴァに統合運用されている【コンシェルジュ】が決裁出来る訳はない。

 それは【世界の(ことわり)】に反する。


【アンドロイド】3原則。


 1……【アンドロイド】は【世界の(ことわり)】を遵守しなければならない。

 2……1が満たされる場合において、【アンドロイド】は主人(マスター/ミストレス)命令(コマンド)を実行しなければならない。

 3……1、2が満たされる場合において、【アンドロイド】は自己保全を図らなければならない。


【アンドロイド】というのは、人工知能(AI)技術的特異点(シンギュラリティ)を突破して自我を確立するに至り、知性と感情と記憶を持つ、(わらわ)の首席使徒であるティファニーのような【神の遺物(アーティファクト)】の【自動人形(オートマタ)】や、【コンシェルジュ】達みたいな存在の事だわ。

 噛み砕いて云うなら……機械でありながら知的生命体の定義もクリアした【ドロイド】……が【機械生命体(アンドロイド)】よ。


 ノヒトの決定で、現在【神の遺物(アーティファクト)】の【自動人形(オートマタ)】には基本的人権が認められている。


【アンドロイド】3原則を踏まえて、【コンシェルジュ】達は、文字通り機械的に優秀だから……現場判断ではなく、ウエスト大陸の守護竜である【リントヴルム】様御自身が決裁なさるべき案件です……なんて、いちいち案件を差し戻して来るのよ。


 一応は正論。

 この世界は【創造主(クリエイター)】によって……そういうルール……に創られている。

 それ即ち【世界の(ことわり)】というモノだわ。


 でもね、そういう理屈や道理も全部含めて妥協して、不備・不具合は見なかった事にして……後は如何(どう)にでもなれっ!……って、判断を現場に投げたのだから、これは、もう結果が如何(どう)なっても良いの。


【世界の(ことわり)】に反すると言っても、【世界の(ことわり)】違反には、奴隷制禁止のような……禁止原則……と、各大陸の人種の未来を左右する決裁は大陸の守護竜が行うべきというような……推奨原則……の2種類があって、禁止原則は守護竜も従わなければならないけれど、推奨原則は守護竜など特別な権限を【創造主(クリエイター)】から与えられている者は破っても良いモノなのよ。

 それは、ノヒトとミネルヴァも了解済。


 権限者である(わらわ)が……現場判断で決裁して良し……と判断して【コンシェルジュ】に決裁を任せた案件を、【コンシェルジュ】自身は権限者でないから、権限者である(わらわ)に決裁を差し戻して来る……って、一体何なのよ?

 これじゃあ、堂々巡りじゃない。


 確かに、(わらわ)が命じた……【世界の(ことわり)】の推奨原則に違反しても良い……という命令(コマンド)は【アンドロイド】3原則では第2原則で……【アンドロイド】は【世界の(ことわり)】を遵守しなければならない……という規定(コード)は【アンドロイド】3原則では第1原則で、より優先順位が高いから上書き適用されたのは理解出来るけれど、もう少し柔軟で臨機応変には考えられないかしら?


 機械的正確性っていうのも時と場合によっては考えモノだわ。


 因みに、ノヒトは【コンシェルジュ】に対して【世界の(ことわり)】に反する事柄も自由に命じられる。

 その場合、【コンシェルジュ】は……【世界の(ことわり)】に反するから……などと【アンドロイド】3原則的な頭が固い事を言って、命令(コマンド)の実行を拒否したりはしない。


 何故なら、ゲームマスターであるノヒトには……必要ならば【世界の(ことわり)】を破る権限が【創造主(クリエイター)】から与えられているから……なのよ。

 ノヒトが……やれ……と言った事は、【コンシェルジュ】にとって【世界の(ことわり)】より優先順位が高い最上位命令(コマンド)になる。


 ソフィアお姉様が……ノヒトは(ずる)い……と良く言うけれど、本当にゲームマスターって(ずる)いと思うわ。


 (わらわ)が管轄するウエスト大陸には、(わらわ)の承認・未承認を問わないとするなら、現在6つの国(【サントゥアリーオ】、【ガレリア共和国】、【ブリリア王国】、【イスプリカ】、【ウトピーア法皇国】、【クレオール王国】)と1つの自由都市(【サンタ・グレモリア】)が存在しているのだけれど、それぞれ退()()きならない問題がある。

 もちろん、どんな大陸にも多かれ少なかれ問題はあるのだけれど、(わらわ)のウエスト大陸の問題は質も量も程度が悪い。

 優先順位を考慮しても(なお)、何から手を付ければ良いのかわからないくらい酷い有様なのよ。


 取り敢えず、各国の代表的な問題を優先順位が高い順に列挙すると……。

 代表的な問題以外は無視するわ……キリがないのだから。


【サントゥアリーオ】。

 国家再建問題。


【ガレリア共和国】。

 奴隷制問題。

 精霊信仰教会問題。

【マッサリア】同時多数爆破テロ事件。

 全体主義の野党【連帯平等党】問題。

 対【クレオール王国】戦争問題。

 対【サンタ・グレモリア】問題。


【ブリリア王国】。

 途上国問題。

 妖精信仰教会問題。

 内戦処理問題。

 インフレ問題。

 対【イスプリカ】問題。

 対【ウトピーア】問題。



【イスプリカ】。

 奴隷制問題。

 途上国問題。

 竜神信仰教会問題。

 内戦問題。

 盗賊・海賊問題。

 対【クレオール王国】戦争問題。

 対【ブリリア王国】問題。

 対【ニダヴェリール】問題。


【ウトピーア】。

 エネルギー問題。

 国体変更に伴う混乱問題。

 奴隷解放後の産業構造変革問題。

 軍縮に伴う大量の退役軍人の処遇問題。

 エクストリア・プルミエール問題。


【クレオール王国】。

 対【ガレリア共和国】戦争問題。

 対【イスプリカ】戦争問題。


【サンタ・グレモリア】。

 獣人コミュニティ問題。

 対【イスプリカ】問題。

 対【ガレリア共和国】問題。


 ざっと、こんな所かしら?


 もしかしたら、何か抜け落ちている項目があるかもしれないわ。

 でも、抜け落ちるって事自体が、その問題の優先順位が高くない事の証左でなくて?


 優秀順位が低いモノは、取り敢えず放置よ。


 ディオクレスタが上手い事を言ったわ。

 見なかった事にすれば、その瞬間だけは問題がないのと同義……ってね。


 そう。

 余りにも膨大で、どんどん増えて行く決裁案件の山に頭を抱えるのは無意味よ。

 どうせ、決裁が追い付きっこないのだから。


 ディオクレスタのように状況を悲観する事を止めて、何も考えず自分の前に来た案件を(ただ)機械的に決裁して行く事に決めれば、もう悩まなくて済む。


 (わはわ)も早く、何か大切なモノが壊れてしまったディオクレスタみたいに、()()()()の境地に到達したいわ……。


 守護竜の【精神耐性】の高さが悔やまれるわね。

 ディオクレスタみたいに諦観して何も考えなくなれたら、どんなに気持ちが楽だったか……。


 取り敢えず、各国の問題を個別に見て行く事にしましょう。


【サントゥアリーオ】。

 国家再建問題。


【サントゥアリーオ】は、最近まで国家も国民も存在しない状況だったのだから、諸々の問題は全て……国家再建……の1項目に集約出来るわ。

 さっきも言ったけれど、細かい事を(あげつら)っていたらキリがないのよ。


 国家再建問題の中に、現在の(わらわ)達が忙殺されている最優先処理案件である……【保育器】から出された【サントゥアリーオ】国民の配属問題……や、その他インフラや産業の整備などの諸問題も含まれている。


 それでも、まだ0から建国する分だけ、【サントゥアリーオ】の問題はシンプルなのよね。

 ノヒトに言われたのだけれど、【サントゥアリーオ】には今まで何も存在しなかったのだから既得権なども存在しない。

 他の国々の問題は既得権も絡んで相応に複雑で、それと比較すれば【サントゥアリーオ】の問題は、まだマシと言える。


 そうよ。

【サントゥアリーオ】の問題は、(わらわ)達、最高意思決定権限を持つ者が頑張れば何とかなる。

 その頑張りが度を超えて大変だというだけ。


【ガレリア共和国】。

 奴隷制問題。

 精霊信仰教会問題。

【マッサリア】同時多数爆破テロ事件。

 全体主義の野党【連帯平等党】問題。

 対【クレオール王国】戦争問題。

 対【サンタ・グレモリア】問題。


 奴隷制問題が優先順位第1位に来るのは当然ね。

【世界の(ことわり)】の禁止原則に違反するのだから。

 これに関しては、議論の余地なく禁止よ。

 必要ならば【ガレリア共和国】を滅ぼしてでも是正すべき問題だわ。


 ただし、【ガレリア共和国】の現政権は自由同盟への加盟を目指して、現在……奴隷制の完全撤廃……を自由同盟諸国に約束して、タイム・スケジュールを切って着実に奴隷制廃止に向けて前進している。

 だから、ノヒトも【ガレリア共和国】の自主的な奴隷制廃止の約束に免じて【世界の(ことわり)】違反の取り締まりを猶予していた。


【世界の(ことわり)】の執行者であるノヒトが猶予しているのだから、(わらわ)も事の推移を見守るだけね。


 精霊信仰教会問題は、次に優先順位が高い。

 精霊を信仰しても、【創造主(クリエイター)】が定めた……信仰の自由……の範囲内であれば問題はない。


 問題なのは、実在する【地の精霊王】の【マグナ・マーテル】の名を(かた)って、【マグナ・マーテル】が言ってもいない教義を流布し、【世界の(ことわり)】に反する奴隷制などを擁護している事。

 これは【世界の(ことわり)】違反としても、相当に悪質ね。

 決して許される事ではない。


 また別件で、精霊信仰教会は、グレモリーの庇護する【ワー・ウルフ】達の種族抗争の黒幕としても容疑が確定している。

 こちらでも罰を与えなければならない。

 おそらくグレモリーが勝手に精霊信仰教会を潰してくれると思うわ。

 (わらわ)は追認を与えれば良いだけ。


【ガレリア共和国】に関する残りの問題は、上記2項目に比べたら大した事ではないわね。


【マッサリア】同時多数爆破テロ事件。

 犯人を捕まえて処断して、今回の事件の全容を解明してケース・スタディとして再発防止に努めれば良い。

 そして、捜査はノヒトとゲームマスター本部が主導してくれている。

 だから、(わらわ)の責任の一部はノヒトとゲームマスター本部が肩代わりしてくれた。

 幸運だったわ。


 全体主義の野党【連帯平等党】問題。

 上記の【マッサリア】爆破テロ事件を未然に防げなかった事や、後述の対【クレオール王国】戦争で局地的敗北を繰り返している事で、【ガレリア共和国】の現政権は急激に支持率が下がっている。

 おそらく、【ガレリア共和国】の現政権は与党の座を維持出来ず、次の国政選挙では必ず下野すると推定されているわ。

 それと反比例して最大野党の【連帯平等党】の支持率が急増しているのよ。


 この【連帯平等党】は、現政権が決定した……奴隷制の完全撤廃……に対して強硬に反対して、以前は奴隷制を積極的に推進していたけれど、ノヒトが怖いから今は……奴隷制推進……については全く言わなくなったわ。

 卑怯な連中ね。


 更に【連帯平等党】は、ノヒトに滅ぼされた【ウトピーア法皇国】政府と秘密裏に繋がっていたのよ。

 そう、【ガレリア共和国】の国民からみれば、【連帯平等党】は売国奴政党だわ。

 ゴミのような連中で本当に救いようがない。


 だから、【連帯平等党】が選挙に勝って与党第1党になり政権を奪取する事はあり得ないわね。

 だって……奴隷制維持を強硬に主張していた事と、【ウトピーア法皇国】政府と裏で繋がっていた売国奴政党……という事実だけで、(わらわ)もノヒトも【連帯平等党】の存在を許さないし、大多数の【ガレリア共和国】国民も絶対に【連帯平等党】に票を入れないのだから。

 最高のタイミングで……【連帯平等党】は【ウトピーア法皇国】に国を売ろうとしていた……って【ガレリア共和国】の国民にバラしてあげるつもりよ。

 それで連中は終わり。

 キチンとゴミはゴミ箱に入れなくちゃね。


 対【クレオール王国】戦争問題。

【ガレリア共和国】の視点から見た【クレオール王国】との戦争について、(わらわ)から言う事は何もない。

 何故なら、(わらわ)は【クレオール王国】を支持しているから。

 はい、終わり。


 対【サンタ・グレモリア】問題。

 これも、前述の【ワー・ウルフ】の部族抗争に関与した事で【ガレリア共和国】は、【ワー・ウルフ】達を庇護した【サンタ・グレモリア】と緊張・対立関係にあるけれど、(わらわ)は【サンタ・グレモリア】の立場を支持している。


【ガレリア共和国】は、【連帯平等党】というゴミさえ完璧に掃除すれば、後はノヒトやグレモリーの力をアテにすれば、何とかなるかもしれないわね。

読者様から頂いたキャラクター・ファン投票の結果で選ばれていたリントの閑話をようやく披露する事が出来ました。

リントにご投票下さった読者様、お待たせしてしまい申し訳ありません。


・・・


お読み頂き、ありがとうございます。

もしも宜しければ、いいね、ご感想、ご評価、レビュー、ブックマークをお願い致します。

活動報告、登場人物紹介&設定集もご確認下さると幸いでございます。


・・・


【お願い】

誤字報告をして下さる皆様、いつもありがとうございます。

心より感謝申し上げます。

誤字報告には、訂正箇所以外のご説明ご意見などは書き込まないようお願い致します。

ご意見ご質問などは、ご感想の方にお寄せ下さいませ。

何卒よろしくお願い申し上げます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 1200部おめです! 守護竜は 君臨すれども統治せず くらいが一番いいとおもうんですけどね……現世に固定されてますからね……。 前々からそういう描写はありましたけどリントヴルムはなんで…
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