第120話。ネクタール(神蜜)。
名前…ソフィア
種族…【神竜】
性別…雌
年齢…なし
職種…【領域守護者】、セントラル大陸守護竜、【ドラゴニーア】庇護者・国家元首
魔法…【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】など。
特性…飛行(【神竜】形態時)、ブレス、【神位回復・神位自然治癒】、人化、【世界の理への介入】、【才能…転移、天意、天運】など。
レベル…99(固定)
本作のメインヒロイン?
人化した姿は、幼稚園児の幼女。
性格はワガママだが聞き分けは良い。
卵が好物。
【ラニブラ】の中央塔。
正午。
私達は、大地の祝福をしていたファヴと合流しました。
ファヴは、午後、私達と遺跡に潜ります。
現在、【ムームー】には、私が【粒子崩壊】で絶滅させた為に、魔物がいません。
多少、魔物が湧いたり、また、他所から魔物が流入したりしているようですが、神の軍団・緑師団が偵察巡回し、魔物を見つけ次第、討伐しているので、極めて安全です。
きっと、現状、【ムームー】は、【アトランティーデ海洋国】内と同等の安全が保たれているでしょう。
なので、シェフのディエチと、助手役の【自動人形】達を出して、塔のメイン厨房を借り、シッカリとした料理を作ってもらいました。
メニューは、海鮮丼と、クイーンが育てた野菜を使った筑前煮。
時々、無性に和食が食べたくなります。
ソフィアも、和食が口に合うようで、時々、リクエストして来ました。
「お米は、素晴らしい穀物ですね。サウス大陸で大々的に作付けして、サウス大陸の主要な穀物に位置付けようと考えています」
ファヴが言います。
地球でも、南方の温暖で湿潤な地域では、米は主要な輸出品目となるくらいに良く生育していました。
サウス大陸では、麦より米の方が育ちやすいでしょうね。
「このマグロという肉……美味しいですわ……」
トリニティが何やら感動しています。
「本マグロは、海に生息する魚だよ」
「魚なのですか?遺跡にも魚系の魔物はいましたが、いずれも身は白く、味も淡白な物ばかりでした。このように味のある身質の魚がいるとは、驚きです」
「トリニティは、海を知っておるか?」
ソフィアが訊ねました。
「知識としては【創造主】から与えられております。見たことはありません」
「うむ。奪還作戦は大詰めじゃ。奪還作戦が終了したら、ゆっくりと観光して帰るのじゃ。その時に海にも立ち寄ろうの。海には美味しいモノがいっぱいいるのじゃ。我は【クラーケン】を捕まえてやるつもりじゃ」
「はい、是非、お供致します」
【クラーケン】は、【高位】のイカの魔物。
そう言えば、以前、【ドラゴニーア】の中央市場に行った際、ソフィアは好物だという【クラーケン】を探し回っていましたね。
【ムームー】で緑師団が魔物を討伐しているように、千年要塞に展開した白師団の方も魔物を完全に制圧してしまい、【パラディーゾ】、【ティオピーア】、【オフィール】の各師団も、魔物を制圧しつつあるようです。
倒した魔物は、コアだけは、師団長に預けた【宝物庫】に回収してもらっていますが、あとの部位は、神兵達の食糧としても良い事にしていました。
もちろん、公平に分配してもらうように各師団長には、厳命してあります。
当初の奪還作戦では、10月1日になったら、私とソフィアとファヴで、サウス大陸中を広域殲滅して回り、地上の魔物を制圧する予定でした。
その為の戦場無人化戦術だったのですから……。
現在、計画は大幅に修正されていました。
どうやら、神の軍団が地上の魔物を駆逐してしまう勢いだからです。
しかし、これで良いのです。
想定、予定は、常に変わるモノ。
現状の最善手を打ち続ける事が合理主義であり現実主義。
計画に行動が縛られるなんて、愚の骨頂ですからね。
神の軍団が活躍しているおかげで、もしかしたら、私達は出番がなくなるかもしれません。
そのくらいに名持ちの【古代竜】たる神兵達2000頭は、魔物を圧倒していました。
神の軍団は、優秀です。
ゴトフリード王が……【アトランティーデ海洋国】にも欲しい……などと言っていますが、維持コストが賄えないでしょうから、無理でしょうね。
神の軍団は、1年で、オーストラリアで飼育されている牛を全て食い尽くしてしまう量の肉が必要です。
私とソフィアは、神の軍団の食糧は、セントラル大陸の遺跡の魔物で賄う予定でした。
セントラル大陸では、遺跡の管理を【ドラゴニーア】軍が行なっている為に、それが可能なのです。
遺跡に冒険者を招致し、国内に、お金を落としてもらったり、魔物素材を重要な資源として扱っているセントラル大陸以外の地域では、遺跡を丸ごと牧場にしてしまうような思い切った政策は取れないでしょう。
「ソフィアお姉様、遺跡は、どうですか?」
ファヴが訊ねました。
「うむ。今までのところは、全く、手応えがないの。ノヒトがズルい技を使う故、何ら困難な状況は起きぬのじゃ」
「ズルい技?」
「ただの【理力魔法】ですよ」
私は説明します。
「あんな広範囲に作用し、あんな高出力を出す【理力魔法】があってたまるか。あれは、ノヒトにしか出来ぬ。ズルいのじゃ」
「見てみたいですね」
ファヴが言います。
「地面の下に魔物が潜んでいるようなエリアなら、見せてあげられるよ」
遺跡の亜空間フィールド・エリアの環境や地形は、リセットされる度にランダムで生成されます。
また、一定期間で、ガラリと変わりも、しました。
なので、入ってみるまで、10階層ごとの環境や地形がどうなっているのかは、わからないのです。
「別に、湿地や砂漠に関わらず、全てのエリアで、アレをやれば良いのじゃ。魔物を空中に拘束して、狩り放題なのじゃ」
「ソフィアは、楽だろうけれど、私は【超神位魔法】の【理力魔法】を使うと、その制御にかかりきりになるから、前衛に出られなくなるし、不測の事態にも対応が難しくなる。魔物が普通に地上を歩いているようなフィールドでは、逆に効率が悪くなるんだよ」
「【超神位魔法】の【理力魔法】!やはり、普通の【理力魔法】では、ないではないか!ズルじゃ、ズル。ノヒトは、ズルっこいのじゃ」
酷い言われようです。
まあ、否定はしませんけれど……。
「ところで、ノヒトよ。神兵達にもチュートリアルは、受けさせられないじゃろうか?我やファヴがチュートリアルを受けられたのじゃ。つまり、【竜】族に連なる者は、チュートリアルを受けられるのでは、ないかの?」
「魔物は無理だよ」
私は、チュートリアルに魔物が挑めないものか、と、プライベート・キャラが【調伏】してペットにしていた【小竜】で戯れに試した事がありました。
【小竜】は、成竜に成長しても、大型犬ほどの大きさにしかならない小さな【竜】です。
あの【小竜】は、別荘の庭に放し飼いにしていましたが……どうしているでしょうか……。
別荘の庭は、敷地内に山々が連なるような広大な領域でしたので、動物もたくさんいました。
餌には、事欠かないはずです。
しかし、900年の歳月が流れてしまいました。
【竜】族の寿命は、千年ほどありますから、生きている可能性はありますが……。
少し、しんみりしてしまいましたね。
「ノヒトよ。一度、試してみて欲しいのじゃ。守護竜も【竜】。理屈の上では、【古代竜】でも、出来そうな気がするのじゃ」
ソフィアは、こういう好奇心が発露すると、実際に試してみないと納得しませんからね。
仕方ありません。
「わかった。一回だけ試して見せるよ」
私は、近くにいた、緑師団の師団長であるヴェルデを呼びました。
・・・
チュートリアルを試した結果。
やはり魔物は、チュートリアルに挑戦出来ませんでした。
「我やファヴが出来て、【古代竜】に出来ない。この差は何じゃ?腑に落ちないのじゃ」
ソフィアは、まだ納得していません。
「ソフィアお姉様、もしかしたら、人化、ではないでしょうか?チュートリアルは、人種、トリニティのような【魔人】など、人型に限るのでは?」
「オラクルは、チュートリアルが出来なかったのじゃ」
「オラクルは生命体ではないので、除外されてしまったのではないでしょうか?」
「うむ。試してみよう」
ソフィアが【神竜】形態に現身して、チュートリアルの転移魔法陣に乗ります。
え?
転移しない。
「ソフィアお姉様、やはり人型をとっていないと、チュートリアルに挑めないのですよ」
ファヴが言いました。
「うむ。どうやら、ファヴの説が有力そうだな」
【神竜】形態のソフィアが言います。
ソフィアは、人化しました。
刹那……ソフィアは、チュートリアルの転移魔法陣に吸い込まれるようにして、姿が掻き消えます。
・・・
1秒後。
「おのれ、あやつ……」
ソフィアは、またも、自分自身のコピーと激闘を繰り広げて来たようです。
しかし、これで、ファヴ説の正しさが、ほぼ立証されました。
チュートリアルには、人型の生命体しか挑戦出来ない。
ゲームマスターの私も知らなかった仕様です。
・・・
昼食後。
私達は、ファヴも加えて、オピオン遺跡の80階層ボス部屋の奥の部屋に戻って来ました。
昼休憩の間にも、魔物が溜まっていましたが、ソフィアが殲滅します。
さあ、さっさと、遺跡を攻略してしまいましょう。
81階層〜89階層は、草原エリアでした。
私達が、進んで行くと、早速、空からは【竜】が複数の【翼竜】を引き連れて飛来。
地上からは、【バジリスク】が複数の【地竜】を引き連れて突進して来ます。
「ソフィア、ファヴ、空の獲物は任せます。私は地上の獲物に向かいます」
「任せるのじゃ」
「わかりました」
ソフィアとファヴは、武器を引っさげて、突撃して行きました。
「オラクルとトリニティは協力して敵に対処しなさい。ただし突出しないように」
「畏まりました」
「仰せのままに」
強力な防御力を持つ装備を与えているオラクルと、強力な攻撃魔法を駆使するトリニティのコンビは、相性が抜群です。
2人が強力すれば、【超位】の魔物を相手にしても、問題ないでしょうから、このエリアにいる【高位】の魔物程度に遅れをとる事はないでしょう。
私は、超音速で、【バジリスク】に突撃。
【バジリスク】は【石化】のブレスを吐いて来ますが、無視。
当たり判定なし・ダメージ不透過の私には、どんな攻撃も無効となります。
私は、【神剣】を続けざまに振り抜き、一瞬で地上の群を殲滅しました。
すると、私の周囲に、ドシンッ、バタンッと【竜】と【翼竜】が墜落して来ます。
ソフィアとファヴも、空の敵を撃滅したようですね。
私は、魔物の死体を【収納】に回収しました。
ふと、見ると、オラクルとトリニティが、【地竜】と対峙しています。
【地竜】のブレスを、オラクルが盾【アイギス】で防ぎ、オラクルの背後に守られていたトリニティが、雷撃をまとわせた【トライデント】を投擲。
見事に打ち倒しました。
まあ、2人なら【地竜】ごとき、単独でも倒せますから、危なげない完勝ですね。
私達は、草原エリアを、どんどん踏破して行き、90階層のボス部屋に到達しました。
私は、安全を優先して、オラクルを【収納】にしまいます。
・・・
90階層のボスは、【スフィンクス】の番。
眷属は、【竜】9頭です。
【竜】は、私とトリニティが駆逐。
【スフィンクス】の雄にソフィアが突撃。
【スフィンクス】の雌は、ファヴが対応します。
【スフィンクス】の雌が【超位雷魔法】の【霹靂】を放ちました。
ファヴは、無数に降り注ぐ落雷を巧みに交わしながら、【神位ブレス】で応戦します。
【スフィンクス】の雌もファヴの【神位ブレス】を紙一重で回避していましたが、その隙にファヴが肉薄。
最期は、ファヴの十文字槍【クルセイダー】が、【スフィンクス】の雌の頭部を貫きました。
・・・
ソフィアの方は、瞬殺です。
【スフィンクス】の雄が【超位ブレス】を吐きましたが、ソフィアは、避けようともせず、それを真っ二つに切断。
そのまま突撃して、スパーーッと鮮やかな太刀筋で、【スフィンクス】の雄の首を斬り飛ばしてしまいました。
・・・
私は、魔物の死体を回収。
その間に出現した【宝箱】をソフィアが開きます。
ソフィアには、【ミミック】の判別法を教えたので、もうトラップにハマって、噛み付かれる心配はありません。
「ソフィア、宝は何だった?」
「これじゃ。これは何じゃ?」
ソフィアが小瓶に入った、ピンク色に発光する液体を見せました。
これは!
「ソフィア、これは凄いよ。【神蜜】だ」
「【ネクタール】とは何じゃ?」
「ソフィアお姉様、【神蜜】とは、死者を蘇生させる力を持つという伝説の飲み物です。実物を初めて見ました。それは、ごくごく稀に遺跡で手に入るという大変に貴重なモノですよ」
博識のファヴが解説します。
「ふむ、遺跡限定の復活アイテムではないのか?」
「ソフィア。それは、正真正銘の死者蘇生の効果があるアイテムだよ。蘇生条件は、死体の大部分が残っている事……死後、1時間以内に死者の体内に流し込む事……死者が寿命で死んだ訳ではない事。【神蜜】は飲料だから、【神の遺物】ではないけれど、希少価値は【神の遺物】以上だね」
「ほおー、死者蘇生の【神蜜】とな。ノヒトにも作れぬモノなのじゃな?」
「原料が入手出来ないから、不可能だね。原料は、【慈愛の女神の涙】なんだ」
もちろん、そういう設定になっているという意味ですが……。
「【慈愛の女神】?聞いた事がない神の名じゃ」
「【慈愛の女神】は、【創造主】の母神だよ」
「ならば、【創造主】の母神に頼めば良かろう?」
泣いてくれ、って?
それは、どうなの?
いや、そうでなくて……。
「それがね。【創造主】の両親は、父神の【聡明の神】と、母神の【慈愛の女神】なんだけれど、2柱の神は、子供の【創造主】に能力の全てを委ねて、存在が消えたんだ。簡単に言えば、死んでしまったのさ。だから、【神蜜】は、遺跡の【宝箱】からしか入手出来ない。超激レア・アイテムなんだ」
もちろん、【創造主】の父母神の話は、ゲームの世界観の一つとして創作された設定に過ぎません。
「なるほどのう……」
ソフィアは、私に【神蜜】を手渡します。
私は、【神蜜】を【収納】にしまいました。
【神蜜】の他には、【コンティニュー・ストーン】が3つ。
私達は、先に進みます。
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