第1199話。ノヒト・ナカ流部下の評価基準。
【ドラキュラ城】の広間。
【ドラキュラ城】の城部分……つまり【大霊廟】の上部構造は、グレモリー・グリモワールが大量の【機関砲塔】と【歩哨機関銃】を設置して重武装しているので防衛ギミックとして役に立っていますが、本来のゲーム・メタ的には余り重要ではありません。
何故なら【スポーン・オブジェクト】である【大霊廟】の基幹部は、【敵性個体】が守る地下通路であり、【守護者】の【ヴァンパイア】が守る【ボス部屋】だからです。
つまり、城部分は香り付けでしかありません。
古典アニメの某大佐の台詞ではありませんが……上部構造物などガラクタに過ぎん。この【スポーン・オブジェクト】の中枢は全て地下の亜空間フィールドに結晶しているのだ……という訳です。
現在、私達は、その【ドラキュラ城】の上部構造にある広間で、お茶を飲んで休憩していました。
【シエーロ】の【巨人】族による自治国家【ゴライアス帝国】の皇帝ユルドルム・ゴライアスの娘バーガンディアと彼女の供回りのゼノールとアロゴが押し掛けて来て、私の家来になりたいなどと売り込みを掛けて来た結果、彼女達を迎えに来る皇帝ユルドルムを待たなければならなくなったからです。
とても面倒臭い事になっているのですよ。
「グレモリー。申し訳ありませんね。あなた達も忙しいでしょうに……」
今日グレモリー・グリモワールは……封印していた【ドラキュラ城】(【大霊廟】)の【守護者】である【ヴァンパイア】のドラキュラを、私が【調伏】した後、グレモリー・グリモワールに主人権限を移譲する……という目的で来ました。
しかし、そのついでに、グレモリー・グリモワールには、やりたい事があったのです。
グレモリー・グリモワールは、この【ドラキュラ城】で【天蚕】事業を再開しようとしていました。
なので、彼女は、今日その前準備やスタート・アップをするつもりだったのです。
その為に【グレモリー・グリモワール・ファウンデーション】のCEOであるピオさんと、【天蚕】事業の【サンタ・グレモリア】側で行われる紡績・織布部門の担当責任者であるグレース・シダーウッド伯爵と、【織士】のクシカさん、イェパさん、ジャプラさんを連れて来たのですからね。
「ノヒトとミネルヴァさんが、【天蚕】の卵や幼生、それから【収穫機】とかの機器類も丸っと用意してくれる事になったから【天蚕】事業の目処は立ったし、今日は視察会以上の意味はなくなっちゃったから問題ないよ」
グレモリー・グリモワールは鷹揚に言いました。
「【天蚕】や機器類は、元来グレモリーの所有物だったモノを【知の回廊の人工知能】とルシフェルが盗んでいたので、あなたに返却するのは当然の事です」
「ま、それに何か面白い事になりそうだしさ」
グレモリー・グリモワールは、部屋の壁際に視線を動かして笑います。
「私は、ちっとも面白くありませんよ」
私が視線を向けると、広間の床で体育座りをしているバーガンディアが身を縮こませました。
【ドラキュラ城】(【大霊廟】)は巨大な建物ですが、基本的に人種サイズで創られているので、身長が人種に数倍する【巨人】には狭く、当然椅子やテーブルなどの家具も小さい為、バーガンディア達は床に座っているのです。
最初は正座をさせようかとも思いましたが、筋肉質の【巨人】族は、身体の構造状正座が出来ませんでした。
発達した太腿と脹脛の筋肉によって、正座をしようとしてもお尻が浮いてしまい、膝関節に負荷が掛かり、ちょっとした拷問のようになってしまいます。
私は、バーガンディアに反省を促したいとは思いますが、拷問する気はありません。
今回のバーガンディアの行動以外にも、私が【知の回廊の人工知能】を滅して、【シエーロ】の【天使】コミュニティの正規軍であるミカエル達と、反乱軍であるルシフェル達を同時に支配下に収めた直後から、【シエーロ】と北米サーバー(【魔界】)の【天使】と【巨人】から……ゲームマスターとゲームマスター本部の尖兵として戦いたい……あるいは……私の家来になりたい……という要請が数多くありました。
基本的に、【天使】も【巨人】も脳筋の戦闘狂ですし、強者に阿る性質がありますからね。
しかし、私は、絶対に信用出来ない部下を使う気はありません。
少なくとも、私の直属の部下や、ゲームマスター本部の正規職員としては……です。
私の部下を私が決めるのは当然の事ながら、ゲームマスター本部の正規職員も、チーフ・ゲームマスターの私か、私のパートナーであるミネルヴァが能力・人格(人種とは限らない)・見識を認めた者以外雇うつもりはありません。
例えば、私の直属の部下や、ゲームマスター本部の正規職員になった誰かが不法行為を働いたり、無辜の民に対して乱暴狼藉を働いたりすれば、大変な事になります。
信用問題になりますし、もしかしたら私やゲームマスター本部、延いては【創造主】への信仰体系すら破壊されてしまうかもしれません。
私は、そんなリスクを負えませんよ。
【シエーロ】と北米サーバー(【魔界】)のNPCで、【知の回廊の人工知能】とルシフェルが主導した数々の【世界の理】違反に加担していた者達は、現在刑罰として私の支配下にあります。
しかし、連中は私の部下やゲームマスター本部の正規職員ではありません。
仮に連中が何か罪を犯したら厳罰に処すだけの話で、別に連中の上司ではない私やゲームマスター本部が責任を取る必要はないのです。
そして、そもそもの話として私が部下に求める素養として最重要視するのは、信用あるいは信頼が出来るか如何かでした。
私が勝手に定義した部下に対する信用とは……部下に任せた仕事の結果は、私が全責任を負う……という事でした。
同じく、私が勝手に定義した部下に対する信頼とは……部下が私を裏切っても、致し方ないと諦められる……という事です。
正直に言って、私の都合や迷惑も考えず自分の願望を優先して……家来にしろ……と言って来るバーガンディアの事を、私は信用も信頼も全く出来ません。
むしろ、そのような性質のバーガンディアを部下にした場合、私は同じようなシチュエーションで何度も繰り返し迷惑を掛け続けられるでしょう。
なので、ミネルヴァからの通達で、私に仕官する為に直接売り込みを掛ける行為は、一律で禁止にしてありました。
ましてや、アポなしの飛び込み営業だなんて非常識にも程があります。
事実、私は今こうして、バーガンディアの為に本来なら必要がない労力と貴重な時間を使っているのですから。
私はゲーム会社で自分の部下を説教したり怒鳴ったりした事は一度もありませんが、私自身は物凄く短気でした。
グレモリー・グリモワールが私の元同一自我である事からも、私の本来の性質が垣間見えるでしょう。
私は、部下がミスを犯しても教訓を生かして成長してくれれば、どんなに大きなミスでも許していました。
実際、私が率いるプログラミング・チームには、普通の会社なら解雇になるような大きなミスをして会社に莫大な損失を出させた部下が結構いますからね……私も含めて。
しかし、つまらないミスを繰り返すような部下は1人もいません。
まあ、部下のミスによって生じる損失は、会社の損失であって私個人の損失ではないので、私は部下のミスの大小を無視出来る訳です。
最悪、会社が倒産しても、私は別の仕事を探せば良いだけですからね。
しかし私は、指導してもミスを何度も繰り返す部下には、それが極めて軽微なミスでも我慢が出来ない性質でした。
部下が同じミスを3回繰り返した場合、私はミスの大小に関係なく部下を切り捨てます。
会社から解雇にならなくても、少なくとも以後は二度と私の責任範囲にあるチームの仕事には関与させません。
厳しいと思うかもしれませんが、私は部下の遅刻とか無断欠勤とか、クライアントや取引先を怒らせてしまったとか、それこそ化粧が如何の、服装が如何の、身嗜みが如何の、言葉使いが如何のという、ゲーム・プログラムのクオリティに関係ない事を一切ミスには数えないので、一般的な会社員の感覚で言うなら結構ガバガバな上司かもしれません。
要は、私が部下に任せたタスクが期日までにキッチリ上がって来れば、遅刻や無断欠勤なんか如何でも良いのです。
化粧?服装?身嗜み?言葉使い?
何それ、美味しいの?
うちのチームは、夏場はアロハ・シャツに短パン、サンダル履きでサングラスをして、アイスを食べながら仕事をしていました。
長髪でも髭ボーボーでもピアスだらけタトゥーだらけでも問題ありませんし、言葉使いもタメ口、ギャル語、何でもありです。
私は仕事中にタバコは吸いませんが、喫煙ルームで咥えタバコで仕事をしている部下もいました。
仕事中のアルコールは、さすがに脳の機能が低下するので禁止にしていましたが……。
私が部下に任せたタスクが終われば、遊んでいても出社しなくてもOK。
会社のデスクで漫画を読んだりアニメを観たり、ドローンを飛ばしたりプラモを作ったりしても文句は言いません。
自分のタスクが終わった上で、同僚のタスクを手伝ってあげるなら、その分の給料をアップするように評価査定します。
クライアントや取引先を怒らせてしまったなんて、そもそもクライアントや取引先の事なんか知ったこっちゃありません。
私のチームはプログラミング・チームですから、ゲームのプログラムを完璧に作るのが仕事です。
クライアントや取引先のご機嫌伺いは営業の仕事で、うちのチームには全く関係のない領分ですので。
基本的にプログラマーがクライアントや取引先の人達と会う事はありません(管理職の私は、無理矢理会わされる場合もあります)が、時々うちの会社を訪問したクライアントや取引先の人達が、偶然社内でアロハと短パン姿にタトゥーだらけで廊下をスケボーで移動している私の部下を見掛けて……オタクの会社は一体如何なっているんだー!……とか怒り出す事もあるんですよね〜。
「プログラミング・チームの所為で、また取引先に謝まった。余計な仕事を増やすなよ」
……と営業部長。
「仕事に余計な仕事なんかあるんですか?どんな仕事も、仕事は仕事でしょう?」
……と私。
「お前らがマトモなら、謝る必要はないだろ?俺は、取引先への謝罪で半日潰れたんだぞ?」
「わかりました。なら、私達プログラミング・チームは今からストライキを宣言します。営業部長さんが、本来は自分の責任である取引先対応に関して、プログラミング・チームに領分を超えた不当な要求をして来たから、と」
「そんな馬鹿な言い分が通用すると思っているのか?解雇になるぞ!」
「別に構いませんよ。私も部下達も他の会社から、今より高い報酬でヘッド・ハンティングが来ています。私も部下も、うちの会社で働いている理由はフジサカさん個人を尊敬しているからで、会社に義理はありません。解雇なら、解雇で結構です。そもそも、プログラミング・チームの仕事のやり方は、全てフジサカさんから許可を得てやっています。あなたに文句を言われる筋合いはありません」
「こ、この野郎!後悔しても知らねーからな!」
……と、捨て台詞を吐いた営業部長が、後で後悔する羽目になりました。
もしも、他の部署の連中が、プログラミング・チームの仕事のやり方に文句を言うなら、私も他の部署の仕事のやり方に文句を言います。
クッソ程面倒な仕事を、そんな安いギャラで受注してくんじゃね〜……とか。
しかし、実際の私は決して他の部署の仕事のやり方には文句を言わず、営業が取って来た仕事は黙ってやります。
それがプロですよ。
例えば……今この儲からない仕事を受けて実績と信用が出来れば、次は儲かる仕事に繋がる……などという具合に、営業には営業なりの考えというモノがあるでしょうからね。
同じようにプログラミング・チームにも、プログラミング・チームなりの仕事のクオリティを上げる考えがあるのです。
だから……プロなら自分の責任領分の仕事は、黙ってやれ……という事。
あ、これは私の言葉ではなく、フジサカさんの言葉です。
ただし、誤解をしないように。
これは、あくまでも……ゲーム会社のプログラミング・チームのチーフ・プログラマーという立場ならそうだ……という事ですので。
チーフ・ゲームマスターとしての私は、当然チーフ・プログラマーとは全く違う仕事のクオリティが求められています。
チーフ・プログラマーの立場と異なり、チーフ・ゲームマスターの私は、クライアントや取引先……つまり、ゲームのユーザーやメディアの皆様に接する、言わば接客業ですので、もちろん服装、身嗜み、言葉使い、立ち居振る舞いなどの外面をキチンと取り繕わなければいけません。
あくまでも、自分の仕事の領分として必要な事は、黙ってキッチリやるのがプロなのです。
あ……もしかしたら、チーフ・プログラマーの私が余りにも社内で傍若無人に振る舞っていたのを問題視したフジサカさんが、対外的な役割をやらせて営業などの大変さを理解させようとしたのが、私をチーフ・ゲームマスターに指名した理由かもしれませんね……。
それはともかく、私の部下に対する評価基準は、業務内容毎に求められるクオリティに即したタスクをキチンと熟せるか如何なのです。
仕事内容が変われば求められるクオリティも変わるのは当たり前。
そういう訳で、今回のバーガンディアの振る舞いは、ゲームマスター本部的にアウトでした。
プログラミング・チームのチーフとしての私だったら、バーガンディアを雇ったかもしれません。
【巨人】にプログラミングが出来るのかはわかりませんけれどね。
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