第1197話。ドラキュラ。
【ドラキュラ城】(【大霊廟】)の地下最奥【ボス部屋】。
【ボス部屋】の中央には、豪華な棺が置かれていました。
この中に【ドラキュラ城】(【大霊廟】)の【守護者】である【ヴァンパイア】のドラキュラがいます。
取り敢えず、私はグレモリー・グリモワールに断ってから【ボス部屋】に【転移座標】を設置させてもらいました。
何か危急の際には、直ぐ此処に【転移】して来られるようにです。
【ドラキュラ城】(【大霊廟】)のような【スポーン・オブジェクト】は、【神格者】以外による外部からの攻撃では壊れません。
【スポーン・オブジェクト】のボス個体である【守護者】(【ドラキュラ城】の場合はドラキュラ)を倒す(殺す)と【スポーン・オブジェクト】は消滅しました。
現在【ドラキュラ城】(【大霊廟】)には住人がいませんが、いずれ此処はグレモリー・グリモワールの【天蚕】飼育場になり、【天蚕】の世話をする職人さん達がやって来て働く事になるでしょう。
その際、外部からの攻撃にはビクともしない【ドラキュラ城】(【大霊廟】)の中にいれば緊急時にも職人さん達は安全でした。
しかし、この【ボス部屋】に外敵の侵入を許し、【ドラキュラ城】(【大霊廟】)の【守護者】であるドラキュラが殺されてしまえば、【ドラキュラ城】(【大霊廟】)は消滅します。
なので、いざという時には、私が【ボス部屋】に【転移】して来れば、外敵を撃退出来ました。
とはいえ、【シエーロ】は【マップ】全域が【創造主】の直轄地で、現在は私が【シエーロ】の【天使】コミュニティと【巨人】コミュニティの支配者として君臨しているので、私の身内という扱いになっているグレモリー・グリモワールの別荘である【ドラキュラ城】に襲撃を仕掛けて来る者は、余程頭がアレでない限り居ないでしょう。
特に【シエーロ】のNPCコミュニティは、グレモリー・グリモワールとルシフェル達が【ラピュータ宮殿】で交戦した事件の顛末で、ルシフェル達が私からどんな厳しい裁定を下されたか知っていますからね。
しかし、本来【スポーン・オブジェクト】である【ドラキュラ城】(【大霊廟】)は、誰も所有権を主張する事が出来ないので、別にグレモリー・グリモワール以外の他者が攻略してしまっても【世界の理】上問題ありません。
ただし、先に【ドラキュラ城】(【大霊廟】)を占有したグレモリー・グリモワールが、【ドラキュラ城】(【大霊廟】)を攻略しようとする誰かを迎撃するのも、また自由。
その際、グレモリー・グリモワールが味方と協力して防衛する事も認められています。
そのグレモリー・グリモワールに協力する味方が、何を隠そう、この私。
私は中立なゲームマスターですが、プライベートまでは行動を拘束されません。
私がプライベートで友人のグレモリー・グリモワールに味方して、彼女の拠点防衛を手伝うのはセーフ。
いや、本来は限りなくアウトに近いグレー・ゾーンですが、世界の管理者であるミネルヴァが……セーフ……だと言うのですから、これはセーフなのです。
拡大解釈?
それに関しては否定しません。
ミネルヴァは、私の判断や行動に対しての評価査定が甘々ですからね。
もしも、私が日本に戻る事が出来た時に、ゲーム会社の査問で、この件が……アウト……という判断が下されたら、私は幾らでも処分を受ける覚悟です。
まあ、仮に日本に戻れて会社の査問が開かれても……異世界転移という不測の事故に巻き込まれた事による緊急避難の超法規的措置だ……と強弁すれば……会社も重い処分は科さない。いや、科せない……というのが、ミネルヴァの見解でした。
ミネルヴァ曰く……もしも、万が一にも会社の査問で、現在のチーフの判断や行動が咎められるような事になるなら、私は世界の管理【神格】として二度と会社には協力しない。それどころか会社の世界運営を、あらゆる手段を用いて妨害する……との事。
おいおい、ミネルヴァさんよ、ゲーム会社を脅迫する気ですか?
良いぞ、もっと言ってやれ。
ついでに、私の異世界転移に対する特別事故手当と残業代と、私の異世界転移期間から換算される有給休暇も丸っと請求してやりなさい。
そういう訳で、グレモリー・グリモワールの別荘を私が守る事は、ミネルヴァ判断でOKになりました。
まあ、これは何も私が公私混同している訳ではありません。
ゲームマスターである私の職責は……【世界の理】とゲーム【ストーリア】の世界観を守る(守らせる)事……です。
私が異世界転移という訳がわからない事態に遭遇して、あらゆるリソースが不足している現状、何かの時には不老不死で不死身のユーザーであり、おそらく【神格者】以外では現在世界最高の【魔法使い】であるグレモリー・グリモワールの力を借りなければならない事態があるかもしれません。
私とミネルヴァが、グレモリー・グリモワールに便宜を図って恩を売る見返りに、緊急時にはグレモリー・グリモワールも、私とミネルヴァに全面的に協力してくれる……という約束事なのです。
ゲーム会社にとっても、それはベストではないまでも、モア・ベターな選択である筈。
なので、これはゲームマスターの職務遂行に必要な、超法規的措置として認めてもらえる筈です。
認めてもらえますよね?
認めてもらえたら良いなぁ〜……。
「で、如何いう段取りでやる?」
グレモリー・グリモワールが訊ねました。
おっと危ない。
一瞬現実逃避していました。
今の私にとっては、この世界こそが紛れもない現実なのですからね。
「私がドラキュラを【超神位】の【麻痺】で拘束したら、その間に封印を解いて下さい。後はドラキュラを【調伏】して、主人権限をあなたに移譲して完了です」
私は段取りを説明しました。
「オッケー。よっこらせ……」
グレモリー・グリモワールが【理力魔法】で重厚な棺の蓋を開きます。
棺の中には、【超位超絶級】の【魔人】で、【第霊廟】の【守護者】の【ヴァンパイア】であるドラキュラが封印されていました。
ドラキュラの胸には魔法で生成された光の杭が打ち込まれており、彼は苦悶の表情を浮かべて硬直しています。
「【超神位……麻痺】。グレモリー、お願いします」
「【封印解除】」
グレモリー・グリモワールは、ドラキュラの封印を解きました。
すると、ドラキュラの胸に突き刺さっていた光の杭が光の粒子に変わって霧散します。
刹那……パチリッ……とドラキュラが目を見開きました。
「……」
ドラキュラは何か喋ろうとしていますが、私の【麻痺】が効いているので上手く声が出せません。
彼は、憤怒と怨嗟が入り混じった恐ろしい表情を見せ、血走った深紅の眼で私達を睨み付けています。
「【超神位魔法……回数……無限大……調伏】。ドラキュラ、お前の主人権限を、グレモリー・グリモワールに移譲します」
私は【超神位】の【調伏】を無限回数行使するという力技で無理矢理にドラキュラを支配下に収め、直ぐにグレモリー・グリモワールに主人権限を移譲して、【麻痺】を解除しました。
すると、ドラキュラは棺から起き上がります。
起き上がり方が、如何にもなホラー仕様でした。
ドラキュラは仰向けに横たわった状態から、寝返りを打ったり、手を突いて身体を支えたり、腰や膝を折り曲げたり……などの予備動作を一切せずに、真っ直ぐな体勢のままメトロノームのように突然ムクッと起き上がったのです。
「マイ・ミストレス……グレモリー・グリモワール様。私は、あなた様に心からの忠誠を誓い、終生お仕え申し上げます」
ドラキュラは胸に手を置いて言いました。
ドラキュラの所作には、優雅さと気品があります。
それが鼻に付きますね。
「うん、宜しく頼むよ。ドラキュラ、取り敢えず、この城の【罠】を全解除して」
グレモリー・グリモワールは命じます。
「お安い御用でございます」
ドラキュラは、【ドラキュラ城】にある全ての【罠】を解除しました。
「解除を確認しました」
私はグレモリー・グリモワールに伝えます。
「良し。そしたら、ドラキュラは一旦【ボス部屋】の扉の外まで行って、その場で待機しててよ」
「畏まりました」
ドラキュラはボンッという音と共に黒い霧に変わって【転移】しました。
【スポーン・オブジェクト】の【守護者】は、自分の【スポーン・オブジェクト】の中であれば比較的自由に【転移】で移動出来ます。
【遺跡】の中を自由に【転移】で移動可能な【徘徊者】と同じギミックでした。
瞬時にドラキュラが【ボス部屋】の扉の外に出現します。
すると【ボス部屋】の棺の中に、【ヴァンパイア】の姿を模った像が出現しました。
この像は、つまりドラキュラの形代です。
既に【調伏】されてグレモリー・グリモワールの従者になったドラキュラに限らず、【スポーン・オブジェクト】の【守護者】は全員【ボス部屋】を出る事が可能でした。
それどころか、やろうと思えば【スポーン・オブジェクト】の外にさえ出掛ける事も出来ます。
これは、全ての【スポーン・オブジェクト】に共通する仕様でした。
仮に自分が守る【スポーン・オブジェクト】が誰かに侵入されたら、【スポーン・オブジェクト】のボス個体である【守護者】は、瞬時に外出先から【ボス部屋】に【転移】で帰還する事が可能です。
【スポーン・オブジェクト】の【守護者】が【転移能力者】でなくても、自分の【ボス部屋】への帰還であれば可能でした。
【神竜】達守護竜は、【チュートリアル】以前、【詠唱魔法】の【転移】は出来ませんでしたが、自分の神域になら【転移】で戻れたのと同じ仕様です。
【スポーン・オブジェクト】の【守護者】が外出している際には、【ボス部屋】に【守護者】の像が出現する仕様でした。
なのでドラキュラが、【ボス部屋】の扉の外に【転移】した為に、彼の像が棺の中に出現した訳です。
もしも、侵入者が【ボス部屋】に到達しても【守護者】が外出先から戻らない場合、この像を破壊すれば【守護者】も同時に死亡して、【スポーン・オブジェクト】をクリアした扱いになりました。
実際の所、【守護者】が【スポーン・オブジェクト】の外に出掛ける例は皆無なのですが、一応プログラムとしては可能になっているのです。
何故なら、NPCの行動選択を柔軟にしておかないと、何か想定外の不具合が発生した場合に、NPCキャラの動きがフリーズしたり、酷い場合にはデータがクラッシュしてしまう事もあり得ますからね。
【ボス部屋】に残された【ヴァンパイア】の像は、ドラキュラの生命そのもの……。
置きっ放しで立ち去るのは、もちろん不用心です。
「ホイっと……」
グレモリー・グリモワールは【宝物庫】から何やら巨大なモノを取り出しました。
私は、グレモリー・グリモワールが何をしようとしているのか察しが付きます。
「ドラキュラの形代の像を保護するのですね?」
「うん。この像は、ドラキュラにとって生命と同じだから、守っておかないとね」
「【結界装置】ですか?」
「うん。【超位級】まで出力を上げたら、こんなに馬鹿デカくなって、燃費もクッソ悪くなっちゃったよ。魔力消費が半端ないから、頻繁に魔力を充填しに来なくちゃならないんだよね。まあ、ドラキュラの生命には替えられないから致し方ないんだけれどさ。ヒモ太郎なら強力な【結界】を張りっ放しに出来るんだけれど、近くにいないとダメだから実質ヒモ太郎を【ドラキュラ城】の防衛に専従で張り付けておかなくちゃならないから勿体ないしさ。ノヒトみたいに亜空間を通して遠隔で魔力を飛ばせればワン・チャン行けるかもだけれど……あれも、アホ程燃費が悪くて【神竜】ちゃんでも魔力コストが賄えないから、【神格】の守護獣の【ホムンクルス】であるヒモ太郎でも無理だからね」
「亜空間魔力バイパスは、亜空間に魔力が霧散してしまうので魔力無限のゲームマスター以外には出来ませんね。たぶん、【神竜】が100兆柱居ても魔力が全く足りませんよ」
「だから、このクソ燃費の【結界装置】の為に、私は毎日ヒモ太郎を連れて魔力補給に来なけりゃならないんだよ。クッソ面倒臭いったらない」
通常の【結界】は発動した者が一定距離に離れると消える仕様ですが、【結界装置】であれば任意の場所に【結界】を展開しっ放しに出来ました。
しかし、【結界】の出力を上げれば相応に消費魔力も増えます。
【超位級】の【結界装置】なら【ダンジョン・コア】級の【魔法石】でなければ、頻繁に魔力の補給が必要になりました。
【ダンジョン・コア】なら、もっと費用対効果的に有用な使い道がありますので、【結界装置】だけに使うのは勿体ないでしょう。
なので、実質的に【結界装置】は余り実用的な【魔法装置】ではありません。
ここは、グレモリー・グリモワールの為に、緊急避難の超法規的措置を大盤振る舞いしましょうかね。
「グレモリー。ドラキュラの像を破壊されないように、私の【神位結界】……いや、いっその事、守護竜にも破壊不可能な【超神位】の【球体隔壁】で守りましょう。私なら張りっ放しに出来ますので」
「えっ!マジでっ!?」
ゲームマスターと守護竜なら【結界】を張りっ放しで、その場を離れても【結界】を維持出来ます。
【神格】の守護獣は、【神格者】としてはゲームマスターや守護竜より一段格下でした。
更に【超神位】の【球体隔壁】は、おそらく私と【創造主】以外には誰にも破壊不可能で、守護竜が大陸中央国家に張る【神位結界】のように許可を与えた者は出入り自由で、便利ですしね。
またまた、ゲームマスターである私が、特定のユーザーに便宜を図るグレーゾーンです。
まあ、どうせ会社に査問されるなら同じ事。
もはや、後は野となれ山となれ。
毒を食らわば皿まで。
小さなミスは怒られるけれど、巨大過ぎるミスは揉み消される。
何だか……思考が悪人のそれになって来ましたね。
いやいや、ゲームマスターの職務遂行に必要な事です。
私は、ドラキュラの像が安置された棺を手頃なサイズの【球体隔壁】で保護しました。
これで良し。
私とグレモリー・グリモワールが【ボス部屋】を出ると、私は扉の外で待っていたドラキュラに平身低頭感謝されました。
ドラキュラにとっては、自分の形代は生命と同義ですからね。
「ん?ノヒト、ディーテから【念話】で、大勢の【巨人】達が走って接近して来ているってさ。外が何かヤバそうな雰囲気だよ」
グレモリー・グリモワールが報告します。
「直ぐに向かいましょう」
私達は慌てて【ドラキュラ城】の外に向かいました。
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