第1196話。リサリア・ヨグ=ソトース。
本日2話目の投稿です。
【マルベリー・フォレスト】の【ドラキュラ城】。
「ところで……その【神の遺物】の【自動人形】は、まさか彼女ですか?」
私は、グレモリー・グリモワールが【ドラキュラ城】の中から連れて来た【神の遺物】の【自動人形】について訊ねました。
この【神の遺物】の【自動人形】は、純正のメイド服ではなく、露出過剰なビキニ・アーマーを身に付けています。
「うん。リサリア・ヨグ=ソトースだよ」
グレモリー・グリモワールは予想通りの答えを返しました。
そうですよね。
そんな変態装備を身に付けている【神の遺物】の【自動人形】は、ナイアーラトテップさんの従者であるリサリア・ヨグ=ソトースしかいません。
ただし、ナイアーラトテップさんが造った、このビキニ・アーマーは極小の保護部位以外の裸部分にも強力な【防御】と【魔法障壁】を展開可能な魔法鎧なのですけれどね。
とはいえ、このビキニ・アーマーは、キチンと必要部位が装甲で覆われた普通の鎧と比べて、保護されていない部位を守るギミックの為に魔力効率が非常に悪くなる……バカ燃費……の装備なのです。
正常な頭の持主なら、態々こんな不合理な鎧は造りませんし、着ません。
ナイアーラトテップさんの言葉を借りるなら……ロマン……という事になるのでしょう。
「そうですか……。それはともかく、自己紹介などをしてしまいましょう」
「そだね」
私達は、【ゴルゴーン】3姉妹とリサリア・ヨグ=ソトースと、双方で挨拶と自己紹介を交わしました。
自己紹介は何の問題もなく済みましたが、この場にいる殆どの人達の頭に大きな……?……が浮かんでいます。
「お姉さん。何でお洋服を着てないの?」
レイニールが、一同を代表して尤もな疑問を呈しました。
「これは、ビキニ・アーマーという装備です。そして、私の名前はリサリア・ヨグ=ソトースです。リサたん……と呼んで下さい」
リサリア・ヨグ=ソトースは言います。
「リサたん。お洋服を着ないで、寒くないの?」
レイニールは訊ねました。
「レイニール様。私は【自動人形】ですので、人種に比べて元来環境適応力が高く、また、ダメージに換算されるような過度な熱や冷気は、このビキニ・アーマーで相当程度防げるので、この場所の気温程度であれば全く問題ありません」
「ふ〜ん……」
「で、グレモリー。彼女が何故【ドラキュラ城】に?」
私はグレモリー・グリモワールに訊ねます。
「どうやら、900年前にナイアーさんとリサたんは、【ドラキュラ城】に来ていたらしい。【天蚕布】を補充しに来たんだってさ。で、あの8月31日から9月1日の日付けが変わる瞬間、ユーザー消失が起きた訳。ナイアーさんは忽然と消失して、リサたんが取り残された。しばらく……と言っても、1か月らしいけれど、リサたんはナイアーさんを待っていた。でも、ナイアーさんが一向に戻る様子がないから、リサたんは【ドラキュラ城】の地下の安全だと思われる区画でスリープ・モードになっていたんだって」
グレモリー・グリモワールは説明しました。
「なるほど。で、リサたん」
私は、リサリア・ヨグ=ソトースに声を掛けます。
「ゲームマスターのノヒト・ナカ様。また、お会い出来て光栄です」
リサリア・ヨグ=ソトースは言いました。
おや?
私は、ゲームマスターとしてリサリア・ヨグ=ソトースに会った事がありましたっけ?
あ〜、ユーザー・サークルの【ヴァルプルギスの夜】に査察に入った際、当時【ヴァルプルギスの夜】のメンバーだったナイアーラトテップさんと一緒にいたリサリア・ヨグ=ソトースに何度か会っていますね。
「現在のところゲームマスターの私と、グレモリー・グリモワールと他2名のユーザーを除いて、全ての運営とユーザー……つまり、地球人は世界にログイン出来ない状況になっています。世界内から地球側にアクセスする方法もありません。復旧する見込みはなく、今後もあなたの主人であるナイアーラトテップさんが世界にログインする可能性は極めて低いと推定されます。あなたは、如何しますか?現在、あなたのような【神の遺物】の【自動人形】は、この惑星【ストーリア】の大半の国々で人権が認められています。なので、再び主人であるナイアーラトテップさんがログインして来るまで、あなたは基本的人権を有する者として自立して行動する自由が認められています。もしも、あなたが自立して行動したければ、生活基盤を築く為にゲームマスター本部として自立支援を行う用意があります」
「グレモリー様から大体の事情は伺いました。私は、マイ・マスターが戻られるまで、マイ・マスターが所属していたパーティのリーダーであったグレモリー様と行動を共にさせて頂きたいと存じます」
「わかりました。別途、何かゲームマスター本部からの支援は必要ありませんか?」
「グレモリー様。ノヒト様から何か支援をして頂く必要はあるでしょうか?」
リサリア・ヨグ=ソトースはグレモリー・グリモワールに訊ねました。
「ノヒト。ゲームマスター本部からの支援ってのは、オラクルさんやクイーンさん達と同じような支援が受けられるって事?」
グレモリー・グリモワールが訊ねます。
「はい。個別の事情によって具体的な支援の内容は変わりますが、基本的に同じような支援と考えてもらって差し支えありません」
「なら、支援をお願いするよ」
「わかりました」
私は、オラクル達のような味方陣営の【神の遺物】の【自動人形】に半永久貸与している様々な基本装備を、リサリア・ヨグ=ソトースにも貸与しました。
「あれ?桟橋……てか、何かトンデモない構造物が出来てない?」
グレモリー・グリモワールが驚きます。
「【ドゥーム】で海底資源の掘削に使われている浮遊式海上プラットフォームです。以前の桟橋より広くなったので、【グリモワール艦隊】の旗艦【スキーズブラズニル】でも接岸出来ますよ」
「あ、あんがと。デカ過ぎだけれど、まあ、大は小を兼ねるって言うからね……」
「それから多目的倉庫も拡充しておきましたよ」
「倉庫ってか、ありゃ、どう見ても格納庫だよね?でも、ま、ありがとう」
「さてと、ドラキュラを【調伏】してしまいましょう」
「そだね。なら、私とノヒトで行って来るから、みんなは、もう少しだけ待っててね」
グレモリー・グリモワールは言いました。
一同は頷きます。
「【ゴルゴーン】3姉妹は、みんなを守って」
「「「畏まりました」」」
ステンノー、エウリュアレー、メデューサの【ゴルゴーン】3姉妹は胸に手を当てて言いました。
私とグレモリー・グリモワールは、【ドラキュラ城】の中に向かいます。
・・・
【ドラキュラ城】の地下。
「ここは、懐かしいですね〜」
「だよね。何か、ほんの2か月くらいって感じだけれど、900年も経っているなんて信じられないよ」
グレモリー・グリモワールは言いました。
まあ、私とグレモリー・グリモワールの主観で考えれば2か月前で間違いありませんけれどね。
私は、【ドラキュラ城】の地下に広がる亜空間フィールドを進みながら、道々散乱する【生体・ガーゴイル】の残骸を【超神位……完全修復】で修理して行きました。
2体分は【コア】であった【機械細胞】が、グレモリー・グリモワールとの交戦で破壊されてしまったので、ボディだけの復元です。
グレモリー・グリモワールは、2体の【コア】なし【生体・ガーゴイル】を【宝物庫】に回収します。
「そう言えばさ、【七色星】の【レイド・イベント】の報酬として運営からもらった【ガチャ・チケット】で回した【ガチャ】の景品は何だった?ソフィアちゃんに代理【ガチャ】を回してもらえば、【ガチャ・チケット】の等級に関係なく、ほぼ欲しい【ガチャ】景品が出るチート仕様でしょ?でも、ノヒトは、あらゆる魔法と【能力】をフル・コンプしているし、ゲームマスター本部の【無限ストッカー】と【神の遺物】工場から、一部を除いて大半の【神の遺物】が補充し放題だから、ノヒトの【圧縮箱】から何が出たのか興味があるんだよ」
「まだ【解凍】していません。私は【ラピス・マナリス】1点狙いです」
「あ、そう。ま、ソフィアちゃんのチート能力なら、欲しいモノが出てると思うよ」
「そうでしょうね。グレモリー達は何をもらいましたか?」
「私らは全員【能力本】だったね。やっぱ……【神の遺物】の武器とか防具とかアイテムとかは、もしかしたらノヒトから借りたり貰えたり出来るかも……っていう狡い考えが働いたのか、【能力本】ばっかりになったみたい」
「狡いか如何かはさて置き、必要があれば私やミネルヴァが、グレモリーやその陣営の人達に対して【神の遺物】などを貸与する事はあり得ます。それは事実ですから、致し方ありません。【ファミリアーレ】も【ガチャ】の景品が【能力本】だった子が多いですよ。で、グレモリー達は何の【能力】でしたか?」
「私は【王権】の【能力本】で、フェリシアは【気品】で、レイニールは【好奇心】で、ディーテは【教育】だったよ。私以外は、もう自分で【能力本】を使ったけれど、私は如何しようか迷っているところ。【王権】は【指揮】系最上位の強力な【常時発動能力】だけれど、私は他者に影響を及ぼすという意味では、既に似たような【完全管制】を持っているからね。【完全管制】には、【王権】みたいな強制力はないけれど、私は【呪歌】系最上位の【悪魔の鎮魂歌】を既に持っている。【悪魔の鎮魂歌】で【精神支配】すれば、実質【王権】と同等以上の事は出来る。だから【王権】の【能力本】は、竜之介とかシャルロッテとかナディアとかアリスに使わせた方が役立つかもしれないからね」
【悪魔の鎮魂歌】は【精神支配】系の【常時発動能力】で……旋律に乗せて歌いながら【精神支配】系の魔法詠唱や【能力】を発動すると効果を増幅して、相手に【抵抗】される確率を下げる……というギミックを持っていました。
確かに、運用上【悪魔の鎮魂歌】は【王権】と同等か、場合によってはそれ以上の事が出来ます。
「ただし、【悪魔の鎮魂歌】は【精神支配】系ですので、無辜の相手に使用すると【世界の理】に抵触する可能性があるので、【世界の理】を守る限り使い所が制限されます。一方で【王権】は【悪魔の鎮魂歌】より強制力は弱くなりますが、【精神支配】ではないので誰に対しても使えて汎用性があります。2つを状況に応じて使い分ければ、別に効果は重複しないのではありませんか?」
「ま〜ね。でもさ、【王権】て、身も蓋もなく言えば……王様みたいにNPCを命令に服従させられる権力……を、ゲーム・システムによって、ある程度強制的に発動させられる訳でしょう?」
「まあ、イメージ的には、そんな感じでしょうね?」
「それって、私のキャラじゃなくね?王様は尊厳とか権威とかで自ずから臣民を恭順させる訳だけれど、私は他人から疎まれたり嫌われたり怖がられたりしながら、それでも傍若無人に振る舞って……文句があるなら掛かって来い……っていうロール・プレイじゃんか?公明正大な【王権】のギミックは、私的に……何かこれじゃない感……があるんだよね〜」
「確かに……王の公権力……という【能力】は、ダーク・サイドのロール・プレイヤーっぽくはないですね」
「だよね。だから、それっぽいキャラの誰かに使わせようかと思ってんだよ」
「まあ、グレモリーが所有する【能力本】ですから、グレモリーの気が済むように使えば良いと思いますよ」
「そうする」
そうこうする内、私達は【ドラキュラ城】こと【大霊廟】の最奥部である【ボス部屋】の前に到着しました。
通常【ボス部屋】の扉は閉まっていて、扉をプレイヤーが開く仕様になっています。
しかし、この【ドラキュラ城】の【ボス部屋】の扉は開きっ放しでした。
ゲーム時代は、もしも敵対者が【ドラキュラ城】の外部を守る【機関砲塔】と【歩哨機関銃】の防衛ギミックを突破して、【ドラキュラ城】内に侵入した場合、この【ボス部屋】に続く道すがら様々な【罠】と【生体・ガーゴイル】達が迎撃し、最終的には【ボス部屋】の中で【ゴルゴーン】3姉妹と、【死の戦乙女】の双子ラーズグリーズルとランドグリーズルが待ち構え、侵入者と決戦を行う想定だったのです。
ただし、【罠】も、【生体・ガーゴイル】も、【ゴルゴーン】3姉妹も、【死の戦乙女】のラーズとランドの双子も、侵入者に勝つ必要はありません。
あくまでもグレモリー・グリモワール(私)や【ラ・スクアドラ・インカンタトーレ】のメンバーが駆け付けるまでの時間を稼げばOKでした。
まあ、結局は誰も【ドラキュラ城】の外部を守る【機関砲塔】と【歩哨機関銃】の防衛ギミックを突破出来ず、内部には侵入出来なかった訳ですけれどね。
【ボス部屋】の扉が開いている理由は、【ドラキュラ城】と名付けられる以前の【スポーン・オブジェクト】であった【大霊廟】の【守護者】である【超位超絶級】の【ヴァンパイア】が、グレモリー・グリモワール(私)のパーティ【ラ・スクアドラ・インカンタトーレ】によって無力化され……ドラキュラ……と名付けされ封印状態になっているからです。
「さあ、行きましょうか」
私はグレモリー・グリモワールに声を掛けました。
「うん」
グレモリー・グリモワールは頷きます。
私達は、【ドラキュラ城】の【ボス部屋】に足を踏み入れました。
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