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第1194話。【天蚕】飼育の難しさ。

【マルベリー・フォレスト】の【ドラキュラ城】。


 私は、浮遊式プラット・フォームを組み立ててから、多目的倉庫(ガレージ)を造りました。

 ミネルヴァが最適化改良した【ハーベスト・マシーン】が【ドラキュラ城】に届けば、この多目的倉庫(ガレージ)で自動メンテナンスが行えます。


 さてと、カプタ(ミネルヴァ)のキットのおかげで作業があっという間に終わってしまいました。


 グレモリー・グリモワールは【ドラキュラ城】で【天蚕】事業を再開しようとしています。

 しかし、現在【ドラキュラ城】には【天蚕】はいません。

 グレモリー・グリモワールが飼育していた【天蚕】は、【知の回廊の人工知能(AI)】とルシフェル達が接収してしまいました。


【天蚕】は魔物ですので生息に適した環境下に【スポーン】して、【スポーン】個体同士が繁殖もします。

 この【マルベリー・フォレスト】にも野生の【天蚕】が沢山生息しているでしょう。


 しかし、その【天蚕】を捕まえても【天蚕糸】の事業としては上手く行きません。

【天蚕】は個体差によって吐く糸の太さや強度などにバラ付きがあり、それを集めて紡績したり織布すると出来上がった糸や布の品質が悪くなるのです。

 また、美しい仕上がりに拘るなら、透明度や色調や光の屈折率などの微妙な違いも選りすぐる必要がありました。


 900年前にグレモリー・グリモワール(私)は、【天蚕】事業を始めるに際して、野生の【天蚕】捕まえて高品質の糸を吐く優秀な個体を選別し、更に優秀な個体を何代も交配して最高の【天蚕糸】を生産していたのです。

 なので、野生の【天蚕】を捕まえて来ても、直ぐにグレモリー・グリモワール(私)が行っていたレベルの【天蚕】事業が再開出来る訳ではありません。


 ただし、グレモリー・グリモワール(私)がコストとリソースを掛けて選りすぐった最高品質の【天蚕糸】を吐く【天蚕】は現在も生きています。

 厳密には、【知の回廊の人工知能(AI)】とルシフェル達が【ドラキュラ城】から盗み、【知の回廊】の飼育場で世代を経た個体群ですけれどね。

【知の回廊】の飼育場にいる【天蚕】は、900年前にグレモリー・グリモワール(私)が飼育していた個体群の子孫でした。


 ミネルヴァ……グレモリーが使う【天蚕】は、【知の回廊】から無償提供するのですよね?


 私は【念話(テレパシー)】で訊ねました。


 もちろんです……グレモリーさんが必要なだけ卵や幼生を無償で提供します……あれは、本来グレモリーさんの資産ですので。


 ミネルヴァが【念話(テレパシー)】で言います。


 グレモリーから盗まれた【天蚕】を返還するのは当然の話ですが、むしろ、グレモリーの【天蚕】を盗み無許可使用していた訳ですから、900年分の使用料をグレモリーに支払わなければならないのではありませんか?


 私は【念話(テレパシー)】で訊ねました。


 グレモリーさんは、あの【天蚕】はチーフにも半分所有権があるのだから、チーフが使用する分に関しては対価を取るつもりはないと言ってくれました……【天蚕】を盗んだ【知の回廊の人工知能(AI)】とルシフェル達にも、チーフが科した刑罰を信用しているから【天蚕】が盗まれた事に対して損害賠償を請求する気はない、と。


 ミネルヴァは【念話(テレパシー)】で言います。


 あ、そう……わかりました……グレモリーの【天蚕】事業は、今後もミネルヴァから最大限便宜を図ってあげて下さい。


 私は【念話(テレパシー)】で指示しました。


 了解しました。


 ミネルヴァは【念話(テレパシー)】で言います。


【天蚕】の確保の件は良し、と。


 しかし、【ドラキュラ城】で働いてもらう職人さん達の当てはあるのでしょうか?


 今後グレモリー・グリモワール陣営で【天蚕】事業を行うグレースさん、クシカさん、イェパさん、ジャプラさんは、【サンタ・グレモリア】側で紡績や織布に携わると紹介されました。

 しかし、【ドラキュラ城】で【天蚕】の飼育に携わる人員はいるのでしょうか?


【ラピュータ宮殿】のシャルロッテ・メリアス達【樹人】族は、別に【天蚕】の扱いが得意な種族でも【職種(ジョブ)】でもありませんからね。

【天蚕】飼育に向いていそうな【職種(ジョブ)】は【調伏士(テイマー)】や【調教士(トレーナー)】や【訓練士(ハンドラー)】や【畜産家(ハーダー)】ですが、種族なら手先が器用で動物の扱いに長けた【ゴブリン】や【山羊足人(サテュロス)】でしょうか……。


 まあ、どんな種族だって、余程適性が合わないのでなければ、意欲的で真面目で勤勉ならば大概の仕事は務まりますけれどね。


 そういう人材が現在のグレモリー・グリモワール陣営に居るのでしょうか?


 私とミネルヴァは、既に【知の回廊】で【天蚕糸】生産に従事する職人達を、グレモリー・グリモワールの【天蚕】事業に転属させる事を申し出ましたが、グレモリー・グリモワールからは辞退されています。


 仮にグレモリー・グリモワールの陣営に【天蚕】の飼育に適性がある人材が居たとして、【ドラキュラ城】に住み込みで働いてくれるのでしょうか?


 住み込みでないとするなら、近郊の都市【ギガンティア】からの通い?


【ギガンティア】の各都市は、【初期構造オブジェクト】の中心都市【ギガンティア】を始め、【巨人(ジャイアント)】族のサイズに合わせた街並ですので、人種には住みに(にく)いと思います。


【サンタ・グレモリア】からの通いでしょうか?


 グレモリー・グリモワール陣営の【転移能力者(テレポーター)】が大勢の職人さん達を送迎するのですか?


【天蚕】の世話は、生き物相手なので24時間365日休みがありません。

 そして【天蚕】は大きな【魔蟲】ですし、ひたすら大量の餌を食べ続けるので、仕事は相当な重労働でもあります。


 また【天蚕】は少し神経質な所があり、餌である【シエーロ・マルベリー】の葉の鮮度や、育成段階に応じた与える葉の量や部位などにも気を使わなければいけません。

 飼育箱の清潔さや、温度湿度や風通しなど、様々な状態に目が離せませんし、【天蚕】の幼生は夜行性なので基本的に真っ暗な室内での作業となり、夜目が利く種族以外は暗視スコープを装着しっ放しになります。


 専門の知識と技術が必要な事はもちろん、集中力や細かな神経を使いますので、長時間は作業出来ません。

 900年前グレモリー・グリモワール(私)は1日4時間6交代で職人さん達のシフトを回していました。


 もしも、毎日6交代シフト制で大勢の職人さん達を【サンタ・グレモリア】と【ドラキュラ城】間で送迎するとなると、相当大変だと思います。

 やはり、【ドラキュラ城】に住み込みで働いてもらうのが現実的でした。


【ドラキュラ城】は内部が亜空間フィールドになっていて広く居住性も高いので、住み込みで働いてもらう上で問題は生じないと思います。

 しかし、働いてもらう職人さん達を大勢集め、育成するのが大変ですね。


 グレモリー・グリモワールが使役している【自動人形(オートマタ)】・シグニチャー・エディション500体の中から、【天蚕】飼育に大量投入するつもりなのでしょうか?


自動人形(オートマタ)】・シグニチャー・エディションであれば、スペック的に【天蚕】の飼育も可能だと思います。

 また、【自動人形(オートマタ)】・シグニチャー・エディションならば、365日24時間フル稼働でも、疲労や集中力切れなどは起きませんし、ヒューマン・エラーの問題も無視出来ました。

 しかし、高性能で超汎用機の【自動人形(オートマタ)】・シグニチャー・エディションを、【天蚕】飼育だけに充当するのもリソースの使い方として少し勿体ない気もします。


自動人形(オートマタ)】・オーセンティック・エディション以下の下位機種や、【ドロイド】などの場合、神経質な【天蚕】の世話をするのは難しいかもしれません。


 ミネルヴァ……グレモリーは【ドラキュラ城】で【天蚕】を飼育する職人さん達を如何(どう)するつもりなのでしょうね?


 私は【念話(テレパシー)】で訊ねました。


 特に何も相談を受けていません。


 ミネルヴァは【念話(テレパシー)】で答えます。


 あ、そう。

 まあ、グレモリー・グリモワールは不老不死で不死身のユーザーですし、900年前と同様に少人数で少量生産という所から徐々に事業規模を拡大していくつもりなのかもしれません。

 彼女は、抜け目ないので問題ないでしょう。


 さてと、他に何かやる事は……特にありませんね。


 ならば、グレモリー・グリモワールと合流して、ドラキュラの【調伏(テイム)】と主人(マスター)権限移譲を済ませてしまいますか?


 ただし、グレモリー・グリモワールは……先に【(トラップ)】を解除したり、【ゴルゴーン】3姉妹を起こす……と言っていましたよね。

 彼女の段取りを、私の都合に合わせて変更させるのも申し訳ありません。


 ふと見ると、ディーテ・エクセルシオールが、グレモリー・グリモワールの養子であるフェリシアとレイニールに何やら魔法を教えていました。


 ふむふむ、ディーテ・エクセルシオールは【風魔法】で、小さな空間の大気圧を変化させています。

 ディーテ・エクセルシオールは、尚も大気圧をドンドン上げて行きました。


 大気を圧縮すると分子運動が速くなり、エネルギーが大きくなります。

 圧縮された大気はエネルギーの伝達効率が高まり、極限近くまで圧縮されると大気のエネルギー伝達効率も極限近くにまで高まりました。

 この状態は、電磁気力で例えるなら超伝導に相当します。


 この極限までエネルギー伝達効率が高まった圧縮大気に魔力で干渉し、周辺に爆発的な反応を生じさせる事で発動する魔法が、【超位超絶級】の【気象魔法(ウェザー・マジック)】である【大気(アトモスフェリック・)(クラッシュ・)(トゥ・デス)】でした。


 パチンッ!


 ディーテ・エクセルシオールが作り出した極小の【大気(アトモスフェリック・)(クラッシュ・)(トゥ・デス)】が魔法効果として発動された瞬間、極限まで圧縮された大気が、周囲の1気圧の大気に対して急激に希釈して均質になろうとする事で生まれた相互作用により、何かが破裂するような音と衝撃波が発生しました。

 とはいえ、ディーテ・エクセルシオールは安全の為に極限まで出力を絞っていたので危険はありません。


大気(アトモスフェリック・)(クラッシュ・)(トゥ・デス)】は【超位超絶級魔法】の中でも超高難易度の魔法です。

 ゲーム時代は、名持ち(ネームド)NPCのディーテ・エクセルシオールの代名詞のような必殺魔法でした。


大気(アトモスフェリック・)(クラッシュ・)(トゥ・デス)】の何が難しいのかと言うと、大気を圧縮すると大気中の分子運動が速くなり圧縮熱が生まれるからです。

 この熱によって大気圧縮エネルギーの相当量が奪われてしまい、魔法効果が減衰してしまいました。


 なので、極大威力の【大気(アトモスフェリック・)(クラッシュ・)(トゥ・デス)】を放つ為には、大気圧縮をしながら同時に圧縮熱を発生させない様々な魔法的な手立てを講じなけれいけません。

 この時の【魔法(マジック・)公式(フォーミュラ)】の構築と、諸々の演算処理を【風魔法】の運用の中で完結させる事が極めて難しいのです。


 しかし、この複雑怪奇な【魔法(マジック・)公式(フォーミュラ)】の構築と演算処理を端折(はしょ)って詠唱1発で行えるようにしたのが、【気象魔法(ウェザー・マジック)】でした。

気象魔法(ウェザー・マジック)】ならば、【魔法(マジック・)公式(フォーミュラ)】と演算制御は、【世界の理(ゲーム・システム)】が丸っと肩代わりしてくれます。

 ただし、魔力コストが爆増する事と、魔力収束に時間が掛かる事とのトレード・オフにはなりますけれどね。


「さあ、やってみて」

 ディーテ・エクセルシオールは促しました。


「……んんーっ!【大気(アトモスフェリック・)(クラッシュ・)(トゥ・デス)】」

 フェリシアが詠唱します。


 バフォッ。


 熱を帯びた風圧を感じました。

 失敗です。

大気(アトモスフェリック・)(クラッシュ・)(トゥ・デス)】のエネルギーの大半が熱反応に置き換えられてしまっていましたね。


 一応、ディーテ・エクセルシオールは、万が一に備えて【結界(バリア)】の発動を保留して周囲に危険がないように準備をしていましたが、魔法が失敗したので【結界(バリア)】は必要ありませんでした。


「パンクしたわね。途中までは良かったけれど、最後のところで緩んでしまったのよ。それに、魔力収束は、そんなに力まなくても出来るわ」


「はい。とても難しいです」


「何ごとも鍛錬が大切ね。でも、そう悲観する事もないわよ。フェリシアちゃんの今のレベルで【大気(アトモスフェリック・)(クラッシュ・)(トゥ・デス)】発動の一歩手前まで持っていけたのが驚異的よ。グレモリーちゃんの仕込みが良いのね」


「ありがとうございます」


「僕も、お姉ちゃんと同じ魔法が使いたい」

 レイニールが言います。


「レイニールちゃんには、まだ無理ね。フェリシアちゃんは【気象魔法(ウェザー・マジック)】の【才能(タレント)】持ちだから、本来ならレベルが足りない【大気(アトモスフェリック・)(クラッシュ・)(トゥ・デス)】を行使可能なのよ」


「え〜、僕もやってみたい」


「【才能(タレント)】は【創造主】様が下さるモノだから、こればっかりはレイニールちゃんの今のレベルでは難しいわね。でも、レイニールちゃんも【才能(タレント)】で【防御魔法】と【空間魔法】を持っているでしょう?【防御魔法】はフェリシアちゃんは持っていないわ。だから、レイニールちゃんは【才能(タレント)】で持っている【防御魔法】と【空間魔法】の【複合(コンバインド)魔法(・マジック)】で【拷問台(トーチャー・ラック)】や【拷問(トーチャー・)部屋(チェンバー)】っていう凄まじい魔法が使えるでしょう?あれは、私も行使出来ないような【超位超絶級】の凄い魔法なのよ。だから、レイニールちゃんは出来ない事を羨むより、出来る事を磨いた方が良いわね」

 ディーテ・エクセルシオールは、レイニールの頭を撫でながら優しく語り掛けていました。


「僕の魔法も、お姉ちゃんと同じくらい凄い?」


「ええ。グレモリーちゃんが自慢するぐらい凄いわよ」


「えへへ……」

 レイニールは嬉しそうに笑います。


 微笑ましい様子ですね。

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・・・


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