第1193話。【ドラキュラ城】。
【シエーロ】北方領域【ギガンティア】郊外【マルベリー・フォレスト】の【ドラキュラ城】。
私達は、【スパイ・ドローン】の【キー・ホール】を【目標】に、グレモリー・グリモワールの別荘【ドラキュラ城】に【転移】して来ました。
ミネルヴァは、私が【キー・ホール】を【目標】にして【転移】する際、鳥瞰から周囲の様子が見渡せるような上空に出現するような位置調整をしてくれる事が多いのですが、今回は違います。
【転移】で出現した場所は【ドラキュラ城】のファサード正面の広場でした。
おそらく、ミネルヴァは、グレモリー・グリモワールが連れて来た同行者の皆さんに配慮したのでしょう。
【飛行】や翼などによる飛行能力がない人達を、いきなり上空に【転移】させると、怖がらせるかもしれず気の毒ですからね。
また、そもそもユーザーであるグレモリー・グリモワールや、この世界の住人である一行には……上空から【ドラキュラ城】は見えない……という意味もあるのでしょう。
一部の【スポーン・オブジェクト】には強力な【認識阻害】が施されていて、直近まで近付かないと視認出来ません。
【ドラキュラ城】も、そのタイプの【スポーン・オブジェクト】なのです。
まあ、ゲームマスターの私は【認識阻害】を無効に出来ますけれどね。
因みに、【ドラキュラ城】とは、グレモリー・グリモワール(私)が名付けた固有名詞で、【ドラキュラ城】の【スポーン・オブジェクト】としての設定名は……【大霊廟】……と云います。
【大霊廟】は【超位超絶級】の最難関【スポーン・オブジェクト】の1つで、尚且つこの【大霊廟】は【ハロウィン・イベント】の際にしか【スポーン】しないレアなホラー仕様の外観でした。
ただし、【大霊廟】は、グレモリー・グリモワールのようなベテラン・ユーザーからは……【古城】……と呼ばれる事が多いですけれどね。
【古城】というのは、【大霊廟】のゲーム発売初期の設定名です。
古参ユーザーがキャリアをひけらかして、いつまでも古い設定呼称を使い続け、新規ユーザーの皆さんからウザがられるというのは、歴史がある老舗MMORPGの、あるあるかもしれません。
その後、【スポーン・オブジェクト】は種類が増えて細分化され、古城タイプの【スポーン・オブジェクト】が他にも複数実装されたので、かつての【古城】は、現在【大霊廟】という設定名に変更されていました。
グレモリー・グリモワールの別荘である【ドラキュラ城】は、【シエーロ】北方の【巨人】族の自治領域の中心を成す主要都市【ギガンティア】郊外の深い森の中にあります。
周辺は見渡す限りの桑の木々。
地球の桑の木は基本的に低木ですが、この桑の木は【シエーロ・桑】という【シエーロ】固有の品種で、普通の木のように大きく育ちます。
この場所の地名……【桑の森】……は、【シエーロ・マルベリー】から名付けられていました。
【シエーロ・マルベリー】は【シエーロ】にしか根付かない植物で、果実は人種の食用になります。
また、葉は【天蚕】の餌になりました。
グレモリー・グリモワール(私)が、【マルベリー・フォレスト】に出現した【スポーン・オブジェクト】を攻略せず残し、拠点【ドラキュラ城】として利用する事を決めた理由も、この【マルベリー・フォレスト】が世界最大の【シエーロ・マルベリー】の群生地だったからです。
当初からグレモリー・グリモワール(私)は、この拠点で【天蚕】事業をしようと考えていました。
【マルベリー・フォレスト】は、環境不変フィールドの桑の森なので、周辺一帯に自生する【シエーロ・マルベリー】は全く手入れをしなくても生育しますし、葉を収穫しても、一昼夜で元に戻ります。
【天蚕】の餌代は掛かりません。
「……恐ろしいお城ですね?瘴気が渦巻いていますが、害はないのでしょうか?」
ヘザーさんが怖ず怖ずと訊ねました。
【ドラキュラ城】は、尖塔から上空に向かって紫掛った黒い霧が渦を巻いて立ち昇っています。
「あ〜、あの霧は瘴気じゃなくて、元々ある単なる香り付け・エフェクトだから人畜無害なんだよ」
グレモリー・グリモワールは説明しました。
「そうなのですね……」
「ま、城の中は、ドラキュラが本物の瘴気を垂れ流しているんだけれどさ」
「グレモリー。事前に皆さんのパーティ登録をしてあるのですね?」
私達が既に【ドラキュラ城】の防衛ギミックが働く敷地内に居て全く攻撃が加えられないという事は、この場にいる人達は全員グレモリー・グリモワールのパーティ・メンバー(あるいはクランやアルトのメンバー)として登録されている筈です。
因みに私は、ミネルヴァが事前に【ドラキュラ城】の防衛ギミックに介入して、攻撃対象から除外されていました。
運営チートです。
「あ、防衛ギミックの事をウッカリ忘れていて、ミネルヴァさんに教えてもらったんだよ。いや〜、危なかったね。あははは……」
「グレモリー。自分で構築した防衛ギミックの仕様を忘れていたなんて、洒落にならないですよ……」
「めんご、めんご……。いやはや、ミネルヴァさん、様々だね〜。あはは……」
グレモリー・グリモワールは笑って誤魔化しました。
【ドラキュラ城】の防衛ギミックは、グレモリー・グリモワール陣営の拠点の中でも極めて堅く、おそらく火力ベースでは最強でしょう。
【ドラキュラ城】の全ての窓やバルコニーには、グレモリー・グリモワールによって無数の【機関砲塔】と【歩哨機関銃】が設置されていて、敷地内への侵入者を自動迎撃する難攻不落の要塞になっていました。
グレモリー・グリモワールの自宅である【マジック・カースル】には、火砲類の防衛ギミックはありません。
ゲーム時代の【マジック・カースル】は、グレモリー・グリモワールの最終兵器【ホムンクルス・ベヒモス】のヒモ太郎によって守られていたのです。
同じくゲーム時代、グレモリー・グリモワールの、もう1軒の別荘【ラピュータ宮殿】は、竜之介が指揮する【調伏】された魔物達による警備兵団が守っていました。
【ドラキュラ城】は、外部を【機関砲塔】と【歩哨機関銃】で守られ、それが破られて内部に敵の侵入を許せば、グレモリー・グリモワールが【調伏】した【ゴルゴーン】3姉妹のステンノー、エウリュアレー、メデューサと、元【アースガルズ】帝都【ヴァルハラ】専従の【帝国守衛】である【死の戦乙女】のラーズグリーズルとランドグリーズルの双子が最終防衛ラインを築いていたのです。
ラーズグリーズルとランドグリーズルは、【シエーロ】が天帝を僭称した【知の回廊の人工知能】とルシフェル達クローン【天使】の支配下に堕ちた際に【アースガルズ】に撤退・帰還して、現在グレモリー・グリモワールと再会を果たし【サンタ・グレモリア】で働いていました。
【ゴルゴーン】3姉妹の方は、未だに【ドラキュラ城】の内部を防衛しています。
【ドラキュラ城】(【大霊廟】)は、【スポーン・オブジェクト】なので外部からの攻撃では破壊不可能な……不壊の構造物……でした。
【スポーン・オブジェクト】は、ボスの【守護者】を討伐すれば消滅しますが、それ以外の手段では壊れません。
厳密には、【スポーン・オブジェクト】は【神位】の【耐久力】に設定されているので、位階で上回るゲームマスターの【超神位】の攻撃であれば破壊出来ますけれどね。
その不壊の構造物に設置された大量の【神の遺物】の自動砲座で武装されているので、【知の回廊の人工知能】もルシフェルも【ドラキュラ城】を陥落させられなかった訳です。
しかし、【ドラキュラ城】で働いていた【天蚕】事業に携わる職人さん達は、グレモリー・グリモワールによって彼女のパーティ【ラ・スクアドラ・インカンタトーレ】とは別のアルトのメンバーとして登録されていたので、彼らは【機関砲塔】と【歩哨機関銃】、それから内部の【ゴルゴーン】3姉妹や、ラーズとランドの双子に攻撃されません。
なので、【知の回廊の人工知能】とルシフェルは、【ドラキュラ城】の防衛ギミックに対する安全性が担保されていた職人さん達に命じて、【ドラキュラ城】内部にあったグレモリー・グリモワール(私)の【天蚕】事業に使われていた機械類などを取り外させ接収してしまったのです。
【機関砲塔】や【歩哨機関銃】などの防衛ギミックに関しては、【天蚕】事業の職人さん達には取り外せないセキュリティ・ギミックが施されていました。
NPCの職人さん達は、敵対者から【精神支配】などを受ける可能性もあり、内部から防衛ギミックを無力化される恐れもありますからね。
実際ゲーム時代には、ユーザーの拠点で働いているNPCを【精神支配】して裏切らせる手段が、ユーザー拠点攻略の代表的な戦術の1つでした。
「ちっくしょう。桟橋も倉庫もなくなってんじゃんか?」
グレモリー・グリモワールは舌打ちをします。
桟橋とは【ドラキュラ城】のファサード正面広場から伸びた飛空船接岸用の艀の事。
【ドラキュラ城】は【マルベリー・フォレスト】の中にある小山のような岩場の上にあり、【ドラキュラ城】の入口に続くファサード正面広場は地面より高い位置にあって徒歩では出入り出来ません。
なので、ゲーム時代は、飛行手段がない人達が【ドラキュラ城】に出入りする為に飛空船が使われていました。
倉庫とは、グレモリー・グリモワール(私)の【天蚕】事業に従事する職人さん達が使う、様々な機材類を保管していた建屋です。
「すみません。【知の回廊の人工知能】とルシフェル達によって、私達が造った周辺構造物は殆ど破却されるか接収されています」
【ドラキュラ城】自体は、不壊設定がありますが、後付けの人工構造物は壊したり取り外したり出来ました。
「ノヒトが謝る事じゃないよ。ノヒトにとっても、ここは自分の拠点で、被害者なんだからさ」
「まあ、そうですが。なくなったモノは、私が直しておきますよ」
「本当?助かるよ」
「【シエーロ・マルベリー】の葉を収穫する【ハーベスト・マシーン】は、あなた(私)の職人さん達が【知の回廊】に強制移住させられる時に接収されたモノが残っていて無事でした。ミネルヴァが最適化改良した【ハーベスト・マシーン】が返還されますので安心して下さい」
「あ、そう。それは助かる。ナイアーさんが居ないから、あの【ハーベスト・マシーン】が破壊されていたら、私じゃ修理出来なかったからね」
「では、私は外の作業から始めますね。その後でドラキュラを【調伏】しましょう」
「わかった。私は、取り敢えず【ゴルゴーン】3姉妹を起こして来るよ。あっと、みんなは外で待ってて。色々と初見殺しのエゲツない【罠】とかもあるから、先に解除して来るからさ」
グレモリー・グリモワールは、一同に注意喚起します。
「【罠】ですか?」
グレースさんが不安そうに訊ねました。
「うん。みんなはパーティ登録されているから基本的には危険はない筈だけれど、900年間放置されていてメンテナンスされてないから、誤作動すっかもだしね」
「【失われた古代の魔法体系】の【罠】ですね?グレモリー様と一緒に内部に入って実物を調べたいのですが?」
ピオさんが訊ねます。
「ピオさん。好奇心は猫を殺すんだよ。私が構築した【罠】は解除すれば安全だけれど、【スポーン・オブジェクト】純正の【罠】もある。あっちは此処の【守護者】であるドラキュラが管理している。ドラキュラは封印してあるけれど、【罠】は自立で生きているモノもあるからね。ノヒトがドラキュラを【調伏】して、私に主人権限を移譲して、ドラキュラに命じて【罠】を無効化するまでは安全が担保出来ない。それに、城の中はドラキュラが発する瘴気が充満しているから、ピオさんクラスの優秀な【魔法使い】でも、かなり不快な気分になるよ。ま、【天使】(NPC)以外の人種にとって瘴気は不快だけれど大した害はないんだけれどね。とにかく今は同行を許可出来ない」
「そうですか。それは残念です」
「ノヒトによってドラキュラが完全に私の支配下に入れば、諸々の問題はクリアされるから、見学は後で幾らでも出来るよ」
「わかりました」
グレモリー・グリモワールは、1人で【ドラキュラ城】の中に入って行きました。
さてと、私は自分の仕事をやっつけましょう。
まずは【収納】から【自動人形】・シグニチャー・エディション数体と、テーブル・セットを取り出して、グレモリー・グリモワールの同行者の皆さんが寛げる場所を作りました。
「皆さんは、お茶でも飲んでいて下さい」
「御配慮ありがとうございます」
ディーテ・エクセルシオールが言います。
一同も謝意を示しました。
【自動人形】・シグニチャー・エディションが給仕をして、一行にお茶とお菓子が振る舞われます。
私は、【知の回廊の人工知能】とルシフェル達によって破却されてしまった、【ドラキュラ城】の外部構造物再建に着手しました。
まずは、桟橋から……。
如何しましょうかね〜?
以前の桟橋は、敵対ユーザーの拠点に攻め込んだ際に鹵獲した大型台船タイプの【浮遊移動機】を縦に連結しただけでしたが、同じモノでは芸がありません。
ミネルヴァ……【ドゥーム】に何か適当なモノがありませんか?
私は【念話】で訊ねました。
浮桟橋に代用出来そうなモノですと、海底資源掘削を目的とした浮遊式の海上プラット・フォームがあります。
ミネルヴァは【念話】で答えます。
それにします……海上プラット・フォームという事は、巨大なのですか?……私が取りに行った方が良いのでしょうか?
私は【念話】で訊ねました。
組み立てキットになっていますので、問題ありません……【転送装置】で送れます。
ミネルヴァは【念話】で説明します。
なるほど。
【ドゥーム】の物質輸送は【転送装置】が主力になっていました。
なので巨大な建造物の構造部材も、【転送装置】で送れるサイズで製造しておけば流通が効率化されて便利です。
カプタ(ミネルヴァ)が【ドゥーム】のインフラを、全て【転送装置】に対応した規格に統一しているのでしょうね。
さすがはカプタ(ミネルヴァ)です。
わかりました……順次キットを送って下さい。
私は【念話】で指示しました。
了解です。
ミネルヴァは【念話】で言います。
私は【ドラキュラ城】ファサード正面広場に【転送装置】の受け取り用の【転移魔法陣】を構築しました。
すると、次々に浮遊式プラット・フォームの構造物部材がキットとして送られて来ます。
私は浮遊式プラット・フォームの組み立て作業を開始しました。
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