第1182話。【冒険の地図】。
本日2話目の投稿です。
【ワールド・コア・ルーム】の洋食屋。
私は、【ファミリアーレ】がソフィアに代理で回してもらった【ガチャ】で獲得した景品について話しています。
【ファミリアーレ】の11人中9人が、ソフィアのあり得ない豪運の恩恵によって位階が高い【能力本】を獲得していました。
ティベリオが【能力本】で覚えた【馬術】は【常時発動能力】。
文字通り馬術の能力が向上する【能力】です。
ティベリオは、将来的に【ドラゴニーア】軍の騎兵隊に所属して、チャージ・チームに選抜される事を望んでいるので、【馬術】は有用でした。
ただし、【馬術】の【能力】位階は余り高くはありません。
【馬術】の位階は【中位】です。
今回ティベリオ以外の【ファミリアーレ】のメンバー達が、【ガチャ】の景品の【能力本】によって獲得した【能力】は【超位級】でした。
なので、一見するとティベリオだけが損をしているようにも思います。
ティベリオは、普段の訓練で乗馬技術を指導してもらっていました。
一般論で言えば、日頃訓練を行なっている技術は、自然に【能力】を獲得する可能性もあります。
なので、ソフィアの豪運によって【超絶レア】の【能力本】が出る状況で、ワザワザ【中位】の【能力】である【馬術】を覚えるのは勿体ないという感覚があるかもしれません。
しかし、端的に言って、ティベリオが【馬術】を獲得した事は良い事でした。
何故なら、ティベリオは生まれ付き身体能力や運動神経などの肉体的潜在能力が低いのです。
身も蓋もなく言えば、ティベリオは……不器用で運動音痴……でした。
従って、ティベリオが【馬術】を自然に獲得するには何十年も掛かるか、もしかしたら一生【能力】を獲得出来ないかもしれません。
そういう意味で、騎兵隊やチャージ・チームへの所属を目標にするティベリオが、今【馬術】を獲得するのは正しい選択でした。
おそらく【馬術】を獲得しない状態のティベリオでは、騎兵隊への所属ならギリギリ可能でも、世界の人気競技で、尚且つ最多優勝を誇る名門である【ドラゴニーア】の第1軍第1騎兵隊チャージ・チームに選抜される可能性は皆無だったでしょう。
なので、【中位能力】であっても【馬術】が、現状のティベリオにとっては何より欲しい【能力】でした。
ここまでは、良し。
さてと……サイラスの【能力】が問題です。
「ミネルヴァ。サイラスにも当然アドバイスをしたのですよね?」
「はい。サイラスには、本来なら攻撃系の長所を生かす【能力】が順当ですが、本人が【前衛壁職】を志望しているので防御系の【能力】か、【前衛壁職】専用【能力】の【要塞】や【牙城】などの【能力本】が適切だと助言しました。しかし、サイラス自身には何か思う所があったらしく、結果は【身替り】でした」
ミネルヴァが報告しました。
「サイラスは、既に【身替り】をインストールしてしまいましたか?」
「はい。止めるのが間に合いませんでした」
あ、そう。
サイラスが獲得した【身替り】は【任意発動能力】。
パーティ内の誰かを選んで、その誰かが受けたダメージを肩代わりする事が可能になる【能力】です。
例えば、サイラスのように肉体が頑強でヒット・ポイントが多い者が、紙装甲でヒット・ポイントが少ない【魔法使い】などが受けたダメージを肩代わりしてあげれば、戦略上味方が有利になりました。
これ自体は別に悪くありません。
【前衛壁職】を目指すなら理に適った【能力】です。
しかし、ジェシカやサブリナがそうであったように、サイラスも【職種】の発展性として、私が避けたい方向がありました。
サイラスの現在の【職種】は【戦士】です。
【戦士】系のカテゴリーの中で、【戦士】がバランスの良い【職種】だとするなら、【戦士】は攻撃に偏重したタイプでした。
また、サイラスは心根は優しいのですが、【オーガ】特有の強い力を持て余し、少しヤンチャをしてしまった為、以前の【職種】は【暴れ者】だったのです。
元【暴れ者】だったので、サイラスは現在【戦士】ではなく【戦士】になっていました。
更に、サイラスが【チュートリアル】で獲得した【才能】が【無痛】です。
【無痛】は戦闘中に受けた痛みを感じなくなるというモノでした。
それから、サイラスは後天的に【背水の陣】の【能力】も獲得しています。
【背水の陣】は自分自身や味方が不利な状況で、ステータスが向上する【常時発動能力】でした。
そして、今回サイラスが【能力本】で覚えた【能力】は、【身替り】。
これらを踏まえると、サイラスのアビリティ・ビルドの行き着く先として、【狂戦士】にクラス・アップしてしまう危険がありました。
【狂戦士】は戦闘時に【攻撃力】や【防御力】や【耐久力】などのステータスが大幅に【強化補正】されるという強力な【職種】でしたが、それとトレード・オフで【知能】や【知性】が大幅に【弱体化補正】されます。
個体戦闘ならば【狂戦士】は文句なく強力でした。
しかし、パーティやクランの中で味方と協力して戦う際には、【狂戦士】はチーム・ワークが取れません。
場合によっては、我を忘れて見境なく暴れ回り味方を攻撃してしまう事もあります。
【狂戦士】は諸刃の剣でした。
私はサイラスを、制御が困難な【狂戦士】ではなく、【異能戦士】に育成してあげたいと考えています。
【異能戦士】も戦闘時に【攻撃力】や【防御力】や【耐久力】などのステータスが【強化補正】される点では、【狂戦士】と同じでした。
ただし、【異能戦士】のステータス【強化補正】の幅は、【狂戦士】より少なくなります。
しかし、【異能戦士】は、【狂戦士】のように【強化補正】とのトレード・オフで【知能】や【知性】が【弱体化補正】される事はありません。
【知能】や【知性】が下がらないので、【異能戦士】はチーム戦術に組み込めます。
「ミネルヴァ。ソフィアの代理【ガチャ】は、ある程度欲しいモノや必要なモノが出るのですよね?」
「そう考えて差し支えないと推定出来ます」
ミネルヴァは答えました。
「だとするなら、サイラスは【身替り】を欲しがったのですよね?」
「そうだと思います」
「ミネルヴァは、私がサイラスを【狂戦士】にしたくない事を理解していて、それを踏まえてサイラスにアドバイスをしてくれたのですよね?」
「はい」
「なら、何故【身替り】が出たのでしょうか?」
「おそらく……サイラスは愛するグロリアを守る事を第一優先にしているからでしょう。クラン全体を幅広く守る【前衛壁職】専用【能力】ではなく……グロリアのダメージを自分が肩代わりする事で、直接的にグロリアを守りたい……という願望が強かったので、【身替り】だったのだと推定出来ます」
「あ、そう」
「私を守る為だなんて……。以前からノヒト先生に……アビリティ・ビルドを失敗したら手が付けられない【狂戦士】になってしまう懸念があるから気を付けるように……と指導されていたのに。サイラスを叱ってやらなければ……」
グロリアは拳を握って立ち上がります。
「グロリア。まあ、落ち着いて下さい。愛する恋人を守りたい気持ちは致し方ありません。また、これはサイラスの意図や故意というより、彼の無意識の深層心理が影響してしまった結果なのでしょうから、叱らなくて大丈夫です」
「いいえ。【ガチャ】で【身替り】の【能力本】が出たのは、確かに無意識の深層心理として解釈出来ますが、それをインストールして獲得したのはサイラス自身の意思です」
「サイラスは、【身替り】の影響によって【狂戦士】にクラス・アップしてしまうリスクが高まる事を知らなかった可能性があります。ミネルヴァが制止しようとしたものの、間に合わなかったようですしね」
「そうだったとしても、慎重に行動すれば避けられた事です。サイラスがミスを犯した事に変わりありません」
「心配要りませんよ。単純に、サイラスが【狂戦士】にならないように、私が、より一層慎重に指導しなければならなくなったというだけの事ですので」
「もしも、サイラスが【狂戦士】になってしまったら如何なりますか?」
「サイラスは、【ファミリアーレ】と一緒に戦う事は出来なくなるでしょうね。つまり、サイラスは【ファミリアーレ】を脱退して単独の冒険者にならざるを得ません」
グロリアはショックを受けたように俯きました。
「グロリア、きっと大丈夫だよ。ノヒト先生が悪ようにならないようにしてくれるよ」
ハリエットがグロリアを慰めます。
「最善は尽くしますが、約束は出来ません。ただし、サイラスが【狂戦士】になったとしても、それは【ファミリアーレ】と一緒に戦闘が行えないというだけです。戦闘以外の平時には、【狂戦士】も普通の人です。なので、サイラスが【狂戦士】になってしまった際には、彼は【ファミリアーレ】と別に冒険者活動を行い、プライベートは一緒に過ごせば良いだけです。そういうふうに、別々のパーティで冒険者活動を行う夫婦や恋人同士の冒険者も世の中には沢山いますよ。仮にサイラスが【狂戦士】になった場合に、如何しても彼が【ファミリアーレ】と一緒に冒険者活動がしたいなら、50レベル以上にレベル・アップした段階で【転職】してしまえば良いのです。どちらにしろ大した問題ではありません」
「でも、その場合は、50レベル分がコストとして失われてしまうのですよね?」
グロリアが質問しました。
「はい。しかし、そうなったところで【ファミリアーレ】は、サイラスも含めて全員【聖格】持ちです。長命な【聖格者】は人生が長いのですから、50レベルくらい直ぐにリカバリー出来ますよ」
一同は、多少安心したようです。
私は、以前にも増してサイラスが【狂戦士】にならないように気を配らなければならなくなりましたが、仮に彼が【狂戦士】になったところで対処法は幾らでもありますし、最悪サイラスが一生【狂戦士】のままでも【ファミリアーレ】と共闘出来ないだけで、別に取り返しが付かない不幸などではありません。
近接での個体戦闘力という意味では、【狂戦士】は【戦士】系最強の【職種】の1つには違いないのですから。
気を取り直して、今回の【ガチャ】で【能力本】以外の景品を貰った、【ファミリアーレ】の残り2人です。
イフォンネッタが【ガチャ】で獲得したのは、【冒険の地図】。
その名の通り、【宝】の在りかを示す地図でした。
以前グレモリー・グリモワールも、ソフィアに代理で回してもらった【ガチャ】で同じ【冒険の地図】を入手しています。
「イフォンネッタは【冒険の地図】を獲得していますね?好奇心から訊ねますが、何故イフォンネッタはアイテムや【能力】ではなく、【冒険の地図】を欲しがったのですか?」
「未知を既知に変えるのが冒険者ですから」
イフォンネッタはキッパリと言いました。
なるほど。
イフォンネッタが【ファミリアーレ】に加入した経緯は……冒険がしたい……からでしたからね。
「イフォンネッタは、冒険の結果として得られるかもしれない【宝】よりも、冒険そのものがしたい訳ですね?」
「その通りです。ただ……これは何処の地図なのでしょうか?余りに抽象的過ぎて、地名なども書き込まれていないので、何処なのか皆目わかりません」
イフォンネッタは【冒険の地図】を開いて言います。
イフォンネッタが開いた【冒険の地図】は、メルカトル図法でもモルワイデ図法でもない、小学生が描いたような下手くそな手描き風の地図でした。
「その【冒険の地図】は【マップ】データとしてインストールする仕様なのですよ。実際に地図で表示してある地形などの内容は、実は殆ど意味がありません。軽く魔力を流してみて下さい」
「なるほど。わかりました」
イフォンネッタは、言われた通りに【冒険の地図】に魔力を流します。
「如何ですか?」
「【マップ】の縮尺を世界規模に広げたら、幾つか光点のピンが打たれました」
「【冒険の地図】には位階とレア度が設定されていて、その【冒険の地図】は【超絶レア級】の最高のモノです。【マップ】で示された場所には確実に【神の遺物】がありますので、その場に行けばイフォンネッタは何かしらの【神の遺物】を手に入れられます。また、【秘跡】や【スポーン・オブジェクト】である可能性もあります。現在ピンが打たれた場所で【宝】を見付けると、新しいピンが打たれますので、その【冒険の地図】があれば、一生冒険が出来ます」
「私にピッタリのアイテムです」
イフォンネッタは嬉しそうに言いました。
「ノヒト先生。【冒険の地図】のピンの場所に早く行かないと、イフォンネッタさんの【宝】が誰かに獲られちゃうんじゃない?」
ハリエットが心配します。
「大丈夫です。【冒険の地図】によって場所が示された【宝】は、他の【冒険の地図】とは相互に互換しません。また、【冒険の地図】のデータをインストールしたイフォンネッタが近くに向かわなければ【宝】は【スポーン】しない仕様です。なので、イフォンネッタの【宝】は誰にも獲られません。ですので、イフォンネッタが実際その【宝】を探しに出掛けるのは十分に訓練と準備を行った上で問題ありません」
「わかりました」
イフォンネッタは力強く頷きました。
お読み頂き、ありがとうございます。
もしも宜しければ、いいね、ご感想、ご評価、レビュー、ブックマークをお願い致します。
活動報告、登場人物紹介&設定集もご確認下さると幸いでございます。
・・・
【お願い】
誤字報告をして下さる皆様、いつもありがとうございます。
心より感謝申し上げます。
誤字報告には、訂正箇所以外のご説明ご意見などは書き込まないようお願い致します。
ご意見ご質問などは、ご感想の方にお寄せ下さいませ。
何卒よろしくお願い申し上げます。




