第118話。タナカ・ビレッジの強化。
名前…キース・リバティ
種族…【ドラゴニュート】
性別…男性
年齢…なし
職種…【竜騎士】
魔法…【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】
特性…飛行、【才能…槍術】
レベル…99
ユーザーでありながら、【ドラゴニーア】竜騎士団に所属し軍務に服する、変わり者。
夜。
私達は、【神の遺物】の【自動人形】であるクイーンがいる【タナカ・ビレッジ】を訪ねました。
事前に、クイーンから招待を受けていたのです。
クイーンから色々な話を聞きました。
クイーンの所有者であるエンペラー・タナカ氏が、ある日当然いなくなってしまった事。
やがて、多数の魔物が出没し、時々は見かけていた、人種が誰もいなくなってしまった事。
それから、900年の日々……。
クイーンは、どんな気持ちで暮して来たのでしょうか?
「お話を聴けて良かったです。私の周囲に起きている状況が、かなり詳細にわかりました。何より、私が、マスターに捨てられた訳ではないとわかり安堵しています。私は、マスターの命令を守りながら、マスターのお帰りを待てば良いのだ、と確信を得て、やる気がみなぎっています」
クイーンは、嬉しそうに言いました。
どうやら、エンペラー・タナカ氏は、クイーンにとって、良いマスターだったようですね。
私達は、クイーンの屋敷で、晩ご飯を、ご馳走になっていました。
クイーンが丹精込めて育てた、採れたての農産物は、格別の美味しさです。
私は、オピオン遺跡で倒した【パイア】の肉と、【収納】に保管してあった【タカマガハラ米】を提供。
クイーンは、食事をしませんが、私達と一緒に料理をする事が楽しい、と言っています。
そして、クイーンが作った作物を、私達が喜んで食べている様子を見るのは幸せだ、とも言いました。
クイーンは言及しませんが、900年間、誰とも交流を持てなかった事が寂しかったのかもしれません。
【神の遺物】の【自動人形】は、知性と自我と感情を持っているのですから。
ソフィアは、クイーンが育てたジャガイモを両手に持ち、そこにオラクルとディエチが両側からマヨネーズをかけていました。
私も食べましたが、ジャガイモを蒸しただけ、というシンプルな料理ですが、これが、また最高に美味い。
「もっとじゃ。もっと、いっぱいかけるのじゃ」
ソフィアは、マヨネーズの増量を要求します。
あれでは、マヨネーズを飲んでいるようなものですね。
「植物が、このように美味しいとは……」
トリニティは、トウモロコシやスイカに目を細めました。
トリニティは、雑食性ですが、遺跡から出た事がなかった為に、穀物や野菜を食べた事がなかったそうです。
また、生の魔物肉を、そのまま食べるだけの食生活だった為、加熱や調味料という物も知らなかったのだ、とか。
「こんな場所が残っていたなんて驚きです。クイーンは、新生【パラディーゾ】の国民第一号ですね」
ファヴが言いました。
ファヴは、クイーンに会うのは、今日が初めてです。
現在、旧【パラディーゾ】国民の子孫達に対して、国籍の交付が行われていますが、クイーンは、一早く新生【パラディーゾ】の国籍を得て、唯一の住民として暮らしていました。
ファヴにとっても、特別な国民なのでしょう。
「【パラディーゾ】の庇護者たる【ファヴニール】様、御自ら、お越し頂けるなんて、光栄です」
クイーンは、深く頭を下げました。
私がファヴを紹介した時のクイーンの驚いた様子を思い出すと、やはり、【神の遺物】の【自動人形】には、人権を与えるべきだ、と実感出来ます。
私は、クイーンに、ある約束をしていました。
オピオン神殿を攻略してダンジョン・ボスを倒したら、ダンジョン・ボスのコアは、クイーンのバックアップ・コアとして提供をする、という約束です。
クイーンは、失うには、あまりに惜しい存在ですからね。
同じ【神の遺物】の【自動人形】である、オラクルとクイーン。
私とソフィアにとっては家族であるオラクルの方が大切ですが、【パラディーゾ】の国民にとっては、今後、クイーンは極めて重要な存在となるでしょう。
ソフィア、ファヴ、オラクル、トリニティも、クイーンにダンジョン・コアを提供する事に同意してくれました。
私達の共通認識として、単純に友人だから、というだけでなく、【パラディーゾ】とサウス大陸の復興に向けて、クイーンの記憶は、極めて有用だ、と考えたからです。
実に900年ぶりに【パラディーゾ】に帰還する旧【パラディーゾ】国民の子孫達は、当然、【パラディーゾ】で農業を行なった経験などありません。
また、900年前の【パラディーゾ】の農業や畜産業の記録や資料などは散逸してしまっていて、活用出来る物が、現在、何もないそうです。
そんな中、クイーンは、900年に渡り【パラディーゾ】で農業を営んで来ました。
【自動人形】の記憶は経年劣化せず完全に維持されます。
クイーンのコアには、いつ、どこで、何が、どうなった……という記憶と共に、その時の時刻、天気、気温、湿度、日照、風力……などの記録も完璧に蓄積されていました。
こういうクイーンの記憶は、まさに【パラディーゾ】の環境や気候に適応した農業の知識そのものと言えるのです。
クイーンは、正式にファヴから、新しく入植してくる【パラディーゾ】の国民達に農業を指導する役割を依頼されました。
クイーンは……お役に立てるなら……と快諾してくれています。
今後、クイーンに期待されている役割は、計り知れません。
「ところで、クイーン。あなたの畑に【魔法草】はありますか?」
私は訊ねました。
「少しですが、ございます」
【魔法草】と【魔法草】は同じ物です。
栽培された物が【魔法草】、野生の物が【魔法草】と呼ばれていました。
一般的に、栽培株の方は品質が安定しており、野生株の方は品質にバラつきがあります。
しかし、スポーン・エリアの周囲など魔力溜まりになっている所に生育する株には、時折、飛び抜けて高品質の物が生えたりしました。
・・・
私達は、クイーンに案内されて【魔法草】の栽培されている区間に歩いて行きます。
ソフィア、ファヴ、オラクル、トリニティは、果樹園の方に向かって行きましたね。
まあ、良いか。
クイーンの農場は、素晴らしく手入れされていました。
畑というより、テーマパークの花壇のように美しいのです。
元来、この世界では、農業は、地球のそれより簡単だと言われていました。
あまり手をかけなくても、農作物が育つ為、畑や果樹園などに手をかけて世話をする、という考えは、多数派ではありません。
中には、地球並の手間暇をかけている農家もありますが、それは、【ドラゴニーア】の【神竜】専用農場や、【ラウレンティア】の高級ワイナリーなど、特別な場所だけに限られています。
クイーンの畑は、【神竜】専用農場や、【ラウレンティア】の高級ワイナリーに比べても、圧倒的に素晴らしいものでした。
月明かりに照らされたクイーンの畑は、もはや、天上の美、とでも表現出来るような美しさ。
こんな畑で収穫された作物の品質が悪い訳がありません。
その事で、クイーンを褒めると……畑仕事しか、やる事がなかったので、手をかけているだけですよ……などと謙遜します。
「クイーン。この【魔法草】を大規模に作付けしてもらえませんか?」
「構いませんよ。【魔法草】は、あまり手間もかかりませんので。ただ、魔力散布の【魔法装置】が一つしかないのです。畑を広げるとなると性能的に難しいかと」
クイーンは言いました。
【魔法草】は、魔力を吸収して蓄積します。
【魔法草】そのものや、【魔法草】を原料として作られた【ポーション】などは、この【魔法草】に蓄積された魔力によって、魔力回復や体力回復の効能を発揮するという設定でした。
なので、魔力溜まりに自生する野生株の【魔法草】と違って、【魔法草】を栽培するには、魔力散布の【魔法装置】が必須なのです。
魔力散布の【魔法装置】は原始的な構造で、【魔法石】から魔力を垂れ流しにして、畑に散布するだけで、その目的を果たしました。
しかし、魔力を垂れ流しに出来るような、大きな【魔法石】が入手困難な為、貴重な【魔法装置】なのです。
魔力を垂れ流しに出来る【魔法石】は、【超位】の魔物のコア……。
はい、私、大量に持っています。
「とりあえず、作付け面積を十倍に増やして下さい。魔力散布の【魔法装置】は、9個……スペアも含めて19個渡しておきます」
私は【収納】から【超位】のコアを取り出しました。
私は、瞬時に19個の【超位コア】に、必要な【魔法公式】を刻み、それをクイーンに渡します。
「ありがとうございます。貴重な【魔法石】を、こんなに……。よろしいのですか?」
「はい、もちろんです。人手は足りますか?」
「そうですね。何とか足りると思います」
何とか、ですか。
つまり、やり繰りしなければ回らない、という意味ですね。
「では、13体の【自動人形】を追加しましょう。4体のシグニチャー・エディションと9体のオーセンティック・エディションを、後で作っておきますよ」
「何から何まで、ありがとうございます」
「それから、集落の防衛要員は、いりませんか?」
「十分です。キング、ジャック、エース、ジョーカー達は、防衛戦力としても、とても頼りになります」
うーむ。
多少、心配がありますね。
普通に考えれば、開拓村の防衛戦力としては、十分でしょうが、クイーンの特別な価値を考えると、良からぬ企みを強行してくる者がいるかもしれません。
また、【自動人形】の技術を盗みたいと考える不逞の輩も警戒対象となります。
私の造った【自動人形】・シグニチャー・エディションは【高位】の魔法職であり、武器戦闘職でもありました。
ぶっちゃけ、剣聖よりも強いはずです。
なので、実際に襲撃を受ければ、苦もなく敵を撃退してしまうでしょう。
しかし、襲撃を受ける事自体が問題です。
クイーンの開拓村は、屋敷や倉庫などが建ち並ぶ区画に申し訳程度の壁や柵があるだけで、城塞集落ではありません。
また、畑は、防風林のような樹木と、花壇に囲まれているだけで、はたからみると、無防備。
害意を向けて来る者に襲撃を諦めさせるような……抑止力という意味では、かなり不十分と思われます。
「クイーン。【タナカ・ビレッジ】を城塞集落に改造しませんか?工事は私が行います。もちろん無償です。一晩で完成しますよ」
「ありがたい、お申し出ですが……。よろしいのですか?」
「はい。その代わり、お願いなのですが、クイーンの作る農作物を、今後、私に優先的に販売して下さい。特に【魔法草】は、全量を買い受けたいのです。つまり、私の専属契約農場となってくれませんか?販売代金は、販売日の、穀物相場、青果物相場、薬草の卸売相場を元に算出し適正価格で買い取ります。どうでしょうか?」
「私の方ばかりに利益があるように思うのですが?」
「いいえ、クイーンの作る農作物は、最高品質です。特に【魔法草】は、私が見ても素晴らしい逸品ですよ。こういう高品質な【魔法草】は、絶対量が少ないので市場には、ほとんど出回りません。お金を積んだからと言って、手に入るものではないのです。なので、私にもメリットがあります」
「そういう事でしたら、喜んで契約させて頂きます」
クイーンは、微笑みました。
私とクイーンは、その場で【契約】を取り交わします。
「何の話をしておったのじゃ?」
ソフィアが、果樹園の方から、トコトコと駆けてきました。
ソフィアの後ろから、ファヴとオラクルとトリニティもやって来ます。
ソフィアの口の周りは、ベタベタでした。
そして、ソフィアの手には、大きな梨が……。
ソフィア、まさか、果物泥棒を?
「ソフィア様、ウチの梨は如何ですか?」
クイーンが言いました。
どうやら、クイーンが、ソフィアに果樹園の果物を食べる許可を与えてくれていたようです。
「最高じゃ。ジャックが、美味しいのを選んでくれたのじゃ」
ソフィアは、屈託なく言いました。
「それは、良かった。ジャックは、優秀な果樹園の責任者なんですよ」
クイーンは、嬉しそうに言います。
私がクイーンに渡した【自動人形】は、クイーンの役に立っているようですね。
「ノヒトよ。何やら【契約】をしておったようじゃが?」
ソフィアは、訊ねました。
「商談です。たった今、クイーンにアブラメイリン・アルケミーの契約農家になってもらいました」
「それは、良い考えじゃな……。あわあ〜、眠い」
ソフィアは、言います。
「ソフィア様、もしよろしければ、今日は、屋敷に、お泊りください」
クイーンは、言いました。
「ノヒトよ。クイーンは、こう言っておるが、良いか?」
「構いませんよ。クイーン、厚意に甘えさせてもらいます」
「はい」
クイーンは、嬉しそうに言います。
・・・
ソフィアとファヴとトリニティは、クイーンの屋敷の客間で就寝しました。
オラクルは、3人の付き添いです。
さてと、やりますか……。
私は、【タナカ・ビレッジ】の周囲に城壁を構築します。
私なら、構造物を建てるくらいは、大した時間もかかりません。
私は土木・建築のステータスもカンストしていますので、魔力無限のチートと、材料さえあれば、一晩で街だって建ててみせますよ。
ただし、私が造ると、どうしても、機能と強度優先の無骨なデザインになってしまうのですよね……。
どうやら、建築美、を表現するには、土木・建築のステータスとは違う能力が必要なようです。
この世界には、美術とか芸術とかのステータス項目はないんですよね……。
【自動人形】のように、見本があれば、そっくりの形状にトレース出来るのですが、無から何かを創り出す才能は、私にはないようです。
・・・
日の出を迎える頃、城壁、城門、城壁の四つの角に尖塔、空堀、幾つかの倉庫と建屋……それから、【アダマンタイト・ゴーレム】10体、【アダマンタイト・ガーゴイル】10体が完成しました。
「城壁で開拓村を全て囲みましたが、かなり余裕を持って造りましたので、後で畑を広げたり、建物を増やしたりも可能ですよ。倉庫や建屋は、内装は設えてありません。用途に合わせて、自由に改築して下さい」
「ありがとうございます。ところで、あの【ゴーレム】や【ガーゴイル】達は?」
クイーンは、訊ねます。
「あれを壁の上で歩かせたり、門の前に立たせたりすれば、良からぬ事を考える者を寄せ付けないでしょう。基本戦闘力は、【自動人形】・シグニチャー・エディションと、ほぼ同等だと思います。ただし、人工知能と器用さは【自動人形】・シグニチャー・エディションの方が高いですね。【ゴーレム】も【ガーゴイル】も、農作業には向きません。泥棒避けとでも思って下さい」
【アダマンタイト・ゴーレム】は、パワーがありますので、戦闘以外には、土木作業などにも活用出来るかもしれません。
【アダマンタイト・ガーゴイル】は、飛行能力では、【自動人形】・シグニチャー・エディションよりも高いレベルですので、警戒警備要員です。
【ゴーレム】も【ガーゴイル】も、用途特化、戦闘特化の存在でした。
【自動人形】のような汎用性と柔軟な運用は、望むべくもありません。
また、【自動人形】は、強力な武器や防具を自由に装備出来ます。
【ゴーレム】や【ガーゴイル】は、一部の武器の使用しか出来ません。
なので、私は、戦闘においても、【自動人形】が【ゴーレム】や【ガーゴイル】を上回ると思います。
これが、私が【自動人形】を好んで造る理由でした。
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