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第1177話。【串聖】。

【ワールド・コア・ルーム】の洋食屋。


 私は【ファミリアーレ】の女子チームから今日の午後の報告を受けていました。

 ハリエットは、【剣聖】流道場師範代ドザエモン・ウラベ氏の息子さんであるヒロタロウ君に手酷くボコられたそうです。

 アイリスは【ガチャ】の景品で獲得した【能力本(スキル・ブック)】で覚えた【縮地(シュリンケージ)】の運用法を【剣聖】から指南された、と。


「【剣聖】流道場に向かったジェシカとモルガーナとサブリナは、何か収穫はありましたか?」


「私は、小太刀術と小具足腰廻(こぐそく・こしまわり)という技術を教わりました。今日は触りだけですが……」

 ジェシカが言います。


 小太刀術とは、そのまま小太刀を用いた戦闘技術の事ですね。


 小具足腰廻(こぐそく・こしまわり)とは?


 余り耳慣れない言葉です。


 そもそも、具足とは……(そなえ)()りる……という意味。

 基本的には、道具全般を指す言葉です。

 転じて、(いくさ)道具の事を意味するようになりました。


 従って、小具足(こぐそく)とは、日本の甲冑装備において、鎧兜(よろいかぶと)などを大具足(おおぐそく)と称すのに対し、それ以外の部分を指します。

 即ち……面具(めんぐ)喉輪(のどわ)脇楯(わいだて)籠手(こて)佩楯(はいだて)脛当(すねあて)……などなど。


 それから、(いくさ)主武装(メイン・ウエポン)……刀剣、弓矢、槍、薙刀(なぎなた)、銃……など、大きな携帯武装の事も、大具足(おおぐそく)と称します。

 この意味合いから言えば、小具足(こぐそく) とは、大具足(おおぐそく)以外の携帯武装、即ち副武装(サブ・ウエポン)の……脇差(わきざし)、短刀、小太刀、鎧通(よろいとおし)……などの事でした。


 つまり、武術としての小具足腰廻(こぐそく・こしまわり)とは、脇差・短刀・小太刀・鎧通などを用いた格闘術や、柔術・組討(くみうち)なども含む戦場における近接戦闘技術全般を意味するのでしょう。


 ジェシカの主武装(メイン・ウエポン)は【魔法小銃(マジック・ライフル)】の【ティラトーレ・シェルト】ですが、副武装(サブ・ウエポン)は【ハルパー】の【アルゲイポンテース】でした。

【ハルパー】は刃がある前側に湾曲した独特な形状の片刃の短剣です。

 短剣を使うジェシカには、小太刀術や小具足腰廻(こぐそく・こしまわり)は最適な技術と言えるかもしれません。


「本来【狙撃手(スナイパー)】的な位置付けのジェシカは、基本的にパーティの【前衛(フォワード)】に守られて戦いますが、一方でジェシカはアイリスと並んで【斥候(スカウト)】的な役割も熟しています。パーティ陣形から出て索敵を行ったり、時には釣り出し(ベイト)役になって魔物をトレインして来なければならない事もあるでしょう。なので、近接戦闘術を身に付けておいて損はありません」


「はい」


「ただし、私は基本的にジェシカが積極的に敵と白兵戦を行う事は想定していません。端的に言えば、それはジェシカの役割ではありません。ジェシカがパーティ陣形から出て行動する際は、【潜入(スニーキング)】などを隠密の【能力(スキル)】を駆使して情報収集や敵勢視察を行ったり、必要があれば敵を狙撃して一撃離脱するなどの立ち回りが適切だと考えています。また、ウルフィに近接護衛を任せる方法論もあるでしょう。ジェシカが近接戦闘技術を学ぶ意図は、攻撃というより護身術だと考えれば良いですね」


「【剣聖】様も同じ事を仰いました。私が近接戦闘技術を学ぶ意味は……敵を倒す為ではなく、自分が死なない為だ……と」


 なるほど。

 さすがは【剣聖】。

 彼も、その辺りの事は十分にわかっているみたいですね。


「モルガーナは?」


「はっ!私は、【剣聖】様やウラベ師範代から、槍を用いた戦闘技術の基礎を指導して頂きました」

 モルガーナは言いました。


「【剣聖】は槍も扱えるのですか?」


「はいっ!【剣聖】流では、あらゆる武器への対抗技術という意味合いも含めて、武芸百般は一通り修めるそうです。ただし、やはり個々の武器には、それぞれ奥深い神髄・奥義があるので、槍術(そうじゅつ)専門流派のそれと比べると、【剣聖】流やウラベ師範代が身に付けた槍術(そうじゅつ)は、どうしても一般論の範疇を超えるモノではないそうであります」


「まあ、槍術(そうじゅつ)という意味では、モルガーナは竜騎士団から専門技術は指導して貰えますからね」


「はいっ。ただし……竜騎士団の槍術(そうじゅつ)投槍(スピア・スロー)の技術が主となるので、近接槍術(そうじゅつ)や白兵戦での槍の扱いという事になると、竜騎士団ではグラディウスを用いた戦闘技術に主眼が置かれています」


「そうですね。なので、私はモルガーナの副武装(サブ・ウエポン)にグラディウスの【グラム】を貸与しました」


「あの……ノヒト先生」


「何ですか?」


「私は、近接槍術(そうじゅつ)も極めてみたいです」


「近接槍術(そうじゅつ)ですか?」


「はい。ウラベ師範代によると、【タカマガハラ皇国】には、東の【本多(ほんだ)】流、西の【立花(たちばな)】流、(すめらぎ)の【ナーラ】にある別荘書院の警護を務める【ホーゾー院】流など、数多(あまた)槍術(そうじゅつ)流派が乱立する近接槍術(そうじゅつ)のメッカなのだとか……」


【タカマガハラ皇国】は、日本をイメージして創られた【マップ】です。

 つまり、【タカマガハラ皇国】の武術も日本の流れを汲んでいました。


 西欧の槍は……スパルタン・ファランクスを代表とする短槍と盾を装備したスタイルか、長槍で槍衾(やりぶすま)を作りひたすら前進するマケドニアン・ファランクスやスイス傭兵のようなスタイルか、ローマのピルムのように投槍を主とするスタイルか、中世の重装騎兵のランス・チャージ……などが有名です。

 どちらかと言えば、西欧の槍術(そうじゅつ)は個人の戦闘技術というより集団戦術としての兵科運用という傾向が高くなりました。


 日本にも足軽や農民徴収兵などに長槍を持たせて槍衾(やりぶすま)を作り前進させてシンプルに突き刺したり叩き付けるような集団戦術の兵科としての槍の位置付けはあります。

 しかし、日本で槍術(そうじゅつ)と称する場合、それはマニアックでガラパゴス的な発展をして、世界のメイン・ストリームから見ると一種異端視されていました。

 日本の武術としての槍術(そうじゅつ)は、槍1本で多種多様な技術を駆使して攻防自在の万能戦闘技術を追究します。


「つまり、モルガーナは【タカマガハラ皇国】で近接槍術(そうじゅつ)を学びたいのですか?」


「はい。可能でしょうか?」


「モルガーナは来年の9月から竜騎士団に所属する予定です。しかし、それまでの期間に【タカマガハラ皇国】の槍術(そうじゅつ)流派の道場を訪れて出稽古をする事は可能ですよ」


「ありがとうございます。私は、是非学んでみたい槍の流派があります」


「ほ〜う、何流ですか?」


「【救世九聖】の1人【(けん)聖】様の流派です。【串聖】様の槍術(そうじゅつ)は、攻撃も防御も、投擲も近接も、槍1本で完結する攻防自在・遠近無双の槍術(そうじゅつ)なのだそうです」


「え〜と、確か【串聖】は行方不明なのでは?同じ【救世九聖】の1人【賢聖】のディーテさんが言っていましたが?」


 以前ディーテ・エクセルシオールは……【串聖】と【堅聖】の称号は現在に受け継がれているのかわからない……と話していましたが、その後に当代の盾の【堅聖】キューダス・ロイガーがノート・エインヘリヤルの陣営にいる事がわかりました。


「ウラベ師範代が最近【タカマガハラ皇国】で……【ワカヤマ】山中にて【串聖】かもしれない謎の【槍士(ランサー)】が出没した……との噂を耳にしたそうです」


 山中に出没って、熊じゃあるまいし……。


「謎の【槍士(ランサー)】ですか?」


「真偽の程は、ウラベ師範代にもわからないそうです。ウラベ師範代のお話によると……【ワカヤマ】山中のとある集落の子供達が、山に(たけのこ)を掘りに行った際、突如【古代(エンシェント・)(ドラゴン)】と【遭遇(エンカウント)】してしまったそうです。その時に謎の【槍士(ランサー)】が現れ、目にも留まらぬ1突きで【古代(エンシェント・)(ドラゴン)】を仕留め、子供達を救ったのだそうです。【剣聖】様もウラベ師範代も……【古代(エンシェント・)(ドラゴン)】を1撃で仕留められるなどという凄絶な槍の腕前なら本物の【串聖】であっても不思議ではない……と。また、救われた子供達の証言によると、その【槍士(ランサー)】が持っていた得物が、長さ3m程ある十文字槍で、左右の張り出しが三日月状、穂先から柄まで真っ黒だったそうです。伝承によると、代々の【串聖】が受け継ぐ【神の遺物(アーティファクト)】の槍が、三日月張り出しの十文字穂、総身9尺9寸9部、色は漆黒、名を【絶海】と称するそうです。もしも、その方が【串聖】様なら是非槍術(そうじゅつ)の奥義をご教示頂きたく思います」


神の遺物(アーティファクト)】の槍【絶海】は、ホータン王国建国神話に登場する槍の名前に由来し、モルガーナが言った通りの形状をしています。


「なるほど。ただし、その話だけでは、その通りすがりの【槍士(ランサー)】が本物の【串聖】か如何(どう)かはわかりません。【神の遺物(アーティファクト)】の【絶海】は、世界(ゲーム)に複数存在していますからね」


「チーフ。ユグドラに記憶を辿ってもらいました。その【ワカヤマ】山中に現れた人物は、現在【キョート】近郊に滞在し、シリロ・カルボーニと名乗っています」

 ミネルヴァが報告しました。


「で、そのシリロ・カルボーニなる【槍士(ランサー)】は【串聖】なのですか?」


「ユグドラ、それからディーテ・エクセルシオールによると、200年程前に存在が確認されていた【串聖】はシレア・カブリーニと云うそうです」


「では、【串聖】ではないのですね?いや、【串聖】シレア・カブリーニがシリロ・カルボーニと偽名を名乗っていたり、【串聖】シレア・カブリーニの後継者がシリロ・カルボーニである可能性もあるか……」


「その2つの仮説は両方共に現時点では断定出来ないそうです。ユグドラは、あくまでも植物を端末として見聞きした視覚情報と音を機械的に全て記憶する【完全記憶媒体(アカシック・レコード)】です。仮に【串聖】のシレア・カブリーニが、偽名としてシリロ・カルボーニを名乗り、外見も変装していた場合、ユグドラが使役する植物端末からでは魔力反応による個体識別が出来ないので、同一人物か如何(どう)かは判別不可能です。また、【串聖】シレア・カブリーニが、シリロ・カルボーニに称号を受け継がせたか如何(どう)かもユグドラはわかりません」


「偽名説と後継者説が両方あり得るとしても、それを【完全記憶媒体(アカシック・レコード)】のユグドラがわからないという事がありますか?もしも【串聖】シレア・カブリーニと、謎の【槍士(ランサー)】シリロ・カルボーニが同一人物ならば、シリロ・カルボーニの行動を(さかのぼ)って行けば、ユグドラなら【串聖】シレア・カブリーニに辿り着くのではありませんか?つまり、謎の【槍士(ランサー)】シリロ・カルボーニとは、【串聖】シレア・カブリーニの偽名……アンダー・カバーだという事です。また、シリロ・カルボーニが、【串聖】シレア・カブリーニの後継者なら、称号が受け継がれる瞬間をユグドラは植物を端末として見ているのではありませんか?」


 ゲーム時代のグレモリー・グリモワール(私)も、グレイ=マリー・クレイモアとか、マジョリーナ・ストレガとか、ハナコ・サトウとか、色々なアンダー・カバーを使い分けていましたからね。

 アンダーカバー説が正解なら、おそらく【串聖】シレア・カブリーニには、素性を隠したい理由があったのでしょう。


「ユグドラによると【串聖】シレア・カブリーニは200年前に【ゴンドワナ】帝都【ホウライ】の【ザッハーク神殿】にて消息が途絶えました。翌日【アガルータ】首都【シャンバラ】の【アジ・ダハーカ大寺院】からシリロ・カルボーニが初めて姿を現しました」


【ゴンドワナ】はイースト大陸に紐付く【隠しマップ】ですので、イースト大陸の4つの【遺跡(ダンジョン)】をクリアしていれば、【アガルータ】首都【シャンバラ】の【アジ・ダハーカ大寺院】から【(ゲート)】を通じて【ゴンドワナ】帝都【ホウライ】とを行き来出来ました。

 また、【神格】植物【世界樹(ユグドラシル)】のユグドラは、同位階以上の存在が隠蔽した神域の内部を植物を端末にして覗き見る事が出来ません。

 つまり、【完全記憶媒体(アカシック・レコード)】たるユグドラを()ってしても、【シャンバラ】の【アジ・ダハーカ大寺院】と【ホウライ】の【ザッハーク神殿】で起きた出来事は、双方の守護竜である【アジ・ダハーカ】と【ザッハーク】の了解がなければ見聞き出来ないという事。


 しかし、これは、もう確定でしょう。


「つまり、本名がシレアで、偽名がシリオの同一人物。謎の【槍士(ランサー)】シリロ・カルボーニは、【串聖】シレア・カブリーニのアンダー・カバーですよ」


【救世九聖】の9人は長命な【聖格者】ですから、200年くらいなら軽く生きられますしね。


「状況証拠的には、その可能性が最も高いのですが、そう断定する証拠がありません」


「【ザッハーク神殿】と【アジ・ダハーカ大寺院】の中での出来事、つまり……【串聖】シレア・カブリーニが、アンダー・カバーのシリロ・カルボーニに入れ替わる瞬間……を、ユグドラが見逃したからですか?それは、他の蓋然性が乏しい時点で、事実上余り意味がない答え合わせなのでは?」


「それもありますが、そもそも【串聖】シレア・カブリーニとシリロ・カルボーニは性別が異なります。【串聖】シレア・カブリーニは女性ですが、シリロ・カルボーニは男性です」


「見た目上の性別を誤魔化す手段くらい如何(どう)とでもなるのでは?【変身(トランスフォーム)】とか、【形状変更(シェイプ・シフト)】とか、【精神操作】とか……」


「そういう蓋然性はあり得ます。現在【キョート】近郊に居るシリロ・カルボーニの元に【スパイ・ドローン】の【キー・ホール】を送っています。もう間もなくサーチ範囲に捉えますので、対象を発見した時点で報告します」


「わかりました」


「【串聖】様の居場所がわかったのですね?」

 モルガーナが興奮気味に訊ねました。


「どうやら、そのようです。もしも、シリロ・カルボーニが【串聖】シレア・カブリーニならば、モルガーナに槍術(そうじゅつ)を指導してもらえないか私から頼んでみます」


「ありがとうございます」

 モルガーナは敬礼します。


「次は、サブリナの話を……おっと、続きは食事の後にしましょう」


 見ると、【コンシェルジュ】達が厨房から料理を運んで来ました。


 うわ〜、何だ、あの巨大な赤いオープン・カー型のキッズ・プレートは……。

お読み頂き、ありがとうございます。

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・・・


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[一言] 十字槍といえば宝蔵院流槍術ですかねぇ……他にもありますけどFG○とバカボ○ドで知名度が上がったイメージあります。
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