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第1170話。政治絡みの学校の制服。

 ゲームマスター本部ノヒト・ナカ執務室(オフィス)


 私は、カフェオレで一服していました。

 既にガブリエルとリントとティファニーが【サントゥアリーオ】に向かっているので、私も早く合流するべきなのですが、この後の作業の面倒さを想像すると如何(どう)しても腰が重くなります。


【マップ】を見ると、トリニティとカルネディアとフェリシテとセグレタリア、そして【フラテッリ】が【ワールド・コア・ルーム】の中を移動していました。

転移(テレポート)】ではなく歩いています。

【フラテッリ】はトリニティとカルネディアを中心に何やら陣形を組んで歩いているようです。


 更に遠巻きから大勢の【コンシェルジュ】達が追従していました。

【コンシェルジュ】達は幾つかのチームに分かれて建物の陰などからトリニティとカルネディアの方を窺っています。


 何をしているのでしょうか?


「ミネルヴァ。トリニティとカルネディアの午後の予定は?」


「トリニティとカルネディアは【ワールド・コア・ルーム】の百貨店で日用品の買い回りを行います。【フラテッリ】も同行します」

 ミネルヴァが言いました。


【ワールド・コア・ルーム】内には各種飲食店の他、様々な商品やサービスを取り扱う店舗があります。

 中には高級百貨店などもありました。

 しかし、何か必要なモノがあれば【コンシェルジュ】達が補充をしておいてくれるので、私やトリニティが買い出しに出向く必要はありません。

 トリニティが私の陣営に加わった際にも、彼女の生活に必要なモノは、全てミネルヴァの差配で【コンシェルジュ】が揃えていた筈です。


「【コンシェルジュ】に、やらせないのですか?」


「カルネディアに買い物の仕組みを学ばせるトレーニングです。【フラテッリ】はカルネディアの護衛任務の最終訓練を兼ねています」


「あ、そう。わかりました」


 確かに、来月頭から【竜都】の国立学校に通う予定になっているカルネディアの社会勉強として、そのような学習も必要でしょうね。

 何しろ、カルネディアは生まれてから数日前まで深い森の中で暮らして来た野生児ですし、私達に保護されてからは必要なモノは周囲の者達が与えてくれるので、自分で買い物をした経験がありません。


 また、【フラテッリ】はカルネディアと一緒に国立学校に通い、カルネディアの近接護衛を行わせる事が決まっていました。

 その最終訓練として、死亡しても【復活(リ・スポーン)】するギミックがある【ワールド・コア・ルーム】でなら……暴漢や刺客やテロリストの役を演じる【コンシェルジュ】達が、実際に攻撃を加えて来る……というような相当に本格的なシミュレーションもリスクなく行えます。


 つまり……トリニティとカルネディア達を遠巻きから追尾している大勢の【コンシェルジュ】達は、隙を見てカルネディアを襲撃して、それを【フラテッリ】が防ぐ……というシミュレーションになっているのでしょうね。

 念入りな事です。


 トリニティ……買い物でカルネディアが何か欲しがるようなら、買い与えて構いませんからね。


 私は【念話(テレパシー)】で伝えました。


 それは、無条件()つ無制限という意味でしょうか?


 トリニティは【念話(テレパシー)】で訊ねます。


 もちろん、常識的な範囲です。


 私は【念話(テレパシー)】で言いました。


 ()()()()()()ですね……仰せのままに致します。


 トリニティが【念話(テレパシー)】で了解します。


 トリニティは……常識的な範囲……を強調しました。

 つまり、トリニティは……カルネディアから強請(ねだ)られたからといって、何でも望むままに買い与えたりはしない……というつもりなのでしょう。

 まあ、カルネディアは基本的に我儘(わがまま)を言わない子供ですけれどね。


 養父の私はカルネディアを甘やかす気満々なのですが、養母のトリニティは存外にカルネディアの(しつけ)には厳しい様子。

 まあ、父親が娘に甘くて、母親が娘の(しつけ)に厳しいのはバランシングとして丁度良いのかもしれません。


幕僚団(ジェネラル・スタッフ)】と、私の【私的(プライベート)代理人(・エージェント)事務所(・オフィス)】のメンバーは各自の執務室(オフィス)にいます。

 研修やタスクを開始しているようですね。


【レジョーネ】と【ファミリアーレ】の光点(マーカー)反応は【ワールド・コア・ルーム】内にはありません。

 ミネルヴァによると、【レジョーネ】が【ファミリアーレ】を連れて【竜城】に向かったようです。

 夕刻にはオラクルかヴィクトーリアが【ファミリアーレ】を【ワールド・コア・ルーム】に送ってくれるのだとか。


【レジョーネ】は各自が管轄する大陸に向かっています。

 守護竜達は日本サーバー(【地上界(テッラ)】)各大陸の【領域守護者(エリア・マスター)】ですので、本来は公務で多忙なのが当たり前でした。

 ノース大陸の観光旅行が例外なのです。


 カリュプソは【パンゲア】に向かいました。

 ミネルヴァから仕事を振られたようです。


 ウィローはゲームマスター本部の研究室(ラボ)で何かやっていました。

 彼女は【七色星(イリディセント)】から何やら大量のサンプルを持ち帰っていたようなので、それを調べるのでしょう。


【ファミリアーレ】は4つのグループで行動していました。

 ハリエットとアイリスとジェシカとモルガーナとサイラスとティベリオとサブリナ、それからジェシカの従魔のウルフィは、【竜都】に開かれたばかりの【剣聖】流道場へと出稽古に向かうようです。

 グロリアとイフォンネッタは【竜城】で【高位女神官(ハイ・プリーステス)】達から【回復・治癒職(ヒーラー)】としての技術研修を受けに向かいました。

 ロルフは【マリオネッタ工房】の【竜都】工場に向かい、リスベットは【アブラメイリン・アルケミー】の研究室(ラボ)に向かっています。


 休暇が終わり、皆の日常が戻って来た感じですね。


「チーフ。カルネディア様がお召しになり、【フラテッリ】が着る、【ドラゴニーア】国立学校の制服や運動着などが、アルフォンシーナ大神官から【転送(トランスファー)】されて来ました」

 トリニティ付きの【コンシェルジュ】が箱に入った新品の制服類を持って来て報告しました。


「わかりました」

 私は、受け取った制服類を一旦【収納(ストレージ)】に仕舞って直ぐに取り出し……【自動修復(オート・リペア)】や【防御力(ディフェンス)】や【魔法(マジック)防御力(・ディフェンス)】や【耐久力(エンデュアランス)】……などなどを最大値まで向上させる各種【強化補正(バフ)】を掛けて、【コンシェルジュ】に返します。


 カルネディアと一緒に国立学校に通う【フラテッリ】の制服と学用品も同様に、一旦【収納(ストレージ)】に入れてから、【強化補正(バフ)】を掛けておきました。


 私の【収納(ストレージ)】に入った装備やアイテム類には、【神の遺物(アーティファクト)】と同様に着用者のサイズにピタリと合うギミックが付加されます。


 カルネディアの制服類を持った【コンシェルジュ】は、廊下を挟んで向かいにあるトリニティとカルネディアが寝起きする居室に向かいました。

【フラテッリ】の方は別の【コンシェルジュ】が【収納(ストレージ)】に仕舞って、【フラテッリ】の住居に届けに向かいます。


「しかし、さすがは【ドラゴニーア】ですね〜。制服や運動着などに【効果付与(エンチャント)】のスロット枠が3つ付いていましたよ」


神の遺物(アーティファクト)】ではない製造品の装備や衣類は、製作者のステータスによって【効果付与(エンチャント)】が可能なスロット枠というモノが付く事がありました。

 スロット枠は必ず付く訳ではなく、それ相応のステータスを持った製作者が作った場合にのみ1個〜最大5個のスロット枠が付きます。


 このスロット枠に……【耐久力(エンデュアランス)】向上……などの【付与効果(エンチャント)】を付けられました。


 ユーザーのトップ・クラスの生産職が作った装備や衣類には5つのスロット枠が付きます。

 しかし、国立学校の制服や運動着のスロット枠は3つ。

 3つしかスロット枠がない理由は、NPCのスペックが相対的にユーザーより劣るという意味もありますが、おそらく素材の問題が大きいのでしょうね。


 多くのスロット枠を付ける為には、製作者の能力の他に素材の性能も影響を及ぼしました。

 つまり、国立学校の制服や運動着の素材は、上質ではあるものの特殊な素材ではないので、相応の性能にしかなりません。

 武器や鎧ならオリハルコンなど、衣類なら【天蚕糸】などが最高の素材ですが、そのような高価な素材は国立学校の制服や運動着には使えませんからね。


 因みに、私はスロット枠が3つしかない国立学校の制服や運動着などに、3つ以上の【効果付与(エンチャント)】をしました。

 ゲームマスターの私はスロット枠には関係なく【効果付与(エンチャント)】が可能なのです。


【ドラゴニーア】国立学校の制服や運動着などの素材は、【天蚕糸】などではない、あり触れた普通の素材なので、スロット枠3つというのは相当頑張っている方でした。

 そもそも、現在の日本サーバー(【地上界(テッラ)】)では、900年前に【シエーロ】から入って来た【天蚕糸】の他は、【天蚕糸】を新しく入手する事自体が不可能ですからね。


【天蚕糸】を吐く【天蚕】は【シエーロ】でしか生きられませんので極めて貴重なのです。

 現在、私の支配下に入っている【天使(アンゲロス)】コミュニティが【天蚕】を飼育して【天蚕糸】を生産していますが、私はそれを市場で販売する気はありません。


 ただし、900年前にグレモリー・グリモワールが【天蚕】飼育と【天蚕糸】生産を大規模に行っていた【ドラキュラ城】で、また【天蚕】飼育と【天蚕糸】生産を再開して市場販売もする……と言っていたので、やがて日本サーバー(【地上界(テッラ)】)にも【天蚕糸】が流通するようになるでしょう。

 まあ、グレモリー・グリモワールが【天蚕糸】生産を再開しても、しばらくは目玉が飛び出る程高価でしょうけれどね。


 明日、私がグレモリー・グリモワールを【ドラキュラ城】に連れて行けば、彼女の【天蚕糸】事業が徐々に再開される筈です。


「カルネディアと、フェリシアさんとレイニールさんなど【サンタ・グレモリア】からの遊学生に渡された制服などは【ドラゴニーア】の国家技師団所属の【(グランド)織物(・ファブリック・)(ミストレス)】が織った布で縫製された特別製です。スロット枠が多いのは、その為でしょう」

 ミネルヴァが言いました。


「ん?つまり、これは既製服ではないのですか?」


「はい。通常、国立学校の生徒達に配られる制服などは、品質が良いモノには違いないですが工場生産品です。ただし、カルネディア達やグレモリーさんの所からの遊学生達には、素材やデザインは全く同じですが、【竜城】の【高位女神官(ハイ・プリーステス)】達が儀式の際に着る神官衣の正装を仕立てている特別な職人達が製作に携わっています」


 そういえば、グレモリー・グリモワールの所に送られた国立学校の制服類は、事前に細かな採寸データを訊ねられたそうです。

 工場生産の既製服であれば、サイズはS、M、L、LLなどの規格になる筈なので、細かな採寸データは必要ありません。

 小柄な【小人】族や【ゴブリン】、【獣人(セリアンスロープ)】の小さな種族ならば、XS、SSなどの小さな規格……大柄な【オーガ】や【オーク】、大型の【獣人(セリアンスロープ)】ならばXLなどの大きな規格があれば事足ります。


 にも拘らず、グレモリー・グリモワールの所の遊学生達は、細かな採寸データを取られたとの事。

 つまり、グレモリー・グリモワールの所からの遊学生達に渡された制服類はオーダー・メイドです。


 そして、アルフォンシーナさんからカルネディアの採寸データも訊ねられました。

 私の【収納(ストレージ)】に入れればサイズ自動調節ギミックが働き元のサイズは関係ないので、既製服を送ってもらうように頼んだのです。


「普通は既製服なのに、カルネディア達とグレモリーの所からの遊学生は特別製の制服なのですか?【ドラゴニーア】の国立学校の生徒達は、身分の貴賎や、貧富の差や、所属する社会階層などに拘らず公平に扱われる……という理念がある筈です。それなのにウチとグレモリーの所だけ特別待遇だというのは如何(いかが)なモノなのでしょうか?」


「こちらから要望した訳ではなく、先方が勝手にやった事ですので、チーフは知らない振りをすれば良いと思います。【ドラゴニーア】が国立学校において……生徒の公平……という理念を掲げているとはいえ、それは建前なのです。本音では、チーフの養子であるカルネディアや、グレモリーさんの養子であるフェリシアさんやレイニールさんは、アルフォンシーナ・ロマリアや【ドラゴニーア】政府にとって特別な生徒です。もしも万が一、カルネディアやフェリシアさんやレイニールさんが何か良くない事故や事件に巻き込まれてしまった際に……【ドラゴニーア】政府は可能な限り配慮していた……というアリバイとして……特別な制服を渡していた……という事実が必要なのだと思います。チーフやグレモリーさんなら、当然スロット枠が付いた衣類には【効果付与(エンチャント)】を行う筈だ……という事も考慮した上での措置なのでしょう」


「なるほど、政治という訳ですか?」


 私は政治が嫌いでした。


「その通り、政治です。世界最強の軍事超大国である【ドラゴニーア】であれば、他国の王族の遊学生だろうと、一般家庭の子女と同じように扱えるでしょう。何か問題が起きても、最悪の場合は【ドラゴニーア】の方が経済的にも軍事的にも圧倒的に強いからです。しかし、チーフやグレモリーさんは、【ドラゴニーア】としても敵に回すには強大過ぎます。なので、このような特別待遇をせざるを得なかったのでしょう。アルフォンシーナ・ロマリアや【ドラゴニーア】政府が、この特別待遇について特に何も言及しないなら、それは……【ドラゴニーア】の国立学校は、生徒の公平を理念に掲げている……という建前を守っている体裁を取りたいという事。チーフやグレモリーさんには……特別待遇をしている事には目を瞑って、知らない振りをして欲しい……というのが、アルフォンシーナ・ロマリアや【ドラゴニーア】政府の立場でしょう」


 なるほど。

 カルネディアやフェリシアやレイニールを特別扱いしないと、何かあった際に【ドラゴニーア】の側が困る訳ですね。

 それは、私やグレモリー・グリモワールがブチ切れるという事もあるかもしれませんが、何か問題が起きた際に国民から批判を受けるかもしれない訳です。


 私は基本的に公正・公平を好みますので、カルネディアが特別待遇を受ける事は望ましくないと思いますが、私がカルネディアへの特別待遇を知らん振りする事で、アルフォンシーナさんや【ドラゴニーア】政府が助かるというなら、知らん振りをする事も(やぶさ)かではありません。

 また、政治というモノが綺麗事だけでは済まない事も理解しています。


「まあ、何となく大人の事情は察しました。では、この件に関して私は何も知らなかった事にしますよ」


「それが良いと思います」

 ミネルヴァが言いました。

お読み頂き、ありがとうございます。

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・・・


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