第1169話。プロパー・プロダクツ。
本日2話目の投稿です。
【ホーム・カルネディア】の広間。
グレモリー・グリモワールは……ジョヴァンニ・カンパネルラが【間合い操者】である……という、ミネルヴァの報告に端を発して……ジョヴァンニ・カンパネルラはユーザーではないか?……という彼女が以前から提起している仮説を再び披歴しました。
グレモリー・グリモワールの見解は……【間合い操作】は難易度が高い高等技術だからNPCには行使出来ない。従って、ジョヴァンニ・カンパネルラはユーザーである……という論旨です。
その前提としてグレモリー・グリモワールは、まず……【間合い操作】とは何ぞや……という、そもそもの説明をしました。
「【間合い操作】についての説明はわかったのじゃ。で、【間合い操作】が英雄にしか使えぬというのは何故じゃ?」
ソフィアは本題を訊ねます。
「さっきも言ったけれど、単に【ノック・バック】や【フック・アンド・リール】をやるだけなら、そういうギミックが付いた、魔法や【能力】や武器や防具や盾やアイテムを使えば誰にでも出来る。でも、【超位級】の魔物である【マーナガルム】を2頭同時に相手をして単独で勝つ程度の【間合い操作】は戦闘技術としてクッソ難しいんだよ。ぶっちゃけ、ガチの【間合い操作】は私にも出来ない。【ノック・バック】系や【フック・アンド・リール】系ってのは基本的に攻撃威力値が低いし、そもそも全くダメージが付かないモンもある。そして、ただ闇雲に【ノック・バック】させたり、【フック・アンド・リール】させても、【敵性個体】の接近や離脱、攻撃や防御のタイミングを、こっちがミスしちゃうと【ノック・バック】で距離を取ったタイミングで相手が遠隔から強力な攻撃をして来たり、【フック・アンド・リール】で距離を殺したタイミングで相手が近接で強力な攻撃をして来たり、却って自分や味方が不利になる場合もある。【敵性個体】も【超位級】ともなれば知恵があるから、こっちの好きにはやらせてくれないからね。【間合い操作】の要諦は【敵性個体】の攻撃や防御のタイミングを完璧に把握して読み切る事なんだよ。でも、【敵性個体】の攻撃や防御や、その他様々な行動のタイミングってランダム要素を含む戦闘アルゴリズムに左右されるから、こっちの世界の住人には把握不可能。だって、こっちの世界の【敵性個体】の戦闘アルゴリズムって、ユーザーが言う所の……内部データ……の事だからね。【チュートリアル】を経るとこっちの世界の住人も戦闘フォーマットがステータス画面に表示されるようになるけれど、【パス】を通じてフェリシアとレイニールの戦闘フォーマットを確認したけれど、あれはユーザーの戦闘フォーマットの劣化版。あれじゃ、【敵性個体】の内部データである戦闘アルゴリズムを完璧に把握する事なんか出来ない。フェリシアとレイニールの場合、【パス】を通じて私の戦闘フォーマットを見られる訳だから多少状況が違うけれど、少なくともジョヴァンニ某がユーザーでないなら、ユーザーの戦闘フォーマットを持っていないでしょう?ま、私とノートとシピオーネ以外にもユーザーが異世界転移して来ている……つまり、そのジョヴァンニ某もユーザーなら話は別だけれどね。だから、私はジョヴァンニ某がユーザーじゃないか疑っているんだよ」
グレモリー・グリモワールは説明しました。
「ノヒトから聴いたが、我ら【神格者】が持つ戦闘フォーマットは、英雄らと同じモノらしいぞ」
「ソフィアちゃんは……ジョヴァンニ某は【神格者】だ……って考えるの?」
「ま〜、それは違うじゃろうな」
「ジョヴァンニ某がユーザーでも【神格者】でもないなら、そいつは本物の【間合い操者】じゃない。ユーザー仕様の戦闘フォーマットがなきゃ、内部データの戦闘アルゴリズムが不明なんだから、ガチの【間合い操作】なんか出来っこないんだよ」
「グレモリー。困難ではありますが、理屈の上ではNPCにも戦闘アルゴリズムの把握は可能ですよ」
「如何やって?」
「トライアル・アンド・エラーの繰り返しで身体で覚えれば理屈の上では出来ます。戦闘アルゴリズムの数理解析は確かにユーザーのように内部データを見る事が出来なければ出来ないでしょうが、単に【間合い操作】を行使するだけなら数理解析は必ずしも必要ではありませんからね」
「マジで言ってんの?私は、ノヒトは、もう少し論理的な思考をすると思っていたけれど?身体で覚える……って、それは単なる根性論じゃん?」
「いいえ。トライアル・アンド・エラーは経験則ですよ」
まあ、別に私は根性論を否定しませんけれどね。
納期が迫ったタスクの追い込みでロクに眠らないで何とか間に合わせる時などには、最後に頼れるのは理論ではなく気合いと根性ですので。
もちろん、その根性論が通用する局面は、理論の裏付けがあった上での事ではありますが……。
「トライアル・アンド・エラーって、それこそ馬鹿馬鹿しい机上の空論じゃん?死亡判定が出ても【復活】出来る事を前提とするユーザーならトライアル・アンド・エラーは何回失敗しても成功するまで繰り返せば良いけれど、こっちの世界の住人にとって……エラー……って、つまりは死亡って事でしょう?こっちの世界の住人にとって死亡判定は【復活】しない永遠の終わり……ジ・エンド。死んだら教訓を次に活かせないじゃん?ま、1回や2回は奇跡的に死亡をギリ免れても、そう何回も奇跡は続かない。詰まる所、無理ゲーって事だよ」
「【オープン・ワールド】なら【神蜜】、【遺跡】なら【コンティニュー・ストーン】を使えば死亡判定を事実上なかった事に出来ます」
「うむ。死亡・復活ギミックなら【闘技場】や【経験値迷宮】にもあるのじゃ」
ソフィアが補足で蓋然性を提起します。
「それって現実的な話かな?【神蜜】は【超絶レア】のアイテムだから、何百回、何千回……いや、下手をすると何万回かもしれない死亡・復活のトライアル・アンド・エラーなんか繰り返せない。【遺跡】や【闘技場】や【経験値迷宮】だって、ほぼ不可能なレベルで困難だよ。私が疑義を呈しているのは、【スライム】みたいな弱い【敵性個体】を相手にした時の戦闘アルゴリズムの解析を目的としたトライアル・アンド・エラーじゃなく、【マーナガルム】を相手にした時の話だからね。そもそも、ユーザー仕様の戦闘フォーマットを持たないこっちの世界の住人が無数の種類がいる【敵性個体】の戦闘アルゴリズムを、それぞれ何万回もトライアル・アンド・エラーを繰り返して1個体1個体身体で覚えるの?如何考えても無理じゃね?」
グレモリー・グリモワールは疑義を呈しました。
「もちろん、あくまでも理屈の上での蓋然性です。それに、ジョヴァンニ・カンパネルラが世界内全ての【敵性個体】の戦闘アルゴリズムを完璧に把握しているとまでは言いません。ミネルヴァの報告は……ジョヴァンニが【間合い操作】を駆使して【マーナガルム】2頭に勝った……という内容です。つまり、ジョヴァンニは【マーナガルム】だけの戦闘アルゴリズムを完璧に把握しているのかもしれません。それなら、全ての【敵性個体】の戦闘アルゴリズムを完璧に把握するより、ずっとトライアル・アンド・エラーの試行回数は少なくて済みます」
「う〜ん。どっちにしろこっちの世界の住人が完璧に【間合い操作】を駆使するのは困難極まりない。事実上不可能だと思うけれどね」
「その点に関しては完全に同意します。限りなく不可能なレベルで困難極まりありません。しかし、だからといって理論的に不可能と断言は出来ません。グレモリーも事実上不可能と言われた……【ベヒモス】の単独討伐……を成功させています。極めて低いとはいえ、理論的に不可能でない事は蓋然性としてあり得るかもしれません。私はジョヴァンニ・カンパネルラはユーザーではなく、NPCだと考えています」
「あ、そう。ま、そのノヒトの理屈だって、翻って考えれば……現時点では、ジョヴァンニ某がユーザーである可能性を完全に否定する確たる証拠がある訳ではないから、ユーザーの可能性もある……って事になるけれどね」
「はい。なので私もミネルヴァも、可能ならジョヴァンニ・カンパネルラに直接会って事実を確認したいと考えています」
「私も確認したい。実際はユーザーじゃなかったとしても、正直そんな事はどっちでも良いんだよ。私は前にジョヴァンニ某の話を聴いて以来、個人的に凄く興味がある。率直に言って、ジョヴァンニ某って奴は相当に変わっていて面白い」
「変わっていて面白い……ですか?確かにジョヴァンニ・カンパネルラの行動原理はユニークで不可解で好奇心や興味を掻き立てられる話ではありますね」
ミネルヴァやユグドラによると、ジョヴァンニ・カンパネルラは1銅貨の利益にもならないのに、(もしかしたら何かしらの打算があるのかもしれませんが……)無償の善意で人助けをしながら世界を旅しているようです。
その行動原理は、ゲーム時代のグレモリー・グリモワール(私)にも相通じるモノがありました。
グレモリー・グリモワールは、ジョヴァンニ・カンパネルラにシンパシーを感じているのかもしれません。
一般のユーザー界隈では……グレモリー・グリモワール(私)は傍若無人で悪逆非道のダーク・サイドのロール・プレイヤーとして悪名を馳せていましたが、実はグレモリー・グリモワール(私)の真のロール・プレイは、一見ダーク・サイドを気取りながら、実際には……弱くて無辜なる人達を守って世界を平和にしたい……などという純真な事をクソ真面目に考えているような……世界を相手にした壮大なツンデレ……という屈折したキャラなのです。
その後、私達は銘々が個別の案件について情報共有したり意見交換したり……という事があり、そろそろ午後のスケジュールもあるので散会する事にしました。
「じゃ、ノヒト。明日も頼むね」
グレモリー・グリモワールは言います。
明日は、私がグレモリー・グリモワールを、彼女の別荘の1軒【ドラキュラ城】に【転移】で連れて行く予定になっていました。
「はい。明日【竜都】標準時間の午前8時に【竜城】の礼拝堂に集合でお願いします」
「【竜都】標準時間の午前8時に【竜城】礼拝堂だね。了解」
グレモリー・グリモワールとフェリシアとレイニールとディーテ・エクセルシオールは【転移】します。
喪主のカルネディアと、彼女の保護者である私とトリニティは、今日の葬儀に参列してくれた皆にお礼を言って送り出し、陣営の【転移能力者】達が手分けをして皆を送りました。
最後まで残った私は、ミネルヴァと今後の【ホーム・カルネディア】の開発についてや、その他のアレコレについて相談してから【転移】します。
・・・
【ワールド・コア・ルーム】ノヒト・ナカ執務室。
私は執務室に戻りました。
私付きの【コンシェルジュ】にカフェ・ラテを頼みます。
「チーフ。お疲れ様です」
ミネルヴァが言いました。
「はあ、何だか矢鱈と時間が掛かりましたね」
「大勢での行動でしたし、不測の事態もありましたので致し方ありません」
当初は、さっと【七色星】に行って、ちゃちゃっと葬儀を済ませて、小一時間で終わる予定だったのです。
そうすれば【ファミリアーレ】は、【竜城】の【闘技場】で行われている【ドラゴニーア】軍と竜騎士団の訓練に参加出来た筈でした。
しかし、スケジュールが押しに押して、結局カルネディアの姉達の葬儀に午前中丸々使ってしまいましたね。
【レジョーネ】とグレモリー・グリモワールが【ドゥーム】製の【ドロイド】の輸入交渉に時間が掛かり、そして【オープン・レイド・イベント】の発生が決定的でした。
予定が変更され【ファミリアーレ】が訓練に参加出来ない事は、ミネルヴァから関係各位に伝わっています。
「ガブリエルとリントさんとティファニー・レナトゥスは既に【サントゥアリーオ】に向かいました」
ミネルヴァが報告しました。
「そうですか。一服したら私も向かいます」
「その前に1つ決めておかなければならない事があります」
「何ですか?」
「【ドゥーム】の生産物を日本サーバー(【地上界】)の各国に出荷する際、輸入管理や税関など諸々の手続きの為に出荷元の名称が必要との事。取り急ぎ法人名を決めなければいけません」
「そんなモノは【ドゥーム】で良いのでは?」
「アマンディーヌから……ゲームマスター本部が直轄している地名が【ドゥーム】では、対外的にイメージが良くないので何とかならないか……と言われました」
あ〜、ドゥームとは……(悪い方向の)運命、凶運や悲運、(決定的な)破滅、(差し迫った)死……など基本的に悪い意味ですからね。
「【ドゥーム】の地名を変えるのですか?」
そもそも、メタ的に【終末後の世界】という世界観である【ドゥーム・マップ】の地名は、殆ど全て悪い意味の言葉ですので、それら全てを変更するのは面倒です。
「【ドゥーム】に暮らす者にとっては生まれてから、ずっと耳に馴染んだ地名なので問題ありません。あくまでも対外的な法人名です」
「【ドゥーム】の事は、カプタ(ミネルヴァ)に一任しているので、そちらで決めて下さい」
「法人名の選考は終了しています。チーフに最終確認をお願いして問題なければ、それで決定します」
「わかりました。確認します」
「【ドゥーム】生産物の出荷元は【ノヒト・ナカ・プロパー・プロダクツ】です」
「正規の製品……まあ、これは良いでしょう。しかし何故、私の名前なのですか?」
私は、世間から自己顕示欲が強いと思われたくはありません。
「【ドゥーム】生産物の産地偽装防止の意味も兼ねています。【神格者】の名を騙る事は、【世界の理】に違反し、国際法や各国の国内法でも重罪です。この名称なら、ある程度の偽装抑止効果が期待出来ます」
「なら、【創造主】や、【ドゥーム】の責任者であるカプタ(ミネルヴァ)の名前でも良いのでは?」
「【ドゥーム】は【創造主】の直轄地ではなく、ゲームマスター本部の直轄地です。ゲームマスター本部の代表はチーフですので、チーフの名前を法人名とするのが最も適切です」
「あ、そう。まあ、単なる書類手続き上の事なら構いませんよ」
「了解です。以後【ドゥーム】生産物の出荷元を、対外的には【ノヒト・ナカ・プロパー・プロダクツ】の名称で統一します」
お読み頂き、ありがとうございます。
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活動報告、登場人物紹介&設定集もご確認下さると幸いでございます。
・・・
【お願い】
誤字報告をして下さる皆様、いつもありがとうございます。
心より感謝申し上げます。
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何卒よろしくお願い申し上げます。