第1167話。本日のスペシャリテ。
本日2話目の投稿です。
【ホーム・カルネディア】の広間。
前菜の蒸しサラダとドングリ盛り合わせが出た所で、【コンシェルジュ】達がメインのコースのオーダーを取りに来ました。
昼食のメインは、【巨猪】と【巨鹿】など魔物肉と、それ以外の特別料理との2種類から選べるそうです。
確かブリギット(ミネルヴァ)は……【七色星】固有の食材を食べる……と言っていましたよね?
そして、それがカルネディアの好きな食べ物だと。
【巨猪】や【巨鹿】は、【七色星】固有の食材ではなく、【ストーリア】でも狩猟文化がある地域なら有り触れた定番食材です。
つまり、特別料理とやらが【七色星】固有食材で、カルネディアの好物という事なのでしょうね。
「ならば、特別料理の1択でしょう。【巨猪】や【巨鹿】なら食べた事がありますし、今後も幾らでも食べる機会がありますからね」
「ノヒト様とグレモリー様は、【巨猪】と【巨鹿】をお選びになった方が宜しいかと?」
【コンシェルジュ】が言いました。
「ん?何故ですか?」
「特別料理は【蟲】料理です」
「蒸し料理?」
「いいえ。【魔蟲】です」
「蝮?」
「つまり、昆虫系でございます」
あ……。
そういえば、カルネディアは森でのサバイバルで貴重なタンパク源として虫や【魔蟲】を捕まえて食べていたと話していましたね。
そして美味しいとも。
私は虫が苦手です……。
私とグレモリー・グリモワールは元同一自我でした。
私が苦手なモノは、グレモリー・グリモワールも苦手。
【コンシェルジュ】が、私とグレモリー・グリモワールを名指しで特別料理ではなく【巨猪】や【巨鹿】を勧めて来たのは、私とグレモリー・グリモワールが元同一自我で虫を苦手とする事を知るミネルヴァが、私達に配慮して【蟲】以外の選択も用意しておいてくれたのでしょう。
「無〜理、無理無理無理無理。私は【巨猪】と【巨鹿】でお願いします」
グレモリー・グリモワールが言いました。
「私も……」
私も【蟲】をお断りしようとして……。
カルネディアが私を見ています。
カルネディアの好物を私が忌避したら、カルネディアが悲しむかもしれません。
カルネディアからの好感度を狙って苦手なモノを食べるか?
カルネディアから嫌われる覚悟で苦手なモノを食べないか?
これは……究極の選択を迫られました。
「カルネディア。この【七色星・ヒュージ・ウィーヴィル・キャタピラー】という【蟲】は美味しいのですか?」
トリニティが訊いています。
「うん。美味しい」
カルネディアが屈託なく答えました。
「ならば、私達は特別料理にしましょう」
「うん」
トリニティとカルネディアは、躊躇なく特別料理を注文します。
トリニティは【遺跡】で普通に【蟲】を食料にしていたのだとか。
【フラテッリ】も食べた事がない特別料理を選びます。
【レジョーネ】では、ファヴとニーズが特別料理、リントとヨルムンとユグドラとウルスラとキアラとトライアンフが定番肉。
ソフィアが両方。
ファヴが特別料理を選んだ理由は、彼が管轄するサウス大陸では伝統的に虫や【蟲】を食べる習慣があるので、守護竜として、それらを経験しておこうという考えがあったからなのだそうです。
偉いですね。
ニーズは、彼女の管轄するノース大陸の極北に位置する【ダーク・エルフ】の国【スヴァルトアールヴヘイム】では極寒の為に殆ど牧畜が不可能で、海側では魚介類や海洋哺乳類などから動物性タンパク質を補給出来るものの、内陸部ではトナカイなどの一部野生動物や、寒地に適応した魔物を除いて動物性タンパク質を摂取する事が難しい為、虫や【蟲】を食料にして来た歴史があるからなのだとか。
ソフィアは食べ物として扱われているモノは、取り敢えず食べてみる主義だそうです。
他の守護竜も虫や【蟲】を食べ慣れないだけで、別に嫌いとか苦手というような忌避感がある訳ではないのだとか。
【ファミリアーレ】の表情は微妙です。
思い切ってカルネディア・お勧めの特別料理を注文するか、既に美味しい事を知っている定番の【巨猪】と【巨鹿】にするか……。
獣人娘の4人とティベリオが特別料理をオーダーしました。
彼女達は勇者です。
【獣人】は伝統的に虫や【蟲】を食べる習慣があるのだとか。
ああ、【獣人】はサウス大陸にルーツを持ちますからね。
先程のファヴの話と整合します。
しかし【ファミリアーレ】の【獣人】は、全員【竜都】の孤児院育ち。
孤児院では虫も【蟲】も食事のメニューにはならなかったそうです。
孤児院に限らず、都市に暮らす【獣人】は、食用に適した虫や【蟲】が入手困難なので余り虫や【蟲】を食べないのだとか。
まあ、スーパー・マーケットの生鮮食料品売り場に生きた虫や【蟲】が売られていたら……。
私なら、そこのお店には入れないかもしれません。
【ファミリアーレ】の他のメンバーは定番肉。
正直、虫や【蟲】は、ちょっと……という感じみたいです。
グレモリー・グリモワールとフェリシアとレイニールとディーテ・エクセルシオールは定番肉。
ディーテ・エクセルシオールは気分的に定番肉だっただけで、森のゲリラの異名を持つ【エルフ】族は【蟲】を食べる文化もあるそうです。
フェリシアとレイニールは、【イースタリア聖堂】(【リントヴルム聖堂】ではない)の孤児院で虫や【蟲】を食べた事があるのだとか。
孤児院だからと差別や迫害をされていた訳ではなく、現代の【ブリリア王国】自体が最貧国の1つに数えられているので、一部の上流階級を除いて【ブリリア王国】の庶民は大体貧乏で食べ物を選ぶような贅沢は出来なかったのだそうです。
900年前の【ブリリア王国】は先進国の一角を占めていたのですけれどね。
むしろ、【イースタリア】では、領主リーンハルト・イースタリア公爵(元侯爵)が孤児院に手厚い援助をしていたので、他都市の孤児院よりは恵まれていたのだとか。
その理由は、【竜の湖】に満月と新月に周期スポーンする【湖竜】の生贄として孤児院の子供が捧げられていたので、せめてもの罪滅ぼしとしてリーンハルト公爵(元侯爵)は孤児院に精一杯の援助をしていたそうです。
まあ、グレモリー・グリモワールは……そもそも、今まで子供を生贄にしていた事自体がロクでもないんだよ……と、マクシミリアン王とリーンハルト公爵(元侯爵)に対して激しく憤慨していましたけれどね。
グレモリー・グリモワールの養子であるフェリシアとレイニールの姉弟も【湖竜】の生贄に捧げられてしまいましたが、偶々異世界転移したグレモリー・グリモワールが【湖竜】を倒した事で生命が救われたという経緯があります。
しかし、この【湖竜】に対して孤児院の子供を生贄にする方針を推進していたのは、マクシミリアン王やリーンハルト公爵(元侯爵)ではなく、偽教の【妖精信仰教団】でした。
【妖精信仰教団】は、【ブリリア王国】の【回復・治癒職】の育成と派遣事業を独占し、賄賂などで私服を肥し、隠然たる権力を持っていたので、マクシミリアン王とリーンハルト公爵(侯爵)も逆らう事が出来なかったのです。
マクシミリアン王もリーンハルト公爵(侯爵)も、【妖精信仰教団】に対して苦々しく思いながらも、国民や領民の医療を考えると、【妖精信仰教団】を切り捨てる事が出来ず、致し方なく国教や公認宗教の地位を与えて来ました。
なので、マクシミリアン王とリーンハルト公爵(侯爵)にも多少同情の余地はあるのかもしれません。
ただし、現在の【ブリリア王国】は急速に改革が進み、反王派と【妖精信仰教団】は粛清・排除されつつありました。
それは、【ブリリア王国】が【ウトピーア法皇国】との戦争に勝利し、【リントヴルム】の【指名】によって王権神授された事で、マクシミリアン王が君主としての権威を固めたからです。
当然【ブリリア王国】では、今後孤児院の子供を生贄にするなどという事は起こりません。
というか【竜の湖】一帯を庇護するグレモリー・グリモワールが絶対にやらせないでしょう。
閑話休題。
少し思考が現実逃避してしまいましたが、メニューを決めなくてはいけません。
此方、【巨猪】と【巨鹿】。
片や、【蟲】尽くしの特別料理。
さて、如何しましょうか?
くっ……やっぱり無理です。
私は、熟考の末【巨猪】と【巨鹿】を選びました。
カルネディア、ごめんなさい。
あなたの保護者は意気地なしです。
・・・
料理が揃って、私は【巨猪】の豚カツと【巨鹿】のシチューを食べます。
味は、もちろん美味しいですよ。
安心の定番は素晴らしいです。
しかし、気になるのは特別料理の事。
「これ、鮪のトロだ。大トロ。美味しい」
ハリエットが言いました。
「もっとクリーミーなのかと思ったけど、結構しっかりした歯応えがあるね。鮪の大トロとバターの中間みたいな味かな?」
グロリアが言います。
彼女達が鮪の大トロと表現したのは、【七色星・ロング・ホーンド・ビートル・キャタピラー】。
地球のカミキリムシの幼虫に似た、【魔蟲】の巨大な幼蟲……イモムシでした。
料理されて出て来たのは、それを軽く湯掻いて、お刺身状に削ぎ切りにしたモノ。
カルネディアによると……【七色星・ロング・ホーンド・ビートル・キャタピラー】は蛹になる直前が皮の近くに脂肪を蓄えて美味しい……のだとか。
「こっちの【七色星・ヒュージ・ビー】の蛹も美味しいの。香ばしくて柔らかめのカシューナッツみたいな味」
ジェシカが言いました。
蜂の蛹……まあ、日本でも蜂の子などを食べる人もいますよね。
「蛹の炒り加減が丁度良い」
アイリスが頷きます。
「【七色星・ヒュージ・モス】の卵は、これといった味はしないけれど食感がプチプチして面白いよ。大きなトコブシか海葡萄という感じだね」
ティベリオが言いました。
モス……あのハンバーガー屋さんではなく、蛾の事です。
その卵……プチプチしているんですね……。
「こうやるんだよ」
カルネディアがトリニティに何やら食べ方を教えていました。
「なるほど」
トリニティは頷きます。
カルネディアはボイルされた何かの脚を手際良くボキボキと折って、器用に殻の中の肉を押し出して食べていました。
蟹?
いいえ、【七色星・ヒュージ・スパイダー】……蜘蛛ですね。
味はズワイ蟹に似ているそうです。
同じ皿に【七色星・ハーミット・クラブ】もドンッと盛られていました。
こちらは陸生のヤドカリの【魔物】です。
こちらの味はタラバ蟹に似ているのだとか。
私は、蜘蛛とヤドカリは……甲殻類の仲間だ……と自己暗示を掛けているのでセーフ……という事にしていました。
「これは白子じゃ。鱈の白子の天ぷらじゃな。お代わりじゃ」
ソフィアが言います。
ソフィアがお代わりを頼んだのは、【七色星・ヒュージ・ウィーヴィル・キャタピラー】の天ぷら。
地球のゾウムシの幼虫に似た、【魔蟲】の幼蟲。
キャタピラーという事は、こちらもイモムシ。
「これは何やら花のような香がしまする」
ニーズが言いました。
「どれどれ……本当だ。桜の花みたいな香がしますね」
ファヴが言います。
それは【七色星・ヒュージ・ファレラ・プラベセンス・キャタピラー】。
蛾の【魔蟲】の幼蟲。
これは毛虫でした。
「モッシャ、モッシャ、このハンバーガーは絶品じゃぞ」
ソフィアが言います。
ソフィアが気に入った様子のハンバーガー・パティには、ミンチになった【七色星・ワーム】が使われていました。
【ワーム】には、手足がなくて翼がある所謂東洋竜型の魔物と、ミミズに似た魔物がいます。
【七色星・ワーム】は後者。
巨大なミミズの魔物です。
都市伝説で、某世界的ハンバーガー・チェーンではビーフ・パティにミミズが使われているというモノが流行った事がありました。
あれは相当昔から噂として有名ですが、事実は全くのデタラメです。
何故そう断言出来るかというと、経済合理性がないからでした。
ミミズは牛肉より食味に劣る上、単位重量辺りの飼育コストが牛肉より何十倍〜数百倍も高いからでした。
不味くて高い材料を敢えて製品に使用する意味も理由もないのです。
アメリカ牛肉の低コスト生産を舐めてはいけません。
実は様々な用途(人間の食用ではない)でミミズを飼育している人達が世界中にいますが、生産者は個人や小規模事業者が大半でした。
某世界的ハンバーガー・チェーンの生産工場は巨大で合理化の極点と言えます。
あのハンバーガー・チェーンが参入しているとするなら、ミミズ生産業が個人や小規模事業者が競合出来るようなニッチな業界である筈がありません。
猫やネズミの肉だというのもありましたね。
それらも経済合理性に鑑みれば答えは簡単。
仮に、某世界的ハンバーガー・チェーンが売っているハンバーガーの材料が猫なら、地球上の猫は1年で絶滅する試算になるそうです。
結局は牛肉より安くて美味くて大量に流通しているハンバーガー・パティの材料はないのですよ。
まあ、都市伝説としては最高に下らなくて面白いですけれどね。
いけない、いけない。
また、思考が現実逃避していました。
私は、先程からずっとゲームマスターの【超神位常時発動能力】の1つである【感情正常化】が発動しっ放しです。
グレモリー・グリモワールは、虚無の表情で何も考えないようにしていました。
本日の特別料理を食べたメンバーの感想は概ね好評。
だからといって、私は次の機会があったら食べてみようとは思えませんね。
誰しも苦手というモノはあるのです。
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