第1165話。カルネディアの部屋。
本日3話目の投稿です。
【誕生の家】。
グレモリー・グリモワールとディーテ・エクセルシオールが戻って来たので、話を聞く事にしました。
2人は、この【老婆達の森】の【領域守護者】である3個体の【知性体】グライア達に話を付けに行ったのです。
グレモリー・グリモワールは前回【老婆達の森】にやって来た際に、【グライア】達に攻撃され反撃・制圧して【盟約】を結び従者にしました。
グレモリー・グリモワールが【盟約】を結び【領域守護者】を連れ去った事で、【世界の理】は後任の【領域守護者】として記憶が初期化された新たな【グライア】達を【復活】させています。
グレモリー・グリモワールの従者となった【グライア】達は、この【老婆達の森】を含む国土を統治する【ゴルゴネイオン】と敵対関係にありました。
【グライア】達は【老婆達の森】を立入禁止にして、【ゴルゴネイオン】の国民が森に侵入したら攻撃して排除しています。
【老婆達の森】には、【ゴルゴネイオン】の国民が【赤ちゃんスポナー】から子供を授かる、この【誕生の家】がありました。
なので、現在この【誕生の家】は【グライア】達の攻撃を恐れ誰も使用しなくなっています。
【グライア】達と【ゴルゴネイオン】が敵対している理由は、【ゴルゴネイオン】の政府が【誕生の家】の【赤ちゃんスポナー】を悪用して、【赤ちゃんスポナー】で授かった赤ん坊を半ば奴隷として育て、奴隷労働や死兵として軍に所属させ不当に使役して人権を蹂躙し搾取していたからでした。
言うまでもなく、奴隷制は【世界の理】に反します。
その【グライア】達の話を信じるなら、私は基本的に【グライア】達を支持する立場という事になりました。
しかし、現時点では【グライア】達の主張を裏付ける証拠がある訳でもなく、また敵対する2者の片方の主張しか聴取していないので、ゲームマスターとしての公式判断は保留しています。
グレモリー・グリモワールの従者とした【グライア】達は【ゴルゴネイオン】に敵対していますが、【ゴルゴネイオン】の国民以外には敵意を向けません。
なので、【ゴルゴネイオン】とは無関係な棄民であったカルネディアと彼女の姉達は、【グライア】から攻撃を受けなかったのです。
それどころか、【グライア】達は【老婆達の森】の魔物を適宜間引いてカルネディアと彼女の姉達の危険を低減させ、消極的ながら庇護してさえいました。
【グライア】達がカルネディアと彼女の姉達を庇護していた理由は、とある【ゴルゴーン】の女性が【グライア】達と立場を同じくしていたからのようです。
先程の葬儀で荼毘に付した唯一の成人の遺体が、その【ゴルゴーン】の女性だと推定されました。
もしかしたら、その成人【ゴルゴーン】女性が、カルネディアと彼女の姉達を【赤ちゃんスポナー】で授かった人物かもしれません。
少なくとも、私は、その可能性が考え得る蓋然性の中では最も高いと推定していました。
そして、先程私が葬儀の際に遺体の遺伝子情報を調べたところ……カルネディアを含めた全員に共通する遺伝形質が認められています。
100%完全ではありませんが、90%近い確率でカルネディアと件の29人の遺体には、血縁関係がある事が示唆されました。
遺体がミイラ化していて細胞の損傷が激しく、状態が良い遺伝子を見付けるのに相当苦労しましたよ。
ゲームマスターの能力がなければ、検査が不可能だったかもしれません。
【誕生の家】の【赤ちゃんスポナー】のシステムは、【赤ちゃんスポナー】である祭壇に祈った者の遺伝子情報が読み取られ、その遺伝形質を受け継いだ赤ん坊を【スポーン】させる仕様でした。
つまり、その成人【ゴルゴーン】女性が、祭壇に祈ってカルネディアと彼女の姉達が【スポーン】したとするのなら、その成人【ゴルゴーン】女性は遺伝的にはカルネディアの母親だと判断出来ます。
遺伝形質の類似性だけでは、その成人【ゴルゴーン】女性はカルネディアと姉達とは姉妹関係で、母親は別人の可能性もあるので未だ断定は出来ませんが……。
成人【ゴルゴーン】女性……もとい、カルネディアの母親(推定)は、【世界の理】に反している【ゴルゴネイオン】政府を嫌って【老婆達の森】逃げて来たのだとか。
これは、グレモリー・グリモワールの従者となった【グライア】達の供述です。
【老婆達の森】には、【ゴルゴネイオン】政府と敵対し、強大な戦闘力を持つ【領域守護者】の【グライア】達が居ますので、【ゴルゴネイオン】政府の追手から逃げて隠れ住むには打って付けの場所ですからね。
ただし、グレモリー・グリモワールの従者となった【グライア】達の供述は、カルネディアの母親(推定)の言葉の受け売りでしかないので、もしかしたら、カルネディアの母親(推定)は実は嘘を吐いていて……【ゴルゴネイオン】政府の【世界の理】違反を嫌って逃げた……のではなく、何らかの罪を犯すなどして逃亡を余儀なくされたか、刑罰として追放されたのかもしれませんが……。
ともあれ、そういう意味で【グライア】達と、カルネディアの母親(推定)は、対【ゴルゴネイオン】政府という点で目的を同じくしていました。
なので、【グライア】達は……敵の敵は味方論法……によって、カルネディアの母親(推定)を味方と判断し、一定の庇護を与えていたそうです。
しかし、そもそも【魔人】の【ゴルゴーン】と、【知性体】の【グライア】達は異種族。
従って、【グライア】達のカルネディア達に対する庇護は限定的なモノでした。
そもそも、【グライア】達は【ゴルゴネイオン】政府と敵対しているのであって、対【ゴルゴネイオン】政府という対立構図において、特段の貢献をする訳でもないカルネディア達を【グライア】達が積極的に庇護する理由もない訳です。
そういう経緯で【グライア】達は、カルネディアと彼女の姉達に食糧を与えたりなどして直接的な支援はせず、カルネディアと彼女の姉達は飢餓に苦しみ、カルネディアを遺して全員若くして亡くなってしまいました。
結果的にカルネディアの母親(推定)やカルネディアの姉達が亡くなった事について、【グライア】達を責められません。
【グライア】達には【グライア】達の営みがあり、他者それも他種族の世話は二の次なのですから。
カルネディア達は自活出来なければ死ぬだけ。
それが自然界の非情な掟なのです。
閑話休題。
グレモリー・グリモワールとディーテ・エクセルシオールが【復活】した【グライア】達に会いに行った理由は、グレモリー・グリモワールの従者になった【グライア】達から……【ゴルゴネイオン】の国民を【老婆達の森】に立ち入らせない……という以前の方針を引き継がせる為でした。
【復活】した【グライア】達の記憶はリセットされますが、本質的に同一個体であるグレモリー・グリモワールの従者の【グライア】達が……何故【ゴルゴネイオン】政府と敵対しているのか……という事を説明すれば、【復活】した【グライア】達も同じ方針を取る可能性が高いでしょう。
「如何でしたか?」
私はグレモリー・グリモワールに訊ねました。
「問題ない。【復活】した【グライア】3個体は、私と【盟約】を結んだ【グライア】3個体のやって来た仕事を引き継いだよ。今後も【ゴルゴネイオン】の国民が【老婆達の森】に近付けば排除する事になったよ」
グレモリー・グリモワールは言います。
あ、そう。
「なら、昼食にしましょう」
「そだね」
「あ、ソフィア。そういえば、頼みたい事があります。【ガチャ】の事で」
「ギクッ!」
ソフィアは露骨に狼狽しました。
口から……ギクッ……という擬音がでるくらいに。
「【ガチャ・チケット】を取り上げたりしませんよ。私が報酬として貰った【ガチャ・チケット】で、私の代わりに【ガチャ】を回して欲しいだけです」
「ホッ。何じゃ、そのくらいは、お安い御用じゃ」
ソフィアは、あからさまに安堵した様子で言います。
私達は、【誕生の家】の上階に向かいました。
・・・
【ガチャ・ベンダー】が置かれていたのは、談話室的な部屋です。
この部屋でカルネディアは寝起きしていたらしく、彼女がベッド代わりに使用していたソファに上掛け用の毛布がキチンと畳んで置いてありました。
その他にも室内には、カルネディアの私物と思われる様々な食器や容器や道具が整然と並べてあります。
容器の幾つかに木の実が種類毎に仕分けられ、ドングリ系の木の実が渋抜きされているのか皮を剥いてバケツに張った水に浸けてありました。
几帳面です。
以前から私は、カルネディアは壮絶なサバイバルを生き抜いて来た野生児の割には情緒が穏やかで自制心があって行儀が良いと思っていましたが、どうやらカルネディアが物心付いた頃に生存していた3人の姉達が、末妹のカルネディアに行儀や整理整頓を教えていたようです。
おそらく、その姉達も、年長の姉達から同じように指導を受けていたのでしょうね。
そして、最初に子供達を教え、それを妹達にも教え伝えるように言い聞かせたのが、カルネディアの母親(推定)だと思われます。
トリニティはカルネディアの肩を抱き締めていました。
この部屋は、カルネディアが必死に生きて来た証です。
胸が締め付けられますね。
みんなは先程カルネディアに案内されて、この部屋を見たそうです。
「カルネディア。もしも、ここの私物を持って行きたかったら、お家に持って行っても構いませんよ」
「ううん……」
カルネディアは首を振りました。
「良いのですか?これからは食べ物に不自由しないとしても、思い出の品というか、せっかくカルネディアが集めて、キチンと整理しておいたモノなのですから。ほら、あの毛布とか」
「もしかしたら、誰かが此処に来るかもしれない。お腹が空いていたら、これを食べてもらうの。寒くないように毛布も置いておくの」
カルネディアは言います。
「そうですね……。それは、とても良い考えです」
私は、カルネディアの頭を撫でました。
結局、水に浸けていたドングリ系の木の実だけは、腐敗の恐れがあるので庭園に廃棄する事にして他のカルネディアの私物は、もしかしたら来るかもしれないお腹を空かせた訪問者の為に全て残しておき、【コンシェルジュ】達に管理してもらう事にします。
私は本来の目的だった【ガチャ】をソフィアに回してもらいました。
「むむむ〜……【ラピス・マナリス】出ろ〜っ!【ラピス・マナリス】出ろ〜っ!はぁ〜っ!何が出るかな〜、ホイッとなっ!」
ソフィアが、私が狙う【ラピス・マナリス】が出るように念を込めてから、気合いを入れて【ガチャ・ベンダー】のレバーを回します。
ゴトンッ。
私は【収納】に【圧縮箱】を仕舞いました。
直ぐに【ラピス・マナリス】が出たか如何か中身を確認したいのは山々なのですが、飛空船などの巨大なモノが出る可能性もあるので、【解凍】は【ワールド・コア・ルーム】に帰還してから広い場所で行う事にします。
カリュプソとグレモリー・グリモワールとディーテ・エクセルシオールも、ソフィアに代理【ガチャ】を依頼しました。
3人も、この場では【解凍】しません。
「ノヒトよ。昼食は【ワールド・コア・ルーム】などではなく、ノヒトの拠点で食べるそうじゃが?何か理由があるのか?」
ソフィアが訊ねました。
「私も、それ思った。ノヒトの【球体隔壁】は強力だから安全性は問題ないと思うけれど、わざわざ森の中の拠点で食事しなくても良いんじゃねって気もするしね」
グレモリー・グリモワールも同調します。
「さあ?私もミネルヴァが段取りしたスケジュールに従っているだけなので、こっちで昼食を摂る理由は聞いていませんね」
チーフ……そちらで昼食を召し上がってもらう理由は2点あります……1つ目の理由は、拠点に造った厨房が高い水準の使用に耐えるモノであるか、チーフや【レジョーネ】の皆さんに確認してもらう為です……既に基本的な稼働に問題がない事は試験済ですが、チーフや【レジョーネ】の皆さん達が食事のレベルに満足してもらえるなら、そちらの拠点の厨房の設定や調整は完璧な状態であると考えられます……2つ目の理由は、今回のメニューには【七色星】固有の食材が多く使われていますので、折角ですので【七色星】の食材を【七色星】のロケーションで召し上がってもらおうという趣向です……そして、それらの食材はカルネディアさんが好きなモノなのだそうです。
ミネルヴァが【念話】で説明しました。
なるほど。
もしかしたらミネルヴァは、カルネディアの姉達の葬儀直後の昼食として、カルネディアの好物でメニューを揃え、手向けというか追悼の意味を持たせたのかもしれません。
日本の御葬式後の食事でも、精進料理など特別な会食を供し、忌中払いとしたり、故人を賑やかに送る……というような意味合いもあるそうですからね。
「ミネルヴァが言うには、拠点の厨房の性能評価を私達にしてもらいたいのと、昼食のメニューにはカルネディアが好きな【七色星】の固有食材が使われているので、それを【七色星】のロケーションで食べてもらおうという趣向だそうです」
「ふむ。【七色星】の固有食材とな?それは楽しみなのじゃ」
ソフィアは言いました。
私達は、ゲームマスター本部【七色星】支部の拠点に【転移】します。
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