第116話。トリニティのチュートリアル。
本日、9話目の投稿です。
異世界転移、24日目。
早朝。
王都【アトランティーデ】王城。
昨日は、神の軍団の訓練やら結団式やらで、1日が終わってしまいました。
早速、神の軍団の5師団は、割り当てられた任地に出動しています。
千年要塞、【パラディーゾ】、【ムームー】には、私が【転移】で輸送済。
【ティオピーア】と【オフィール】は、転移座標が設置していないので、師団で編隊飛行しての移動ですが、おそらく、午前中には、それぞれ展開配備が完了するでしょう。
私、ソフィア、オラクル、トリニティは、今日から遺跡攻略を開始。
ファヴは、今日から1週間、私が破壊した【ムームー】の生態系回復の為に、大地に祝福を与えて回ります。
遺跡攻略ですが、このパーティ編成なら、危険は起こり得ません。
最恐の初見殺し即死トラップでも、真正面から通過してしまうでしょう。
私達は、ゴトフリード王を始めとする王家の面々や、【パラディーゾ】の【巫女】と聖職者達に見送られていました。
大巫女のローズマリーさんと、巫女長のスカーレットさんは、昨日、定期飛空船で【ドラゴニーア】に向かったそうです。
2人は、しばらく【ドラゴニーア】に滞在して研修する予定。
【ドラゴニーア】の大神官アルフォンシーナさんから直接指導を受け、国家統治に必要な、ありとあらゆる知識を学ぶのです。
今日は、剣聖の、爵位返上式が挙行されるのだ、とか。
その式典の際に、剣聖には【アトランティーデ海洋国】国家功労賞が授与されるそうです。
同時に、剣聖とクサンドラさんの婚姻が、ゴトフリード王より認められるのだ、とか。
【アトランティーデ海洋国】では、結婚式という儀式や習慣はないそうですが、法律上の婚姻手続きとは別に、相応の立場の公職者や聖職者が証人となって、それを認める、という慣行があるそうです。
つまり、【アトランティーデ海洋国】では、ゴトフリード王に認められる婚姻というのは、最も栄誉ある物なのだ、とか。
「これで、クインシーは、絶対に浮気出来ませんよ」
剣聖の頭脳と呼ばれるフランシスクスさんは、クスクスと笑って言いました。
「クインシー、クサンドラさん。結婚おめでとうございます。これは、私達からの祝いの品です」
私は、【収納】から【自動人形】・シグニチャー・エディションを1体取り出します。
これは、昨晩、内職で造った物でした。
「ありがとうございます」
剣聖は、礼を言います。
私は、【自動人形】を起動させました。
「この【自動人形】は、クサンドラさんにマスター権限を与えた方が良いですね。家事と育児にプログラムが最適化されています。医療のプログラムもしてあります。また、戦闘力も【高位】水準ですので、子供の看護や護衛や守り役として、役に立つはずです」
私は、クサンドラさんにマスター権限を、剣聖にマスター代行権限を与えます。
「子供って、それは、少し気が早いんじゃ……」
剣聖は、頭を掻きました。
「いえ、私の年齢だと、急がなくてはいけません」
クサンドラさんは、キッパリと言います。
「うむ。クインシー、世継ぎは重要な事じゃぞ」
ソフィアが言いました。
「ははは……頑張ります」
剣聖は、バツが悪そうに言います。
その場は、笑いに包まれました。
そういえば、今日から、マリオネッタ工房の工場が操業を開始します。
【ドラゴニーア】本部工場では、【自動人形】・オーセンティック・エディションをカスタム・メイド。
【ドラゴニーア】のスマホ工場では、フルスペックモデルを量産。
【ラウレンティア】第2工場では、【自動人形】・レプリカ・エディションを量産。
【ルガーニ】のスマホ第2工場では、通話機能限定の廉価版を量産。
社長のハロルドと、副社長イヴェット、技術責任者のイアンを中心に、マリオネッタ工房の社員達は、4工場同時開業という難行を成し遂げてしまいました。
私の期待以上の働きぶりを示してくれています。
もはや、私から経営に口を出す事もありません。
私は、大量に確保した【超位】の魔物のコアを使い【自動人形】・シグニチャー・エディションを、マリオネッタ工房用に造り、各オフィスと各工場に3体ずつ派遣してあります。
【自動人形】達の仕事は、オフィスでの事務処理、製造ラインの管理と従業員の指導……また、オフィスと工場の警備という役割も担います。
マリオネッタ工房は、先進企業。
その技術を盗みたいと、産業スパイが送り込まれる可能性もありました。
まあ、技術は全てブラックボックス化してあるので、盗む事は不可能なのですが、それを知らなければ、侵入を試みる輩もいるかもしれません。
備えあれば憂いなしです。
【自動人形】達は、自立行動しますし、知性も高いので、放っておいても定期飛空船を乗り継いで、自力で目的地に到着するでしょう。
【高位】の魔法を駆使する【自動人形】・シグニチャー・エディションが複数で旅をするのです。
襲われて、どうにかなる心配はないでしょう。
もし、【自動人形】・シグニチャー・エディションの手に余るような強敵が現れたら、【自動人形】・シグニチャー・エディションに標準装備されている【ビーコン】を頼りに、私が【転移】して、相手を消滅させてしまうだけです。
4工場の従業員は、セントラル大陸全土から雇用された孤児院出身者。
それぞれの都市には、工場、オフィス、販売店の他、社員寮などもあり、孤児院出身者の保護を望むソフィアも満足する体制が築かれています。
孤児院出身者支援事業は、ひとまず順風満帆というところでしょうか。
私は、ハロルド、イヴェット、イアン、ロルフ、リスベットとスマホのチャットでやり取りしながら、製薬会社アブラメイリン・アルケミーの起業計画も詰めていました。
アブラメイリン・アルケミーは、研究・開発部門は、リスベットを長に、【ラウレンティア魔法学院】から新規採用の内定を与えた3人の若者を雇用するつもりです。
また、従業員は、セントラル大陸全土から、孤児院出身者を雇用。
しかし、経営部門の人材がいません。
なので、ハロルド達に、その募集と選定を、お願いしてあります。
こちらも、サウス大陸奪還作戦が完了して、私達が【ドラゴニーア】に戻るまでには、形になっているでしょう。
私達は、千年要塞に【転移】します。
・・・
千年要塞。
上空には、白師団が旋回して警戒をしていました。
また、城壁の上にも整然と並んだ神兵達の姿があります。
皆、規律正しく、士気も旺盛。
【大密林】の方向を警戒していました。
ゴトフリード王からの情報周知が徹底しているのか、要塞や城壁の兵士達に、神兵達を怖がる様子は見えませんね。
私達は、冒険者ギルド支部に向かいました。
ギルマスのフランクさんに挨拶して、昨日の買取査定の結果を確認します。
「これで、結構です」
私は、そのまま買取を、お願いしました。
【超位】の魔物600頭……1800万金貨(1兆8千億円相当)。
これを、私、ソフィア、ファヴ、オラクルで頭割り。
トリニティは、この獲物の討伐には関与していません。
保有現金(可処分所得)。
私……1085万金貨(1兆850億円相当)。
ソフィア……1359万金貨(1兆3590億円相当)。
ファヴ……736万金貨(7360億円相当)。
オラクル……719万金貨(7190億円相当)。
トリニティ……なし。
うん、もう訳がわからない金額になっていますね。
昨日、パーティから2兆円相当の支出があったというのに……。
コメントは差し控える事にします。
私達は、フランクさんに挨拶して、冒険者ギルド千年要塞支部を後にしました。
「ビアンキ、頼みますよ」
私は、城壁の上に鎮座する白師団長ビアンキに挨拶します。
ビアンキは、空に向かって一吠え。
任せて下さい……との思念が伝わって来ました。
ならば、よし。
私達は、千年要塞の転移座標部屋から、【ベルベトリア】に【転移】します。
・・・
【ベルベトリア】中央塔の礼拝堂。
トリニティのチュートリアルを行うつもりです。
トリニティの種族【エキドナ】は、敵性キャラとはいえ、NPC。
おそらく、チュートリアルに挑めるはずです。
まずは、トリニティに【ヴァルキリーの鎧】の指揮官仕様である3つの内の一つ【ヴェルダンディの鎧】を与えました。
【ヴァルキリーの鎧】の指揮官仕様の残りの2つは、ソフィアが【ウルドの鎧】、ファヴが【スクルドの鎧】を着ています。
「トリニティ。武器は、どうしますか?」
「魔法職ですので、必要ありません。このままで、結構でございます」
トリニティは、言いました。
早速、チュートリアルの魔法陣を起動。
トリニティの姿が掻き消えました。
・・・
1秒後。
トリニティは、帰還しました。
手には、三又槍を持っています。
チュートリアルの泉の妖精は、トリニティに、この特殊な武器を選びましたか……。
三又槍……何となくフォルムが、トリニティと似合い過ぎていますね。
私は、トリニティに【神の遺物】の三又槍【トライデント】を貸与する事にしました。
トリニティは、魔法職なので近接武器は必要ない、と難色を示しましたが、泉の妖精は、その者に最適な武器を与えるはずです。
私は、【トライデント】を手渡しました。
すると。
「おや?何だかシックリきますわ」
トリニティは、【トライデント】を振りながら言いました。
「【トライデント】は、投擲武器です。水中で投げると水の抵抗を受けずに飛ぶという特性がある他、魔法触媒としても高性能です。魔法職が使っても邪魔になる事はないでしょう」
「気に入りました。ノヒト様、ありがとうございます」
トリニティは、【トライデント】に魔力を流し、三又の穂先からビリビリと放電させながら言います。
それで突き刺したら、効きそうですね。
私は、トリニティに、魔力反応を【認識阻害】する指輪を手渡しました。
トリニティは、【神格者】ではないので、正体を秘匿する必要はありません。
【認識阻害】が純粋に戦闘時に有利に働く、という考えでした。
トリニティのステータスを確認します。
名前…トリニティ
種族…【エキドナ】
性別…女性
年齢…なし
職種…【徘徊者】
魔法…【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】、【空間魔法】、【呪詛魔法】など。
特性…飛行、遺跡適応、【超位回復・超位自然治癒】、【才能……王権、王威、攻撃力S】
レベル…99(固定)
【徘徊者】?
初めて見る職種です。
おそらく、世界中の遺跡を【転移】しながら、徘徊している【エキドナ】の固有職なのでしょう。
【空間魔法】は、【転移者】には、必須ですね。
【呪詛魔法】。
これが、トリニティの切り札。
【エキドナ】は、強力な【呪】を行使します。
【超位】の【呪】は、【神格】の守護獣にさえ、治癒不能の壊死を起こさせますからね。
相当にエゲツないのです。
因みに、【呪】は、ソフィアやファヴのような守護竜には、【抵抗】されます。
遺跡適応?
これも初めて見ます。
【鑑定】すると……。
遺跡内で、能力が上がる……と表示されました。
なるほど。
【王権】ですか……。
指導者特性としては、最高位ですね。
【統率】の上位にありますが、軍の前線指揮というよりは、国家を運営し、民を導く能力なのです。
使い所が、あまりなさそうですが……。
気位が高いトリニティには、似合いの【才能】かもしれません。
【王威】は、【威圧】の上位互換。
その上には【神格者】だけが行使出来る【神威】があります。
因みに表記が似ている【威風】は、【風格】の上位互換なので、別系統。
ステータスが低い項目は、防御力ですが、それも、私やソフィアやファヴなどと比較した場合です。
弱点と云うようなモノではありません。
ともかく、トリニティが強力な事はわかりました。
おそらく、個体戦闘力は、最強クラスのユーザーを上回ります。
・・・
【ベルベトリア】の闘技場。
ソフィアは、早速、トリニティに、ソフィア流戦闘術を伝授していました。
ソフィアは嬉々として、指導しています。
トリニティも、ソフィアを絶対強者と認めているので、素直に指導を受けていました。
パスが繋がっている私には、トリニティから、楽しい、という感情が伝わって来ます。
楽しんでいるのなら、何よりですね。
「昼食にしましょう」
私は、みんなを呼び寄せました。
今日のメニューは、おにぎり。
私は、シンプルに梅干しとシャケ(地球には存在しない異世界魚の巨鮭)。
ソフィアは、味付け煮卵を丸ごと入れた巨大なオニギリ。
ファヴは、ツナと天むす。
トリニティは、肉巻きオニギリ。
うん、美味い。
やっぱり、私は日本人なのですね。
お米を食べると、お腹が落ち着きます。
トリニティは、オニギリを一口囓って、目を細めてオニギリを観察していました。
「お口に合いませんか?」
オラクルが、トリニティの様子を心配して、声をかけます。
「いや、このように、美味しい物を初めて食べた。人種の、料理、という文化は認めざるを得ないわ」
トリニティは、言いました。
本心です。
私には、トリニティから、その感情が伝わって来ていますので。
・・・
昼食後。
私達は、【ムームー】の、かつての首都だった【ラニブラ】に【転移】しました。
現地には、神の軍団・緑師団が待機しています。
私が昨晩、【転移】で師団ごと運びました。
ここで、ファヴは、緑師団と共に、大地の祝福を行い、私が【粒子崩壊】で破壊し尽くした生態系の回復を行うのです。
緑師団が緑を回復させる……いかん、いかん、元が、中年サラリーマンなので、ついダジャレ要素に脳が条件反射してしまうのですよ。
「ファヴ。午後7時に中央塔で合流しましょう」
「わかりました。遺跡では、僕の分も頑張って来て下さい」
「ファヴの気持ちも持って行きますよ」
「ファヴも、しっかりの」
「はい、ソフィアお姉様」
私達は、ファヴと別れて、遺跡の攻略に出発しました。
ソフィアが【神竜】形態に現身します。
私とオラクルで、座席を固定。
ソフィア航空は、離陸しました。
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