第1159話。【レイド・イベント】。
【老婆達の森】の【誕生の家】。
私達は、【誕生の家】に到着しました。
……と、それはともかく。
グォーーッ!
ゴッフ、ゴッフ。
ヴォアーーッ!
キュルァーーッ!
夜陰を突いて無数の魔物が襲い掛かって来ます。
ズドガーーンッ!
ガガガガガーーッ!
ドゴーーンッ!
魔物の群は、魔法や【ブレス】で森の巨木もろとも薙ぎ倒されました。
ゲームマスター本部チームと【ファミリアーレ】とグレモリー・グリモワール一行、それから守護竜達以外の【レジョーネ】のメンバーは全員魔力登録を済ませて、【神位】の【結界】によって安全性が担保されている【誕生の家】の敷地内に入っています。
しかし、守護竜達は【誕生の家】の入口ゲート外側で戦闘に巻き込まれていました。
「まったく、次から次へと面倒じゃ。素材を獲る為に手加減をして火力を調節しなければならぬのが面倒極まりないのじゃ」
ソフィアは言います。
「よりにもよって、妾達がやって来たタイミングで【襲撃】・イベントが始まるとはね。グッド・タイミングではなく、バッド・タイミングと言うのかしら?」
リントは言いました。
「【超位級】の魔物が群で連携しながら襲って来るのが地味に厄介だな」
ヨルムンが言います。
「おそらく……僕達のステータスが高いので相応に魔物も強く数も多く、おまけに群で連携を取っている……という事なのでしょう」
ファヴが言いました。
「ソフィア様。頑張ってね〜」
ウルスラが【テュルソス】を振りながら応援します。
「敵が【超位級】の魔物ばかりで数が多過ぎます。これは【襲撃】ではなく【スタンピード】ではないでしょうか?」
オラクルが疑義を呈しました。
「ヒモ太郎を【サンタ・グレモリア】に留守番させているから、魔力補給的に手伝えなくて悪いね。さすがに私ら脆弱な人種は、この数の【超位級】の魔物と何の事前準備もなく戦えないよ」
グレモリー・グリモワールが言います。
「グレモリーよ。其方は、こんな時ばかり弱い側に立ちおって、普段は人種にあるまじき破格の戦闘力を振るっておるではないか?」
ソフィアは抗議しました。
「他に選択肢がないなら戦わざるを得ないけれど、ソフィアちゃん達守護竜がこんだけ揃ってるんだから、今回は【安全地帯】の中から、ゆっくり見学させてもらうよ」
「グレモリーはユーザーなのじゃから、死亡判定が出ても【復活】するじゃろう?」
「こんだけ守護竜が居るんだから、人種の援軍なんか逆に足手まといでしょ?それとも守護竜って、か弱い人種如きに助けてもらわなきゃ、【超位】の魔物程度に苦戦すんの?ソフィアちゃんとファヴ君は……サウス大陸奪還作戦……の時に総数で億単位の【超位】の魔物と戦ったんでしょ?ソフィアちゃんは自慢してたじゃんか?億単位と比べたら、こんくらいの数は少な過ぎるくらいっしょ?」
「私も、こんな機会は滅多にないので……ソフィア達守護と【超位】の魔物の群の戦闘……というモノを、カルネディアや【ファミリアーレ】に間近で見学させたいと思います」
「屁理屈を言うなっ!我らばかりに面倒な戦闘を押し付けおって、ノヒトもグレモリーも守護竜使いが荒いのじゃっ!」
「お役に立てず申し訳ありません」
ディーテ・エクセルシオールは恐縮します。
「【神格者】ではない者達はともかく、ノヒトとブリギット(ミネルヴァ)、それからユグドラは何故迎撃を手伝ってくれないのでござりまするか?」
ニーズが訊ねました。
「私は植物神だから、【樹人】と同様に荒事は好きではないのさ」
ユグドラは言います。
「今回ゲームマスター本部は運営の立場に徹して介入しないと決めました。こちらの皆は【誕生の家】の【超位結界】に守られて安全ですので、そちらは心置きなく存分に戦って下さい」
私は【レジョーネ】に宣言しました。
「つべこべ言わず、ノヒトとブリギット(ミネルヴァ)は表に出て来て戦闘に参加するのじゃ。我らに……魔物素材の価値を損ねぬように、なるべく損傷を少なくして倒せ……などと面倒な注文をしたのじゃから、其方らも戦えっ!」
ソフィアは苛立ち紛れに言います。
「いいえ。私は何度も……早く【誕生の家】に向かおう……と督促しましたよね?それなのに、あなた達は【ドゥーム】からの【ドロイド】輸入交渉で予定外に時間を掛けました。あなた達が拠点でモタモタしていなければ、現在の面倒な状況に巻き込まれずに済んだ公算が高いのですから、これは言わば自業自得です」
「魔物は森の中に元から居たのじゃから、【誕生の家】到着が遅れた事は関係あるまい?大勢に影響はなかったのじゃ」
「いいえ、これは【襲撃】でも【スタンピード】でもなく【オープン・レイド・イベント】です。【オープン・レイド・イベント】の【敵性個体】は自然界に元々生息していた個体ではなく、【オープン・レイド・イベント】開始時間に一斉【スポーン】します。【オープン・レイド・イベント】は0時、3時、6時、9時、12時、15時、18時、21時と3時間刻みの何れかのタイミングでスタートします。今回の【オープン・レイド・イベント】は【七色星】の【メガラニカ】現地標準時間の午後9時ジャストに始まりました。つまり、あなた達がモタモタしていないで、さっさと【誕生の家】に来て葬儀を終えていれば、この【オープン・レイド・イベント】には【遭遇】しなかった可能性が高いのです。その場合この【オープン・レイド・イベント】は、あなた達には関係も責任もありませんので、後の始末は【オープン・レイド・イベント】によって【メガラニカ】の現地コミュニティに悪影響が及ばないように、私がゲームマスターとして対処しました。しかし、あなた達の我儘で予定が押した為に、本来なら回避出来た【オープン・レイド・イベント】に【遭遇】したのなら、それは、あなた達に道義的責任を取ってもらうのが筋だと思いますが、違いますか?」
「ははは……確かに……」
グレモリー・グリモワールは苦笑いしました。
「我だって、こんな七面倒臭い事になるとわかっておったら、グズグズしてはおらなんだのじゃっ!」
ソフィアは逆ギレします。
「因みに、【オープン・レイド・イベント】の【敵性個体】は999個体。全数を殲滅しなければ、イベントは終了しません」
ブリギット(ミネルヴァ)が補足説明しました。
「あ〜っ!もう、面倒じゃ。魔物の素材などは要らぬ。【神竜の咆哮】、【神竜の咆哮】、【神竜の咆哮】……」
とうとう痺れを切らしたソフィアが最終手段に出ます。
ソフィアは、売れば高価な素材の回収を放棄して、【超位級】の魔物の群を【神竜の咆哮】の連発で一気に消滅させてしまいました。
あ〜あ、勿体ない。
・・・
「マイ・マスター。この【オープン・レイド・イベント】とやらは、【七色星】の現地神であるギミック・メイカーなるモノの仕業なのではありませんか?」
トリニティが訊ねました。
「いいえ。【創造主】以外の【神格者】に【レイド・イベント】は起こせません。【レイド・イベント】を恣意的にに起こせるのは、【創造主】か地球側にいるゲーム会社だけです。ゲーム会社の一員である私も、こちらの世界に居る状態では【レイド・イベント】を起こす事はプログラム上出来ません。【創造主】も地球のゲーム会社も関与していない【レイド・イベント】は何らかの法則性に基づいた自然現象のようなモノで、誰かの作為が及ぶような類の事象ではないのです」
「なるほど」
トリニティは納得して頷きます。
「結局回収出来た【魔物】の素材は、最初に襲って来た【夜行竜】5頭分だけです」
ファヴが報告しました。
「じゃが、【オープン・レイド・イベント】クリアの報酬が運営から【収納】に送られて来たのじゃ」
ソフィアが言います。
「でも、あれだけの数を殲滅した【オープン・レイド・イベント】なのに、【激レア確定ガチャ・チケット】が3枚だけなんてクリア報酬が少ないわ」
リントが不満を漏らしました。
「ん?我は【超絶レア確定ガチャ・チケット】1枚と、【激レア確定ガチャ・チケット】9枚と、【アムリタ】なる液体入りの小瓶を貰ったのじゃが?」
「えっ?僕もリントお姉様と同じで【激レア確定ガチャ・チケット】3枚だけです」
ファヴが報告します。
「私も同じでござりまする。ヨルムンお兄様は?」
ニーズが言いました。
「私も【激レア確定ガチャ・チケット】3枚だ」
ヨルムンも頷きます。
「ん?何故、我だけ報酬が多い?」
ソフィアは首を傾げました。
「あ〜、ソフィアちゃんが【神竜の咆哮】広域殲滅して最多キルを達成したから、運営から今回の【オープン・レイド・イベント】のMVPに選ばれたんだよ。他の守護竜の皆は次点のVP。因みに戦闘しなかった私らも【オープン・レイド・イベント】には参加した扱いになって、全員【激レア確定ガチャ・チケット】を1枚ずつ貰ってるけれどね」
グレモリー・グリモワールが説明します。
「なるほど。MVPか。じゃが、999個体の【超位】の魔物を殲滅したにしては、やはり全体的にクリア報酬が渋いと言わざるを得ぬのう」
「【オープン・レイド・イベント】はオープンだから、誰でも何人でも参加出来て人数制限とかはない。だから、人数制限とかレギュレーションがある【クローズド・レイド・イベント】よりは報酬が少ない。それに、本来なら個人やパーティで倒した【超位】の魔物の素材も報酬になるから、それなりに身入りはあるんだけれど、そっちはソフィアちゃんが【神竜の咆哮】で全部消滅させちゃったからね」
「ぐぬ……面倒臭かったのじゃ」
「運営の立場としては……【オープン・レイド・イベント】クリアおめでとうございます……と言っておきます」
「ノヒトは何もしなかったのじゃ。サボりじゃ」
「何とでも言って下さい」
「でも、何故【オープン・レイド・イベント】が起きたのかしら?ブリギット(ミネルヴァ)、確か【オープン・レイド・イベント】の発生はランダムではなかったわよね?」
リントが訊ねました。
「はい。オープン、クローズドに拘らず【レイド・イベント】は運営が予め日時と場所を公表して発生させる場合と、特定条件が満たされた場合に発生する場合の2つの発生パターンしかありません。地球からのアクセスが途絶えている現在、前者はあり得ないので、この【オープン・レイド・イベント】は必然的に後者となります」
ブリギット(ミネルヴァ)が説明します。
「なら、この【オープン・レイド・イベント】が起きた特定条件って何なのかしら?」
「もしかして私達が【七色星】に来たからでごさりまするか?」
ニーズが訊ねました。
「【レイド・イベント】の発生条件はプレイヤーの行動には依拠しません。今回の場合は、ほぼ間違いなく先日発生した太陽フレアによる刺激と、天体の位置関係による反応です」
「なぬっ!天体現象だとするなら、ほぼ同じ条件の【ストーリア】も危ないではないか?」
ソフィアが慌てます。
「現時点で【ストーリア】では【レイド・イベント】の発生兆候はありません」
「ほっ……良かった」
「ただし、いえ……」
「何じゃ、ブリギット(ミネルヴァ)?言い掛けて口籠られると気になるではないか?」
「将来【ストーリア】や【七色星】に【超絶級】の【クローズド・レイド・イベント】が発生する可能性が、既に判明しています」
「なぬっ!いつじゃ?何処でじゃ?」
「いつとは断言出来ません。この【クローズド・レイド・イベント】の発生時期や発生場所は、相手の出方次第ですので?」
「相手とは魔物か?先程ノヒトは……【レイド・イベント】の魔物は一斉【スポーン】する……と言っておった。ならば、相手の出方やら都合やらは関係あるまい?」
「今回の【クローズド・レイド・イベント】の討伐対象は、もう既に世界のある場所で一斉【スポーン】しています。しかし、【スポーン】した場所が距離的に【ストーリア】や【七色星】から遠いので、こちらに向かって来るとしても相応の時間が掛かり、また実際に【ストーリア】や【七色星】に向かって来るのか如何かも含めて確定している訳ではなく、つまり相手の出方次第という訳です」
「【ストーリア】や【七色星】から距離的に遠い場所……じゃと?その言い方だと、宇宙という事か?」
「はい」
「つまり、その【クローズド・レイド・イベント】の討伐対象とは宇宙人か?」
「はい。相手は【火星人】艦隊です。そして誰でも参加可能な【オープン・レイド・イベント】ではなく、参加条件とレギュレーションが設定される【クローズド・レイド・イベント】である理由は、参加条件として……宇宙空間での戦闘能力……が必要だからです」
「【火星人】か……奴らの兵器は、なかなか厄介なのじゃ。宇宙空間での戦闘も運動の自由が奪われて容易ではない」
「もしも【火星人】艦隊が【ストーリア】や【七色星】に攻撃の意図を持って接近したら、私が殲滅しておきますので問題ありませんよ。【火星人】艦隊の艦船に使われている技術は、それなりに高度なので、以前から連中の艦船を鹵獲して改造したいと考えていたのです」
「うむ。ノヒトが対応してくれるのであれば心配無用じゃ。さて、余計な手間が掛かったが、カルネディアの姉達の葬儀を行おうではないか……」
私達は、ようやく【誕生の家】の建物に入りました。
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活動報告、登場人物紹介&設定集もご確認下さると幸いでございます。
・・・
【お願い】
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