第1155話。押し付けられた面倒事。
本日2話目の投稿です。
【竜城】の大広間。
「で、ノヒトは【魔界】平定戦の後に【ザナドゥ】と【アガルータ】の【世界の理】違反を処断して、もしも両国を滅ぼす結果になった場合、その後のビジョンはどんな感じ?」
グレモリー・グリモワールが訊ねました。
「何も決めていません。とりあえず、【アガルータ】に向かって【アジ・ダハーカ】を降臨させて存在を現世に固定し、後の事は【アジ・ダハーカ】と相談して決めたいと思っています」
「あ、そう。ま、ノヒトに任せときゃ、いつも通り適切に対処してくれんだろうって思うけれど、私は昨日ラーラに……【イスタール帝国】と友好関係を築いて安全保障上も協力する……って約束しちゃったから、ラーラと【イスタール帝国】が悪いようにならないような問題解決をお願いしたいね」
「やれる事はやりますよ。それが私の仕事ですので」
「宜しく頼むよ」
「ノヒト様。【アジ・ダハーカ】様を降臨なさった後は、【アガルータ】は国民からの崇敬が厚い大僧正猊下を中心とすれば国が治ると存じます」
アルフォンシーナさんが言います。
「【アジ・ダハーカ】の意向次第ですが、多分そういう方向性になると思います」
「それから、【ザナドゥ】は帝政を復古したら如何でしょうか?」
「帝政復古?つまり、新たに皇帝を即位させるのですね?」
「はい」
「【ザナドゥ】の旧皇帝の血脈は残っているのでしょうか?」
「いいえ。【ザナドゥ】の独裁政権は、旧【ザナドゥ】皇帝の直系血縁者を革命のどさくさで尽く処刑してしまいました」
「だとするなら、誰か相応しい人材を連れて来て新たに皇帝に即位させなければいけませんね。まあ、【アジ・ダハーカ】が【指名】すれば君主の正当性は問題なく保証される訳ですが……」
「私が口を挟む事ではありませんが、可能ならば【ザナドゥ】皇帝に相応しい人材は、今から保護しておく方が宜しいかと存じます」
「アルフォンシーナさんは、何やら【ザナドゥ】の皇帝候補に心当たりがありそうな口振りですね?」
「はい。単刀直入に申し上げて、シアン・ルーは如何でしょうか?」
「なるほど。【ドラゴニーア】の息が掛かったスパイのシアン・ルーを【ザナドゥ】の皇帝に推戴して、事実上【ドラゴニーア】の傀儡としてグリップし、【ザナドゥ】の政治に【ドラゴニーア】が影響力を及ぼそうという訳ですか?」
「そういう思惑が全くないと言えば嘘になりますが、それを抜きにしてもシアンは【ザナドゥ】皇帝に相応しい人材です。私は、シアンが……【ザナドゥ】にスパイとして潜入する……と志願した際にも、任務の危険性を考えて有能な彼女を手元に置いておきたいと考えました。シアンなら将来【ドラゴニーア】の政治家や官僚や軍人として要職を務められる人材だと考えたからです。能力だけでなく、シアンが【ザナドゥ】皇帝に相応しいと考える根拠は、彼女は【ザナドゥ】軍で数々の功績を挙げて提督にまで昇り将兵から尊敬と信頼を得ています。またシアンは【ザナドゥ】の出身で元は奴隷でした。ノヒト様によって【ザナドゥ】は近い将来、奴隷制を撤廃する事になります。そうなれば、現在の【ザナドゥ】国民に倍する解放奴隷達が新たに【ザナドゥ】国民に加わる訳です。元奴隷だったシアンが皇帝となれば、きっと解放奴隷の国民達もシアンを支持するでしょう。有能で、軍を統率出来て、国の過半数の人口から支持を得られる人材は、皇帝に相応しいと存じます」
「なるほど」
【竜城】の様子を眺める限り、アルフォンシーナさんの人材を見抜く目は確かだと思えますので、シアン・ルーが有能なのは間違いないでしょうね。
また、君主は軍隊をグリップ出来る事が絶対条件です。
そして、私が【ザナドゥ】の奴隷制を廃止させれば、解放奴隷達が【ザナドゥ】の人口比率の過半数を占めるのも事実でした。
アルフォンシーナさんの見解は的を射ています。
「ま、軍隊は自己完結組織で、有能な軍人は様々な分野の実地経験があって統治者として使い勝手が良い事は間違いないかんね」
グレモリー・グリモワールが頷きました。
「ノヒト様と【アジ・ダハーカ】様が直接会ってみて、シアンの能力や人柄を判断し、見るべき所があるとお考えになったら、シアンの皇帝即位を是非ご一考下されば幸いでございます」
アルフォンシーナさんは言います。
「わかりました。シアン・ルーの事は記憶に留めておきましょう」
「ありがとうございます」
「シアン・ルーの身柄保護は必要なのですか?」
「念の為に、そうなさっておいた方が宜しいかと存じます。全体主義の権威独裁政権は何をするかわかりません。いざ、シアンを皇帝にしたいとお考えになった際に、彼女が独裁政権の粛清などによって害されていれば取り返しが付きません」
「であるなら、念の為にシアン・ルーを拉致……あ、いや、身柄を確保しておく事も必要な措置かもしれませんね」
「はい。ノヒト様の御力なら、それが可能でございますので」
ミネルヴァは如何思いますか?
私は【念話】で訊ねました。
【ドラゴニーア】と【ザナドゥ】のサーバーにアクセスしてジア・ジアンことシアン・ルーのプロファイルを調べてみました……経歴と実績を見る限り、確かにシアン・ルーは極めて有能です……私は、シアン・ルーに【ザナドゥ】の皇帝をやらせてみるのも有力な選択肢の1つだと考えます……もしも、シアン・ルーの身柄確保に向かうなら、既に【キー・ホール】を彼女の近くに展開しています。
ミネルヴァが【念話】で報告します。
あ、そう。
「ミネルヴァと相談した結果、一応シアン・ルーの身柄は今日中に押さえておきます。ただし、彼女を皇帝にするか如何かの最終判断は【アジ・ダハーカ】に決めさせます」
「ありがとうございます」
アルフォンシーナさんは深く頭を下げました。
「うむ。何はともあれ、これでまた1つ……いや、【ザナドゥ】と【アガルータ】で2つのならず者国家の問題が片付いた訳じゃな。ノヒトが動けば話が早くて助かるのじゃ」
ソフィアが言います。
「ノヒトは、デタラメなチート持ちだからゲーム難易度が、私らとは全く違うんだよ。ま、ノヒトのチート能力は、馬鹿みたいに忙しくて、責任が重くて、クッソ面倒なゲームマスターの仕事とセットだから、ちっとも羨ましいとは思わないけれどね」
グレモリー・グリモワールが同調しました。
「【ザナドゥ】と【アガルータ】の問題は、私の対応が最適解か如何かは、結果を見てみなければ何とも判断のしようがないと思いますよ」
「いや。現時点の選択肢の中では、ノヒト案が最適っしょ。アルフォンシーナさんには悪いけれど、少なくとも件の謀略よりかは、ノヒトの案のが私には綺麗な方程式に見えるね」
「仰る通りです。私の謀略は、蓋然性として悪い方に転べば敵味方の大量の流血を想定したモノ。とても褒められたモノではありません」
アルフォンシーナさんは言います。
「ノヒトの案がシンプルで綺麗に見えるのは、ノヒトが宇宙最強で無敵のゲームマスターとして絶対的な力を背景に持っているからだから、神ならぬアルフォンシーナさんが謀略を駆使するのは致し方ないよ。私だって謀略や罠を好んで使うからね。ただし、私なら今回のケースなら謀略ではなく、別のやり方をしたかな」
「別のやり方とは?」
「ヒモ太郎を連れて、【ザナドゥ】首都への殴り込み」
私もグレモリー・グリモワールとしてなら、そうするでしょうね。
「……それは、さすがに私には真似出来ませんね」
アルフォンシーナさんは苦笑いしました。
「うむ。我もグレモリーのようなフリーな立場なら、敵の本拠地に直接乗り込んで、諸悪の根源を叩くじゃろう。じゃが、セントラル大陸に暮らす民の生命と財産に責任を負う守護竜の立場では、そう簡単な話ではない。大神官の立場であるアルフォンシーナも同じ事じゃ。我から見れば、何モノにも縛られぬグレモリーは羨ましいのじゃ」
ソフィアが言います。
「でも最近は、私も柵が全くない訳じゃないんだよ。リントちゃんからは【イスプリカ】での潜入調査を頼まれてるし、ノヒトからはノートのビジネス・コンサルタントを頼まれてるし、【サンタ・グレモリア】の庇護者としては【キララウス山】にある【獣人】集落の問題にも対処しなきゃなんないしね。はあ〜、面倒臭い」
グレモリー・グリモワールは溜息を吐きました。
「【キララウス山】の【獣人】集落とな?」
「あ〜、ソフィアちゃんには話してないっけ?」
「聴いておらぬ」
「【サンタ・グレモリア】から南の方角にある【キララウス山】の麓に【ログレス】って集落があって、そこに【ブリリア王国】の統治から半独立した【獣人】達が住み着いている。【ログレス】の【獣人】達は、【ブリリア王国】と敵対しない代わりに統治も受けない自治を認められているんだけれど、どうやら【イスプリカ】が【ログレス】にチョッカイを出して来ているみたいなんだよね。【ブリリア王国】と【イスプリカ】の国境には、【ブリリア王国】が防衛する難攻不落の大要塞【キ・ブラタール】があるから、【イスプリカ】は容易には【ブリリア王国】を攻められないんだけれど、【キララウス山】は【ルピナス山脈】の西の端っこから孤立した単独峰で、【キララウス山】と【ルピナス山脈】の間には深くて長い渓谷がある。その渓谷のボトル・ネックに【ログレス】があるんだよ。だから、【ログレス】をショート・カットすれば【イスプリカ】から【ブリリア王国】には簡単に侵入出来ちゃう。つまり【ログレス】は【ブリリア王国】と【イスプリカ】にとって戦略上の重要拠点な訳。私は一度【ログレス】に行って、【獣人】を率いる長老達に会って話しただけだから、まだ詳しい状況は良くわからないんだけれど、【イスプリカ】は【ログレス】を攻めて実行支配し、【ブリリア王国】領土内に橋頭堡を築こうとしているらしい。そうなると【ログレス】は【ブリリア王国】領土内にあるから、必然的に【ブリリア王国】は【イスプリカ】に侵略される事になって戦争になる。私は現在そのクッソ面倒な状況に絶賛巻き込まれ中って訳」
「リントよ。先日其方が【ブリリア王国】を国家承認してマクシミリアンを王として【指名】した。一方で【イスプリカ】は、【リントヴルム】を信仰せぬ上に、奴隷制を敷く【世界の理】に反する国で、リントの国家承認も受けておらぬのじゃ。ならば、リントが【イスプリカ】に……【ブリリア王国】を侵略するな……と命じて、従わねばを武力を以って懲らしめてやれば良いだけではないのか?何故そうせぬ」
ソフィアが訊ねます。
「それが【ログレス】は自治を認められた独立集落なので、その帰属問題は【ブリリア王国】と【イスプリカ】で永年係争の種になっているのですわ。独立自治領【ログレス】は国際法上【ブリリア王国】の統治下にはないので、【イスプリカ】が【ログレス】を空白地帯だと言い張って軍を送れば、それを力で排除する根拠がありません。なので、グレモリーの【サンタ・グレモリア】に【ログレス】を友好的に併合して庇護下に収めてもらうように依頼したのです」
リントは答えました。
「ならば何故、今まで【イスプリカ】は【ログレス】に手を出さなかったのじゃ?」
「【ログレス】と【イスプリカ】の間にある国境地帯には、古くから【妖精】達が住んでいて、悪意や害意や攻撃性を持って侵入する者達を【幻影】で道に迷わせ侵入を防いでいたのです。それが最近になって何故か【妖精】達の姿が消え、【キララウス山】と【ルピナス山脈】間の渓谷が自由に通行可能になってしまいました。グレモリーに依頼して【ログレス】に送ったのは、【妖精】が消えた原因を調査させる為でもあります」
「そゆこと」
グレモリー・グリモワールは言いました。
「ふむ。それは奇妙な話なのじゃ」
ソフィアが言います。
「ま、取り敢えず今は【グリモワール艦隊】で【ログレス】方面の国境を警戒しているから、【イスプリカ】も、おかしな事は出来ないと思うよ。ただし、段々と国境の向こう側に【イスプリカ】の軍隊が集結して規模が大きくなって来ているから、絶対攻めて来ない保証はないけれどね」
「何じゃ。【イスタール帝国】国境の睨み合いの状況と同じではないか?」
「もしかしたら、それより状況が悪いかもね?【ザナドゥ】と【アガルータ】は、【イスタール帝国】との国境に大軍を展開してはいるけれど、威嚇と挑発をして何とか交渉をしたいだけで、【イスタール帝国】に侵攻すれば自由同盟陣営が【イスタール帝国】に味方して反撃して来るのがわかっているから、本音では戦争をしたくない訳じゃん?【イスプリカ】の派兵は、ブラフではなく【ブリリア王国】を攻める気満々。【ブリリア王国】は自由同盟陣営に加わりたいと考えているけれど、現在は未加盟で援軍を送ってもらう事は出来ない。一応【サンタ・グレモリア】は【ブリリア王国】の所属だから、【ブリリア王国】が攻められれば、【サンタ・グレモリア】は【ブリリア王国】に味方するけれどね。それに【イスプリカ】の軍隊は、どうも【グリモワール艦隊】の戦力を過小評価しているらしいから、大軍で攻めれば勝てると思ってるっぽいんだよね。基本的に【グリモワール艦隊】は少数精鋭だから、【イスプリカ】軍の増強度合いに応じて、こちらも艦船の数を増やす事は出来ないし、そもそも虎の子の【グリモワール艦隊】は【魔界】平定戦に投入しなくちゃならないから、このまま【イスプリカ】国境に張り付けておく訳にもいかない。【イスプリカ】が直近で国境を侵犯すれば、【グリモワール艦隊】が楽勝で殲滅出来るけれど、【魔界】平定戦に艦隊を派遣しているタイミングで攻められたら、ちょっち面倒な事になるんだよね」
「そうか……。ノヒトよ」
ソフィアが私に話を振りました。
もしかして、ソフィアは何か良くない事を考えているのではありませんか?
「何ですか?」
「何とかならぬか?」
「つまり、私に……何とかしろ……と?」
「そうは言ってはおらぬ。我は……何とかならぬか?……と、ノヒトに意見を訊いておるだけじゃ」
「私は暇ではないのですよ。緊迫する【ザナドゥ】と【アガルータ】の問題も、致し方なく【魔界】平定戦の後回しにしているくらいなのですから」
「じゃが、【イスプリカ】が【ブリリア王国】との国境を越えて【ログレス】に侵攻すれば、結果的にノヒトは、もっと忙しくなるじゃろう?ノヒトが主導する【魔界】平定戦に協力してくれるグレモリーが厄介な事態に巻き込まれておるのじゃ。ここは何とかしてやるべきではないか?」
くっ……足元を見て来やがった。
「致し方ありません。明日取り敢えず現地の様子を見に行ってみますよ」
「うむ。それが良いじゃろう」
ソフィアは満足気に頷きます。
「ノヒト。ありがとう」
「助かるよ」
リントとグレモリー・グリモワールが言いました。
もしかして、グレモリー・グリモワールは私に面倒事を押し付ける為に、ワザとこの話題を持ち出したのでは?
グレモリー・グリモワールだけではありません。
リントも結託している可能性がありますね……。
ソフィアに関しては、彼女の脳に共生するフロネシスを通じて私はソフィアの思念が読み取れますので、グルではないとわかります。
ふと、見ると……リントとグレモリー・グリモワールがテーブルの下で小さくグー・タッチを交わしていました。
ちっ、謀られた……。
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・・・
【お願い】
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