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第1152話。アーク・エネミー(魔神)の寵姫。

本日2話目の投稿です。

【竜城】の大広間。


「……ともあれ、【ゴブリン自治領】内のレジスタンスが【ザナドゥ】軍に対してゲリラ戦術による遅滞戦を実行する事で、【ザナドゥ】は【イスタール帝国】方面に傾注出来ず、結果として【イスタール帝国】は【ザナドゥ】と【アガルータ】に対して優位な状況を作れるって事?」

 グレモリー・グリモワールは訊ねました。


「概ねそのように考えております」

 アルフォンシーナさんは微笑んで頷きます。


「じゃが、先程ノヒトが……【ゴブリン自治領】の実態は難民キャンプ……と表現したように、【ドラゴニーア】と【ユグドラシル連邦】のスパイが【ゴブリン自治領】のレジスタンスに戦闘訓練と武器供与をしているとしても、レジスタンスは本当に【ザナドゥ】軍を遅滞させるだけの軍事的能力(ポテンシャル)があるのか?レジスタンスが【ザナドゥ】軍に短期間で殲滅されてしまうような情勢であれば、【ザナドゥ】軍は【ゴブリン自治領】方面の戦況に拘束されず、【イスタール帝国】方面でも戦線を構築して問題なく2正面作戦を行えると判断しそうなモノじゃ。そうなれば、【ザナドゥ】と【アガルータ】は、【ゴブリン自治領】のレジスタンスなど放置する事になるじゃろう?」

 ソフィアが疑義を呈しました。


「【ゴブリン自治領】のレジスタンスは、現在【タカマガハラ皇国】側の国境を目指して撤退していますが、彼らは最終的には国境を越えて【タカマガハラ皇国】側に逃げる手筈になっております。ただし、レジスタンスは国境を跨ぎ【タカマガハラ皇国】側と【ゴブリン自治領】側とを自由に出入りしてゲリラ戦術を取り、【ザナドゥ】軍と戦います。国際法上【ゴブリン自治領】は国家承認されておりませんので、【ゴブリン自治領】のレジスタンスも正規軍ではありません。正規軍ではないレジスタンスが、無断で【タカマガハラ皇国】との国境を超える行為は不法入国には当たるかもしれませんが、国際法上の解釈では【ゴブリン自治領】による【タカマガハラ皇国】への戦争行為ではありません。一方で、【ザナドゥ】の正規軍がレジスタンスを追撃して【タカマガハラ皇国】との国境を無断で越えれたり、【タカマガハラ皇国】側領土に向けて砲撃を加えたりすれば、それは国際法上侵略に該当します。そうなれば、当然【タカマガハラ皇国】は正当防衛として【ザナドゥ】を迎撃し戦争になります。【ザナドゥ】と【アガルータ】が望む戦略目的は、あくまでも……自由同盟と神権連合による全面戦争の危機を煽った上で、ギリギリのチキン・レースを仕掛け、交渉で可能な限り有利な譲歩を引き出す事……です。チキン・レースが実際の戦争に発展してしまった場合、困るのは軍事的に劣勢な【ザナドゥ】と【アガルータ】の側です。従って、【ゴブリン自治領】を侵攻する【ザナドゥ】軍は、国境を越えて【タカマガハラ皇国】側に逃げ込んだ【ゴブリン自治領】のレジスタンスを追撃出来ません。この盤面(チェッカー・ボード)は【ゴブリン自治領】のレジスタンスにとって一方的に有利な状況。これが、【ゴブリン自治領】における遅滞ゲリラ戦の要諦となります」

 アルフォンシーナさんは説明します。


「アルフォンシーナよ。そう都合良く事が運ぶのか?それは……【タカマガハラ皇国】が【ゴブリン自治領】から逃げ込むレジスタンスを放置する……という希望的観測が前提になっておるが、実際には【タカマガハラ皇国】の国境には警備隊がおるし、【ゴブリン自治領】からレジスタンスが無断で越境しようとすれば制止して不法入国で捕まえるじゃろう?」

 ソフィアが当然の疑問を訊ねました。


「もちろん()()()()【ゴブリン自治領】から不法入国が行われれば、【タカマガハラ皇国】の国境警備隊は侵入者を逮捕・拘束して国外退去処分にします。ただし今回【タカマガハラ皇国】は、【ザナドゥ】と【アガルータ】の戦略目的を(くじ)く為に、意図的に【ゴブリン自治領】のレジスタンスが国境を出入りする状況を見て見ぬふりをして放置するのです」


「なぬっ!【タカマガハラ皇国】とは事前に申し合わせが出来ておるのか?」


「はい。【タカマガハラ皇国】は【ゴブリン自治領】のレジスタンスを放置するという形で間接的に支援して、【ザナドゥ】軍を遅滞させる謀略に協力してくれます。【ザナドゥ】と【アガルータ】は【ゴブリン自治領】のレジスタンスへの対応に追われ……【イスタール帝国】との軍事的緊張を高めて交渉のテーブルに着かせ譲歩を引き出す……という、連中の戦略目的を達成する願望は叶いません」


「アルフォンシーナさん。おっかないね〜」

 グレモリー・グリモワールが言います。


「このくらいの謀略は、まだ序の口。大した事はございませんよ」

 アルフォンシーナさんはニッコリと笑いました。


「ふむふむ、なるほど。【ザナドゥ】と【アガルータ】にとって、【ゴブリン自治領】方面30万人規模の侵攻作戦など戦略の前段階であり、単なる準備に過ぎぬ。あくまでも【ザナドゥ】と【アガルータ】にとっての戦略目的は、200万人規模の大軍を【イスタール帝国】国境に展開し、意図的に軍事的緊張を高めて……【イスタール帝国】国境で戦端が開かれれば、自由同盟と神権連合の全面戦争になるかもしれない。そうなれば神権連合は滅ぶかもしれぬが、自由同盟も多大な犠牲を払う……という危機的状況を()えて作り出し、チキン・レースによる交渉によって【イスタール帝国】や【タカマガハラ皇国】や自由同盟諸国陣営から譲歩を引き出す外交じゃ。じゃから、【ザナドゥ】と【アガルータ】は本音では絶対に【イスタール帝国】と戦争をしたくない。じゃが、【ゴブリン自治領】方面でレジスタンスが暴れて、いつまでも制圧出来なければ交渉において自分達に不利な材料になる(ゆえ)、無視する訳には行かぬ。()りとて、【ザナドゥ】軍は、【タカマガハラ皇国】側に逃げた【ゴブリン自治領】のレジスタンスに攻撃を仕掛ける事は出来ぬ。【タカマガハラ皇国】の領土に【ザナドゥ】の正規軍が攻撃を仕掛ければ、それは【ザナドゥ】と【アガルータ】が戦略目的上、絶対に避けなければならない自由同盟陣営との戦争になり本末転倒なのじゃ。うむ、ここまでの段取りは見事と言っておこう」

 ソフィアは言います。


「ありがとうございます」

 アルフォンシーナさんは微笑んで言いました。


「でも、そういう追い込み方をすると、いよいよ追い詰められた【ザナドゥ】と【アガルータ】が自棄(やけ)になって戦略的合理性をかなぐり捨てて、【イスタール帝国】に攻め込んでしまうのではないかしら?自由同盟陣営としても、最善の解決は全面戦争を避け、【ザナドゥ】と【アガルータ】に敗北を悟らせて愚かなチキン・レースから降りさせ、和平に誘導する事よね?戦争への追い込み方としては、敵に最初の一撃を出させるのは悪くない戦略だけれど、自由同盟陣営も避けられるなら非生産的な戦争は避けたいのでしょう?」

 リントが質問します。


「全面戦争に至る前に、この愚かなチキン・レースが失敗した段階で、【ザナドゥ】の全体主義権威独裁政権は倒れます」


如何(どう)いう事?」


「【ザナドゥ】の政権中枢も、対自由同盟強硬派ばかりではございません」


「つまり……このチキン・レースに敗れた対自由同盟強硬派の【ザナドゥ】の独裁政権は政治的求心力を失って、対自由同盟融和派に取って変わられる……と?」


「少し違います。この際、独裁政権には物理的に舞台から退場してもらいます」


「物理的?つまり、それは……」


「【ザナドゥ】では、全体主義の権威独裁政権に反抗して民主化を望む勢力と【ザナドゥ】国内の奴隷が一斉に武装蜂起して、各地でクーデターと反乱が起こります。現在【ザナドゥ】は軍の精鋭30万人が【ゴブリン自治領】に、他200万人の大軍が【イスタール帝国】国境に派兵されていて、国内でクーデターや反乱が起きた場合の鎮圧戦力が残っていません。クーデターと反乱が起きてから、総数230万の【ザナドゥ】軍が急ぎ前線から引き返して来ても、その時には【ザナドゥ】の首都はクーデター軍と反乱武装組織による攻撃で陥落しており、独裁政権の中枢を担う政治家達も倒されている……というシナリオでございます」


「あのさ、【ザナドゥ】の軍隊が【ゴブリン自治領】方面の国外や【イスタール帝国】方面の国境に出払っているとしても、首都には防衛隊くらい残っているっしょ?幾らなんでも、首都を空っぽにはしないんじゃね?首都防衛隊がクーデター軍や反乱武装組織から首都を守っている間に前線から230万の友軍が戻ればクーデターと反乱は鎮圧されてお終いじゃんか。全体主義の権威独裁国家の指導者連中ってのは国益や国民の生命と財産を犠牲にする事は何とも思わないけれど、自分達の保身だけは絶対に怠らない卑劣でビビリな屁垂れでゴミ以下の下らない奴らなんだからさ」

 グレモリー・グリモワールが訊ねました。


「グレモリー様の仰る通りです。しかし、この謀略の肝となる【ザナドゥ】国内でクーデターを起こす反乱勢力の主戦力にして、私の謀略に協力してくれる有力な内通者こそが、【ザナドゥ】人民軍首都防衛隊指揮官ジア・ジアン大佐なのです」


「うへぇ、敵の首都防衛隊の指揮官を裏切らせて懐に抱き込んでいるとか、アルフォンシーナさんはマジ半端ないね?」


「ジア・ジアン大佐が、このタイミングで【ザナドゥ】首都の防衛責任者の任にあったのは単純に幸運の成した配剤でございました。このシナリオにおける首都でのクーデターに関する部分の脚本家は、ジア大佐自身なのです。そもそも、ジア大佐は90年前に私が【ザナドゥ】に送り込んだスパイでございました」


「なぬっ。ジア・ジアンなる者は、アルフォンシーナ子飼(こがい)の者なのか?」

 ソフィアが訊ねます。


「はい。ジア・ジアン大佐……いいえ、提督と呼んだ方が、ディーテ様には耳馴染みが良いかもしれません。ジア提督は、長らく【ザナドゥ】海軍北洋艦隊を指揮しておりましたが、3年前ノース大陸西方国家【ニダヴェリール】の貿易船が【タカマガハラ皇国】を目指して東進している途上、【ザナドゥ】沖合の公海を航行中、突如【スポーン】した【シー・サーペント】の群による【襲撃(サージ)】を受けた事例がございました。【ニダヴェリール】の貿易船は救難信号(SOS)を打伝。その際【ザナドゥ】政府は、敵性国の【ニダヴェリール】と【タカマガハラ皇国】間の貿易船からの救難信号(SOS)を黙殺して見殺しにする方針を決定し、隷下(れいか)の関係部署に命令しました。しかし、ジア提督は……魔法通信が不調だ……と嘘を吐き、自国政府からの命令を無視して、貿易船を救援する為現場海域に艦隊を出動させ、【シー・サーペント】の群を撃退しました」


「ああ、あの時の……」

 ディーテ・エクセルシオールは呟きました。


「ふむ。【ザナドゥ】にも船乗り魂(セイラーマン・シップ)を持つ一廉(ひとかど)の海軍軍人がおるようじゃな」

 ソフィアは頷きます。


「ジア提督の行動は海洋国際法と船乗り達の紳士協定に照らして極めて正しい判断でしたが、【ザナドゥ】独裁政権は、ジア提督が命令無視をして敵性国の貿易船を救援した事を(とが)めて処分しました。その結果、ジア提督は北洋艦隊司令官を更迭され、首都防衛隊の指揮官に左遷され、2階級降格されてしまいました。しかし、【ザナドゥ】独裁政権がジア提督を粛清した事で、今回のクーデターでジア大佐が首都防衛隊の指揮官になっており、自分で自分の首を絞める形になった訳です。偶然とはいえ……世に悪の栄えた試しなし……とは、こういう時に使うべき言葉なのでしょう」

 アルフォンシーナさんは説明しました。


「しかし、ジア・ジアンなる者を我は知らぬ。ジアなる者がアルフォンシーナの子飼(こがい)ならば、名前くらい覚えている筈なのじゃが?」


「ジア・ジアンは【ザナドゥ】軍に潜入する際の偽名です。もちろん、【鑑定(アプライザル)】などで正体が露見しないように正式に改名をして、それ以前の戸籍も経歴も全て破棄してあります」


「ならば、ジアなる者の本名……いや、正式に改名したならば、元の名前は何というのじゃ?」


「ジア・ジアンの元の名前は、シアン・ルーです」


「シアン・ルー?何処(どこ)かで聞いた事がある名じゃが……」


「100年前【ザナドゥ】北西に位置する集団農場で強制労働をさせられていた奴隷達がボートで海に漕ぎ出し他国への亡命を企てた事がありました。ボートが幸運にも【ザナドゥ】の官憲の追跡を()いたまでは良かったのですが、粗末なボートは荒天の海で遭難してしまいました。ボートが海流に流されて、奇跡的にセントラル大陸の【グリフォニーア】に漂着した時には、生存者は1人だけで他の者は全員死亡していました。生き残って亡命孤児として【神竜神殿】に保護されたのがシアン・ルーです」


「思い出したのじゃ。あの時の幼な子がシアンか?」


「はい。成長したシアンは【ザナドゥ】の訛りが喋れましたので、本人の志願で【ザナドゥ】へのスパイとして潜入させました。彼女は元来知性が高い子でしたので、軍隊に入り昇進して要職に就いていた次第です」


「アルフォンシーナ。まさかとは思うが、其方はシアンを保護した当時から、現在の状況を考えて、この謀略を進めて来たと言うのか?」


「幸運や偶然もあり全てではございませんが、こういう事もあろうかと、ある程度の想定と準備をして策を温めておりました」


「まったく……至高の叡智を持つ我ですら、アルフォンシーナの権謀術数(けんぼうじゅっすう)には時々心胆が寒くなるのじゃ」


「いや、権謀術数(けんぼうじゅっすう)どころか、アルフォンシーナさんの謀略は、もはや神算鬼謀(しんさんきぼう)(たぐい)だよ」

 グレモリー・グリモワールが言います。


「最愛なる主上(しゅじょう)の君で()らせられるソフィア様や、偉大なる大英雄のグレモリー様より、そのような御批評をして頂けるのは大変光栄で冥利(みょうり)に尽きます」

 アルフォンシーナさんは微笑みました。


「アルフォンシーナちゃんは、本当に恐ろしい子ね。あなたが他国から何と呼ばれているか知っている?」

 ディーテ・エクセルシオールは訊ねます。


「噂は耳に入っております。帝位を持たない女帝とか国際政治の巨魁とか色々と……」


「それは、どちらかと言えば【ドラゴニーア】と友好的な国から呼ばれる異名よ。敵国は、アルフォンシーナちゃんの事を……【魔神(アーク・エネミー)】の寵姫(ちょうき)……とか……バケモノ染みたバケモノ……って呼んでいるわ」


「あらあら、【魔神(アーク・エネミー)】の寵姫(ちょうき)だなんて、うふふ……。私は【神竜(ソフィア)】様に身も心も捧げておりますのに困りましたわ。でも、褒め言葉として受け取っておきます」

 アルフォンシーナさんは微笑みました。

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・・・


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[一言] あらあらうふふの智略キャラとかめっちゃ強そう……
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