第115話。エンシェント・ドラゴン軍団。
本日、8話目の投稿です。
【ベルベトリア】。
私は、2千頭の【古代竜】を、4百頭ずつ5つのグループに分けました。
種類と戦力が均衡するように、個体を割り振ってあります。
「ソフィア、ファヴ、オラクル、トリニティ、集まって下さい」
私は、4人を呼び寄せました。
「何じゃ?」
ソフィアがトコトコと走って来ます。
「まず、始めに、この【古代竜】軍団の運用目的を確認しておいて下さい。【古代竜】軍団は、国家紛争や種族紛争には、介入しません。サウス大陸奪還作戦のような、世界の理、を守る為に運用されます」
「うむ。異存はないのじゃ」
「ノヒト。ゲームとは、何ですか?」
ファヴが訊ねました。
「ノヒトは、この世界の事を、ゲームと呼ぶのじゃ。おそらく、ノヒトや【創造主】ら神界の者達が、我らの世界を呼ぶ時の呼称なのじゃろう」
「はい。ソフィアの解釈で、差し支えありませんよ」
「なるほど」
ファヴは、納得します。
オラクルとトリニティも頷きました。
「ノヒト様のご命令とあらば従いますが、わたくしは、人種の為の兵となるのは抵抗がございます」
トリニティが言います。
「人種、【巨人】、【天使】、【魔人】……いずれにも与しません。原則として、私達は、この世界の理……つまり【創造主】の定めた世界観を保全する事を追求します。もちろん、文明の発展を阻害しない形で、という大前提がつきますが」
ゲームの世界観を守る為に、文明の健全な発展を妨げるのは、【創造主】も望まないはずですからね。
「うむ、妥当じゃな」
「文明の発展、を、どう定義するのですか?」
ファヴが訊ねました。
「私は、文明の発展を……世界が、より多くの個体数を、飢えさせずに生存させる事……と定義します」
「うむ、我も同意する」
「なるほど……新しい考え方です。では、魔法技術や、科学技術の進歩は必ずしも必要条件ではない、という事なのですね?」
ファヴが訊ねます。
「はい。魔法や科学が、より多くの個体数の生存を担保するならば、それは望ましいと判断しますが、そうでないならば、私は、それを破壊する事も厭いません」
つまり、私は、原子力発電は容認しますが、原子爆弾は是認しません。
この世界では、原爆のリスクは、地球よりは少ないのです。
放射線が、生物の遺伝子に傷をつけるという設定自体がありません。
もしかしたら、地球には存在しない、魔力、が何らかの保護作用をもたらしているのかもしれませんね。
しかし、原子爆弾のような強力な無差別破壊兵器が、文明の脅威である事には違いがないのです。
私は、この世界の理を守るべく存在しているのですから、これを、看過して良い理由がありません。
取り締まります。
「ノヒトよ。間違いを犯した者に悔い改める機会だけは、与えて欲しいのじゃ。人種は愚かじゃが、失敗から学ぶ事が出来るのじゃ。人種の庇護者としての、お願いじゃ」
ソフィアが言いました。
「そうですね。では、文明に害を及ぼしかねない行為には、事前に是正勧告を出し、次いで警告を発し、なおも従わない場合は、実力行使に踏み切る、という段階を踏む事にしましょう」
「うむ。頼むのじゃ」
3ストライクアウト方式ですね。
ゲームマスターや守護竜は、場合によっては、国家や組織や個人を攻撃する事もあり得ます。
その場合、事前に勧告や警告を発していました。
それに準拠する形なら、ソフィアやファヴにも受け入れ易いのでしょう。
2人は、人種の庇護者ですからね。
「【古代竜】軍団のマスター権限は、私の次席でソフィア、それからファヴ、トリニティの順に与えます。オラクル、申し訳ありませんが、あなたは、もしもの時に【古代竜】を力尽くで従わせる事が出来ませんので、マスター権限は与えない事にしました」
「ノヒト様。私の事は、お気になさらずに。危機管理上、当然の判断でございます」
オラクルは、肯是しました。
「のう、ノヒトよ。【古代竜】軍団とは、呼び辛いのじゃ。何か、軍団の名前を考えるのじゃ」
確かに……。
名前ですか……。
「ゴトフリードが、神の軍団、と言っていました。ソフィアお姉様とノヒトが率いる軍団なら、間違いなく、神の軍団。それで、良いのでは?」
ファヴが言いました。
「うむ。実に分かりやすい。神の軍団と呼ぶのじゃ」
ソフィアが即断しました。
確かに、私もソフィアもファヴも、【神格者】。
この世界では、本物の神様です。
しかし、自分の率いる集団に、神の軍団、と名付けるのは、ちょっと……。
痛い人だと思われないでしょうか?
「では、師団名も与えてやるべきじゃな。第1師団、第2師団というのは、軍の呼称と混同するかもしれぬのじゃ」
「では、色では?白師団、黒師団、赤師団、青師団、緑師団」
「うむ、悪くないのじゃ。各師団を区別する、記章と師団旗もあつらえるのじゃ」
「それは良いですね」
ソフィアとファヴは、どんどん話を進めて行きます。
まあ、2人に任せておきましょう。
私は、各師団の指揮命令系統を考えます。
基本的に、私とパスが繋がっている為、逐一、命令を与えて動かす事は出来ます。
また、2千くらいの同時管制なら、私には造作もありません。
私のプライベート・キャラは、【大死霊術師】でした。
万の単位で、【ゾンビ】や【スケルトン】や【リッチ】を管制をした事もあります。
あの時は、単身でダンジョン攻略に挑んだ時でしたね。
脳のシナプスが焼き切れるかと思いました……。
あれ以来、プライベート・キャラの私は、数より質を求める方向に、シフトしたのです。
ゲームマスターの私は、プライベート・キャラの時より、能力が格段に高いのですから、数万や数億なら、問題なく管制出来るでしょう。
しかし、交戦中ならば、いざ知らず、常に管制を行うのは、面倒です。
ある程度、独自の判断で適切に行動してくれないと、困りますからね。
私は、師団長、部隊長を選任し、その個体が指揮を執れなくなった場合にも指揮権限の引き継ぎが行えるように、序列を決めて行きました。
【古代竜】は、【人】より、はるかに高い知性を持ちます。
規則や規範を定めておけば、それに従って最適な行動が出来るでしょう。
・・・
「ノヒトよ。記章と師団旗の図案を考えたのじゃ。記章は、衣服を着ない【古代竜】に合わせて、首輪の形状とした。首輪に部隊は爪、師団は牙の意匠を刻む。その本数で階級を表すのじゃ。師団旗は、旗手に持たせるのじゃ」
ソフィアは、言いました。
「デカい旗だね。目立ちそうだ」
「うむ。これを見た味方を鼓舞し、敵を震え上がらせる事が必要じゃろう?」
「私は、序列を決めたよ。とりあえず、各師団長を紹介する。白師団長ビアンキ、黒師団長ネロ、赤師団長ロッソ、青師団長アッズーロ、緑師団長ヴェルデだ。最強の5頭を選抜した」
【古代竜】軍団、改め、神の軍団、は、個体名は、1〜2000として、確定しています。
なので、この名前は、コールサイン。
5頭の師団長からは、パスを通じて、喜びの感情が伝わって来ました。
どうやら、神の軍団の【古代竜】達からは、数字ではない名前を命名される事は、名誉、と認識されたようです。
「うむ。5師団長とも、中々の良き面構えじゃ。しっかり励むのじゃぞ」
ソフィアは、言いました。
「期待していますよ」
ファヴが言います。
5頭の師団長は、ソフィアとファヴに頭を下げました。
ソフィアとファヴは、5頭の師団長を順番に撫でて行きます。
2人に撫でられた、5頭からは、快、の感情が伝わって来ました。
他の【古代竜】からは、羨ましい、という感情が伝わって来ます。
私がマスター代行権限を設定しようとした際、2000頭の【古代竜】は、ソフィアとファヴには従わない様子でしたが、2人が【認識阻害】の指輪を外し、守護竜形態に現身して【神威】を最大で発動したら、すぐ従順になりました。
完全に、守護竜の2人を絶対的強者として認めたようです。
「神の軍団に所属する【古代竜】にも、特別な呼称を与えたいところじゃな」
「ソフィアお姉様。神の軍団の兵ですので、神兵では、どうでしょうか?」
「うむ。実に、明快じゃ。神兵と呼ぶ事にしよう」
「ソフィア様、ファヴ様。わたくしも神兵ですか?」
トリニティが質問しました。
どうやら、トリニティは、【古代竜】と一緒くたにされる事に抵抗があるようです。
「うむ。トリニティは、神兵とは、戦闘力も知性も、一線を画しておる。神の将……神将では、どうじゃ?」
「神将。うふふ、ありがとうございます」
トリニティは、神将の称号を、かなり気に入ったようでした。
何だか、ソフィア達によって、どんどん中二病的ネーミングが決められて行きます。
まあ、良いですけれど……。
一応、神の軍団の【古代竜】達は、トリニティに対しては、強者として従う姿勢を見せていました。
しかし、私がトリニティに2000頭の指揮を任せて、離れていた際、数頭の【古代竜】がトリニティに造反する構えを見せたのです。
ビアンキとロッソとヴェルデでした。
どうやら、トリニティが私から指揮を任せられた事に反発し、自分と戦え、と決闘を挑んだようです。
【竜】族は、自尊心が高いですからね。
しかし、トリニティは、彼らより、もっと気位が高いのです。
何しろ、人種や、自分より弱者には1mmも頭を下げない、とプログラムされているくらいなのですから……。
当然、トリニティは、ビアンキ、ロッソ、ヴェルデからの、自分に対するチャレンジを極めて不愉快に思ったのです。
本来なら、私が、任命した指揮官に従わないなどという事は、従魔としては、あってはならない事。
指揮命令系統に重大な問題を起こすので、私は、命令服従、を厳命しました。
にも関わらず、指揮官たるトリニティに叛意を向けるとは、場合によっては滅殺もあり得る暴挙です。
パスを通じて、それを察知した私は、直ちに、ビアンキ、ロッソ、ヴェルデを叱責しようとしました。
しかし、トリニティがパスを通じて、私に、お伺いを立てて来たのです。
わたくしが、この愚鈍なトカゲどもに教育をしてもよろしいでしょうか、と。
私は、許可しました。
時には、上位者が、下位者に、力の差をわからせる、という事も必要でしょう。
また、戦闘狂の【竜】族は、強者を敬うという習性もあるのです。
トリニティが躾をしておけば、今後の教化もスムーズに運ぶはずですしね。
何事も、最初が肝心なのです。
私は、トリニティに、パスを通じて、一言……殺すな……とだけ命じておきました。
トリニティと、ビアンキ、ロッソ、ヴェルデによる決闘の結果は……。
トリニティが、大量の【超位魔法】を叩きつけて、ねじ伏せました。
瞬殺です。
私は、パスが繋がっていたので、トリニティと造反者の決闘の様子を見ていました。
一対一で、やり合うなら、トリニティが負けるはずは、ありません。
なので、ビアンキ、ロッソ、ヴェルデは、私達がこちらに来た際、瀕死だったのです。
丸焦げだったり、お腹がパックリだったり、尻尾が消滅していたり……酷い有様でした。
神兵達は、二度とトリニティに逆らったりしないでしょう。
トリニティは、【古代竜】を一方的に、ねじ伏せる戦闘力持ち。
スペックの高さは知っていましたが、激レアキャラなので、戦闘している際のイメージが出来ませんでした。
私は戦闘の様子をパスを通じて、つぶさに観ていましたが、トリニティが高笑いをしながら【超位魔法】を連発する姿は、ラスボス感が半端なかったですね。
トリニティは、元来、ダンジョンボス級の戦闘力がありましたが、私の名付けで力を増し、今は【神位】に迫るほどに強化されています。
私のプライベート・キャラと戦ったら、【エルダー・リッチ】200体と【腐竜】8頭の最強布陣なら、倒せるでしょうが……1対1の純粋魔法戦なら、負けるかもしれませんね。
「ところでトリニティ。其方は、ノヒトに【調伏】された際に、地上をウロついておったそうじゃが。其方は、遺跡を住処とする【魔人】じゃろう?其方もスタンピードに呼応するのか?」
「いいえ。私はダンジョン・コアからのスタンピード命令には従わない設定になっております」
「では、何故、【転移】で、他の遺跡に移らなかったのじゃ?」
「それが、お恥ずかしい話なのですが、【転移】で移った先で、スタンピードの魔物の大群の下敷きになり、踏み潰されて意識を失ってしまいました。どうやら、そのまま魔物の大群の波にさらわれて地上に流されてしまったようです。気が付いた時には、漆黒に包まれた虚無の空間にいました。【転移】をしようにも、魔力を練る事が出来ず……」
「そうか。まあ、どうあれ、我もノヒトも、【魔人】だからと言うだけで排撃したりはせぬのじゃ。安心するが良い」
「はい。お心遣い感謝致します」
トリニティは、恭しく礼を執ります。
「ノヒトよ。記章と師団旗を作って欲しいのじゃ。あと、神の軍団の軍団旗もいるのじゃ。軍団旗は、一際立派に頼むぞ」
「うん、やってみるよ」
「うむ。その間に、我とファヴは、こやつらを少し訓練してやるのじゃ」
「戦うのはダメだよ」
「わかっておるのじゃ。見てみよ、あやつらはバラバラじゃろう?【ドラゴニーア】の竜騎士団の【竜】は、一糸乱れず整列し、編隊飛行をするのじゃ。じゃから、鍛えて、規律と協調という精神を身体に理解させてやるのじゃ」
ソフィアは、力強く宣言しました。
【古代竜】は、強力な戦闘力を持つ為、他者と協調するという思考はありません。
強者に従う習性はありますが、それも、ただ従うだけ。
チームで、役割分担をしたり、仲間と助け合ったり、という考え方自体が、ほとんど存在しないのです。
それだけに、900年前、サウス大陸で、4体のダンジョン・ボスが共闘して、ファヴを策にハメた事例が驚くべき事でした。
今日は、戦場には出ないで、半ば休暇にしてしまうつもりでしたが、ソフィアが訓練をやりたいなら止めません。
「ホドホドにね」
ソフィアも、大概、脳筋ですから、やり過ぎる心配があります。
「任せておくのじゃ」
ソフィアとファヴは、守護竜形態に現身し、2000頭の【古代竜】の訓練を開始しました。
私は、オラクルに手伝ってもらいながら、記章と師団旗と軍団旗を作り始めます。
首輪の材質はオリハルコンにしますか。
記章は師団の色に合わせた宝石で……白はダイアモンド、黒はブラックダイアモンド、赤はルビー、青はサファイア、緑はエメラルド。
各種の【永続バフ】をかけて……完成。
私の【収納】に一旦入れると、サイズが自動調節されるギミックが付きます。
旗は、天蚕糸で織られた布地を使いました。
天蚕糸で織られた布は、布地として最高級ですが、他に使い道もないので、放出してしまいましょう。
ソフィアが考えた旗のデザインは、ふむふむ……シンメトリー図案ですね。左右反転しても、上下反転しても、同じ図柄になる。
なるほど、【古代竜】の掲げる軍旗ならば、戦闘中は天地無用に飛び回るでしょうからね。
シンメトリーなら、どの向きから見ても、わかりやすいでしょう。
各種の【永続バフ】をかけて……完成。
これで、よし。
・・・
「今日は、このくらいにしておいてやるのじゃ」
人化したソフィアが、神の軍団、に向かって薫陶をしていました。
神兵達は、疲労困ぱいの様子。
数十頭の首筋には、クッキリとソフィアの歯型がついていますね。
隊列を乱した神兵には、ソフィアが首根っこに噛み付いて地面に押さえ付けて、教育していましたからね……。
私は、【古代竜】が、あんなに情けない悲鳴を上げるのを、初めて聞きましたよ。
しかし、ソフィアの教育的指導のおかげか、神兵達は、ビシッと隊列が整っています。
私は、神兵達に、【完全回復】と【完全治癒】をかけてやりました。
「ソフィア。記章と師団旗と軍団旗は、出来たよ」
「うむ、では、我から与えてやるのじゃ」
ソフィアは、各個体に記章を着けて行きます。
ファヴから、筆頭旗手に軍団旗が渡されました。
トリニティから、各師団の旗手に師団旗が渡されます。
最後に、私から、各師団長に【宝物庫】を渡しました。
旗は、基本的には、各師団長に渡した【宝物庫】に保管しておき、作戦行動中は、各旗手が掲げます。
「神兵諸君。世界の理を守るべく、あなた達の奮戦を期待します」
私は、【鼓舞】、【勇敢】、【威風】を最大限発動させ、3割ほどの【神威】を発動して宣言しました。
神兵達は、全員で高らかに咆哮します。
神の軍団、が、産声を上げた瞬間でした。
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