第114話。トリニティは、とても気位が高い。
本日、7話目の投稿です。
王都【アトランティーデ】王城。
私は【ムームー】の魔物を殲滅した後、1人で王城に戻って来ました。
ソフィアとファヴ、そして、ゴトフリード王と剣聖に、取り急ぎ用件を伝えます。
「【古代竜】を2千頭と、魔人1人を【調伏】しました。いずれも私の従魔で、ソフィアやファヴの陣営の者達です。なので、味方です。市民が驚かないように、それから、軍隊が誤って攻撃をしないように王命による布告を行なって下さい。冒険者ギルドにも、攻撃しないようにと通知して下さい。敵味方の区別は、私の従魔となった【古代竜】は、腹と背に、この図柄の魔法陣が刻印され、浮き上がり光っています」
私は、ソフィアとファヴ、ゴトフリード王と剣聖に転移魔法陣のデザインが描かれたメモを手渡しました。
「うむ。神託を出し、アルフォンシーナに、セントラル大陸全土に布告を出させ、周知しておくのじゃ」
ソフィアは、特段、驚いた様子もなく言います。
「わかりました。僕も、ローズマリーや使徒達に神託を出しておきます」
ファヴも了解してくれました。
「な、何と!【古代竜】が2千頭!か、畏まりました。すぐに布告致します。誰か?誰かある?この図柄を印刷して、全土にくまなく周知致せ。この図柄を身体に刻印する【古代竜】は、【神竜】様、【ファヴニール】様、【調停者】様の陣営に連なる神聖なる眷属で在らせられる。神の軍団であるとな」
ゴトフリード王は、驚きの声をあげた後、すぐ気持ちを持ち直して、側近を呼び付け伝えます。
ゴトフリード王の説明は、多少、ニュアンスが異なりますが、まあ、私の従魔が排斥されたり、攻撃されなければ良い訳です。
些末な事は、この際どうでも良いでしょう。
私は、転移魔法陣が光り浮き上がって見え、なおかつ、魔法陣から【超位】の魔力反応を発するモノが本物である事を補足説明しました。
「クサンドラ、今の話を聞いていたな?」
剣聖が言います。
「はい。直ちに、世界中の冒険者ギルド支部に、グランド・ギルド・マスター命令として通知します」
クサンドラさんが言いました。
「頼む」
剣聖が言います。
「よろしくお願いします」
私は、頭を下げました。
「はい」
クサンドラさんは、急いで退出して行きました。
「ノヒトよ。我を置き去りにして出かけたと思ったら、そんな面白そうな事をしておったのか?何故、我を連れて行かぬ。ズルいのじゃ」
ソフィアは、抗議します。
起きて、私がいない事を知ったソフィアは、置いていかれたと憤慨し、ファヴやオラクルがなだめるのが大変だったのだ、とか。
今も、かなりヘソを曲げています。
「ごめんよ。これから、会いに行こう。あれは、ソフィアの親兵でもあるんだ。きっと気にいるよ」
私は、ソフィアの頭を撫でながら言いました。
「なぬっ?我の親兵か?うむ、【古代竜】ならば不足はないのじゃ」
ソフィアは、多少、機嫌が良くなります。
「ノヒト、魔人とは?」
ファヴが訊ねました。
「【超位魔人】の【エキドナ】という種族です。まあ、種族と言っても、世界に、1人……いや2人しかいませんが。名前は、トリニティと名付けました。強力な魔法を行使出来ますし、知性も極めて高いですよ」
【エキドナ】は、この世界に、1人しかいない固有の魔人です。
私が、【調伏】してしまった為、ゲームの世界観で、人種の敵対者と設定されている【エキドナ】が存在しなくなってしまいました。
なので、今頃、トリニティとは別個体の【エキドナ】が世界のいずれかの遺跡深層で、新たに生まれているはずです。
「しかし、【古代竜】が2千頭とは……とんでもないな?」
剣聖が言いました。
「数は、もっと増やせましたけれどね。途中で、なんだか面倒臭くなってしまって、キリの良い数字で止めておきました」
「面倒臭い……はははは……」
剣聖は乾いた笑いをします。
「王陛下。とりあえず、【エキドナ】のトリニティだけは、連れて来て紹介しようかと思います。よろしいでしょうか?」
「も、もちろん。歓迎致します」
ゴトフリード王は、言いました。
私は、トリニティに許可を与えます。
刹那。
トリニティは、私のすぐ隣に【転移】して来ました。
トリニティは、【転移】が使えます。
また、私とパスが繋がっている為に、私の魔力反応を転移座標や【ビーコン】の代わりとして【転移】が可能でした。
それは、逆も然り。
私は、従魔たるトリニティや【古代竜】を目掛けて【転移】が行えます。
「トリニティです」
私は、トリニティを紹介しました。
トリニティは、悠然と周囲を見回していましたが、突然、目を細め、ソフィアとファヴが並んでいるところへ歩み出て(足はありませんが……下半身は蛇なので)、2人の前で跪き(下半身は蛇なので、足はありません)優美な所作で恭しく礼を執ったのです。
私は、事前に、私以外の者で、最強の存在がソフィアで、その次の強者がファヴだ、とだけトリニティに教えていました。
ソフィアとファヴは、【認識阻害】の指輪をしている為、魔力反応は感知出来ません。
つまり、トリニティは、佇まいを見ただけで、ソフィアとファヴを見分けたという事です。
「ソフィア様、ファヴ様。わたくしは、トリニティでございます。ノヒト様同様、お二人にも、お仕えし、永久に忠誠を誓います」
トリニティは、ソフィアとファヴを間違える事なく、順番に挨拶をしました。
「うむ。トリニティ、其方、なかなか見所があるのじゃ。期待しておるぞ」
ソフィアは、言います。
「トリニティ。よろしくね」
ファヴは、言いました。
「トリニティ。こちらは、【アトランティーデ海洋国】のゴトフリード王。こっちは、剣聖クインシー・クイン伯……あ、いや、剣聖クインシー・クイン殿だ」
もう、剣聖は、伯爵位を返上するんでしたね。
「ゴトフリード王、クイン殿。どうぞ、よろしくお願い致しますわ」
トリニティ立ち上がったまま(下半身が蛇で足はありません)、ゴトフリード王と剣聖には、1mmたりとも頭を下げる事なく言いました。
アゴをツンと上げ、見るからに、2人を見下した態度です。
トリニティは、【超位魔人】。
脆弱な人種になど、膝(下半身が蛇なので膝はありません)を屈する事も、頭を下げる事も出来ない、と言っていました。
これは、自尊心などが原因ではなく、人種の敵対者に設定されている為に、仕様として不可能なのだそうです。
まあ、設定・仕様の問題を抜きにしても……自分よりも強者であれば、相応の敬意は払うけれど、そうでないなら……とも言っていましたので、感情的にも嫌なようですが……。
因みに、私とソフィアとファヴは、【神格者】なので、上位者として扱う事に何ら忌避感はない、そうです。
・・・
昼食。
私とソフィアとファヴとトリニティ、【アトランティーデ海洋国】の面々、剣聖とクサンドラさんとフランシスクスさんでテーブルを囲みます。
オラクルとディエチはソフィアの背後に控え、ウンディチはファヴの背後に控えていました。
「【古代竜】の軍団を、400頭ずつ5師団に分けます。第1師団を千年要塞の防衛、第2師団を【パラディーゾ】の防衛、第3師団を【ティオピーア】の防衛、第4師団を【オフィール】の防衛に当て、第5師団は【ムームー】の祝福を行うファヴに付けます。これは、奪還作戦終了時点まで、この体制を維持します。そこで、お願いなのですが、各防衛地域において、【古代竜】の餌を提供して欲しいのですが」
「わかりました。喜んで、ご協力させて頂きます」
ゴトフリード王は言います。
「冒険者ギルドからも食糧を提供しよう」
剣聖が言いました。
「【ムームー】の魔物は駆逐しました。が、生態系ごと、破壊し尽くしてしまいました。ファヴ、あなたは、今日から生態系の回復に従事してもらえますか?」
「わかりました」
「【古代竜】の第5師団を付けます。毎日、6時間ほど大地の祝福を行うとして、期間は、どの程度かかりますか?」
「そうですね。植生の回復だけなら、祝福自体は、1週間もあれば、終わります。祝福が済めば、後は放置しておいても、草は数日、樹木は数ヶ月あれば、完全に戻るかと。細菌・バクテリア、ミミズ、昆虫などなどは追い追い、でしょうか」
「そうですか。では、ファヴは1週間。大地の祝福に専従して下さい」
「わかりました」
「明日から、私とソフィアとオラクルとトリニティで、南東、南西の遺跡の攻略を行います。最短なら4日で、と想定しますが、遅くとも1週間あれば攻略は可能でしょう」
「遺跡の攻略が1週間……2箇所で2週間か。さすがに早いな?」
剣聖が言います。
「いえ。クイン伯……あ、いや、クイン殿。2箇所を1週間で攻略します」
「ノヒト様、俺の事はクインシーと呼んでくれて構わない。しかし、とんでもないな。2箇所で1週間……」
剣聖が言いました。
「【宝箱】の宝などの回収を無視して、私とソフィアだけで潜れば、もっと早いでしょう。おそらく1日あれば2箇所の攻略が可能です」
「うむ。妥当なところじゃな。以前、我が1人で攻略した際には遺跡一つで30時間かかったのじゃ。今なら、その半分。ノヒトが一緒なら、数時間じゃろう。2箇所の遺跡の移動も含めて、1日……つまり7時間というところじゃ」
「ははは……」
剣聖は、もう笑うしかない、という様子。
「遺跡の攻略が済んだら、地上の残敵掃討を行います。これも、1週間を予定しています。つまり、あと2週間でサウス大陸奪還作戦は完了します。その、つもりで、諸々の予定を立てておいて下さい」
「わかりました」
ゴトフリード王が言いました。
「わかった」
剣聖は言います。
「では、よろしくお願いします」
私は、頭を下げました。
私、ソフィア、オラクル、ファヴ、トリニティは、千年要塞に【転移】します。
・・・
千年要塞。
私達は、冒険者ギルドに向かいました。
フランクさんが迎えてくれます。
まず、トリニティの冒険者登録をしました。
トリニティも、【ドラゴニーア】の仮の国籍が与えられ、後日、【ドラゴニーア】で正式に国籍取得が行えるようにしてあります。
トリニティも当然、ファミリアーレのメンバーとなりました。
昨日の買取査定金額が出ていたので、確認。
合計600頭の【超位】の魔物。
コアと肉以外の部位の買取査定……1800万金貨(1兆8千億円相当)。
これを、私、ソフィア、オラクル、ファヴで4当分します。
1人当たり、450万金貨(4500億円相当)。
保有現金(可処分所得)。
私……1135万金貨(1兆1350億円相当)。
ソフィア……1409万金貨(1兆4090億円相当)。
オラクル……769万金貨(7690億円相当)。
ファヴ……786万金貨(7860億円相当)。
そして、昨日、数が多過ぎて、預かりきれないと言われてしまった分を新たに、買取依頼。
【超位】の魔物が600頭。
私達は、フランクさんに挨拶して、冒険者ギルドを後にします。
銀行ギルド出張所で、【大鉱脈】で確保した【掘削車】の代金500万金貨(5千億円相当)を【パラディーゾ】の国庫宛に振り込みました。
ついでに、トリニティのパーティ積み立て金を私が振り込んでおきます。
ソフィアとオラクルも、自分のギルド・カードから、何処かに入金していました。
2人は相談して、500万金貨(5千億円相当)ずつ、合計1千万金貨(1兆円)を、ソフィア財団に寄付する事にしたそうです。
ソフィア……昨日あなたを、お金にガメツイなんて思ってごめんなさい。
ファヴも、500万金貨(5千億円相当)を復興予算として【パラディーゾ】の国庫宛に振り込むそうです。
これで、【パラディーゾ】とソフィア財団は、それぞれ1兆円相当の臨時収入を得たわけですね。
ソフィア財団の方は、贈与税で半分持っていかれてしまいますが……。
税金は、【ドラゴニーア】の国家税収となるので、国民の為に使われるのですから、まあ、良いのでしょう。
保有現金(可処分所得)。
私……635万金貨(6350億円相当)。
ソフィア……909万金貨(9090億円相当)。
オラクル……269万金貨(2690億円相当)。
ファヴ……286万金貨(2860億円相当)。
トリニティ……なし。
私達は、【ベルベトリア】に【転移】します。
・・・
【ベルベトリア】。
「うむうむ。昨日は、魔物の群など、もう見るのもウンザリじゃったが、こやつらが、全部、我らの兵士達ならば、壮観じゃな」
ソフィアは、整列する【古代竜】の軍団を閲兵しなが、言いました。
「ところで、餌はどうするのですか?当面の餌は、ゴトフリードや、冒険者ギルドが協力してくれるとの事ですが」
ファヴが訊ねます。
確かに、それが大問題なのです。
【古代竜】の食糧は肉。
【ドラゴニーア】の騎竜繁用施設に預かってもらっているモルガーナの騎竜である【古代竜】のジャスパーは、毎日、牛50頭相当分の肉を食べているそうです。
牛50頭は、40t。
物凄い量にも思えますが、体重1200t級の【古代竜】の大きさから考えれば、案外、多くはありません。
魔物の中には、毎日、自らの体重の3割〜5割もの肉を食べる種類もいるからです。
【古代竜】は、高火力、低燃費。
そういう意味でも、優秀な魔物なのです。
低燃費とはいえ、私の従魔は、2千頭。
1日当たり、牛10万頭、8万t分の肉が必要でした。
これが毎日……。
年間で、3650万頭の牛が消費されます。
これは、オーストラリアで飼育されている、全ての肉牛の数と同等。
そう考えると、凄まじい量ですね。
つまり、【古代竜】軍団の維持には、膨大な食糧資源とコストが必要でした。
ソフィアは……【ドラゴニーア】竜騎士団の全ての騎竜を【竜】から【古代竜】に換装したい……などと言って、アルフォンシーナさんから……維持が困難だ……と言われたそうです。
確かに、これでは、とてもではありませんが非現実的ですね。
サウス大陸に蠢動していた大量の【超位】の魔物の胃袋は、スタンピードという自然界の摂理ではあり得ない特殊な生態系によって支えられていたのです。
「食糧問題は、あてがあるのです。ねえ、ソフィア?」
「うむ。サウス大陸の奪還作戦が片付いたら、セントラル大陸の遺跡の中で【古代竜】を飼えば良いのじゃ」
これが、ソフィアが【ドラゴニーア】竜騎士団の騎竜を【古代竜】に換装する為に考え出した、食糧の供給方法でした。
ソフィアは、時々、天才的な知性の閃きを見せるのですよね……。
さすが【神竜】です。
このソフィアのアイデアがなければ、私は、2千頭もの【古代竜】を【調伏】しよう、などとは考えませんでした。
生き物を飼って、食糧が賄えないから捨てたり殺してしまう、などという無責任な真似は出来ません、ので。
「セントラル大陸の遺跡は、【古代竜】軍団の専用狩場とします。おそらく、ローテーションになるのでしょうね」
【竜】種は、ある程度の食い溜めが利くそうです。
なので、大量に食べれば、しばらく食糧を摂らなくても、活動出来るのだ、とか。
なので、遺跡に潜って、餌を食べるグループと、外に出て活動するグループとを分け、ローテーションする訳です。
セントラル大陸に4つある遺跡を【古代竜】軍団の食堂にする計画は、既にアルフォンシーナさんに相談して許可をもらっていました。
【古代竜】の食糧供給と、遺跡の間引きとを両立出来る、妙案。
これは、魔物の討伐や遺跡の管理を、冒険者に頼らず、軍や竜騎士団が行っている【ドラゴニーア】だからこその騎竜の食糧政策です。
他の国には真似出来ません。
ソフィア発案の遺跡食堂化計画。
これが、私の従魔2千頭の食糧問題の解決策でした。
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