第1134話。タイトル(称号)。
【ホテル・ドラゴニーア】のディバイン・スイート。
あ〜、美味しかった……。
ですが、お腹が苦しい。
ピッツァとパスタのお代わりは、さすがに調子に乗り過ぎましたね。
【ガストロノミア】のメニューは、超高級店にありがちな皿の真ん中にチョコッと料理が盛り付けてあるようなスタイルではなく、それぞれ一人前の適量が盛られていました。
パスタとメイン料理だけで十分食事として成立します。
これも900年前にグレモリー・グリモワール(私)がクリツィア達に薫陶した事でした。
パスタ1皿、ピッツァ1枚で食事になる量でなきゃならない、と。
そう考えると【ガストロノミア】の料金設定は妥当です。
材料原価と経費の何倍、時には何十倍もの法外な料金をボッタクリ、暴利を貪る飲食店を私は決して認めません。
私とトリニティとカルネディアとフェリシテ、カリュプソとウィローと【フラテッリ】、【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】と【ファミリアーレ】、それからフェリシアとレイニールは、食後のデザートを食べています。
トリニティはティラミス、カルネディアはパンナコッタとジェラートを食べていました。
「カルネディア。デザートのお代わりが欲しければ好きな物を追加注文して構いませんからね」
「はい、わかりました」
カルネディアは頷きます。
よしよし。
ソフィアはメニューにある料理全種類を食べた後、今度はデザート全種類を注文するなどというデタラメな事をしていました。
ご馳走してくれるグレモリー・グリモワールが許可を出しているので、まあ、良いでしょう。
私が注文したのはトルタ・アル・チョコラート。
トルタという語感からタルトをイメージしがちですが、トルタはケーキ類全般を指しますので、日本人がイメージするタルトはイタリア語ではクロスタータと呼ばれます。
トルタ・アル・チョコラートは、所謂チョコレート・ケーキ。
スポンジ・ケーキをチョコレートでコーティングしたモノではなく、生地自体にチョコレートを混ぜ込んで焼いたタイプ。
しっとり重厚なケーキで、甘さは控えめな少し苦味がある大人の味。
日本で云うガトーショコラに近いでしょうか……。
これも、美味いな〜。
ガトーショコラとは外来語で、正確にはガトー・オ・ショコラ。
そして、ガトー・オ・ショコラはチョコレートを使った焼き菓子全般を指すので、所謂フランス風のチョコレート・ケーキという意味のガトーショコラという名称は日本国内でしか通じません。
外来語は、ややこしいです。
【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】以外の【レジョーネ】、グレモリー・グリモワールとディーテ・エクセルシオール、【月虹】、それから【イスタール帝国】のラーラ皇帝は食後酒で宴会モード。
あちらは1日が終わったので酔っ払っても問題ありません。
私は、今夜も仕事で【パンゲア】の【パノニア王国】から移民を大量輸送しなければならないので、一応アルコールは控えます。
まあ、ゲームマスターの私は、毒物無効の無敵体質なのでアルコールには酔いませんが……。
さてと、デザート・タイムが一段落すると、ボチボチまた始まるでしょう。
「ノヒト先生」
ハリエットが声を掛けて来ました。
ほらね。
「何ですか?」
私は、弟子である【ファミリアーレ】から質問されたら、絶対に邪険にはせず、時間が許す限り真摯に答えようと決めています。
彼女達に……わからない事は何でも訊くように……と言っておいて、しつこく質問をされて嫌な顔をするようでは、師たる者の姿勢としていけません。
それを私はゲームマスター本部でも、地球の職場でも常日頃から心掛けていました。
私は……仕事は目で見て覚えろ。技術は盗め。職人の道は十年下積みは当たり前……みたいな前時代的な指導法を否定します。
私は職場で部下や後輩から請われたら、どんな知識や技術も自分の裁量の範囲で指導可能な事ならば、私が知り得る限り全てを教えていました。
会社の持つ特許や機密に類する事や、役職によるアクセス権限が設定されている知識や技術は別ですが……。
教えたところで私と同じように出来るとは限りませんが、そんな事は本質とは無関係です。
職人の世界に限らず、知識や技術を簡単に後進に教えない傾向があるのは、要するに……自分が苦労して身に付けた知識や技術を簡単に他人に教えてしまえば、相対的に自分の評価や儲けが下がる……という愚にも付かない考え方をする人間が一定数いるからでしかありません。
しかし、逆に言えば他人に教えて自分の評価や儲けが相対的に減るような知識や技術なら、その程度の事。
そんな知識や技術は、そもそも大した事ではないのです。
もちろん……後進の育成段階を考えて、きちんと順を追って指導しよう……という立派な師匠や上司や先輩もいる事は言うまでありませんけれどね。
大した事がない知識や技術なら、教えても問題ありません。
それで自分の評価が下がったり、他人に仕事を奪われるとするなら、それは自分がそれだけの能力しかなく、単に才能や努力が足りなかったというだけの事。
そもそも知識や技術は秘匿するモノではありません。
社会が認める本当に価値がある知識や技術ならば、特許や著作権などで守られていて然るべきなのですから。
「【トゥルー・エクスプローラー】って何ですか?」
ハリエットが訊ねました。
「【真なる冒険者】とは最高位の【称号】の1つですね。【スカアハ訓練所】で聴いた話ですか?」
「はい、そうです。【スカアハ訓練所】の訓練生達は……【トゥルー・エクスプローラー】になるのが人生の最終目標だ……と言っていました。如何すれば【トゥルー・エクスプローラー】になれますか?」
「【真なる冒険者】の【称号】を獲得する条件は、任意の【超絶級メイン・秘跡】を5種類と、【オリジナル・スポーン・オブジェクト】4つのクリアです」
「【オリジナル・スポーン・オブジェクト】?」
「【オリジナル・スポーン・オブジェクト】とは……【飛空要塞】、【死者の都】、【安息の地】、【蜃気楼都市】……という、この世界が【創造主】によって創られた天地開闢の始まりから存在する【超絶級】の【スポーン・オブジェクト】の事です。【超絶級】の【スポーン・オブジェクト】には他にも……【超古代遺跡】、【先史遺跡】、【死者の領域】、【大霊廟】、【宮殿】、【機械化集落】、【魔法集落】、【幽霊都市】、【営巣】……などがありますが、これらはオリジナルではないのでランダムで【スポーン】します。従って、複数が同時に世界に存在したり、逆にタイミングで存在しない期間もあります。【オリジナル・スポーン・オブジェクト】は世界に4つしかありませんが、今現在も惑星【ストーリア】上の何処かにあります。ただし【オリジナル・スポーン・オブジェクト】は誰かがクリアしたり攻略に失敗すると、消滅して別の場所に【スポーン】して【再配置】されます。また、【飛空要塞】は【認識阻害】で隠蔽された状態で上空高高度を常に巡行移動しています。なので、【オリジナル・スポーン・オブジェクト】をクリアする為には、まず【オリジナル・スポーン・オブジェクト】が何処にあるかを探すところから始めなければいけません」
「【スポーン・オブジェクト】と【秘跡】は違うんですよね?」
「基本的には違います。【スポーン・オブジェクト】はオブジェクト……つまり何らかの攻略対象としての物体や領域が存在しますが、【秘跡】はストーリーというかイベントですね。ただし、【秘跡】のクリア条件に、特定の【スポーン・オブジェクト】の攻略が含まれる場合もあります」
「ノヒト先生は【トゥルー・エクスプローラー】の【称号】を持っているんですか?」
「私は【称号】は何も持っていません。というか、持てません。私は【称号】を与える運営側に属していますので」
私の【ギルド・カード】には、箔付けとして様々な【称号】が付けられますが、あれはゲームマスター権限を持つ私なら、どうとでも経歴詐称し放題ですからね。
「なら、グレモリー先生は【称号】を持っていますか?」
「ええ。彼女は多数の【称号持ち】ですよ」
「【トゥルー・エクスプローラー】も持っているんですか?」
「持っていますね」
「やっぱり、グレモリー先生って凄いんだ〜」
「【鑑定】すれば、グレモリーが【抵抗】しない限り、彼女が保有する【称号】の一覧を見る事が可能ですよ。あなた達が頼めば詳細なステータスを見せてくれるでしょう」
「なら、今度グレモリー先生に頼んでみよう」
【ギルド・カード】などに記載されるプロフィールと同等の大まかなステータスは見られても余り影響はありませんが、自分の持つ魔法や【能力】や【才能】や、詳細な数値データなどを含む全ステータスを他者に見せる行為は、即ち自分のスペック情報を開示する事に他なりません。
場合によっては弱点を晒す事にも成りかねないので、基本的にユーザーはパーティ・メンバーなど信頼する相手にしか自分の全ステータスは見せないモノでした。
ただし、グレモリー・グリモワールも【ファミリアーレ】になら全てのステータスを見せてくれるでしょう。
「私は、グレモリー先生から魔法制御のやり方を数値として定量化して教えて頂く際に、ステータス画面を見せて頂いた事があります。でも、その時に見た【称号】は【真なる冒険者】ではなく、【導く者】でした」
リスベットが言いました。
「【称号】は複数持っていてもステータス画面のメインには1つしか表示されません。他は一覧に列記されます。ステータス画面に表示する【称号】を任意のモノに取り替える事は可能ですが、獲得した全ての保有【称号】の恩恵は未表示のモノを含めて、全て【常時発動】で有効になっていますので、基本的に表示させる【称号】は何でも構わないのです。例えば、【ドラゴン・スレイヤー】や【古代竜・スレイヤー】などの【称号】は有名ですよね?実際には【古代竜・スレイヤー】より上位の【称号】が沢山あります。しかし、それらはこちらの世界の住人が難易度などを良く知らない可能性があるので、 こちらの世界の住人から……偉大な業績だ……と一目瞭然で認めてもらえる【古代竜・スレイヤー】の【称号】を敢えてステータスに表示させる場合はあります」
「【古代竜・スレイヤー】より凄い【称号】が沢山あるんですか?」
ハリエットが訊ねます。
「ありますよ。今話に出た【真なる冒険者】や【導く者】がそうですね」
「他には?」
「【称号】は無数にあります。え〜と、わた……グレモリーが持つ最高位のモノだけでも……【神殺し】、【ミソロジカル・ヒロイン】、【グリモワール・マエストラ】、【ライト・ザ・ブック】、【ワールド・ビーター】、【フォアモスト・フィギュア】、【トップ・ライナー】、【オール・トラヴァサー】、【ダンジョン・マエストラ】……などがあります。グレモリーが持っていない最高位の【称号】もあり……近接戦闘職の【アルティメット・チャンピオン】、生産職の【マスター・ハンド】、研究職の【ドクター・オブ・ウィズダム】、商人の【グレート・プルートクラット】……などなど数えきれませんね」
「【ダンジョン・マエストラ】は全ての【遺跡】をクリアするともらえるんですよね?【ダンジョン・マエストラ】の【称号持ち】は【遺跡】で迷わなくなる……って、前にグレモリー先生から教えてもらいました」
「【ダンジョン・マエストロ】や【ダンジョン・マエストラ】は、【常時発動能力】で60階層までの【迷宮】が【オート・マッピング】され、結果として迷わなくなります。ただし隠し部屋や【罠】などは表示されません。また、【ダンジョン・マエストロ】や【ダンジョン・マエストラ】の【称号】を獲得するには、99階層の【フル遺跡】を制覇する必要があります」
「なら、アタシ達がクリアした30階層の【遺跡】は、全部クリアしても【ダンジョン・マエストラ】にはなれないんですか?」
「はい。【遺跡】を全て制覇しても、99階層ではない浅い【遺跡】が含まれる場合は、【遺跡踏破者】という別の【称号】になります。それから制覇するべき【遺跡】は、日本サーバー(【地上界】)側か、北米サーバー(【魔界】)側の、どちらか20箇所で構いません。あるいは【七色星】の【遺跡】でも大丈夫です」
「【ライト・ザ・ブック】は、本を書くのですか?」
「【ライト・ザ・ブック】は意訳すると……模範や手本となるような人物……という事です。つまり、その道の第一人者というくらいの意味でしょうか。【ワールド・ビーター】と【フォアモスト・フィギュア】と【トップ・ライナー】も意味自体は、第一人者で同じです。それぞれ【称号】取得条件と恩恵が変わります」
「なるほど。なら、アタシは【真なる冒険者】と【アルティメット・チャンピオン】と、それから【刀宗】の【称号】を目指そう」
ハリエットはグッと拳を握りました。
「【刀宗】は【職種】ですので、【称号】とは別枠の話です。それからハリエットの現時点での【職種】は、【魔法刀士】ですので、最上位職は【大魔法刀宗】ですね。いずれにしても目標を定めたのなら努力あるのみです。頑張って下さいね」
「はいっ!」
「なら、僕の目標は、生産職の【マスター・ハンド】ですね」
ロルフが言います。
「そうですね。期待しています」
【ファミリアーレ】のメンバー達は……将来自分も何らかの【称号】を獲得出来るようになりたい……と決意を新たにしていました。
「ノヒト先生。そもそも【称号】って何ですか?」
リスベットが質問します。
「【称号】とは、この世界で特定の条件を満たした者に付く、特別な呼び名の事です。単なる二つ名や異名やニック・ネームなどのようなモノでなく、【称号】としてステータスにも反映され、【称号】に応じた様々な恩恵が得られます」
「恩恵?例えば?」
「【称号】獲得で得られる【追加贈物】は基本的にランダムなので、どのような恩恵になるかは事前にはわかりません。新しい魔法や【能力】やアイテム、上位職へのクラス・アップ、レベルや経験値の上昇、各種ステータスや熟練値の上昇、金貨の場合もあります」
「なるほど」
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