第113話。超位魔人エキドナ。
本日、6話目の投稿です。
異世界転移、23日目。
未明。
私は、人知れず、昨日の最終到達地点に【転移】しました。
周囲は真っ暗ですが、私は夜でも、ほとんど問題なく視力が機能します。
私はゲームマスター。
全ての能力値やステータスが、この世界の設定上の最大値に固定されています。
なので、夜行性の生物より、私の方が夜間適性があるのですよ。
私は今日、自分の読みの甘さから、大切な家族達を危険な目に合わせてしまいました。
失敗は、払拭しなければいけません。
なので、私の、本気を、お見舞いしてやりましょう。
【粒子崩壊】で殲滅?
いやいや、それだけでは芸がありません。
もっと面白い祭を仕掛けてあげるつもりです。
早速、私を見つけた魔物が攻撃を仕掛けて来ましたが、完全無視。
身内を庇う必要がなければ、私は常勝無敵の絶対者です。
「【超神位魔法……範囲指定……半径5000km……完全暗黒】」
私は、半径5千km以内の範囲を完全に無光の状態にしました。
単に暗いなどという事ではありません。
可視光は、もちろん、赤外線、紫外線など、あらゆる電磁波の存在と伝播を阻害したのです。
これで、視力に頼る魔物は、何も見えなくなりました。
私には【マッピング】機能があるので、問題ありません。
「【超神位魔法……範囲指定……半径5000km……無臭】、【超神位魔法……範囲指定……半径5000km……無音】、【超神位魔法……範囲指定……半径5000km……無振動】、【超神位魔法……範囲指定……半径5000km……神位認識阻害】」
私は、続けて匂い、音、振動、魔力反応も完全に消しました。
これで、半径5千km以内の魔物は、完全に感覚器官が機能しなくなります。
「細工は流々、仕上げをご覧じろ、ってね。【超神位魔法……範囲指定……半径5000km……神位恐怖】、【超神位魔法……範囲指定……半径5000km……神位恐慌】」
途端、何も見えない、匂わない、聞こえない、振動もない世界で、魔物は、恐怖し、狼狽し、焦燥し、戦慄し、混乱し、錯乱し……そして、手当たり次第に、暴れ回り始めました。
魔法は、【神位恐慌】の影響で、発動しません。
【神位恐慌】に暴露された、生物は、およそ知性的な活動が不可能になります。
魔力を制御したり、魔法を行使するには、高い知能が必要。
もはや、半径5千km以内の魔物は、魔力を制御出来ません。
【古代竜】などがブレスを吐く為に、魔力を収束させる事も不可能になります。
はいはい、お疲れ様。
このまま放置すれば、半径5千km以内の魔物は、殺し合うと思いますが、そんなのは面白くもありません。
殺すだけならば、【粒子崩壊】を使えば、よほど効率的なのです。
まあ、環境破壊問題を無視すれば、ですが……。
私の目的は、単なる殲滅ではありません。
本番は、これからですよ。
私は、魔物同士の殺戮場となり、地獄絵図のようになった戦場を飛び回りながら、強力な【古代竜】を選んで、片端から【調伏】して行きます。
おー、【神位の恐怖】と【神位の恐慌】のおかげで、コロッコロと【調伏】されて行く……。
私は、【調伏】された【古代竜】に名付けをしながら、同時に【完全回復】と【完全治癒】をかけて行きました。
十頭……百頭……千頭……。
ん?
あれは!
私は、蠢動する魔物の大群の中に、珍しい個体を見つけました。
おお、【エキドナ】!
【超位魔人】の【エキドナ】を見つけました。
世界に1個体。
20か所あるダンジョンのどこかを徘徊している、という最強クラスの魔人。
上半身は【人】の女性に見えますが、下半身は蛇で、背中に翼を持ち、頭に羊のように捻れた角を持ちます。
【エキドナ】は、ちょうど、【人】と【ドラゴニュート】と【蛇人】の中間のような姿をしていました。
【エキドナ】は、【超位魔法】を駆使し、人種に敵対する、強力無比な存在です。
討伐しようとしても、不利を悟ると【転移魔法】を使って、ダンジョンからダンジョンを移動して逃げる、という能力があり、中々、捕捉出来ません。
超激レアのキャラなのです。
私も、ゲームマスターの業務として、一度、管理上のテストをした時にしか実物を目の前にした事はありません。
プライベート・キャラでは、全ダンジョンを10周クリアした経験がありますが、一度も【エキドナ】とエンカウントした事はありませんでした。
ほ、欲しい。
私は、【エキドナ】に【調伏】を仕掛けました……。
ちっ、【抵抗】しやがった。
どうしようかなぁ〜。
欲しいなぁ〜。
でもなぁ〜。
私は、収集者癖が、ウズウズして仕方なくなっています。
【エキドナ】のような、世界に一体しか存在しない、魔物や魔人を【調伏】する事は、それが設定上可能な対象ならば、ゲーム・ルール上、何ら問題ありません。
もしも、【エキドナ】の【調伏】に成功した場合、ゲーム内から敵性個体としての【エキドナ】が存在しなくなる事を防止する為、もう一体の【エキドナ】が、どこかのダンジョンで、新たに生まれるでしょう。
しかし、普通、【エキドナ】のようにユニークな存在は、【調伏】されないように防衛プログラムや、設定がされているのです。
例えば、【ファヴニール】や【リントヴルム】など、あらかじめ固有名を設定しておけば、名付けを必要とする【調伏】は、行えません。
また、【神竜】の場合は、【調伏】の対価に支払う魔力コストを無限に設定してある為に、魔力が無限のキャラは存在しない為、【調伏】は、不可能です。
まあ、ゲームマスターの私は、魔力無限なので、【神竜】にソフィアと名付けてしまいましたが……。
【エキドナ】の場合……。
【調伏】への対抗措置は、単純な事。
単に確率を下げているのです。
その確率は、1京分の1。
これは、確率論的には、ほぼ不可能と断言しても差し支えない数値でした。
1京回【調伏】を行う為には、1日24時間、ずっとゲームをやり続けて、1秒に1回の【調伏】をするとして、30億年かかりますので。
そもそも、【超位魔人】を【調伏】するには、【超位】以上の【調伏】を仕掛けなければならない為、魔力消費的に、1秒に1回などという魔法詠唱は困難極まりありませんからね。
つまり、実質、不可能だ、という事です。
運営側的には、一応、【エキドナ】が【調伏】されてしまった場合を想定して、【調伏】されたら、別個体が、どこかのダンジョンで復活する、という設定がありました。
しかし、もちろん、歴史上、【エキドナ】を【調伏】した者は存在しません。
ズルをすれば、私なら、【調伏】出来てしまうのですが……。
・・・
数時間後。
結構、大変でした……。
調子に乗って、【古代竜】を2千頭も【調伏】してしまいました。
名前は、数字の1から2000までの、日本語読みです。
さて……【調伏】したは、良いですが、敵と味方の区別が問題です。
私は、パスが繋がっているので問題ありませんし、ソフィアやファヴやオラクル、そしてファミリアーレのメンバーも、パーティ・メンバーですので、【マップ】機能で見れば、青い光点で判別は可能でしょう。
しかし、それ以外の者には、敵味方識別が出来ませんね。
うーむ。
ペンキで身体に、でっかく番号でも描きますか?
いや、真似されたら、訳がわからなくなりますね。
まあ、私以外に【古代竜】をホイホイ【調伏】出来る者がいるとは思えませんが……。
私は、とりあえず従魔となった【古代竜】には、体表面の腹と背の二か所に、デカデカと転移魔法陣を構築し、それを永続的に光らせ浮き上がって見えるようにしました。
わかりやすい。
夜にも目立つ。
何かあれば、すぐ私が転移して来られる。
良い事尽くめです。
私、もしかしたら天才かもしれません。
これで、偽造の心配もないでしょう。
まず【古代竜】を【調伏】する事自体が超絶難易度ですし、【超位魔法】の転移魔法陣を永久発動させておける【魔法使い】など存在しません。
第一、移動する目標を常時追尾して転移魔法陣を維持し続けるのは、魔力無限の私にしか出来ませんからね。
移動目標の転移魔法陣は、【ドラゴニーア】艦隊旗艦【グレート・ディバイン・ドラゴン】にも設置してあります。
この移動目標の転移魔法陣を維持・追尾し続けるには、亜空間を通して、魔力を永久に流し続けなければいけません。
魔力減衰率と魔力消失率がメッチャ高い亜空間で、魔力を途切れさせずに繋げ続けるなんて超アクロバットなのです。
守護竜級の魔力を持ってしても、数分間が限界。
永久に、なんて、魔力無限のチートを持つ、ゲームマスターの私にしか不可能です。
つまりは、偽造不可能。
よし、完璧。
ステータス画面の表示によると、もう午前11時ですか……。
しかし、半径5千km以内は、真っ暗。
私だけが見える世界。
従魔となった【古代竜】達は、私とパスが繋がっているので、精神が安定していますね。
私と繋がるパス以外は、五感の全てが奪われているというのに、落ち着き払っています。
さすがは、【古代竜】というところでしょうか。
私は、とりあえず、従魔となった【古代竜】達と、【ベルベトリア】に【転移】しました。
・・・
「ここで、待機。自分と仲間の身を守りなさい。魔物から攻撃されたら、迎撃を許可しますが、なるべく戦闘は避けるように。人種に危害を加える事は許可しません。トリニティ、お前を全個体のリーダーに任命します」
「仰せのままに」
トリニティは、頭を下げます。
トリニティとは、【調伏】の際に、私が名付けた【エキドナ】の名前でした。
名前の由来は、三位一体、から……。
【エキドナ】は、上半身は【人】の女性、下半身は蛇で、背中に翼を持ち、頭に羊のように捻れた角を持ちます。
【人】と【ドラゴニュート】と【蛇人】を合わせたような外見。
なので、三位一体という訳です。
はい、やっちゃいました……ズル。
いや、不正行為の類ではありませんよ。
私が、やった行為は、ゲームマスターの遵守条項には規定がありません。
規定がない、という事は、禁則事項ではない、と、私は解釈しました。
なので、セーフです。
私がやった行為は、ただ、【調伏】を繰り返しただけでした。
実に原始的。
しかし、繰り返す時に、チョロッと手間を省略しました。
だって30億年も、やっていられる訳はありませんよ。
私がしたズルは、というと。
【超神位魔法……回数……無限大……神位調伏】と詠唱しただけの事です。
この魔法によって、瞬時に無限回数の【神位】の【調伏】が実行されました。
本来は【調伏】に【神位】などという等級は存在しませんが、ご愛嬌の内です。
その上、瞬時に無限回数の【調伏】。
仮に1京回の【抵抗】を受けたとしても、問題にもなりません。
もちろん、成功しましたけれど……何か?
きっと、日本に戻れたとしたら、私は、メッチャクチャ怒られるかもしれませんが……。
そうしたら土下座します。
それでも許してくれないなら、逆ギレしてやりますよ。
私は、異世界転移に巻き込まれて大変な目に遭ったんだよ、ってね。
労災と残業代と特殊任地勤務手当を請求します。
で、私の代わりに、異世界転移してみろ、って言ってやりますよ。
さてと、都合の悪い事は、すぐ忘れましょう。
私は、こう見えても忙しいのです。
私は、先ほどまでいた、【ムームー】に【転移】で戻りました。
・・・
相変わらず、周囲には、私以外の存在にとっては、光も匂いも音も振動も魔力反応もない領域が広がっています。
「【超神位魔法……範囲指定……半径5000km……粒子崩壊】」
私は、半径5千キロ以内の全ての生命体を分子レベルで、バラバラにしてしまいました。
私が従魔にした、トリニティと【古代竜】を【ベルベトリア】に【転移】させた理由は、【粒子崩壊】に巻き込まれないようにする為です。
半径5千キロは、【ムームー】の国土の端から端までが、すっぽり収まりました。
つまり【ムームー】の地上にいる魔物は、全滅したのです。
半径5千キロの範囲から、偶然、外に出る事が出来て生き延びた個体もいるでしょう。
しかし、その個体には、【神位恐慌】が効いています。
知能は最低レベルまで衰え、魔法の詠唱も、魔力の収束も行えなくなっているでしょう。
魔力とは、知性がなければ制御出来ないのです。
つまり、逃げ延びた【超位】の魔物は、【防衛】も【魔法障壁】も使えず、攻撃魔法もブレスも、使えません。
ただのデカイだけの獣です。
さすがに、魔境たるサウス大陸で活動するレベルの実戦経験が豊富な、軍隊や傭兵や冒険者なら、統制された集団で立ち向かえば、ただデカイだけの獣になんか負けないでしょう。
環境破壊については、多少、気が咎めましたが、サウス大陸の守護竜であるファヴと、【パラディーゾ】の【大巫女】のローズマリーさんと、ゴトフリード王からの許可があります。
【ムームー】に関しては、これは、止むを得ない超道義的措置として、許してもらいましょう。
「【超神位魔法……範囲指定……半径5000km……神位魔法中断】」
私は、自分が発動した全ての魔法をキャンセルします。
光と、匂いと、音と、振動と、魔力反応が復活しますが、辺り一面、見渡す限り、荒涼とした不毛の大地に変わり果てていました。
許しておくれ……自然環境。
サウス大陸の守護竜たるファヴが、周辺の上空を飛び回って、大地に祝福を与えまくれば、植物は、比較的早く生えるそうです。
それでも、数ヶ月。
そして、死の大地に変わり果てた面積が面積だけに、大変な労力だとは、思いますが……。
私は、祝福は与えられないので、手伝えません。
許しておくれ……ファヴ。
私は、王都【アトランティーデ】王城に【転移】しました。
お読み頂き、ありがとうございます。
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