第1128話。グレモリー・グリモワール式モブNPC育成法。
本日2話目の投稿です。
【エデン牧場】バーベキュー・コーナー隣のカフェ。
「グレモリー。好奇心で訊くけれど、そもそも【死霊術】や【不死者】が忌避される理由は何なのかしら?もちろん祭祀葬礼を司る神殿や宗教教団にとっては、【死霊術士】が遺体を持って行ってしまうと収入源の商品がなくなるから困るだろうし、【死霊術士】が誰かにとって家族である遺体を操るのを素朴に不愉快だと思ったり、【不死者】が歩き回るのを見て防疫の観点から衛生状態などが不安視されるのは理解出来るのだけれど、人種が【死霊術】や【不死者】を忌避する様子は少しヒステリック過ぎると思うのよね?」
リントが訊ねました。
「知らね。そんなの私が聞きたいくらいだよ」
グレモリー・グリモワールが言います。
「リント様。人種の文化で【死霊術】や【不死者】が過剰なまでに忌避されるのは、童話作家ジョスリーヌ・バシェッティの著作の影響もあると思います」
ディーテ・エクセルシオールが言いました。
「ジョスリーヌ?あの【ブラウニー】の書いた本が原因とは如何いう事かしら?」
リントは訊ねます。
なるほど。
時々話題に出る童話作家ジョスリーヌ・バシェッティの種族は【ブラウニー】だったのですね。
「リントちゃん。ジョスリーヌ某って作家の事を知っているの?」
グレモリー・グリモワールは訊ねました。
「ジョスリーヌ・バシェッティが晩年を過ごしたのが【サントゥアリーオ】で、亡くなった時に【サントゥアリーオ】中央聖堂で大々的に葬儀が行われたから覚えていただけよ。彼女が世界的に人気がある童話作家だったという事の他は、どんな人物か、どんな著作を遺したのかは良く知らないわ」
「ふ〜ん。で、そのジョスリーヌって【ブラウニー】の著作の影響で【死霊術】や【不死者】が過剰に忌避されるようになったってのは、どゆこと?」
「ジョスリーヌ・バシェッティは自身の著作の中で、度々……【不死者】に襲われて死亡した者も【不死者】になって人種を見境なく襲う……という記述をしているのよ。これは【英雄】が神界の創作物の内容から伝えた事なのだけれど、グレモリーちゃんは当然知っている事だけれど、私達の世界の【不死者】に関する理解としては完全に誤っているわ」
ディーテ・エクセルシオールは言います。
「そだね。こっちでは【不死者】は【死霊術】で操らなければ、勝手に活動する事はない。もちろん【不死者】に殺されたら【不死者】になるなんて事もない。【不死者】が自我を持って生者を襲うってのは、あくまでも地球の創作物の設定の話だからさ。地球の創作物では【ヴァンパイア】なんかの【魔人】も【不死者】に含まれる場合もある。こっちの設定とは違うんだよ」
「本来……【不死者】に殺された者も【不死者】になる……というのは、ジョスリーヌ・バシェッティによる事実とは異なる創作だったのだけれど、英雄大消失が起きて以来【死霊術】が衰退してしまった事で、事実を知らない人々が増えて来ると、ジョスリーヌ・バシェッティの著作に書かれている【不死者】の誤った記述を信じてしまう人が増えてしまった。彼らは【不死者】が恰も感染症のように人から人へと伝播して数を増やすという誤った説を信じて……何らかのキッカケで【不死者】が生まれれば、その【不死者】から無数の【不死者】が生まれ、やがて世界が【不死者】に埋め尽くされて人類文明は滅びてしまうかもしれない……と戦慄したの。だから【不死者】や、それを使役する【死霊術士】は激しく忌避されているのよ」
「つまり【不死者】や【死霊術】への忌避や偏見は、ジョスリーヌ・バシェッティの童話の内容を信じた大衆の誤解に基づくのね?」
リントは訊ねました。
「はい。私がジョスリーヌ・バシェッティの著作を研究した結果の推論でしかありませんが……」
「ディーテ。あなたは魔導書だけでなく、童話も研究範囲なのね?さすがは【賢聖】だわ」
「若い頃に巷間で……【エルフ】族は肉食を嫌う菜食主義者だ……というデタラメな風説が流布されている事を疑問に思って、その噂の出所を調べた事があるのです。すると最も古くは、ジョスリーヌ・バシェッティの著作に……【エルフ】菜食説……が記述されている事がわかりました。そういう経緯で、私はジョスリーヌ・バシェッティの著作を研究する機会があったのです。ジョスリーヌ・バシェッティという作家は基本的に物語のわかり易さや面白さを優先して事実関係を歪曲したり捏造する傾向があります。【不死者】や【死霊術】や【死霊術士】が、世の中から実態より過剰に忌避される理由は、ジョスリーヌ・バシェッティの事実歪曲と捏造の影響が大きいでしょう」
「そのジョスリーヌって作家の所為で、私ら【死霊術士】が謂れない偏見と不当な差別を受けているとするなら許せないね。そいつの墓を探して掘り返して【不死者】にして、こき使ってやろうかな。死体保存処理がされていれば【ゾンビ】に、干からびていれば【ミイラ】に、白骨化していれば【スケルトン】にしてやる」
グレモリー・グリモワールは言います。
「グレモリーちゃん。それって墳墓盗掘罪よ」
「そのくらい私ら【死霊術士】は、ジョスリーヌ・バシェッティの所為でイメージを悪くされ名誉を毀損されて迷惑しているって話だよ」
いや、グレモリー・グリモワールの口ぶりからすると、もしもジョスリーヌ・バシェッティの墓を見つけたら、実際にやる気でしたね。
グレモリー・グリモワールなら、ジョスリーヌ・バシェッティの墓を掘り返して、彼女の遺体を【不死者】にして積年の恨みを晴らすくらいの事を本当にやりかねません。
私は【死霊術士】が差別される原因の一部は、グレモリー・グリモワールの過去の行動が多少関係しているような気がして来ました。
「グレモリー。私は【死霊術士】の能力がキャラクター・メイクやアビリティ・ビルドに大きく影響を受けるという説明に興味がある。君たち【英雄】は、そのキャラクター・メイクやアビリティ・ビルドなる方法で、こちらの世界の者達より高いスペックを持つのかい?」
ユグドラが訊ねます。
「それもあるね。こっちの世界での私らの身体ってアバターと呼ばれる容れ物でしかないんだよ。私らは地球から、こっちにログインする時にアバターに乗り移るみたいな状態になる。ミネルヴァさんが【同期】するブリギット(ミネルヴァ)さんやカプタ(ミネルヴァ)さんの空アバターみたいなモンだね。ユーザーは、こっちの世界に最初にログインする時に自分のアバターを作って、種族や性別や容姿や生まれ付きの能力をある程度自分で設定出来る。こっちの世界で生まれた生命体には、それが全く出来ない。その他にも、こっちの世界の住人は【チュートリアル】を受けないと経験値のレベル換算率がクッソ低くて中々強くなれないとか、他にも色々と不利な点があるね」
「という事は、こちらの世界の者達がグレモリーのような恐るべき【大死霊術師】になるのは難しいという事なのかい?」
「不可能とは言わないけれど、相当難しいだろうね。私のキャラ・メイクやアビリティ・ビルドは滅茶苦茶尖らせているからね。こっちの世界で普通に生まれて普通に育ったら、私みたいな偏ったステータス構成には絶対ならない。私が大勢の強力な【不死者】を使役したり、【超位魔法】をガンガン撃ちまくれるのも、私のステータスがそれ用に特化しているからなんだよ。その代償としてレベルが低い時の私は、死にかけの老人並に無防備で虚弱だった。最初こっちの世界に来た当時レベル1の私は、ゆっくり何歩か歩いただけで、スタミナが切れて息が上がって休憩が必要だったし、弱い向かい風が吹いたら、もはや風上に向かって進めなかった。神殿から500m先にある冒険者ギルドに向かうだけで、冗談抜きで1時間掛かったからね。でも、そのレベル1の時点の私は【低位】の【死霊術】で人種の死体を【不死者】にして操って、狼や熊くらいなら簡単に殺せる力があった。こっちの世界の住人なら、そんな事ってあり得ないでしょう?尖るって、そういう事なんだよ。私みたいにキャラ・メイクで極端な尖らせ方をするユーザーは少数派かもしれないけれど、他のユーザー達も例えば……【重装剣闘士】……を目指すと方向性が決まっているなら、【重装剣闘士】って要するに重装鎧を着た片手剣と盾持ちの【戦士】なんだから、魔法職系とか【斥候】系のステータスなんかはいらないし、生産系とか研究系とか、そもそも戦闘に関係ない雑多なステータスもいらない。両手剣とか、長柄武器とか、弓とか、軽装適性とか……【重装剣闘士】にとって適性が低い武器や装備の熟練値も基本的にいらない。いらないから、そういうステータスと熟練値はゴッソリ捨てて、キャラ・メイクでは【膂力】や【耐久力】や【持久力】や【防御力】、プレイ・スタイル的に必要なら【敏捷性】とか……そういう【重装剣闘士】に必要なステータスだけに満振りして、後は、ひたすら重装適性と盾と片手剣の熟練値を鍛えまくれば良い。こっちの世界の住人は、日常生活をしなくちゃならないから、そういう極端な事は出来ない。彼らは、ただ普通に生活しているだけで生活に必要な様々な技能を覚えざるを得ないから、個人差はあっても押し並べて熟練値が平均化されて、ユーザーみたいにステータスや熟練値が特化する事ってないでしょう?それから、こっちの世界の住人は、ユーザーに比べて魔法制御能力が基本的に低い。何故なら、ユーザーは魔力を定量化して制御出来るけれど、こっちの世界の住人の魔力認識は感覚的なモノでしかなく、定量化して制御する事は出来ない。極端な事を言えば、ユーザーとこっちの世界の住人は、そもそも同じ生命体じゃないレベルで違うんだよ」
「なるほど。だとするなら、こちらの世界の者達を強化するなら、【英雄】のそれとは異なるアプローチが必要という事かい?」
「その通り。ま、うちのフェリシアとかレイニールみたいな魔法の超天才は別として、魔法適性が低いモブ……じゃなかった平均的な能力しか持たない人種を強化したいなら、私だったら大柄だったり屈強で力持ちなら、片手メイスと盾持ちの【戦士】系、小柄だったり華奢で素早いなら弓使い【斥候】系に育成するだろうね」
「メイスと盾持ちの【戦士】と、弓を使う【斥候】かい?【騎士】や【剣士】はダメなのかい?」
「もちろん、ダメじゃないよ。そういう【職種】向きの【才能】を持っていたり、潜在能力があればね。ただし、そっち系の【才能】持ちじゃなきゃ、【騎士】系は騎乗技術に熟練値が取られるのが惜しい。だったら歩兵で良い。【剣士】も剣だけで相手の攻撃を捌くなら、【受け流し】とか【見切り】とかの【能力】がないと相当キツい。当然【能力】を覚えるのは、こっちの世界の住人にとって簡単じゃない。片手メイスと盾持ち【戦士】なら盾を構えときゃ、ずぶの素人でもある程度は防御になるし、メイスは刀剣と違って、刃線を立てる必要もなく、ただブッ叩きゃ良い。【剣士】が防御系【能力】を覚えている間に、片手メイスと盾持ち【戦士】は【剣士】に先んじてレベルが上がって強くなる。弓使い【斥候】も比較的育成が早い。物陰に隠れて遠隔の死角から弓を射れば、ある程度の安全性を保ちながらキルやダメージを稼げてレベルが上がり易い。ま、これは【低位】のレベル帯での話で、レベルが上がると【騎士】や【剣士】も強くなるけれどね。でも、こっちの世界の住人の場合、ユーザーと違って死んだら【復活】は出来ない。死んだら取り返しが付かない、こっちの世界の住人が、死に易い【低位】のレベル帯を出来るだけ早く通過して、ある程度の生存性が担保出来る【中位】以上のレベル帯になるには、片手メイスと盾持ち【戦士】か、弓使い【斥候】が最適解だね」
「つまり、低いレベルを早く通過するのが主眼なのかい?という事は、強力な【敵性個体】相手には頭打ちになって通用しなくなるんじゃないかな?」
「い〜や。この世界の設定的に相性はあるにしても、同じ位階なら【職種】ごとの優劣はない。片手メイスと盾持ち【戦士】や、弓使い【斥候】は一見地味だけれど適切に育成すると強いんだよ。片手メイスと盾持ち【戦士】の場合、【シールド・バッシュ】は一定確率で【怯み】や【よろめき】を発動する。怯んだり、よろめいたりした相手は無防備になるから、その瞬間に片手メイスでブッ叩く。相手からしたら、わかっていても対処が難しい凶悪なコンボになる。更に位階が上がった【シールド・バッシュ】は【気絶】や【気絶・捕縛】を一定確率で発動する。戦闘中に気絶したり、気絶した上に拘束されたら、もはや死んだも同然でしょう?ウルスラちゃんが使える攻撃【能力】の【気絶・捕縛】もあるけれど、あっちは【超位級】の敵が全力で防御すれば【抵抗】される。この世界の設定的に……防御は同位階の攻撃を上回る……という仕様があるからね。でも【シールド・バッシュ】の【気絶・捕縛】は、盾による防御技術という扱いになるから……防御は同位階の攻撃を上回る……という、この世界の設定により【抵抗】出来ない。攻撃【能力】の【気絶・捕縛】は【能力】を行使すれば毎回発動する事に比べて、【シールド・バッシュ】の【気絶・捕縛】は発動が確率だというデメリットがある。でも一度発動したら【神格者】以外には【抵抗】不可能な【能力】ってのは本当にエグいんだよ。弓使い【斥候】も位階が上がれば、強力な【潜伏】や【潜入】や【索敵】が使えるようになる。この世界の戦闘では、死角からの攻撃は常にクリティカル判定が入って攻撃威力値が爆上がりする。障害物や遮蔽物が多い場所に隠れ潜んで、敵より先に索敵して射殺す戦術なら、弓使い【斥候】は、ほぼ無双するだろうね。付け加えると、位階が上がった【戦士】や【斥候】は上位職にクラス・アップするだろうけれど、そこん所は端折ってあるから悪しからず」
「なるほど。良くわかったよ」
ユグドラは大きく頷きました。
グレモリー・グリモワールの言う通りです。
この世界には、外れ【職種】などありません。
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・・・
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