第1127話。機嫌が悪いグレモリー。
【エデン牧場】バーベキュー・コーナー隣のカフェ。
「【ヘルヘイム】って言えば、この間【アースガルズ】に行った時に歓待を受けて、その宴席で【ヘルヘイム】の特命全権大使って人にも会って話す機会があったんだけれど……。王都【ヘル】に来い……って言われてさ。クッソ面倒臭いったらありゃしないんだよね」
グレモリー・グリモワールが言いました。
「面倒だなんて言わないで行ってあげたら?それに……来い……だなんて失礼な物言いではなかったわよ。大使閣下は……【ヘルヘイム】のジェイドラ女王陛下は、歴史に名を残す偉大な【大死霊術師】であるグレモリーちゃんの事を敬慕しているから、是非お越し下さい……って言っていたじゃない?」
ディーテ・エクセルシオールが言います。
「私の都合を無視して日付指定で呼び付けるって事は、どんなに言葉を取り繕っていても、それは慇懃無礼と言って、内心では相手を軽く見ている証拠なんだよ。ま、来いって言うなら、行って女王に挨拶するくらい、別に構いやしないんだけれど……【死霊術】を女王の御前にて披露しろ……とか言ってたじゃんか?私は手品師や大道芸人じゃね〜っての」
「そういうニュアンスではなかったわよ。女王陛下に【死霊術】を教示して欲しい……という意味でしょう?」
「ある程度以上の難易度になれば、一回見せたくらいで簡単に覚えられる魔法なんかない。結局はジェイドラ女王とかって奴の前で……ネタとして珍しかったり派手な高難易度の【死霊術】を余興代わりに披露しろ……って意味なんだから、求められているのは手品や大道芸と同じ事だね。そもそも……教示しろ……って言われたって、私は魔法の中で【死霊術】を教えるのが一番苦手なんだよ。だから我が子のフェリシアとレイニールにも【死霊術】を教えていないんだからさ」
「グレモリーちゃんの【第一職種】は【大死霊術師】じゃない?それに私が知る限りグレモリーちゃん以上の【死霊術士】は何処にもいないわよ。だからこそ【死霊術】が盛んな【ヘルヘイム】のジェイドラ女王陛下が、歴史上最高の【死霊術士】であるグレモリーちゃんに直々に教示してもらいたいという事ではないかしら?」
「基本的な事なら教えられるけれど、【死霊術】を国策にしている【ヘルヘイム】の女王なら、当然【死霊術】の基本なんか知っているっしょ?【ヘルヘイム】には優秀な国家魔導師の【死霊術士】が沢山いるんだろうからね。そもそも【死霊術】って高度になると……【才能】やキャラ・メイク……つまりは生まれ持った素養と……アビリティ・ビルド……つまりは育成、こっちの世界の人達の感覚に当て嵌めると、生まれてから経験して来た教育や学習や訓練や生活習慣や職業なんかの影響に左右される割合が高い魔法系統なんだよ。だから、私の【死霊術】を教えても他人に再現出来るかは別問題。てか、私は【死霊術】に特化したキャラ・メイクとアビリティ・ビルドになっているから、私の【死霊術】を教えて、それを他人が真似出来るとは到底思えない。例えば、【ヘルヘイム】の女王が【死霊術士】系最上位の【大死霊術師】でレベル・カンストしていたとしても、ユニット操作系の【能力】持ちじゃなきゃ、1体しか【不死者】を使役出来ない。【操作】の【能力】持ちなら9体までの【不死者】を使役出来て、【管制】の【能力】持ちなら99体までの【不死者】を使役出来る。ここまでは、努力次第で【能力】を獲得する可能性もあるけれど、999体までの【不死者】を使役出来る【完全操作】と、9999体までの【不死者】を使役出来る【完全管制】は【才能】でしか獲得出来ない。【完全操作】は激レアで、【完全管制】は超絶レアなんだよ。それに【操作】が99体までの【不死者】を使役出来るというのは、あくまでも理論値の話であって実際に99体を同時使役したら演算処理と魔法効果の反動で脳神経が焼き切れて死んじゃうよ。それに大量の【不死者】を同時使役する場合、1体だけ使役する場合と比べて原則として個体ごとの位階は【下方補正】される。だから【操作】持ちでも実際に運用出来る【不死者】の数は理論値の10分の1以下になるか、数が99体なら個体ごとのスペックが相応に下がる事になる。私が高位階で大量の【不死者】をズンドコ同時使役出来る理由は、両眼に封じた【悪魔主】達が高速演算処理を補助してくれて、魔法の反動や逆流が起きた場合には過負荷を吸収して体外に逃してくれているからなんだよ。体内に【悪魔主】を封じているのは世界に私だけだろうから、他人には真似出来ない。つまり、どうせ私の【死霊術】は人種には再現出来ないんだから教える意味がないと思うよ」
「たぶん、ジェイドラ女王陛下にとっては、既にご存知の知識や技術でも他ならぬ偉大な【大死霊術師】であるグレモリーちゃんから直接教えてもらえる事に価値があるんだと思うわよ」
「それって要するに実態を伴わない余興って事でしょう?だから、手品や大道芸だって言っている訳。そういう私でなくても間に合う事を、ワザワザやらされるのがクッソ面倒なの。私は、暇人じゃね〜んだよ」
「グレモリーちゃん。何だか【ヘルヘイム】の事になると機嫌が悪くなるのね?【ヘルヘイム】に何か含むところがあるの?」
「あるよ。【ヘルヘイム】のジェイドラとかって奴は自分が女王だから、こっちの予定も考えずに自分の勝手な都合で私を不躾に呼び付けても……揉み手しながら喜んでノコノコやって来るだろう……って考えているんでしょう?そういう了見がクッソ気に入らないんだよ。もしもディーテには用がないのに、見ず知らずの赤の他人から下らない理由で急に家に呼び付けられたら、相手が一般市民なら断るか無視するでしょう?下手をしたら、ディーテに仕える誰かが、そんな失礼な相手を叱り付けたり処罰したりするかもしれない。ジェイドラとかって奴がやっている事は、それと同じ状況だよね?つまり相手と身分や立場が入れ替わった時に、怒られたり処罰されるような振る舞いは権力の濫用であり、身分や立場に関係なく失礼な行為なんだよ。もしもジェイドラとかいう奴が……自分は女王だから平民を呼び付けるのは当然だ……とか思っているとするなら、思い上がりも甚だしいと思うね。私は、そういう奴がマジでムカつくんだよ。ま、私自身は、いつも誰に対しても傍若無人で失礼千万な振る舞いをしているから、他所様の事を言えた義理じゃないけれど、少なくとも王たる者の振る舞いとして、ジェイドラ某って奴のやり方が私は個人的に気に入らない。私は過去にディーテとかサララ・タカマガハラとか、最近ではアルフォンシーナさんとか【ニダヴェリール】のヴァルト王とか、身分が高い人達にも沢山出会って来たけけれど、一廉の人物ってのは初対面の時から、平民の私に対しても人として最低限の敬意を持って接してくれるモンなんだよ。それから【イスタール帝国】のラーラ皇帝は、私に丁寧な文面の自筆の親書を書いて寄越して……あなた様を【イスタール帝国】に御招き致したく存じます。つきましては、御来訪に都合の良い日和をお教え願えないでしょうか?こちらから御迎えに参ります。もしも、お忙しければ無理にとは申しません……だってさ。同じ高貴な人物でも世界に偉人や傑物や名君として名前が知られるディーテやサララやアルフォンシーナさんやヴァルト王やラーラ皇帝と、名前も聞いた事がないようなジェイドラ某とかって奴とは、やっぱり格が違うんだよね〜。私は、そういうふうに身分や立場に関係なく相手に配慮出来る人物とだけ付き合いたいと思うよ」
「なるほど、【ヘルヘイム】のジェイドラ女王陛下がグレモリーちゃんの都合を一顧だにせず日時を指定して呼び付けたから、腹を立てて【ヘルヘイム】訪問に難色を示しているのね?ようやくわかったわ。名前も聞いた事がないって……【ヘルヘイム】のジェイドラ・ヘルヘイム女王陛下は【アースガルズ】各国君主の中で在位期間が一番長くて【アースガルズ】皇帝の治政を支える柱石と呼ばれている女傑よ」
「そんな事は知ったこっちゃないんだよ。私は傍若無人に振る舞っているけれど、私や私の身内に対する他人の振る舞いは、しっかり観察している。ジェイドラ某って奴は、はっきり言って嫌いな部類の奴だね。そういう奴とは、お近付きにならないのが、私の流儀なんだよ」
「まあ、そう言わずに、お会いして差し上げれば良いじゃない?先方が……是非グレモリーちゃんに会いたい……って言うのなら、相手の顔を立ててあげても損はないわよ」
「グレモリー。ジェイドラの無礼は詫びよう。申し訳ない。身分や立場に関係なく、他者に対しては敬意と誠意を持って接するべきだというグレモリーの言は、まったくもって正論だ。だが【ヘルヘイム】への招待は、受けてもらえるとありがたい。私からも頼む。この通りだ」
ヨルムンが深く頭を下げて依頼しました。
「……守護竜のヨルムン君に頭を下げられたら、仕方がないから行くけれどさ……。ヨルムン君、言っておくけれど、これは貸し1つだからね」
グレモリー・グリモワールは言います。
「あ、ああ、わかった」
ヨルムンは多少顔を痙攣らせて頷きました。
まあ、今回の【ヘルヘイム】と女王ジェイドラ・ヘルヘイムの対応を、グレモリー・グリモワールが気に入らない理屈は何となく理解出来ます。
現代日本の感覚では、会った事も話した事もない赤の他人から都合も考えずに呼び付けられれば失礼以外の何物でもありません。
また、この世界の設定上、ユーザーであるグレモリー・グリモワールは【創造主】から……世界市民……という特別な身分を与えられていました。
世界市民は、例え相手が一国の君主であっても、特殊なゲーム内イベントなどは別として身体の拘束を伴うような命令は拒否出来ます。
何故なら、ゲームである【ストーリア】でユーザーがゲーム内の身分制度に影響されて自由にプレイ出来ないとするなら、そんなゲームを誰も遊びたがりませんからね。
だからこそ、ゲームの世界観を保ちながら、ユーザーの快適なプレイを妨げないようにメタ的な身分設定が用意してある訳です。
それに今回の件では、ジェイドラ女王はもちろん、ジェイドラ女王の意向をグレモリー・グリモワールに伝えた大使の対応にも不手際があったと言わざる得ません。
ジェイドラ女王と【ヘルヘイム】の大使は、グレモリー・グリモワールの都合を考慮してアポイントを取るべきでした。
少なくとも【ヘルヘイム】で外務を担当する部署の者達が事前にグレモリー・グリモワール側の都合を訊ねるような事は、外交では普通に行われている筈です。
グレモリー・グリモワールの【アースガルズ】訪問が急な事だったとは言え、相手のスケジュールを無視して一方的に日時を指定して呼び付けるようなアポイントの取り方は、幾ら女王の意向であっても外交儀礼としては少し雑だと言われても致し方ありません。
私には関係ない事ですが、少しお節介を焼いてみましょうかね。
ミネルヴァ……何故【ヘルヘイム】のジェイドラ女王は、こんな強引なアポイントの取り方をしたのでしょうか?
私は【念話】で訊ねました。
ジェイドラ女王は、歴史的に著名な【英雄】で強大な力を持つ【大死霊術師】であるグレモリーさんの事を敬慕していて、純粋に会いたいと考えているだけのようです……ジェイドラ女王自身はグレモリーさんに対して無礼な振る舞いをする気など毛頭ないでしょう……今回の件で、グレモリーさんを怒らせた強引な招聘を企図したのは、【ヘルヘイム】で外務や農務や商務に携わる大臣達です……彼らは現在の【アースガルズ】皇帝の始祖が、前朝から帝位を奪う歴史的経緯に功績があるグレモリーさんの権威を利用して、【不死者】によって生産される自国の生産物の良くないイメージを払拭して輸出を拡大させたい思惑があり、強引な方法でグレモリーさんを招待したようです。
ミネルヴァが分析を交えて【念話】で報告します。
なるほど、わかりました……ありがとう。
私は【念話】で了解しました。
「グレモリー。ミネルヴァが調べたところ、ジェイドラ女王は、素朴にあなたを敬慕していて粗略に扱う意図はないようです。【ヘルヘイム】が、あなたの都合も考えずに強引にアポを取り呼び付けた背景は、どうやら【ヘルヘイム】の外務や農務や商務に携わる大臣達が、あなたの【死霊術士】としてのネーム・バリューを利用して、あまり良くない【死霊術】のイメージ向上を図り、自国の輸出を拡大したいからのようです。つまり、あなたがジェイドラ女王に腹を立てるのは、ジェイドラ女王の立場からすると多少気の毒な事なのかもしれません」
私が事の顛末を伝えると、ヨルムンとユグドラが頷きます。
つまり、【ヘルヘイム】を管轄する【アースガルズ】の守護竜である【ヨルムンガンド】と、【完全記憶媒体】の【世界樹】であるユグドラは、ある程度ミネルヴァの分析と同じ認識を持っていたのでしょうね。
だから、先程ヨルムンは頭を下げて、グレモリー・グリモワールに【ヘルヘイム】を訪問してくれるように頼んだ訳です。
「……ふ〜ん、そういう事か。なら、ジェイドラ女王については矛を収めよう。でも、その不躾な大臣連中については、ジェイドラ女王に一言物申してやんなくちゃね」
グレモリー・グリモワールは言いました。
「それは構いませんが、なるべく穏やかにお願いします。【不死者】に対する誤解や偏見に基づいて、【ヘルヘイム】産の商品が貿易で不利な扱いを受けているのは事実で、それを何とかしたいと思うのは【ヘルヘイム】の貿易に携わる担当大臣なら当然の意識でしょうからね。グレモリーにとっては関係ない【ヘルヘイム】側の事情ですが、国への忠誠という意味で、件の大臣達の無礼な振る舞いを多少大目に見てあげて下さい」
「ま、ノヒトが、そう言うなら多少は手加減してやんよ。ただし、私は傍若無人なダーク・サイドのロール・プレイヤーだから、文句の一言くらい言ってやんなきゃ、名が廃る。親切を受けたら親切を返し、攻撃されたら反撃し、舐められたら泣き寝入らない。それがグレモリー・グリモワールの矜持だからね」
あ、そう。
グレモリー・グリモワールが【ヘルヘイム】の大臣達に何をするつもりなのかはわかりませんが、想像すると彼らが少し気の毒です。
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