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第1126話。比較的安定しているノース大陸と【アースガルズ】の状況。

【エデン牧場】バーベキュー・コーナー隣のカフェ。


 相変わらず、守護竜による()()()()という体裁の雑談が続いていました。

 それらは私にとってミネルヴァを通じて既知の情報なのですが、それを改めて守護竜が説明する意味は、つまりゲームマスターである私に【領域守護者(エリア・マスター)】である守護竜が……自分が管轄する(うちの)領域(エリア)】では、現在こんな問題がありますが、ちゃんと把握(グリップ)していますから心配ありませんよ……という()()()()なのでしょう。


 事実認識の解釈の違いで、ゲームマスターから改善指導という名の、【神の怒り(ラス・オブ・ゴッド)】を落とされては堪らないという事かもしれません。


 ただし、ニーズとヨルムンによる話は比較的簡単なモノでした。

 それは【ニーズヘッグ(ニーズ)】が管轄するノース大陸や、【ヨルムンガンド(ヨルムン)】が管轄する【アースガルズ】は、ウエスト大陸やサウス大陸の状況に比べて政情が安定しているという事に他なりません。


 ノース大陸の懸案は、【ユグドラシル連邦】と【ヨトゥンヘイム】との永年に渡る紛争状態について。

 しかし、これは【ヨトゥンヘイム】の【巨人(ジャイアント)】コミュニティが【ユグドラシル連邦】との積年の怨嗟を水に流して、和平と【ユグドラシル連邦】加盟に舵を切った事で、ほぼ解決の目処が立ちました。

 細かな懸念はあるにせよ、ゲームマスターである私が出動して対応するような大きな問題は見当たりません。


 元来【ヨトゥンヘイム】の【巨人(ジャイアント)】族は、大陸主祭神の【ニーズヘッグ(ニーズ)】や神樹【ユグドラシル(ユグドラ)】に対する信仰が厚い種族なので、【ユグドラシル連邦】側が【ヨトゥンヘイム】側の立場に一定の理解を示し、【ニーズヘッグ(ニーズ)】や【ユグドラシル(ユグドラ)】が和解を勧告すれば対立する理由もないのです。


 一部【ヨトゥンヘイム】内部の【ユグドラシル連邦】との和睦派と主戦派という対立構図は残るものの、これは【ヨトゥンヘイム】の国内事情。

【ヨトゥンヘイム】の統治者である【巨王】が対応を誤れば、最悪の場合【ヨトゥンヘイム】が内戦になるかもしれませんが、【世界の(ことわり)】違反がなければ、ゲームマスターとして個別の紛争に介入する事はありません。


【アースガルズ】も大差ない状況で、比較的安定しているようです。


【アースガルズ】の5か国……つまり、中央国家【アースガルズ】、東方国家【ガンドヘイム】、西方国家【ヘルヘイム】、南方国家【ムスペルヘイム】、北方国家【ギンヌンガ】は、【アースガルズ】皇帝が帝政を執りながらも民主議会制や自由市場経済を推し進めている為、国民の不満が少なく比較的統治は上手く行っているのだとか。


 若干の不安定要素としては、種族間に多少の差別や偏見の問題が散見される事くらいでしょうか……。


 まあ、差別や偏見というモノは、程度の差こそあれ全ての国や地域に存在する普遍的社会問題なので、取り立てて騒ぐ程の事ではありません。

 もちろん差別や偏見はないに越した事はありませんけれどね。


 ヨルムンから名指しで挙がった懸念事項は、東方国家【ガンドヘイム】と、西方国家【ヘルヘイム】と、南方国家【ムスペルヘイム】についてでした。


 東方国家【ガンドヘイム】(別名【精霊の国】)には【アースガルズ】の主要な構成種族である【エルフ】族(【エルフ】、【ハイ・エルフ】、【ダーク・エルフ】、【ハイ・ダーク・エルフ】、【ハーフ・エルフ】)の他、非【エルフ】系の雑多な人種、それから【精霊(スピリット)】達が棲み着いています。

精霊(スピリット)】は個体数が少なく、彼らが多少排外的な性質でもあり、他種族との相互無理解による偏見が多少はあるのだとか。

 これは独特の文化や習俗を持つ少数民族が国内に暮らしているなら、何処(どこ)でも多かれ少なかれ存在する問題でしょう。


 歴代の【アースガルズ】皇帝が【精霊(スピリット)】と協定を結び庇護する政策を取っていて、差別感情に起因する顕著な対立はないそうですが、特定の種族に対する保護政策は、つまり保護対象以外の種族からすると……不公平な特別待遇……というようにも見られがちな為、(さじ)加減が難しいのだとか。

 とはいえ、基本的に【精霊(スピリット)】は穏当な種族ですし、【知性体】であり【霊体(アストラル)】の【精霊(スピリット)】と、【物質的(マテリアル)】な人種とでは、食糧や資源を奪い合う関係でもないので、そういう物理的な意味での競合はありません。

 むしろ【アースガルズ】の主要な種族である【エルフ】族は、世界(ゲーム)の中で最も【精霊(スピリット)】と上手く付き合っている人種だと思います。


 西方国家【ヘルヘイム】(別名【死の国】)はゲーム時代から、伝統的に【死霊術(ネクロマンシー)】によって産業が支えられている国でした。

 日本サーバー(【地上界(テッラ)】)の五大大陸では【死霊術(ネクロマンシー)】は【失われた古代の(ロスト・エンシェント)魔法体系(・マジックス)】と呼ばれて衰退してしまっていますが、【ヘルヘイム】では現代にも【死霊術(ネクロマンシー)】が受け継がれていて、多くの【死霊術士(ネクロマンサー)】達が暮らしているようです。

 農業を始めとする労働の大半は、【死霊術士(ネクロマンサー)】達が使役する【不死者(アンデッド)】によって行われていて、【ヘルヘイム】は人口比による生産性が高く豊かさを享受しているのだとか。


 しかし、ありがちな事ですが、死体を操り(いじく)り回す【死霊術(ネクロマンシー)】や【死霊術士(ネクロマンサー)】という魔法職は、他者から忌避感を向けられる場合もあり、それが差別や偏見という形で軋轢(あつれき)を生じさせ、【ヘルヘイム】と他国との問題になっているそうです。

 例えば……【ヘルヘイム】産の農産物は、不浄なる【不死者(アンデッド)】によって生産されたモノだから食べたくない……などと、忌避されたり不当に安く買い叩かれたり、輸入に際して【ヘルヘイム】産の食品にだけ厳重な検疫検査が行われて、不公平なコストが掛かったりするなどの問題があるのだとか。


 私も元同一自我であるグレモリー・グリモワールの【第一職種(メイン・ジョブ)】が【(グランド)死霊術(・ネクロマンシー・)(ミストレス)】なので、同じような差別や偏見を経験しました。


 確かに、ゲーム時代は【不死者(アンデッド)】を使い潰しが利くユニットと考えて、ロクにメンテナンスや衛生管理すらしないユーザーやNPCが居て、そういう【不死者(アンデッド)】が病気を媒介した実例もあった事は否定出来ません。

 しかし、本来きちんとメンテナンスされた【不死者(アンデッド)】は極めて清潔なのです。


不死者(アンデッド)】は既に死体なので、生身の生命体には使えないような殺菌や消毒や防腐などの魔法や科学・化学処理で衛生管理をする事が可能でした。

 グレモリー・グリモワールが使役する【不死者(アンデッド)】軍団のようにです。


 なので……【不死者(アンデッド)】が不衛生で不浄な存在だ……などという風評は、(ほとん)ど根拠がない無知に基づく誤解でした。

 その事は【ヘルヘイム】政府の情報開示はもちろん、【アースガルズ】皇帝や【アースガルズ】各国政府の広報で、見識ある人達には【不死者(アンデッド)】の安全性が、ある程度理解されているようです。


 とはいえ、科学的には清潔だとわかっていても、死体が作業して生産された食品を……何となく気持ちが悪い……と考える個人の内心の問題は致し方ない面もあります。


 また通常、各神殿は……死者には哀悼を捧げ、遺体は静謐に安置するべき……という方針を採っていますが、【ヘルヘイム】の神殿は……【不死者(アンデッド)】は労働力……という方針なので、これも宗派間の相互不審や対立の火種になりかねない問題でもありました。

 宗教が絡むと、問題がややこしくなるのは世の常ですからね。


 しかし総体としては、【ヘルヘイム】の国策である【不死者(アンデッド)】を用いた産業を【アースガルズ】皇帝が公式に認めていて、【アースガルズ】の各国政府も【死霊術(ネクロマンシー)】や【死霊術士(ネクロマンサー)】に寛容な立場で啓蒙している事もあり、個人個人の差別や偏見が表立って社会対立に繋がってはいないそうです。


 これにはグレモリー・グリモワール(私)の影響もあるのだとか。


 グレモリー・グリモワール(私)は、ゲーム時代【アースガルズ】に単身殴り込んで、当時の【アースガルズ】皇帝らをシメた事がありました。

 その理由は、当時の【アースガルズ】皇帝が、【エルフヘイム】に侵略しようとしていたからです。

 結果、当時の【アースガルズ】皇帝による対【エルフヘイム】侵攻計画は中止され、後には皇帝自体が臣下の謀反により(しい)されました。

 その謀反を起こした臣下が、【アースガルズ】国民から推戴され新たに皇帝に即位したのです。

 その子孫が現在の【アースガルズ】皇帝でした。


 グレモリー・グリモワール(私)が900年前の【アースガルズ】皇帝をシメた事により、当時の皇帝権威は失墜し、新たな血筋の皇帝が擁立されたのです。

 つまり、グレモリー・グリモワール(私)は、前朝の【アースガルズ】皇帝が倒され、現在の【アースガルズ】皇帝が帝位を世襲するキッカケを作った張本人でした。


 前朝の【アースガルズ】皇帝は独裁的な絶対君主の色合いが強く、現在の【アースガルズ】皇帝は穏当で民主的な国体を採用しています。

 なので、【アースガルズ】の国民達も、前朝との比較で現在の【アースガルズ】皇帝一族の治政を支持していました。


 当代の【アースガルズ】皇帝の帝位世襲に間接的な貢献をしたのが、【(グランド)死霊術(・ネクロマンシー・)(ミストレス)】のグレモリー・グリモワール(私)だった為、【アースガルズ】では【死霊術士(ネクロマンサー)】に対する見方が、日本サーバー(【地上界(テッラ)】)の他の【マップ】と比べて多少肯定的なのかもしれません。


 南方国家【ムスペルヘイム】(別名【火の国】)には、【火の巨人(スルト)】と呼ばれる【巨人(ジャイアント)】族が多く暮らしていています。

火の巨人(スルト)】族は【巨人(ジャイアント)】族の特徴である巨体と有り余る力で、人種との共生する場合には事故が発生する事もあり注意が必要でした。


 ちょっとした弾みで【巨人(ジャイアント)】の手足が軽くぶつかっただけでも、人達にとっては致命傷という可能性があり得ます。

 しかし、私が【シエーロ】で見たように【巨人(ジャイアント)】と、非力な【天使(アンゲロス)】とが互いに弱点を補い合い協力して暮らせるように、【アースガルズ】の人種と【火の巨人(スルト)】族も相利共生が可能な筈でした。


 ただし【火の巨人(スルト)】族は、炎を身に(まと)うという性質がある為、【火炎耐性】などが付与された防具やアイテムを装備していないと、人種が生身で【火の巨人(スルト)】族と接するのは困難なのです。

火の巨人(スルト)】族が親愛のつもりで、人種を抱き締めたりすれば、人種の方は火傷では済みません。


 しかし【火の巨人(スルト)】族は、通常なら器用さや道具を扱う能力に【下方補正(ナーフ)】が掛かる【巨人(ジャイアント)】族の中では珍しく高い鍛治技術を持つので、高性能な鍛治製品(特に重厚長大なモノ)を人種コミュニティに提供するなどして【アースガルズ】の産業や社会の発展に寄与しています。

火の巨人(スルト)】族が鍛えた大振りの武器は、人種が扱うのは難しいですが、使い熟せれば巨大な魔物に有効で役に立ちますからね。


 大剣【レーヴァテイン】や、巨剣【ドラゴン・バスター】などは……古代の【火の巨人(スルト)】族の王が鍛えたオリジナルを、【創造主(クリエイター)】が複製して【神の遺物(アーティファクト)】にした……という設定もあります。


 また、【エルフ】族が多い【アースガルズ】の軍隊にも【火の巨人(スルト)】族は多数所属していて、魔法職ばかりの【エルフ】族を【火の巨人(スルト)】族が【前衛壁職(タンク)】として支え、戦闘で大きな貢献をしていました。

 なので、この世界(ゲーム)の初期設定においては、日本サーバー(【地上界(テッラ)】)のノース大陸では人種コミュニティの【ユグドラシル連邦】と【巨人(ジャイアント)】国家の【ヨトゥンヘイム】が、【シエーロ】では【天使(アンゲロス)】族と【巨人(ジャイアント)】族が、それぞれ敵対関係や天敵として位置付けられていましたが、【アースガルズ】においては【エルフ】族と【火の巨人(スルト)】族は互いに相利共生の関係にあり、双方とも対立はないそうです。


 まあ、小さな差別や偏見はあっても、お互いが必要とし合っていれば協力は可能なのですよ。

【シエーロ】の【天使(アンゲロス)】族と【巨人(ジャイアント)】族が、それを出来たようにです。


「ノヒト。本当に【魔界(ネーラ)】平定戦へ、【アースガルズ】から戦力を出さなくても良いのか?【アースガルズ】皇帝直営の【火の巨人(スルト)】兵の【前衛壁職(タンク)】軍団と、【ハイ・エルフ】兵及び【ハイ・ダーク・エルフ】兵の【魔導士(ウィザード)】軍団との複合兵科は強力であるぞ」

 ヨルムンが訊ねました。


「必要ありません。こういうモノは……とある国家は出兵して、他の国家は出兵しない……という事になると、歴史に禍根を残します。【ドラゴニーア】や【ユグドラシル連邦】や【アースガルズ】のような国力と精強な軍隊を持つ国は出兵が可能でも、そうでない国は出兵が難しい。仮に出兵してもらうなら、国家の枠を離れた個人ベースの義勇軍や冒険者による自由参戦なら、そういう問題は起こりませんが、私や守護竜など【レジョーネ】が暴れ回る戦場に、指揮統制も戦闘力も装備規格もバラバラな者達がウロチョロされるのは逆に邪魔なだけです。なので私が招聘した者以外は、一律で日本サーバー(【地上界(テッラ)】)側からの【魔界(ネーラ)】平定戦への参加はお断りします」


「そうか」

 ヨルムンは頷きます。


「私は?私も一応日本サーバー(【地上界(テッラ)】)側から参戦する冒険者なんだけれど?」

 グレモリー・グリモワールが訊ねました。


「グレモリーは、ユーザーです。ユーザーは【ストーリア】の原住民(NPC)ではありません。【魔界(ネーラ)】平定戦に、グレモリーやシピオーネが従軍し、ノートが後方支援で加わるのは、言わばユーザーに対する運営から発給された【強制クエスト】という扱いだと考えてもらって差し支えありません」


「という事は、当然【秘跡(クエスト)】報酬は出る訳だよね?」


「もちろんです。過去に例を見ないレベルで大量の【神の遺物(アーティファクト)】を提供しますよ」


「おっしゃーっ!一気にモチベーション(モチベ)が上がった」

 グレモリー・グリモワールはガッツ・ポーズをします。

お読み頂き、ありがとうございます。

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活動報告、登場人物紹介&設定集もご確認下さると幸いでございます。


・・・


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