第1125話。サウス大陸も簡単ではない状況。
【エデン牧場】バーベキュー・コーナー隣のカフェ。
リントとグレモリー・グリモワールによるウエスト大陸の状況説明に区切りが付くと、今度はファヴが管轄するサウス大陸の状況説明を始めました。
既にミネルヴァを通じて事実に関しては情報共有している事ばかりですが、リントの場合もそうだったようにファヴから見た考えをゲームマスターである私や他の守護竜に聞かせたいという意図なのでしょうから黙って聞く事にします。
サウス大陸は北方国家の【アトランティーデ海洋国】を除く領域が【スタンピード】によって【遺跡】から溢れた魔物に蹂躙され、長らく【ノーマンズ・ランド】と呼ばれていました。
私が異世界転移して来た時点では、【アトランティーデ海洋国】が人種の生存圏を維持していて、東の【ティオピーア】首都城壁内と、西の【オフィール】王都城壁内だけが人種の手に奪還されている状況だったのです。
その状況から、私とソフィアとファヴでサウス大陸奪還作戦を開始し、【スタンピード】を止め地上の魔物を殲滅しました。
その後、世界中に移民した旧サウス大陸諸国にルーツを持つ人々が、先祖の故郷であるサウス大陸の【ノーマンズ・ランド】に入植を始め復興が行われています。
つまり、サウス大陸は復興が始まったばかりで、問題山積のウエスト大陸と比較しても現時点では悪い状況でした。
【アトランティーデ海洋国】以外のサウス大陸諸国は、現時点ではウエスト大陸最貧の途上国である【ブリリア王国】や【クレオール王国】より経済力がありません。
しかし、サウス大陸の状況は、ウエスト大陸より良い面もありました。
サウス大陸は、現時点で世界最貧レベルの途上国ばかりですが、将来性という意味では期待が出来ます。
日本サーバー(【地上界】)では、農業がイージー・モードでした。
中でも大陸中央に赤道が走る常夏のサウス大陸は、極めて農業に優利な気候です。
高い潜在能力を持つ農業を推進すれば、サウス大陸の発展は約束されたようなモノ。
実際900年前のサウス大陸各国は、農業大国揃いでしたからね。
また、サウス大陸の【アトランティーデ海洋国】以外の各国は、魔物に支配されていた【ノーマンズ・ランド】であった為に、歴史的・伝統的に遺産というモノが受け継がれていない代わりに、厄介な既得権も存在せず、政治や宗教や外交や安全保障などの面で根深い問題が少ないという事です。
唯一900年前から継続していた【アトランティーデ海洋国】には既得権に類するモノがありました。
しかし、【アトランティーデ海洋国】の第2王子イングヴェと、彼を神輿に担ぎ上げた同国の貴族達によって引き起こされた、【パラディーゾ】と【ムームー】への侵略を企図した陰謀が、ファヴによって叩き潰された為に、【アトランティーデ海洋国】の既得権者達は、熱りが冷めるまではファヴを恐れて大人しくしていると予想されます。
サウス大陸中央国家は、守護竜【ファヴニール】が元首として統治する【パラディーゾ】。
【パラディーゾ】は0からの復興なので、ありとあらゆるリソースが足りず相当に大変ではありますが、幾つか復興を牽引する強力な機関車となりそうなモノがありました。
その代表例が【タナカ・ビレッジ】の【クイーン農場】。
900年前にユーザーであるエンペラー・タナカ氏が築き上げた巨大な農業生産拠点である【タナカ・ビレッジ】において、ユーザー消失以後も900年間農場を守り抜いて来た【神の遺物】の【自動人形】がクイーン・タナカです。
900年間の農業経験を蓄積したクイーンが育てた農作物は最高の品質でした。
クイーンが900年の間に開発した膨大な種類の素晴らしい品質を誇る農作物の新品種は、種苗特許として申請され、特許料収入からの納税という形で【パラディーゾ】に恩恵をもたらすでしょう。
クイーンは、私とソフィアの庇護下に入り、事実上の陣営のメンバーとなりました。
そして彼女は、ソフィアが創設した【ソフィア・フード・コンツェルン】の共同出資者でありオーナー陣の1人にも名を連ねています。
現在クイーンは、私が彼女に与えた【自動人形】軍団を使役して周辺の未開拓地をガンガン開墾して農場を拡大していました。
クイーンは従業員として【パラディーゾ】国民も大量雇用し始めたのだとか。
また【タナカ・ビレッジ】は、先頃ファヴから【パラディーゾ】の都市自治体として正式に認められました。
今後【タナカ・ビレッジ】は益々発展し世界最大の農業都市として、【パラディーゾ】の経済を支えて行く事になるでしょう。
【パラディーゾ】の経済発展に寄与しそうな、もう1つの機関車は【大歩廊市場】。
【パラディーゾ】首都【パラディーゾ】の中心街にある【大歩廊市場】は、ゲーム時代から有名な【パラディーゾ】のランド・マークの1つで、所謂スークでした。
スークは……輸送する。手渡す……という意味から転じた派生語で市場を意味します。
隊商が通る街々にスークが開かれ、紛争の際にも基本的に隊商の国籍に拘らず中立が担保され交易や商売が行われていました。
私が【ドラゴニーア】に本社を置く【ソフィア&ノヒト】の世界展開を見据えて用地を探していたところ、サウス大陸の守護竜である【ファヴニール】と【ファヴニール】信仰の総本山【時の塔】の大巫女ローズマリーさんから……私とソフィアで永代使用して構わない……と言われ無人だった【大歩廊市場】を丸ごと譲渡されたのです。
【大歩廊市場】の旧来のスーク部分は狭い路地が入り組み迷路のようになっていて、各テナントも小さな間口で戸数がやたらと多いので、私が事業で利用するには使い勝手が悪かった為、商店街や工房街として【パラディーゾ】の個人商店や職人達に安い家賃で貸し出す事にしました。
私が事業で使う部分としては【大歩廊市場】の上に高層建築を増築して4棟の【スクエア】を建てたのです。
【大歩廊市場】第1タワーは、8階・9階に【ソフィア&ノヒト】サウス大陸統括支社が入り、3階〜7階に【マリオネッタ工房】と【アブラメイリン・アルケミー】の工場が入り、1・2階が同社直営販売店でした。
【大歩廊市場】第2タワーは、【ソフィア・フード・コンツェルン】のオフィスと、食品工場と、巨大な冷凍・冷蔵倉庫施設と、食品スーパー・マーケットと、フード・コートを含む飲食店街が入っています。
【大歩廊市場】第3タワーは、お馴染みショッピング・モールとしての【パラディーゾ・スクエア】でした。
【パラディーゾ・スクエア】にはグレモリー・グリモワールがオーナーを務める【グレモリー・グリモワール・ファウンデーション】グループ各企業のオフィスや直販店も入ります。
【大歩廊市場】第4タワーは、低層階は賃貸オフィス、中層階は高級住宅、高層階はホテルになりました。
4棟のタワーには、【使い捨て門】や【転送装置】によって、【ワールド・コア・ルーム】や【竜都ドラゴニーア】や【サンタ・グレモリア】から随時、人・物・金が送り込まれています。
また、社員・従業員は【パラディーゾ】で現地採用されていました。
同時に【大歩廊市場】の無数のテナント物件にも入居・出店・開業が始まっています。
4棟のタワーを含めて【大歩廊市場】は、これから【パラディーゾ】の消費経済の中心として機能して行くでしょうね。
サウス大陸北方国家は【アトランティーデ海洋国】です。
【アトランティーデ海洋国】はサウス大陸で唯一魔物の【スタンピード】を食い止め、900年前から存続する国家でした。
サウス大陸唯一の先進国で、【ドラゴニーア】や【ユグドラシル連邦】など自由同盟に加盟する国でもあります。
【アトランティーデ海洋国】は、その国名が示すとおり海洋交易国家としての伝統を持っていました。
更に先頃【ドラゴニーア】国営造船所から技術移管を受けて、先進的な超大型海洋商用船舶の建造を始め、この分野では世界的に見ても優勢を維持出来るでしょう。
また、今まではサウス大陸は魔物に支配されていた事で、【アトランティーデ海洋国】は魔物に対抗する防波堤の役割を担い、世界中から様々な支援を受けてもいました。
同時に無数の魔物を狩って有用な魔物素材を得て、それを加工・販売して収益を上げるという国家的なビジネス・モデルを推し進めて来たのです。
しかし、私とソフィアとファヴがサウス大陸の【スタンピード】を止め、魔物を殲滅し、【ノーマンズ・ランド】を人種生存圏に奪還した事で、今後【アトランティーデ海洋国】は国際社会からの支援や魔物素材の収益に依存した経済からの脱却と、農業など新たな産業への変革を迫られていました。
数百年来の国策を転換するのは簡単ではないでしょうが、農業に優利なサウス大陸の中で海運・造船という強みを持つ【アトランティーデ海洋国】は、サウス大陸産農作物の輸出ハブとして存在感を維持出来ると思います。
サウス大陸南方国家の【ムームー】は、【神竜神殿】の【高位女神官】で大神官のアルフォンシーナさん付きの筆頭秘書官という要職にあったチェレステさんが女王に即位・戴冠しました。
【ムームー】はサウス大陸の他国と同様に、農業においては絶大な潜在能力があります。
また、チェレステ女王が【神竜神殿】出身という事もあり、【神竜】や【ドラゴニーア】を含むセントラル大陸各国は、チェレステ女王と【ムームー】に友好的でした。
【ムームー】は友邦【ドラゴニーア】からの手厚い支援を受けて、産業やインフラの開発が行われるでしょう。
【ムームー】の懸念は、先述の【アトランティーデ海洋国】元第二王子イングヴェらの陰謀に加担した大陸東方国家【ティオピーア】を従属国にした事かもしれません。
【ティオピーア】はイングヴェらの陰謀に加担し、【ムームー】への侵略を企図しました。
しかし、ファヴによって陰謀は阻止されたのです。
陰謀が失敗した【ティオピーア】は速やかに非を認め謝罪し、陰謀に加担した国内のタカ派を拘束して侵略しようとした被害国側の【ムームー】に送り、自ら【ムームー】の属国になる事を願い出て許しを乞いました。
このように潔いまでの土下座外交を展開されたら、【ムームー】も【ティオピーア】を許さざるを得ません。
【ムームー】は、報復攻撃をしたり賠償金を要求する事もなく【ティオピーア】を許しました。
なので【ムームー】の属国となった【ティオピーア】は独立した議会を持ち徴税権と予算執行権などは持ちますが、今後100年間外交権と国防権を宗主国【ムームー】に委ね、また【ムームー】の国内法を自国にも適用します。
【ムームー】は【ティオピーア】という自国と同じ規模の国土と経済力を持つ属国、つまり従属国を持つので国力が2倍になったと喜んでばかりもいられません。
属国【ティオピーア】の統治を誤れば、宗主国【ムームー】の首が絞まる可能性もありました。
そのサウス大陸東方国家の【ティオピーア】は、【ムームー】に従属する半主権国家。
外交や国防や立法の権利を宗主国である【ムームー】に委任しているので、国際社会からは正当な主権国家としては認められない屈辱的な立場ではありますが、チェレステ女王が自国【ムームー】と属国【ティオピーア】の統治に差を付けない良心的な方針を採っているので、むしろ気楽で穏当な属国ライフをエンジョイしてるかもしれません。
陰謀が失敗した直後に、下手に駆け引きを仕掛けたりせず、完全なる土下座外交に徹したのが功を奏したのでしょう。
高潔で知性が高く良心的な相手には、土下座が効きますからね。
卑劣で頭がアレな下衆相手には、弱みを見せると却って調子に乗って身の程を弁えない要求をして来るので、相手の品性や知性の程度は良く見極めなければいけませんが……。
今回の場合、チェレステ女王が聡明で良識ある相手だったので【ティオピーア】は助かりました。
サウス大陸西方国家【オフィール】は短期間で目紛しく状況が変わっています。
変わったのは悪い方にでした。
【オフィール】は、私が異世界転移して来る以前から、旧【オフィール】の王家を中心に王都【オフィール】が奪還され、魔物相手に篭城戦が展開されていたのですが、【オフィール】女王も先述のイングヴェらの陰謀に加担してしまったのです。
サウス大陸の守護竜【ファヴニール】は【オフィール】に対して激怒しました。
国際社会も卑劣な【オフィール】に対して経済制裁を科したのです。
【オフィール】女王は王の威信と政治的求心力を完全に喪失し進退極まり、最後は軍のクーデターと市民の蜂起によって弑されました。
王権を打倒した軍と市民代表による新政権が、【ティオピーア】がしたように、迷惑を掛けた【ムームー】に潔く謝罪すれば穏当に片付いたのですが、彼らは……陰謀は女王の責任だ……として謝罪を拒否。
更には【オフィール】は共産化して【創造主】や【ファヴニール】など神々への信仰を否定する神権連合に加わったのです。
しかし、【オフィール】革命政権が頼みとした神権連合の盟主であった【ウトピーア法皇国】は、グレモリー・グリモワールにコテンパンに叩きのめされ、【ウトピーア】に国体が変わってしまいました。
【ウトピーア法皇国】に次ぐ神権連合を代表する【ザナドゥ】も【オフィール】を支援する程の余力はありません。
現在の【オフィール】の状況は詰み。
ミネルヴァのサーベイランスによると、現在の【オフィール】では革命政権を再打倒する為に、反革命のカウンター・クーデターが画策されているのだとか。
いよいよ【オフィール】は訳がわからない事になって来ましたね。
お読み頂き、ありがとうございます。
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