第1124話。ウエスト大陸の難しい状況。
本日2話目の投稿です。
【エデン牧場】バーベキュー・コーナー隣のカフェ。
私達が注文したコーヒーなどがテーブルに揃いました。
普段私がゲームマスター本部の自分の執務室などで飲んでいるコーヒーは、エスプレッソ式が大半ですが、このカフェのコーヒーはドリップ式です。
私はコーヒー・ガチ勢ではないのでエスプレッソ式の方が深煎りの豆を使っていて濃くて苦いという程度の認識しかありませんが、ドリップ式のコーヒーも悪くありません。
他にはサイフォン式というモノもありますね。
あ〜、和みます。
リントとグレモリー・グリモワールとディーテ・エクセルシオールが、ウエスト大陸の事情について話し込み始めました。
彼女達が皆に聞こえるように話しているので、私もそれとなく聞いていますが、ゲームマスター業務に直接関係ない事柄は質問されたり意見を訊ねられたりしない限り口を挟んだりはしません。
まあ、大半はミネルヴァを通じて情報共有している事ですが、一部リントやグレモリー・グリモワールの立場での見解が述べられています。
おそらく、そういうリントやグレモリー・グリモワールの見方を、私や他の守護竜達に聞かせて事実上の支持や理解を得るか、最低でもリントとグレモリー・グリモワール視点での現状把握をしてもらいたいという意図で皆に聞こえるように話しているのでしょうね。
ウエスト大陸では各国の思惑が入り乱れ、また実際に数多くの紛争も起きているので随分と大変そうです。
まず、ウエスト大陸の守護竜である【リントヴルム】が元首として統治する中央国家【サントゥアリーオ】は、永年人種が存在しない無人の状態が続いていて、最近ようやく旧【ウトピーア法皇国】の奴隷となっていた人々を移民させて、国家再興が始動したばかりでした。
しかし、【サントゥアリーオ】国民になった大半の人々が、悪逆非道な【ウトピーア法皇国】によって……【魔力子反応炉】という生物から魔力を吸収する装置に繋がれ、更には人工繁殖により人としての最低限の教育すら全く受けない状態で意識を奪われたままエネルギー源としてだけ生かされていた……という状況にあり、情緒や社会性すら身に付けておらず、かつては繁栄を享受していた【サントゥアリーオ】の再建は未だ長い道のりです。
ウエスト大陸西方国家の【ブリリア王国】と、同国所属のグレモリー・グリモワールが庇護する自由都市【サンタ・グレモリア】は、大陸北方の【ウトピーア法皇国】との全面戦争に圧勝し、【ウトピーア法皇国】は滅亡して【ウトピーア】に国体変更しました。
【サンタ・グレモリア】は、【ウトピーア】から大陸北西の【オルフェーシュチ遺跡】の管理権と、【サンタ・グレモリア】から見て北と北東に広がる広大な【黒の森】の領有権を【ウトピーア】から割譲され、【黒の森】の【ワー・ウルフ】部族の抗争に端を発して統治領域を更に東方に広げ、元は大陸東方の【ガレリア共和国】領土だった【黒の森】も、リントから領有権を認められたのです。
大陸中央の【サントゥアリーオ】領土以外の【黒の森】は、【サンタ・グレモリア】が完全に実効支配を確立しました。
【サンタ・グレモリア】は北方を鎮定した余勢を駆って……というかグレモリー・グリモワールの言葉を借りるなら……行き掛かり上止むを得ず……今度は南方に勢力を伸長させています。
【サンタ・グレモリア】南方(【ブリリア王国】南東部)には、同国最高峰の【キララウス山】がありました。
【キララウス山】は【ブリリア王国】の統治が及ばない【獣人】の諸部族が独自の文化を保ち半独立勢力として割拠しています。
グレモリー・グリモワールは、現在【キララウス山】の【獣人】諸部族を調略と武力双方を使って攻略中です。
グレモリー・グリモワールと【サンタ・グレモリア】の南進政策に同調して【ブリリア王国】も、北方の【ウトピーア】方面の安全保障に不安がなくなった事から、軍事リソースを南方に振り向け、大陸南方国家の【イスプリカ】領土侵食に色気を出しているのだとか。
これについてリントは……あまり調子に乗るなよ……と【ブリリア王国】のマクシミリアン王に釘を刺しているようです。
何故なら、【ブリリア王国】が【ウトピーア法皇国】との戦争に勝利出来たのは100%グレモリー・グリモワールと【サンタ・グレモリア】のおかげだからでした。
グレモリー・グリモワールがいなければ、今頃【ブリリア王国】は【ウトピーア法皇国】に蹂躙され支配されていたでしょう。
しかし、マクシミリアン王と【ブリリア王国】側の視点に立つと、多少ややこしい内部事情がありました。
マクシミリアン王は、対外的には【ウトピーア法皇国】との戦争に勝ち、国内的には叔父のバーソロミュー・ウエスタリア元公爵一派による謀叛を鎮圧しています。
しかし、結局他国から攻められたり国内で謀叛が起きるという事は、そもそもマクシミリアン王の求心力と王権の脆弱性を示していました。
マクシミリアン王は、国民や貴族達からの求心力を高める為に……強い王……を演じなければならない国内事情もあり、なかなか舵取りが難しいようです。
基本的に【イスプリカ】は奴隷制を敷く【世界の理】違反国なので、【ブリリア王国】が【イスプリカ】に侵攻しても【世界の理】と国際法上の正義は【ブリリア王国】側にありました。
しかし、発展著しい【サンタ・グレモリア】を除けば世界最貧国に過ぎない【ブリリア王国】が無茶をすれば痛い目を見る事が必定なので、リントとしては【ブリリア王国】には国境を固めて専守防衛に徹し内政と経済発展に注力して、対外軍事的には大人しくしていて欲しいようです。
ミネルヴァの戦力分析でも、【ブリリア王国】が対【イスプリカ】方面で国境防御を維持出来ている理由は、国境の大要塞【キ・ブラタール】の存在があればこそなので、【ブリリア王国】が【キ・ブラタール】から打って出て【イスプリカ】側に攻め込めば、相当な被害を出す事が想定されていました。
マクシミリアン王の思惑は、国内の先鋭的な主戦派貴族を【イスプリカ】に攻めさせて自滅させ、グリップが難しい貴族達の力を削ぐ意図もあるようです。
ただし、国内事情を優先し対外的な戦略分析が拙い状態で一旦軍事行動を始めると、意図しない戦線の拡大から全面戦争に至り、泥沼に嵌って国力を蕩尽し、挙句には全てを失うという例は歴史において枚挙に暇がありません。
まあ、ゲームマスターは国家紛争には介入しませんので、勝手にすれば良いと思います。
ウエスト大陸北方国家の旧【ウトピーア法皇国】は、重大な【世界の理】違反と国際法違反国家でした。
しかし、100万の大軍で侵略を試みた対【ブリリア王国】戦争で、偶然【ブリリア王国】側にいたグレモリー・グリモワールによって手酷い返り討ちに遭い国が滅び、【ウトピーア】に国体が変わっています。
本来【ウトピーア法皇国】は世界列強に数えられたウエスト大陸の覇権国で、技術大国・軍事強国でもありましたが、対【ブリリア王国】戦争での惨敗により、【ブリリア王国】と【サンタ・グレモリア】に領土と管理していた【オルフェーシュチ遺跡】を割譲し、多額の戦後賠償金を背負い、国教の唯一神信仰から正当な【リントヴルム】信仰に改宗を拒否した3千万人が北米サーバー(【魔界】)に移民する事となり、非人道的な【魔力子反応炉】に繋がれていた奴隷1億人も解放され【サントゥアリーオ】国民として流出し、大きく国力を失いました。
しかし、それでも尚この【ウトピーア】が現在ウエスト大陸で最大の国力を持つ国家だという事実が、ウエスト大陸の状況の大変さを如実に表しています。
ウエスト大陸南方国家の【イスプリカ】の情勢は、更に混沌でした。
【イスプリカ】も【世界の理】と国際法に反する奴隷制採用国家です。
【イスプリカ】皇帝の権力は事実上形骸化していて、皇帝を選任する権限を与えられた選帝侯達が、自らの領邦領土で勝手に王を僭称して互いに相争うという小国乱立の修羅の国状態。
皇帝と各選帝侯が支配する都市城壁の中でさえ、様々な犯罪組織が我が物顔で闊歩していて、都市城壁の外に一歩足を踏み出せば、盗賊や山賊や奴隷狩り、あるいは反奴隷主義の反乱組織が大手を振ってウロ付き、海上では海賊が扈っていました。
更には、東方から新興の【クレオール王国】によって圧迫され、西方から【ブリリア王国】も侵攻を窺う構え。
もはや、【イスプリカ】は国家の体を成していません。
大陸東方国家の【ガレリア共和国】も混乱状態。
【ガレリア共和国】も【世界の理】と国際法に反する奴隷制採用国家でした。
現在の【ガレリア共和国】政府は、自由同盟への加盟を目指して……奴隷制廃止……を約束し着実に政策を履行中ですが、それに反対する全体主義政党の連帯平等党が支持を伸ばし、奴隷制を維持したい農場主や工業資本家に支持される【精霊信仰教会】という偽教が蔓延り、首都【マッサリア】では【黒の結社】の過激派【オルトドクソス】が数百人の犠牲者を出した同時多数爆破テロを起こしたのです。
対外的には、北西でグレモリー・グリモワールと【サンタ・グレモリア】に、南でノート・エインヘリヤルと【クレオール王国】に領土を削られ、その失地回復を企図してか、【ガレリア共和国】は北で対【ブリリア王国】敗戦によって現在武装解除状態にある【ウトピーア】の領土を奪おうと画策する始末。
ゲームマスターである私は……奴隷制廃止……を約束した【ガレリア共和国】現政府に対して、一応消極的ながら国体維持を認めていましたが、もしかしたら【ガレリア共和国】も【ウトピーア】のように一度滅ぼして0から作り直した方が正常化の為には話が早いかもしれません。
まあ、ウエスト大陸の事は、第一義的には同大陸を管轄する守護竜【リントヴルム】に任せておけば良いので、私は黙っていますけれどね。
最後にウエスト大陸南東国家の【クレオール王国】。
【クレオール王国】は【魔人】の【リリン】であるノート・エインヘリヤルが庇護し、スライマーナ・トランスペアレントという魔物の【エルダー・スライム】が女王を務めるという、基本的に人種文明が各国家を運営している日本サーバー(【地上界】)にあっては異彩を放つ国体でした。
また【クレオール王国】内の各都市の任命領主達も全員魔物達です。
なので、当初【リントヴルム公国】を勝手に名乗っていた彼らは、人種文明の国際社会からは懸念を抱かれていました。
しかし、【クレオール王国】は、大陸南東に【ガレリア共和国】と【イスプリカ】から領土を奪う形で実効支配を確立し、後にはウエスト大陸の守護竜である【リントヴルム】からスライマーナ女王が【指名】され【クレオール王国】は正式に国家承認を受けました。
現状、世界の超大国【ドラゴニーア】や北方の雄【ユグドラシル連邦】などを始め自由同盟諸国は、【クレオール王国】を国家承認しています。
この【クレオール王国】の存在は国際政治的、あるいは地政学的に重要な意味を持っていました。
取り分け【世界の理】の執行者であるゲームマスターである私にとっては重要です。
何故なら、【クレオール王国】は奴隷制を敷く【ガレリア共和国】と【イスプリカ】に挟まる位置関係にあり、両国と現在も戦争状態にあるからです。
そして、【クレオール王国】自身は……奴隷解放……を国是に掲げ、国民の殆ど全てが元は【ガレリア共和国】と【イスプリカ】の奴隷から解放された人々でした。
【クレオール王国】が対【ガレリア共和国】、対【イスプリカ】で勝つか負けるかは、単なる国家紛争の枠を超えて、私にとっては【世界の理】的に関心を寄せる事なのです。
現状【クレオール王国】は順調に版図を広げていましたが、それは奴隷から解放された【クレオール王国】国民軍の死を厭わない士気の高さに支えられていて、【クレオール王国】の国力自体は軍事力に偏っていて国内インフラや産業基盤の整備は大きく立ち遅れていました。
【クレオール王国】には、はっきり言って国家などを名乗るには烏滸がましいような程度の経済力しかありません。
グレモリー・グリモワールが【サンタ・グレモリア】でやっているように、ノート・エインヘリヤルも【クレオール王国】を発展させる事は可能な筈です。
グレモリー・グリモワールとノート・エインヘリヤルは、私の元同一自我なのですから……。
しかし、ノート・エインヘリヤルというキャラクターは、セレブ・ニートのロール・プレイヤーでした。
やる気を出さないのが、ノート・エインヘリヤルのパーソナリティなのです。
【世界の理】の執行者であるゲームマスターの私にとっても、ウエスト大陸の守護竜である【リントヴルム】にとっても、ノート・エインヘリヤルの体たらくには気を揉まさせられていました。
【クレオール王国】の庇護者であるノート・エインヘリヤルの気概と覚悟のなさもあって、現在【クレオール王国】は、対【ガレリア共和国】と対【イスプリカ】の二正面作戦において兵站維持が難しくなり、攻勢限界を迎えつつあります。
元来敵国に挟撃される地政学的には不利な状況にある【クレオール王国】は、果敢な攻撃により現地で奴隷を解放して現地の物資を奪い、自転車操業的に兵力と補給を補って来ました。
攻勢が止まれば、【クレオール王国】の軍事戦略は破綻が確実。
現状私はグレモリー・グリモワールに……ノート・エインヘリヤルをコンサルタントして、【クレオール王国】の経済発展と国力伸長に繋がる指導をして欲しい……と依頼しています。
それが上手く行かなかった場合は、いよいよ私が直接介入して、ノート・エインヘリヤルの性根を叩き直す必要に迫られるかもしれません。
ゲームマスターは、一国一党一派に与しない……というゲームマスター遵守条項がありました。
ただし……【世界の理】とゲームの世界観を守る……というゲームマスターの職責の方が、ゲームマスター遵守条項を優越します。
奴隷制は【世界の理】に違反していました。
従って、私はゲームマスターとして、奴隷解放を国是とする【クレオール王国】には、奴隷制採用国家の【ガレリア共和国】と【イスプリカ】に負けてもらっては困るのです。
お読み頂き、ありがとうございます。
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