第1121話。偉い神様。
本日2話目の投稿です。
【エデン牧場】お土産コーナーの休憩スペース。
私とカリュプソとウィロー、【レジョーネ】、グレモリー・グリモワールとディーテ・エクセルシオールは一服がてら雑談をしています。
「ところで【世界海洋ギルド】が発足し、国際海洋条約が発効しました。ノヒトの尽力に感謝を致しまする」
ニーズが言いました。
「私は何もしていませんよ。【海洋ギルド】は日本サーバー(【地上界】)各大陸の守護竜神殿と、各国政府と、各ギルドが人・物・金を拠出して作った人種による国際機関ですし、国際海洋条約はソフィアとティア・フェルメールの草案を利害関係にある守護竜達が支持して成立したモノですからね」
「いいえ。【調停者】のノヒトが各大陸・各国の利害調整役として中立の立場でオブサベーションしてくれたからこそ、私達守護竜も対立が起きずにスムーズに事が運んだのでこざりまする」
「そうね。何はともあれ、条約が無事発効して良かったわ」
リントが言いました。
「僕としては、ソフィアお姉様と【海洋神殿】から各大陸の国家に科されていた、移行期間中に海生人種国家の領海と排他的経済水域における、5大大陸国家の航行の自由と経済活動の自由を担保する対価として科されていた1日当たり1万金貨のペナルティが、国際海洋条約発効を契機として、ソフィアお姉様と【海洋神殿】側の厚意で全額返還してもらえる事になったのが本当に有り難いです。サウス大陸は貧乏ですから」
ファヴは苦笑いします。
へえ、ソフィアとティア・フェルメールはペナルティを返してあげたのですね。
まあ、あのペナルティは、海洋の利用に既得権を持つ5大大陸国家の側に、交渉期間や移行期間を意図的に長引かさせない為の施策でした。
ソフィアとティア・フェルメールは……5大大陸国家の側が速やかに条約に批准して海生人種の権益確保に協力する姿勢を見せてくれたので、ペナルティは必要ない……と判断して返還してあげたのでしょう。
良心的な対応ですね。
「それから、【シエーロ】から【天使】による医療団の派遣も本格的に開始され、助かっています。改めてノヒトにお礼を言います。ありがとうございます」
ファヴが頭を下げたので、他の守護竜達も口々に謝意を述べました。
「いえいえ。あれは【天使】族への刑罰ですから、遠慮なくこき使って下さい」
900年前に起きたユーザー消失に端を発してゲームマスターが不在となっていた期間に、【知の回廊の人工知能】とルシフェルの主導によってクローン【天使】達は、【シエーロ】のオリジナルの【天使】と北米サーバー(【魔界】)のNPC達を13億人以上虐殺し、その他数々の人倫に悖る【世界の理】違反が行われていたのです。
その刑罰として、私はルシフェル達北米サーバー(【魔界】)側の責任を負うべき者達には北米サーバー(【魔界】)のNPCへの庇護を行わせ、【シエーロ】側の責任を負うべき者達には【天使】による国際医療団を結成して恒久的に医療奉仕を行うという刑罰を科しました。
【天使医療団】は医療体制が未整備の国や地域に向かって現地で医療奉仕を行う傍ら、地球のWHOやCDCが担うような疾病対策や感染症の感染爆発制圧任務も行います。
【天使医療団】は、感染力や致死性が高い重篤な疾病が起きている危険な領域に真っ先に飛び込み最前線で身を挺して感染症と戦わなければいけません。
【天使医療団】の運営経費は、原則として【天使】コミュニティの持ち出しによる自己負担でした。
ただし、例外として【ドラゴニーア】や【ユグドラシル連邦】や【アーズガルズ】などの経済的に豊かな有志諸国や、各ギルドや、大企業が自発的な善意で【天使医療団】の活動資金を支援・協賛してくれていますが、経済的に余裕がない途上国は基本的に無償です。
【天使】コミュニティの経済的・人的負担は莫大になりますが、それも含めてが彼らへの刑罰でした。
同時に過去の贖罪を行わせるという意味もありますけれどね。
私が【天使】コミュニティへの刑罰及び贖罪として【天使医療団】の設立を指示した理由は、【天使】は少数の例外を除き生まれ付き魔法適性を持つからです。
また、【天使】は種族特性として【聖なる属性】系統の魔法や【能力】、そして【回復・治癒】が得意な者が多いので医療団としての活躍が期待出来ました。
今後長期に渡り【天使医療団】は100万人10万ユニットの体制で、日本サーバー(【地上界】)の5大大陸や【アーズガルズ】などの【隠しマップ】に送り込まれ、各地でボランティアの医療活動に従事します。
北米サーバー(【魔界】)については【天使医療団】としての活動は行われませんが、あちらはルシフェルが【領域守護者】としてのNPCへの庇護義務を負っていますので、そもそもルシフェルの責任で【天使医療団】と同等の活動をやらなければいけません。
私は【天使医療団】に対して、来年中に日本サーバー(【地上界】)側の世界平均寿命を10歳引き上げる事を至上命令として課しました。
統計値は、日本サーバー(【地上界】)の戸籍登録者を基準とします。
これは、絶対の数値目標でした。
平均寿命の目標値を1歳下回る毎に、ボランティア医療団に加わる【天使】の数を10万人単位で増員します。
ボランティア医療団の数が増えれば、それだけ【天使】コミュニティの負担が増大するので、彼らは死ぬ気で頑張るしかありません。
ブラック労働?
いいえ、これは労働などではなく、刑罰ですよ。
「それから【無人入植地計画】も着手され、ノヒトの【プロトコル】によって【開拓農夫ロボット】の最初のロットが【アトランティーデ海洋国】と【ムームー】で生産されました。今後【セトロイド】は随時未開地に送られ開拓事業が行われます。ありがとうございます」
ファヴが続けてお礼を言いました。
「ウエスト大陸では【セトロイド】を【サンタ・グレモリア】で一括委託生産をしてもらって、大陸各国からの要請があれば、完成品をなるべく安く払い下げる方式にしたわ。ノヒトはもちろん、グレモリーもありがとう」
リントも謝意を示します。
「礼には及びません。飢餓と貧困の撲滅はゲームマスター本部としても重大関心事ですので」
「【サンタ・グレモリア】は【セトロイド】の生産で利益は出ないけれど雇用が生まれるし、最初の設備投資も、労働者の賃金や原材料なんかの経費も【リントヴルム】の聖堂で全額負担してくれるから、むしろ有り難いよ。お礼は、こっちがしなくちゃ。あんがとね」
グレモリー・グリモワールは言いました。
リントがウエスト大陸に導入する【セトロイド】の生産を、グレモリー・グリモワールの【サンタ・グレモリア】に一括して任せる理由は、リントが元首として統治する【サントゥアリーオ】と、ノート・エインヘリヤルが庇護する【クレオール王国】は、両国とも建国間もないのでインフラが整っておらず、【ガレリア共和国】と【イスプリカ】は現在奴隷制を採用している(【ガレリア共和国】は期限を設定して奴隷制廃止を約束している)ので【リントヴルム】から国家承認を受けておらず、【ウトピーア】も国体変更されたばかりで国内に多少の混乱があり、【ブリリア王国】は世界最貧の途上国で【セトロイド】の安定生産に不安がある為です。
「因みに【無人入植地計画】の発案者は、ロルフとリスベットとハリエットです。お礼なら彼らにしてあげて下さい」
「【スカアハ訓練所】で、お礼を伝えました。あの子達は謙遜していましたが、僕はサウス大陸の守護竜として大陸功労者章の叙勲などで、彼らの功績に報いたいと考えています」
ファヴは言いました。
「妾も叙勲するつもりよ。本当に素晴らしい子達だわ」
ファヴとリントも言います。
「ノース大陸でも【セトロイド】を導入致しまするが、ソフィアお姉様は……セントラル大陸で生産する【セトロイド】を途上国支援として無償提供する……という方針を採るそうなので、【ユグドラシル連邦】でも連邦内で生産する【セトロイド】の何割かを途上国に無償提供する予定でござりまする」
ニーズが言いました。
「【アーズガルズ】も同様の方針だ」
ヨルムンも言います。
「ニーズお姉様、ヨルムンお兄様。ありがとうございます」
「ニーズ。ヨルムンお兄様。感謝します」
ファヴとリントは、ニーズとヨルムンに向き直って丁寧にお礼を言いました。
「ノース大陸は一部極北では農業が不可能な地域もござりまするが、基本的に【ユグドラシル連邦】は先進国でござりまする。途上国を支援する事は吝かではござりません。ソフィアお姉様の真似をしただけでござりまする」
ニーズは言います。
「【アーズガルズ】もサウス大陸やウエスト大陸に比べて経済的に豊かで飢餓問題はない。ソフィアお姉様の高潔さに倣わせてもらっただけの事だ。気にするな」
ヨルムンは言いました。
【神竜】が君臨するセントラル大陸は全5か国が全てが先進国で統計上の飢餓人口はいません。
なので【セトロイド】は本来の目的の飢餓撲滅の為には、必要ないのです。
なのでソフィアは、セントラル大陸で生産した【セトロイド】の大半を途上国に無償提供する事にしました。
【セトロイド】の生産に必要な基幹技術は、私が製造した【プロトコル】の自動生産によって賄われますが、【セトロイド】は【超位】の魔物にも対抗出来る強力な【ドロイド】なので、素材にはオリハルコンやミスリル合金など相応に希少で高価な資源が使われています。
その材料の調達コストは、【セトロイド】を生産する各大陸の守護竜神殿や各国政府が負担する事になっていました。
しかし、オリハルコンやミスリル合金などは高価で、途上国にとっては費用負担が馬鹿になりません。
【セトロイド】による開拓事業は、後年には経済発展やGDPという形で返って来る言わば投資なので、国債などを発行すれば費用捻出は事足りる筈ですが、それでも財源は無限ではないのです。
途上国は【セトロイド】生産以外の分野にも予算が必要でした。
お金が足りないから、途上国に甘んじているのですから。
なので、ソフィアは途上国支援の一環として経済的に豊かなセントラル大陸が【セトロイド】生産コストを負担して、完成品を無償で途上国に提供しようと考えたのです。
【神竜】が率先垂範して【セトロイド】の無償提供という途上国支援を打ち出した事で、同じく先進国の【ユグドラシル連邦】を管轄する守護竜【ニーズヘッグ】と、先進国【アーズガルズ】の守護竜【ヨルムンガンド】も同様の途上国支援を行う事を決めました。
【サントゥアリーオ】や【ブリリア王国】という途上国を抱える【リントヴルム】のウエスト大陸と、かつての魔物の【スタンピード】の影響で北方の【アトランティーデ海洋国】以外は途上国しかない【ファヴニール】のサウス大陸は、ソフィアとニーズとヨルムンから支援を受ける側なので謝意を示した訳です。
ソフィアは、この場にはいませんが、リントとファヴは個別にソフィアとアルフォンシーナさんに対して感謝の意を伝えていました。
私は、ソフィアの姿勢を率直に言って好ましいと思います。
【天使医療団】の件でも、【セトロイド】の件でも、ソフィアは一貫して恵まれない他の大陸や他国に対しての支援を真っ先に行いました。
まず先んじてソフィアが途上国に見返りを求めない善意の手を差し伸べなければ、ニーズとヨルムンも途上国支援の立場を表明しなかったかもしれません。
ソフィアは普段ワガママ放題の駄竜としか思えないのですが、こういう決めるべき時はバシッと決める存外に偉い神様なのです。
まあ、見返りを求めないとは言え、ソフィアやアルフォンシーナさんやセントラル大陸各国は、支援を受けるウエスト大陸とサウス大陸の民に恩を売って、感謝や信用という対価を得ているので、外交的な利益はあるのでしょうけれどね。
取りも直さず、守護竜達は、お互いに助け合っています。
守護竜はソフィアを長姉に、兄弟姉妹という設定でした。
つまり、守護竜達による国際協力は、差し詰め美しい兄弟姉妹愛という事なのでしょう。
「あ、そうだ。急な話で申し訳ないのですが、明後日の28日の朝食後に【七色星】のカルネディアの元の家である【誕生の家】で、カルネディアの姉(?)達の遺体を荼毘に付して埋葬し簡単な葬儀を行います。私とトリニティとカルネディアはもちろん、ゲームマスター本部の主要メンバーと、ソフィア達、それからブリギット(ミネルヴァ)も北米サーバー(【魔界】)から葬儀に参列してくれます。強制ではありませんが、みんなにも参加してもらえるとありがたいのですが、如何でしょうか?」
「カルネディアちゃんのお姉さん達のお葬式なら当然参加するよ。ノヒトの身内は、私の身内だからね」
グレモリー・グリモワールは言いました。
私とグレモリー・グリモワールは元同一自我ですからね。
守護竜達も葬儀参列を快諾してくれます。
「ありがとうございます。では、28日ですので宜しくお願いします」
お読み頂き、ありがとうございます。
もしも宜しければ、いいね、ご感想、ご評価、レビュー、ブックマークをお願い致します。
活動報告、登場人物紹介&設定集もご確認下さると幸いでございます。
・・・
【お願い】
誤字報告をして下さる皆様、いつもありがとうございます。
心より感謝申し上げます。
誤字報告には、訂正箇所以外のご説明ご意見などは書き込まないようお願い致します。
ご意見ご質問などは、ご感想の方にお寄せ下さいませ。
何卒よろしくお願い申し上げます。