第1119話。アバンギャルドなお土産。
本日2話目の投稿です。
乳業施設のミルク・スタンド。
【竜都】の【神竜神殿】付属孤児院出身で事業で成功したマルコ・ピンプ氏という心ある御仁が、後輩の孤児院出身者が致し方ない理由で高収入を得る必要に迫られ売春などに従事しなくても良いように代替の職場として【ミルク・メイド】なるメイド喫茶やキャバクラやガールズ・バーのような店舗を開業し、孤児院出身者を雇用している事を知り私は感心しました。
最初に話を聞いた際に、私がマルコ・ピンプ氏が出資する【ミルク・メイド】というお店を売春や性的なサービスを行う娼館や性風俗店だと誤解して……ポン引きのマルコ・ピンプ許すまじ……と憤激してしまった勘違いはご愛嬌。
いや、ハリエットが【ミルク・メイド】の事を……夜のお店……などという紛らわしい表現で話したのがいけないのです。
ハリエット、何ですか?
【ミルク・メイド】は事実として、夕方から翌朝まで営業する夜間営業の店だ、と?
そして主に女の子がお客の接待をするお酒を飲むお店なので夜の店と言った、と?
なるほど。
バーやクラブ(クラブ↑ではなくクラブ↓)は確かに夜の店と表現される事がありますね。
まあ、誤解は誰にでもある事です。
【ファミリアーレ】の子達が……お土産コーナーを覗きたい……というので、イグレータさん達スタッフに挨拶をして、私達は乳業施設を後にしました。
・・・
【エデン牧場】お土産コーナー。
トリニティとカルネディアとフェリシテは、【ファミリアーレ】とフェリシアとレイニールに付いて行きます。
私は別行動をして少しお土産コーナーを物色してみましょうか……。
カリュプソが私に付いて来ました。
お土産コーナーには様々な雑貨や、【エデン牧場】で生産される乳製品を使った食品やお菓子が並んでいます。
雑貨エリアでは……。
ホルスタイン柄など家畜を模したTシャツ、キャップ、パーカー、幼児向けの着ぐるみなどの衣料品。
家畜の革で作られたバッグや靴などの革製品。
家畜を模って可愛らしくディフォルメした縫いぐるみや人形や置物。
キーホルダー、ペナント、スノー・ドームなどの定番お土産。
マグカップやお皿などの食器。
牛乳由来の化粧品や美容用品。
入浴剤や石鹸など。
その他ありとあらゆる雑貨類が売られていました。
全てが牧場や家畜に因んだデザインになっています。
牛の角、鞍や鞭などの馬具、蹄鉄なんてモノまで売っていました。
買う人がいるのでしょうか?
牛の角は飾りにしたり、実用としてはペットの大型犬などが歯磨き代わりやストレス解消の目的でガジガジ噛むのだそうです。
鞍や鞭もインテリアと実用どちらでも使えて、多くはないものの一応買う人がいるのだとか。
蹄鉄だけは新品ではなく擦り減って交換した古いモノなので、蹄鉄として再利用する事は出来ませんが、牧場を訪れた記念品や幸運のお守りとしての用途で売れるそうです。
食品エリアでは……。
肉やハムやソーセージや加工食品など各種肉製品。
牛乳(成分無調整で殺菌処理されたモノ)。
低脂肪牛乳や無脂肪牛乳や濃縮牛乳など加工乳。
バター、ヨーグルト、チーズ、クリーム、アイスクリーム、エバーミルクやコンデンスミルクやスキムミルク、乳幼児用の液体ミルクあるいは粉ミルク、乳酸菌飲料や乳飲料、牛乳由来のサプメントや美容食品……などの各種乳製品。
品揃えが豊富です。
【エデン牧場】は私達以外のお客さんを見かけませんが、実は本来なら今日は一般開放の営業日ではないのだとか。
私達やグレモリー・グリモワール一行が視察や観光に来る事になったので、急遽貸し切り営業をしてくれたそうです。
おや、このお土産は……。
「牧草風味のチーズとヨーグルトとアイスクリームですか?」
「はい。当店人気の商品ですよ」
お土産コーナーの【ミノタウレ】(【ミノタウルス】の女性)の店員さんが教えてくれました。
「美味しいのですか?」
「試食がございます。どうぞ……」
【ミノタウレ】の店員さんが器に盛られた緑色のチーズを楊枝に刺して渡してくれます。
「うっ……なるほど。経験した事がない味ですね」
味見をすると……ある程度の予想は出来ましたが、正直微妙でした。
牧草の風味が勝ち過ぎて青臭いです。
青汁っぽいですね。
お土産コーナーには、この牧草風味の乳製品のような様々な変わり種商品も並んでいました。
お土産コーナーあるあるです。
しかし、牧草チーズは如何なモノでしょうか?
企画担当者が勢いでプレゼンしたのかもしれませんが、商品開発担当者がストップを掛けなかったのでしょうか?
まあ、お土産は面白さ優先で買うお客がいるのかもしれませんが……。
私は以前職場の同僚が帰省して地元のお土産として買って来たというマグロ・チョコレートなる人気のお菓子(?)を食べた事がありますが、アレはヤバかったです。
「フリーズ・ドライ製法で粉末に加工した牧草を混ぜ込み、ビタミン、ミネラルなどを豊富に含む健康食品的なチーズでこざいます」
私に試食を勧めた【ミノタウレ】(【ミノタウルス】の女性)の店員さんが説明しました。
「私は不足しがちなビタミンやミネラルを摂取するにしても牧草風味のチーズからではなく、サプリメントを飲めば良いと思うのですが?」
「美味しさと健康を兼ね備えた、一石二鳥あるいは医食同源的なコンセプトだとお考え頂ければ幸いでございます」
「あなたは、これを美味しいと思いますか?」
「良薬口に苦しと申しますので……」
「ならば、美味しさは牧草フレーバー付きではない普通のチーズで味わい、健康補助はサプリメントで事足りますよね?」
「はい。申し訳ありません」
【ミノタウレ】の店員さんは謝罪します。
「あ、いえ。別に咎めているのではありません。この牧草チーズが売られているのは、買うお客がいるからなのでしょう?例え、美味しさではなく、面白さや物珍しさでお土産を買うとしても、消費行動は消費者の自由です。売れているなら、私が口出しする事ではありません」
「ご理解、痛み入ります」
【シエーロ】の最高意思決定者である私が……不味い……と言えば、この牧草チーズは販売停止になるかもしれません。
如何いう理由であれ、売れているお土産は売れば良いのです。
全ての食品商材は、どんなに美味しくても売れなければ意味がありません。
突き詰めれば、あらゆる商品は売れるから売るのです。
しかし、お土産屋さんで売られている食品て何故こういう攻めたモノがあるのでしょうね?
攻めた前衛的な商品は、コンビニやスーパーなどより、お土産ショップの方が数多く目に付く気がします。
牧草風味のチーズや牧草風味のヨーグルトなどもそうですが、牛や羊の角があしらわれたキャップや、ホルスタイン柄の衣類などは、あまり日常的な使用頻度は高くないと思いますが……。
お土産を買うなら、どうせならご当地でしか買えない珍しいモノを……という特殊な需要があるのかもしれません。
あ、いや、思い返してみると、私の部下達は結構コスプレみたいな格好で仕事をしていましたね……。
いやいや、ゲーム・プログラマーを基準に常識を判断してはいけません。
私達の業界は、私を含めて変人率が高いのです。
ノヒト……視察と買い物が終わったから、そっちに合流するよ。
グレモリー・グリモワールが【念話】で伝えて来ました。
わかりました……お土産コーナーにいます……【転移】要員としてウィローだけでは負荷が高いでしょうから、カリュプソを迎えに行かせます。
私は【念話】で言います。
わかった……あんがと。
グレモリー・グリモワールは【念話】で言いました。
私はカリュプソに、【レジョーネ】とグレモリー・グリモワールとディーテ・エクセルシオールを迎えに行くよう指示します。
カリュプソは、視察組に付いて行ったウィローを【目標】に【転移】しました。
直ぐにカリュプソとウィローが、【レジョーネ】とグレモリー・グリモワールとディーテ・エクセルシオールを連れて、私を目標にして【転移】して来ます。
「お目当てのサイレージ・マシンは買えましたか?」
「無事に買えた。やっぱさ、【シエーロ】の【魔法装置】は良いね。私が欲しい性能の製品が見つかったよ。ま、900年前の感覚からすると割高な気もするけれど、他で買えないんだから仕方ない。【ダビンチ・メッカニカ】も【ガリレオ・テックニカ】も【ニュートン・エンジニアリング】も【ドワーフ・インダストリー】も五大大陸の産業力はユーザー消失以後に衰退しちゃっているけれど、【シエーロ】の技術は、900年前に近いレベルが維持されているみたいだね。ユーザーの知識が【知の回廊】のアーカイブに、ある程度保存されていたんだろうね」
グレモリー・グリモワールは言いました。
「それもありますが、【シエーロ】と、オープン・ワールドの【日本サーバー(【地上界】)・マップ】との一番の違いは魔物の脅威度ですよ。【シエーロ】は基本的に平場に魔物や【魔人】が【スポーン】しません。また【シエーロ】の安全保障は、900年前当時からユーザーには頼らず【天使】達の軍隊が担っていました。なので、【シエーロ】ではユーザー消失による対魔物戦力減少の影響は限定的だったのです。しかし日本サーバー(【地上界】)では、各国ごとに差はあるものの総体としてユーザー消失による対魔物戦力減少による悪影響が大きかったので、【シエーロ】以外ではユーザーが残した知識や技術が相応に失われてしまったと推定されます。ただし、高い戦闘力を誇ったユーザー達が突然消失してしまった事で、魔物に対抗する能力は相対的に必要性が高まったので、その分野にリソースが優先的に充当され、日本サーバー(【地上界】)でも軍事技術は民生技術に比べて衰退の程度が少ないようです」
「なるほど。ユーザーは知識や技術や戦闘力だけじゃなく、こっちの世界の人達よりお金も持ってたからね。買う人がいなくなれば、高性能な代わりに高価な製品は売れない。需要がない製品の技術は継承されない。だから、魔物と対抗する軍事技術はともかく、ハイ・スペックな家庭用機器とか、ハイ・スペック農機とかの技術は徐々に失われてしまった訳か……。単なる知識ではなく、熟練工の職能技術とかは一旦継承が途絶えたら、元の高いレベルに戻すのは相当難しいだろうからね」
「そう思います」
「あれ?ソフィアちゃん達と【フラテッリ】の子達は?」
「バーベキュー・コーナーでジンギスカンを食べています」
「あ、そう。良く食べるね」
「ソフィアの亜空間胃袋は底無しですからね」
「良し。なら私も【サンタ・グレモリア】の留守番組の為に、何かしらお土産を物色しようかな〜。ん?緑のチーズ?ほうれん草とか、ジェノベーゼとかを練り込んでいるのかな?」
グレモリー・グリモワールは試食品のチーズを無造作にポイッと口に入れます。
「あっ……」
「うげっ……不味。苦。青臭。何これ?青汁みたいな味がするんだけれど?」
グレモリー・グリモワールは顔をしかめました。
「牧草風味らしいですね」
「牧草?うわ〜、ヤバいよ、これ。そもそも牧草って食べられるモンなの?」
「あ、あの、原料の牧草は、アルファルファという植物の新芽でサラダなどにも使われているモノですので、人種の食用として問題ないモノでございます」
お土産コーナーの【ミノタウレ】の店員さんが説明します。
「あ、そう……。これは、ないわ〜。牧場お土産の定番のミルク・ケーキとかはないの?あ、もちろん普通ので、牧草抜きのヤツね」
「ミルク・ケーキは、こちらです。宜しければ試食もございます」
「あんがと。うん、これは普通のだね。なら、ミルク・ケーキを、この50個入りで100箱下さい」
「100箱ですね。ありがとうございます」
「あと、どうせ牧場に来たなら、成分無調整の新鮮な牛乳とか、バターとかチーズとかヨーグルトなんかが欲しいね。肉系は珍しい【エデン牛】の加工品だけで良いかな。【宝物庫】に入れときゃ鮮度は維持されるからさ」
「生鮮食品は、あちらの冷蔵コーナーです」
「あっちね。ミルク・ケーキの精算も後で纏めてでも良い?」
「はい。結構でございます」
「なら、お願いします」
グレモリー・グリモワールとディーテ・エクセルシオールは冷蔵コーナーに向かいました。
するとフェリシアとレイニールが2人に合流します。
さてと、私も何かお土産を買いましょうか……。
いや、いりませんね。
【ワールド・コア・ルーム】の飲食店や食料品店では【エデン牧場】産の肉や乳製品が売られています。
牧草チーズなど一部特殊な商品は、外部に出荷されず、このお土産コーナーでしか買えないようですが、特殊な商品がどうしても欲しければ【ワールド・コア・ルーム】に送ってもらう事も出来ますしね。
私は、美味しいかどうかはともかく珍しい食品や、購入しても使わない確率が高い謎雑貨を見て回るだけにしましょう。
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