第1116話。消えた追跡対象。
本日2話目の投稿です。
【エデン牧場】。
私と【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】は、乗馬体験をしていたトリニティとカルネディア、それから【ファミリアーレ】と合流しました。
乗馬コーナーに【フラテッリ】の姿はありませんが、トリニティが平然としているので何か問題があるという訳ではないのでしょう。
程なくして、【竜城】に【ペガサス】のローリエットを輸送したカリュプソも私達に合流しました。
【ファミリアーレ】の子達の中で、竜騎士団志望のモルガーナと、【ドラゴニーア】軍・騎兵隊のチャージ・チーム志望のティベリオは普段騎獣に乗る専門的な訓練も受けていますが、他の子達は多少おっかなびっくりという様子で馬に乗っています。
それでも運動神経が良い獣人娘達とフェリシアとレイニールは、多少ぎこちないながらも一応は自分で手綱を取り1人で乗馬をしているので大したモノですね。
カルネディアと残りの子達は、牧場スタッフに手綱を引かれて歩かされている馬に座っているだけ。
なすがままでした。
まあ、初めての乗馬体験なら、それが普通です。
本来カルネディアは【魔人】なので身体能力は獣人娘達より高いのですが、【魔人】は基本的に騎乗ステータスが【下方補正】されるので致し方ありません。
「ソフィア達も乗馬をしてみますか?」
「我は、馬刺しは好きじゃが、乗馬などには興味はないのじゃ」
「アタシにはトライアンフという最強の相棒がいるから、馬なんかに浮気はしないよ」
ソフィアとウルスラが言います。
あ、そう。
「【フラテッリ】がいないのじゃが、どうしたのじゃ?」
ソフィアが辺りをキョロキョロ見回して言いました。
「そうですね。トリニティ、【フラテッリ】はどうしましたか?」
「【フラテッリ】はバーベキュー・コーナーでジンギスカンを食べています。【コンシェルジュ】と牧場スタッフが付いてくれています」
トリニティが説明します。
ジンギスカン?
さっき昼食を済ませたばかりだというのに……。
ジンギスカンは無料ではないので、もちろん【フラテッリ】が食べた分は私に請求されます。
まあ、お金の事は、どうでも良いですけれどね。
「なぬっ!我を差し置いてジンギスカンを食べておるじゃと?それは聞き捨てならぬ。我もジンギスカンを食べたいのじゃ」
ソフィアが言いました。
「ソフィア。昼食を食べたばかりですし、また直ぐ夕食になりますよ」
「ジンギスカンは別腹なのじゃ。ウルスラ、我らもジンギスカンを食べに行くぞっ!」
ソフィアは駆け出します。
「おーーっ!ハイヨー、トライアンフ」
トライアンフに跨ったウルスラがソフィアに続きました。
ジンギスカンが別腹なんて、そんな話は初めて聞きましたよ。
「ソフィア様。バーベキュー・コーナーは反対方向です」
トリニティがソフィア達に呼び掛けます。
「ぬぐっ!こっちか……」
闇雲にダッシュしていたソフィアは急ブレーキを掛けて、反対方向に走り出しました。
「進行方向に直進して100m程行った、三角屋根のロッジ風の建物がバーベキュー・コーナーです」
トリニティが指差します。
「お〜、アレか、わかったのじゃ」
オラクル、ヴィクトーリア、ソフィアとウルスラの世話を頼みますね。
私は【念話】で伝えました。
お任せ下さい。
了解しました。
オラクルとヴィクトーリアは【念話】で返答します。
【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】は、バーベキュー・コーナーに向かって喧しく走り去りました。
やれやれ……。
私は乗馬コーナーの馬場にある丸太の柵に腰掛けて、カルネディアと【ファミリアーレ】とフェリシアとレイニールが馬に乗っている様子を眺めます。
チーフ……ヨハンナ・ラ・フォンテーヌの動向について続報があります……ヨハンナは【エピカント】でホテルをチェック・アウトして街で様々な物資を購入した後に、忽然と消えました。
ミネルヴァが【念話】で報告しました。
消えた?……如何いう事ですか?
私は【念話】で訊ねます。
ヨハンナが【スクロール】を使ったところまでは確認しましたが、次の瞬間に見失いました……おそらく、その【スクロール】に【転移】のギミックが付与されていたのだと思います……ユグドラもヨハンナを発見出来ません。
ミネルヴァは【念話】で説明しました。
あり得ません……【転移】を【スクロール】に【効果付与】出来るのは、ベータ版に依拠した【大付与術師】であるノートだけです。
私は【念話】で疑義を呈します。
【転移】の発動ギミックは【超位級】でした。
【スクロール】などへの【効果付与】は正式版では魔法効果が【下方補正】される筈です。
【下方補正】を受けず、【超位魔法】を【超位魔法】として、そのまま【効果付与】出来るのは現在ではベータ版のプレイヤー仕様を持つノート・エインヘリヤルだけでした。
つまり、ヨハンナ・ラ・フォンテーヌが【転移】の【スクロール】を所持している筈がありません。
可能性としては、ヨハンナ・ラ・フォンテーヌに【転移】の【スクロール】を持たせ、【転移】したヨハンナが私のサーベイランスと、ユグドラの植物を端末に世界を見聞きする能力を振り切って撒く方法が1つだけあります。
ミネルヴァが【念話】で言いました。
ああ……【神格者】がヨハンナ・ラ・フォンテーヌに協力しているという事か。
私は【念話】で推定します。
その通りです……速やかに各守護竜に確認をしましたが、【レジョーネ】のメンバーはもちろん、イースト大陸の【アジ・ダハーカ】、【ゴンドワナ】の【ザッハーク】、【エレビア】の【バルドル】、【プレスタンツァ】の【アンピプテラ】、何れもヨハンナ・ラ・フォンテーヌの行動を知らないと答えました……各守護竜の話が事実なら、ヨハンナに【転移】の【スクロール】を与え、現在彼女を私のサーベイランスとユグドラの植物の目から隠蔽しているのは、【神格】の守護獣の何れかという事になります。
ミネルヴァは【念話】で説明しました。
このゲームでは原則として【スクロール】や【超位級】までの【魔法石】には、【転移】を【効果付与】する事は出来ない仕様になっています。
何故なら、前述した通りベータ版に依拠した【大付与術師】のノート・エインヘリヤル以外が何らかの魔法を【効果付与】するとギミックに【下方補正】が掛かるからでした。
【転移】は【超位魔法】なので、【スクロール】に【超位魔法】を【効果付与】するには【下方補正】分を逆算すれば、【神位魔法】の位階が必要なのです。
なので私はヨハンナ・ラ・フォンテーヌが【スクロール】を使って【転移】するのは、あり得ないと考えました。
しかし、これには例外があります。
もしも【神格者】の誰かが【転移】が【効果付与】された【スクロール】を、ヨハンナ・ラ・フォンテーヌに与えたなら、【神位】の【転移】は【下方補正】されても【超位級】なので、【転移】発動には問題ありません。
従って、この時点でヨハンナ・ラ・フォンテーヌに【転移】の【スクロール】を与えたのは【神格者】だという事がわかります。
ただし、これにも問題がありました。
【超位級】の魔法ギミックを【効果付与】するには、一般的な【スクロール】の素材では強度が足りないのです。
素材の強度は、【魔法石】などの他の【魔法触媒】にも共通する問題でした。
例えば、【超位級】の【魔法石】に、【下方補正】分を逆算して【神位魔法】を【効果付与】しようとすれば、【超位魔法石】は【神位魔法】の過負荷に耐えられず粉々に砕けてしまいます。
【神位魔法】を【効果付与】するなら、【ダンジョン・コア】級の【魔法石】が必要でした。
【効果付与】時に魔法ギミックの【下方補正】が起こらないベータ版に依拠した【大付与術師】のノート・エインヘリヤルならば、【スクロール】や【超位魔法石】に【超位魔法】を【効果付与】する事が可能なのです。
しかし、この原則にも例外がありました。
要するに【スクロール】を【神位魔法】の負荷に耐えられる強度の素材で作れば良いのです。
【神格者】ならば、【神位魔法】を【効果付与】しても耐え得る強度の素材を自前で用意する事が可能でした。
それは、守護竜や【神格】の守護獣の生皮。
つまり【神格者】の皮膚を【スクロール】素材にすれば良いのです。
もちろん、恐るべき耐久力がある【神格者】の生皮は簡単には剥げませんし、そもそも守護竜や【神格】の守護獣などが、理由もなく赤の他人から生皮を黙って剥がされる訳はありません。
つまり、それを行うのは守護竜や【神格】の守護獣自身か、守護竜や【神格】の守護獣から生皮を剥ぐ許可を貰った誰かという事になります。
そして、ミネルヴァのサーベイランスと、植物を端末として世界を見聞き出来るユグドラを、ヨハンナ・ラ・フォンテーヌが撒けた理由も、守護竜や【神格】の守護獣なら自らの神域内にヨハンナを匿えば、外部からのアクセスを遮断してしまう事が可能でした。
これらの根拠から、ミネルヴァはヨハンナ・ラ・フォンテーヌに【転移】の【スクロール】を与えたのが【神格者】だと推定したのです。
私も、それ以外にヨハンナ・ラ・フォンテーヌがミネルヴァとユグドラの追跡を振り切って忽然と姿を消した理由を説明出来ないと思いますね。
ただし、デフォルト・データの【神格】の守護獣は【転移】が使えない筈ですが……。
もちろん【神格】の守護獣が【スポーン】して長い時間を経過すれば、【転移】を覚えるという可能性はあり得ます。
【神格】の守護獣が住む島の神域に、恐れ知らずのNPCが侵入して【強制遭遇】が発生し、その侵入者が【神格】の守護獣に殺された後、【神格】の守護獣が【スポーン・エリア】内に残るという事はあるかもしれません。
現在は外部からの世界へのアクセスが途絶しているので、【スポーン】したままになった特定のNPCを一旦【帰還】させる運営のコマンドも止まっているでしょうからね。
わかりました……【神格者】がヨハンナ・ラ・フォンテーヌに特別な【スクロール】を与えた理由は少し気になりますが、ヨハンナ・ラ・フォンテーヌも、彼女を追跡した先に居る可能性があるジョヴァンニ・カンパネルラも、別に【世界の理】違反者という訳ではありません……失尾したのが凶悪な【世界の理】違反者ではなくて良かったです……私はジョヴァンニ・カンパネルラがユーザーではない事を確認する為に、ジョヴァンニと合流する可能性があるヨハンナを追跡していましたが、そもそもジョヴァンニ・カンパネルラが【スポーン・オブジェクト】で遭難して死亡している可能性もあります……失尾してしまった事は不本意ですが、ジョヴァンニもヨハンナも絶対に身柄を確保しなければならない対象という訳ではありません……また、ヨハンナの動向を掴めたら、その時に改めて話を聞ける機会もあるでしょう。
私は【念話】で伝えました。
わかりました……一応【神格】の守護獣の神域である島に【スパイ・ドローン】の【キー・ホール】を展開してサーベイランスを行います……【神格】の守護獣程度の隠蔽であれば、私のサーベイランスならば看破可能ですので、ヨハンナ・ラ・フォンテーヌが何れかの島にいるなら直ぐに発見出来るでしょう。
ミネルヴァは【念話】で言います。
わかりました……お願いします。
私は【念話】で言いました。
ヨハンナ・ラ・フォンテーヌについては、今後もミネルヴァに任せておけば良いですね。
しばらくすると、カルネディアと【ファミリアーレ】とフェリシアとレイニールの乗馬体験が終わったようです。
「カルネディア。乗馬は楽しかったですか?」
「う〜ん、良くわかりません。ママが楽しそうだったので楽しいと思います」
カルネディアはニッコリ笑って答えました。
あ、そう。
まあ、カルネディアは牧場のスタッフが手綱を引いて歩く馬の背に乗せられていただけで、乗馬の楽しさを知る程には馬を乗り熟せていた訳ではありませんからね。
つまらなくなかったのなら、とりあえずは、それで良いのです。
私達は【ファミリアーレ】の子達の希望で、次は牛の乳搾り体験と、自分で搾った牛乳でチーズを作る体験コーナーに向かう事にしました。
乳搾りはともかく、チーズ作りは発酵工程があるので即日には出来上がらないと思うのですが?
それともモッツァレッラやカッテージ・チーズのような乳酸による発酵が甘く、深い熟成を経ないフレッシュ・チーズを作るのでしょうか?
成形段階までを体験し、発酵・熟成を経て出来上がった完成品を自宅に送ってももらえる、と?
なるほど。
私達は乳搾り体験コーナーに移動しました。
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