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第1113話。閑話…続・大神官付き筆頭秘書官の日誌…7。

本日3話目の投稿です。

【竜城】の大神官私室。


 アルフォンシーナ様と、【イスタール帝国】のラーラ・グレモリー・イスタール皇帝陛下は、非公式昼食会の後そのままお茶会に移行なさり、一見お2人で優雅な午後の一時(ひととき)を楽しんでいらっしゃる……ように、お見受けします。

 しかし、お2人がお話になっている内容は、優雅な午後の一時ひとときとは似ても似付かない外交と国際安全保障の問題。


 お2人とも【ドラゴニーア】と【イスタール帝国】という軍事強国の国軍最高司令官の権限をお持ちでした。

 それは、名目上の文民(シビリアン・)統制(コントロール)などという生易しいモノではなく、アルフォンシーナ様もラーラ陛下も実際に矢弾が飛び交い、(おびただ)しい死体が転がる凄惨で血生臭い最前線で軍を指揮した経験がある、()()()大元帥でもあるのです。


 また、お2人共、敵に対しては容赦のない謀略を仕掛ける事でも知られ恐れられていました。


 当然、お2人が安全保障の話をなさるなら、話題は具体的な軍事戦略や権謀術数についてになります。

 私は、そういう分野についてもアルフォンシーナ様やイルデブランド軍長官閣下などから御指導を賜る機会がありますが、今現在実際に世界で繰り広げられている紛争や謀略の話を聞くのは、何だか現実感が湧かない事でした。

 しかし、もちろんアルフォンシーナ様とラーラ陛下のお話は、全てが事実であり映画やドラマの話ではありません。


「大僧正猊下(げいか)を始め【アジ・ダハーカ寺院】の聖職者達への調略は、ほぼ完了しました。【アガルータ】()()が【イスタール帝国】や【タカマガハラ皇国】や【アルカディーア】と事を構えれば、大僧正猊下(げいか)率いるイースト大陸の寺院勢力の主流派は此方(こちら)に付きます」

 アルフォンシーナ様は微笑みながら仰います。


「ありがとうございます。問題は【アガルータ】政府の背後にいる【ザナドゥ】()()()()の出方です。最も懸念すべきは、寺院勢力が完全に私達の自由同盟側に付けば、【ザナドゥ】独裁政権軍は【アガルータ】に侵攻する事ではありませんか?」

 ラーラ陛下は、アルフォンシーナ様とは対照的に眉間にシワを寄せて仰いました。


 え?

【ザナドゥ】と【アガルータ】は同盟国です。


 アルフォンシーナ様やラーラ陛下が、【ザナドゥ】と【アガルータ】の事を、【ザナドゥ】独裁政権や【アガルータ】政府と呼ぶ理由は、両国の国民には国政に参画する権利が認められていないからでした。

【ザナドゥ】も【アガルータ】も民主主義国ではないのです。


 従って、国民の自由意思に基づく主権国家としての【ザナドゥ】や【アガルータ】と、国民から自由と主権を奪い独裁支配を行う【ザナドゥ】独裁政権と【アガルータ】政府とは分けて考える必要がありました。


【アガルータ】の法都【シャンバラ】にいらっしゃる大僧正猊下(げいか)や【アジ・ダハーカ】様を祀る総本山である【大寺院】の聖職者の皆様方は、現在の【アガルータ】政府と政治的立場が同じではありません。

【アガルータ】政府は……政教分離……などという愚にも付かない詐術のレトリックを用いて、大僧正猊下(げいか)や寺院勢力からの指導や苦言を無視しています。


 つまり、大僧正猊下(げいか)と寺院勢力が私達の自由同盟側に味方しても、それ自体は【アガルータ】政府が【ザナドゥ】独裁政権を裏切った事にはなりません。

 なのに何故【ザナドゥ】独裁政権は同盟を結ぶ【アガルータ】を攻めるのでしょうか?


 アルフォンシーナ様に質問したい。

 でも、アルフォンシーナ様とラーラ陛下のお話に、私が口を差し挟むなどという事が許される筈もありません。


「陛下は何故そう思われますか?」

 アルフォンシーナ様がお訊ねになります。


 私が質問したい事を、アルフォンシーナ様が訊いて下さいました。


「【アジ・ダハーカ】様信仰の総本山である【大寺院】は【アガルータ】の法都【シャンバラ】にあります。【アジ・ダハーカ寺院】勢力が自由同盟側に付けば、【ザナドゥ】独裁政権が自由同盟諸国と敵対する際の国際社会に対する唯一の大義名分が失われます。イースト大陸の守護竜【アジ・ダハーカ】様の神域たる【大寺院】と、その指導者である大僧正猊下(げいか)が【アガルータ】に御在(おわ)し、その【アガルータ】政府と【ザナドゥ】独裁政権が同盟を結んでいるからこそ、【ザナドゥ】独裁政権は自らを正当化しているのです。しかし、大僧正猊下(げいか)と【大寺院】が……自由同盟側に付く……というお立場を明確になされば、【ザナドゥ】独裁政権は唯一の自己正当化の根拠すら失います。そうなれば【ザナドゥ】独裁政権は力尽くで大僧正猊下(げいか)の身柄を押さえに行くという選択肢を取らざるを得ないのではありませんか?」

 ラーラ陛下が御見解を示されます。


 確かに【ザナドゥ】独裁政権なら、そういう人の道を外れた暴挙をやりかねません。

【ザナドゥ】独裁政権は、全体主義の権威独裁を標榜し、イースト大陸の守護竜たる【アジ・ダハーカ】様はもちろん、他の守護竜様達や【創造主】様への信仰も全て否定していました。

 何たる暴虐邪智。

 そういう悪辣な政権でなければ【世界の(ことわり)】に反する奴隷制などを堂々と国策として採用出来る訳がありません。


 しかし、一方で【ザナドゥ】独裁政権は、自分達が否定している神々への信仰を、自らの(おぞま)しい欲望を叶える為には、平気でプロパガンダに利用していました。

 我々【ザナドゥ】は、大僧正猊下(げいか)と【大寺院】を(よう)する【アガルータ】と同盟国であるのだから、正義は我々にある……と。


 とんだ欺瞞です。


【ザナドゥ】独裁政権と同盟を結んでいるのは、大僧正猊下(げいか)と【大寺院】を(ないがし)ろにしている【アガルータ】の()()であって、守護竜【アジ・ダハーカ】様が君臨する領域たる【アガルータ】ではありません。


 そして【ザナドゥ】独裁政権は、更に同盟を結ぶ【アガルータ】政府にさえ攻め込んで、大僧正猊下(げいか)(さら)って虜囚にしようという腹積りなのでしょうか?


 もはや、やっている事が支離滅裂ですね。

 本当に【ザナドゥ】独裁政権は、卑怯で下劣で厚顔無恥な奴らです。


 もしも【ザナドゥ】独裁政権が【アガルータ】に侵攻するのなら、一刻も早く【ドラゴニーア】は竜騎士団や艦隊を派遣して、大僧正猊下(げいか)と【大寺院】の聖職者を救出して保護して差し上げなければいけません。


「【ザナドゥ】独裁政権が大僧正猊下(げいか)(とりこ)として、自らのプロパガンダに利用する事は出来ないでしょう。あの英明なる大僧正猊下(げいか)は、誤った思想の独裁政権に自らの権威を政治利用させるような御方ではありません」

 アルフォンシーナ様は微笑み(たた)えたまま仰いました。


「しかし、大僧正猊下(げいか)が【ザナドゥ】独裁政権に拉致されてしまえば、結局は政治利用されてしまうのではありませんか?仮に【ザナドゥ】独裁政権の思惑が大僧正猊下(げいか)のお考えとは異なるとしても、実際に【ザナドゥ】独裁政権が大僧正猊下(げいか)の身柄を押さえてしまえば、大僧正猊下(げいか)を監禁しておき、【ザナドゥ】独裁政権が捏造したデタラメな話を大僧正猊下(げいか)の御言葉として国際社会に喧伝(けんでん)するなど、如何(どう)とでも出来てしまいます」

 ラーラ陛下は仰います。


「大僧正猊下(げいか)は全てを()()()の上なのですよ」


「それは如何(どう)いう意味でしょうか?」


「【ザナドゥ】独裁政権の者達の知能が正常ならば、拉致や監禁など大僧正猊下(げいか)御身(おんみ)を直接拘束したり害するような愚かな真似は出来ません。もしも【ザナドゥ】独裁政権の手の者が【大寺院】に攻め寄せれば、大僧正猊下(げいか)は……自らの生命を対価に【アジ・ダハーカ】様を降臨させる儀式を行い、【ザナドゥ】独裁政権に神罰を与えて下さるようにお願いする……と【ザナドゥ】独裁政権に向かって【誓約(プレッジ)】を布告なさいました。実際そうなれば【ザナドゥ】独裁政権は滅びます」


「何と!?御命を対価になさるとは、悲壮な御覚悟なのですね?」


「ええ。当代の大僧正猊下(げいか)は剛気な気質の御方ですので……」


「なるほど。では【ザナドゥ】独裁政権は大僧正猊下(げいか)には手を出せなくなった、と。そうなると、敵の次の一手は……」


「もはや【ザナドゥ】独裁政権と【アガルータ】政府が打てる手は限られます。おそらく次の策は【ゴブリン自治領】でしょう」


「なるほど」


【ゴブリン自治領】?


【ゴブリン自治領】は元来イースト大陸北東の【タカマガハラ皇国】と【アガルータ】と【ザナドゥ】が国境を接する地域に、3か国が紛争を避ける目的で設けられた緩衝地帯(バッファー・ゾーン)でした。

 その緩衝地帯(バッファー・ゾーン)に、世界中から集まった【ゴブリン】達が勝手に住み着いて不法占拠している国というか、領域というか、難民キャンプのような場所が【ゴブリン自治領】でした。


 言葉は悪いですが、あの掃き溜めのような【ゴブリン自治領】に一体何程の事が出来るのでしょうか?


「ゼッフィ。【ザナドゥ】独裁政権が仕掛けて来る【ゴブリン自治領】での策謀を読めますか?」

 アルフォンシーナ様が私に訊ねました。


「申し訳ありません。非才の私にはわかりかねます」


「私が【ザナドゥ】の独裁者なら……現在の自由同盟と神権連合の対立は、もはや勝ち目はない……と考えます。その最大の理由は、【調停者】ノヒト様の御復活です。神権連合が行う【世界の(ことわり)】に反する奴隷制を、ノヒト様は決して御赦しにはなりません。事実ノヒト様は神権連合の盟主であった【ウトピーア法皇国】を滅ぼし、【ウトピーア】に国体を変更してしまわれました。【ザナドゥ】独裁政権は衝撃を受けたでしょう。更に、ノヒト様の御力により【神竜(ソフィア)】様を始めとする守護竜様達も御復活なさっています。もちろん守護竜様達も【ザナドゥ】独裁政権の奴隷制を是認しません。神権連合側は追い詰められました。ここまでの現状認識はゼッフィにもありますね?」


「はい」


「人種同士の紛争ならば、【ザナドゥ】独裁政権が(くみ)する神権連合の勢力が、自由同盟諸国に比べて大きく国力で劣るとしても、まだ戦いようはあります。自由民主主義の自由同盟諸国は、国民の意思を無視して戦争は出来ません。対する独裁支配体制の神権連合側は、国民の意思を無視して戦争が出来ます。自由同盟諸国の政府は出来る限り戦争を避けたい。戦争になれば、自由民主主義国の政府は選挙に負ける公算が高いからです。一方で、神権連合の独裁者や独裁政権は選挙によって国民の審判を受けませんので、自由同盟諸国に比べて戦争を始めるのが簡単です。もちろん実際に戦争となり神権連合側が無様に負ければ、独裁者や独裁政権とはいえ権力を維持出来なくなるでしょうが、少なくとも開戦の時点までは、こういう構図です。この自由同盟諸国と神権連合の政治体制による立場の違いを利用すれば、弱い神権連合側が、強い自由同盟諸国に対して、局面においては優位に立てる可能性もある。つまり、神権連合の独裁者や独裁政権は、自由同盟諸国の国家元首や政府や議会に対して……自分達は戦争を忌避しないが、お前達は戦争を避けたいのだろう?……というチキン・レースを仕掛けて、自由同盟諸国側に先にゲームからベタ降りさせる戦略が採れるからです。もちろん、実際に戦争が始まってしまえば、国力に劣る神権連合は必ず負けます。しかし、自由民主主義の自由同盟諸国は、主権者たる国民の生命と財産を戦争で失う事を何より恐れます。神権連合は国民の生命と財産など一顧だにしない。戦争を、より怖がるのは自由同盟諸国です。実際に全面戦争が起きるか如何(どう)かのギリギリの瀬戸際で立ち回り、政治的あるいは外交的な勝利を目指すのが、神権連合側の基本戦略であり常套手段なのです」


「なるほど」


「しかし、ノヒト様と、その後に続く守護竜様達の御復活により状況が変わりました。ノヒト様と守護竜様達を相手にチキン・レースは出来ません。自由同盟諸国はノヒト様と守護竜様達の恩寵に浴し、神権連合諸国は神々の怒りを受けています。パワー・バランスは完全に自由同盟諸国に傾きました。さて、自由同盟諸国側圧倒的優位の盤面で、ゼッフィが【ザナドゥ】の指導者なら如何(どう)しますか?」

 アルフォンシーナ様は、お訊ねになります。


 え〜と、【世界の(ことわり)】に反する奴隷制を採用している神権連合は、現世に御復活遊ばされた神々の怒りを受け、もはや死に体。

 神権連合が自由同盟に勝つ道筋は、物理的にはもちろん、政治的にも外交的にも完全になくなりました。


 であるなら、【ザナドゥ】が取り得る選択肢は……負けをどれだけ少なく出来るか……です。


 先程アルフォンシーナ様は、【ザナドゥ】の次の一手は【ゴブリン自治領】だと仰いました。


 現時点で【ゴブリン自治領】は自ら望んで【ザナドゥ】の属国のような立場になっています。

 しかし、先日【ゴブリン自治領】は【竜都】に外交使節団を送って来て……自由同盟諸国側に寝返りたい……と要請しました。

 ただし、【ドラゴニーア】は【ゴブリン自治領】を交渉を行う対象となる主権国家とは認めていない上に、【ゴブリン自治領】の外交使節団が【ドラゴニーア】に対する脅迫(まが)いの方法で自由同盟諸国側への鞍替えをしたいと訴えた事で、【神竜(ソフィア)】様の逆鱗に触れ……敵……認定されてしまったのです。


 という事は……。


「つまり【ザナドゥ】は【ゴブリン自治領】を(そそのか)すか焚き付けるかして、領域を接する自由同盟国に攻め込ませたりテロなどを起こさせ、それを仲裁あるいは征討するなどという口実で介入して、自由同盟諸国側に貸しを作り和平協議に持ち込み、少しでも自分達に有利な条件で、自由同盟と神権連合による敵対関係の解消を図ろうと考えるのではありませんか?」


「概ね宜しい」

 アルフォンシーナ様は微笑んで頷きました。


「ほう……。その若さで、そこまで読むか?」

 ラーラ陛下が感心します。


「という事は、これから何が起きますか?」

 アルフォンシーナ様が、お訊ねになりました。


「……あっ、【ゴブリン自治領】に接する唯一の自由同盟国である【タカマガハラ皇国】が危ない」


「その通り。従って【ドラゴニーア】は【タカマガハラ皇国】支援の為に第1艦隊を派遣しました」

 アルフォンシーナ様は仰います。


 ラーラ陛下も頷きました。


 アルフォンシーナ様は、このように何手も先を読んで布石を置いておられます。

 私は、少しでもアルフォンシーナ様のお役に立つ為に、もっともっと学ばなくてはいけません。

お読み頂き、ありがとうございます。

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・・・


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