第1104話。ギャングの常套手段。
本日2話目の投稿です。
【エデン】中央神殿の広間。
私とトリニティとカルネディアとフェリシテは、【エデン牛】のメイン料理に付け合わせるサイド・ディッシュやドリンクなどを選びテーブルに戻りました。
メイン料理はステーキの焼き加減などを細かく聞いてから焼き始めるので、しばらく待つ必要があります。
「バクバクバク……シャック、シャク……バクバクバク……モシャモシャ。美味いっ!」
ソフィアは山盛りのサラダとパンにガッツいていました。
あれだけで、お腹いっぱいになりそうな物凄い量です。
「あ〜、死人が出ちゃったか〜。でも、法的には問題ないんでしょう?」
グレモリー・グリモワールが言いました。
「今回の件では明らかに相手に非があるから、ノートやスライマーナの側に法的な問題は全くないのだけれど……」
リントが嘆息しながら言います。
グレモリー・グリモワールとリントは難しい顔で声を潜めて何事か話し合っていました。
「リント、グレモリー。死人とは穏やかではないのじゃ。一体何の話じゃ?」
ソフィアが訊ねます。
「少し厄介な連中がいて、【クレオール王国】が、ちょっとした弾みでその相手を殺害してしまったのです。なので、グレモリーに知恵を借りて事後対応を協議しているところですわ」
リントが答えました。
「厄介な連中とな?何者なのじゃ?」
「【銀の銃弾】という傭兵団、兼、民間軍事会社ですわ。一応本拠地は【ガレリア共和国】の【マッサリア】という登記になっていますが、現地には連絡事務所があるだけで実態は住所不定の流れ者達ですね」
「傭兵団とか民間軍事会社とかって言うか、ありゃ〜、典型的なギャングだね。合法的に戦車とか大砲とかを所有しているから、最悪の部類のギャングだよ」
グレモリー・グリモワールが言います。
「【マッサリア】に本拠地登記しているなら、リントの管轄ではないか?ギャングなど潰してしまえ。我なら、そうするのじゃ」
ソフィアが言いました。
ソフィアが君臨するセントラル大陸では、ギャングなどの犯罪組織や反社会勢力に対しては、苛烈な取締りを行って完全に駆逐しています。
セントラル大陸で何者かがギャングなどの犯罪組織や反社会勢力を名乗って市民や行政にみかじめ料を要求したり、暴力をチラつかせて脅迫などをすれば、【神竜】の神託一下即座に竜騎士団や【ドラゴニーア艦隊】が出動して問答無用で砲撃や爆撃を行う場合もあるのだとか。
実際には犯罪組織や反社会勢力とは関係なく……俺が誰だかわかっているのか?……とか……俺のバックが黙っていないぞ……などと反社会勢力を騙ったり存在を匂わせただけでも、程度によってはアウトなのだそうです。
やり過ぎなような気もしますが、この徹底した対応が功を奏して、ギャングなどの犯罪組織や反社会勢力はセントラル大陸には絶対に近寄りません。
また、外国に出張や旅行に出掛けたセントラル大陸市民が、現地の犯罪組織や反社会勢力に狙われるトラブルも比較的少ないのだとか。
外国のギャングなどの犯罪組織や反社会勢力がセントラル大陸の市民に手を出せば、最悪の場合、竜騎士団や【ドラゴニーア艦隊】が外国まで攻めて来る可能性もあるからです。
【神竜】や、アルフォンシーナさんや、【ドラゴニーア】の政府や司法当局が絶対に犯罪組織や反社会勢力を許さないと知っているので、セントラル大陸の一般市民の側も、そういう連中から不当に金品を要求されたり脅迫されても全く支払いに応じず政府や司法当局に告発するだけなので、犯罪組織や反社会勢力はセントラル大陸では商売自体が出来ません。
「それが一応、傭兵団や民間軍事会社としての実績もあるのが厄介なところなのです。【銀の銃弾】は、少し前まで【ティオピーア】の対魔物防衛戦にも参加して主力級の戦力として命懸けで戦っていて、その他にも一応、対魔物、対【魔人】への防衛や討伐で、それらしい活動はしています。ただし、連中には悪い癖があって……金になりそうな事なら何でもやる……というギャング紛いで違法スレスレの強請や集りもやっているようです。単なるギャングなら潰してしまうのも簡単なのですが、対魔物や対【魔人】で歴とした戦績もある傭兵団、兼、民間軍事会社という事で、一部の大衆からは感謝や支持も受けている連中なので、明らかな違法行為の証拠もなく、いきなり潰してしまう訳にもいかない状況なのです」
リントは説明しました。
「ふむふむ。詳しい話を聞こうではないか」
「少し前に、その【銀の銃弾】とかいう自称傭兵団、兼、民間軍事会社ってのが【サンタ・グレモリア】にも来たんだよ。色々あって、アリスが対応したんだけれど……【サンタ・グレモリア】は【ワー・ウルフ】を庇護しているから人種文明の敵だ……とか、ほざきやがったらしい。で、明言はしなかったけれど、言外に……見逃して欲しかったら金を払え。然もなけりゃ、【サンタ・グレモリア】が庇護している【ワー・ウルフ】を間違って攻撃しちゃうかもしれない……って、匂わせて来たんだってさ。【サンタ・グレモリア】の【ワー・ウルフ】が【サンタ・グレモリア】の外で活動する場合には、目立つようにアリスの家の紋章が入った衣服や鎧やマントを着るから間違いようがないんだよ。まあ、ギャングの常套手段の強請の手口だね。でも、【サンタ・グレモリア】には全く疚しい事はないし、最近のアリスは結構睨みが利くから丁重に対応して、お帰り頂いたんだけれどさ」
グレモリー・グリモワールは言います。
「丁重な対応のう?実際には如何やって追い払ったのじゃ?」
「アリスは、【キブリ警備隊】と【グリモワール艦隊】と【神の軍団】と領軍と駅馬車隊で【銀の銃弾】を取り囲んで……それは【サンタ・グレモリア】への宣戦布告と捉えても良いのか?……ってニッコリ笑って訊ねたらしい。そうしたら、【銀の銃弾】は這々の体で逃げ出して、それ以来【サンタ・グレモリア】にはチョッカイを出して来なくなった。で、連中は懲りもせず、【クレオール王国】にも【サンタ・グレモリア】と同じように強請に行ったんだよ。【魔人】や魔物と共生しているなんて、人類文明の敵だから見逃して欲しけりゃ、金を払え……ってね。で、【クレオール王国】の渉外担当者が対応しきれないからってスライマーナさんの分離体が出て行ったら……【スライム】だ……って、いきなり銃を構えて引き金に手を掛けたらしい。スライマーナさんの護衛達が咄嗟に動いて、銃を構えた奴を取り押さえたところ、打ち所が悪くて死人が出ちゃった、という顛末。で、【銀の銃弾】は自分らに都合の良いデタラメな事を吹聴して、【傭兵ギルド】やら親交がある複数の国の政府に訴えて慰謝料やら弔慰金やら示談金やらを【クレオール王国】に請求して来ているという話」
「ふむ。紛うかたなきギャングの手口じゃな。じゃが、スライマーナは【クレオール王国】の女王じゃ。ウエスト大陸の守護竜たる【リントヴルム】が正式に【指名】した正当な国家元首に銃口を向けたのじゃから、殺されても文句は言えまい。むしろ【銀の銃弾】は【リントヴルム】の神敵じゃ。簡単に潰してしまえるじゃろう?何が問題なのじゃ?」
「それが【銀の銃弾】のリーダーでシルバー・ロードを名乗る者が【エレビア】の王家の血を引く者なので、対応を誤ると【エレビア】との外交問題になりかねず、苦慮しているのです」
リントが言いました。
「なぬっ!?【エレビア】の王家じゃと?」
【エレビア】とはウエスト大陸に紐付いた【隠しマップ】です。
それにしても……シルバー・ロード?
厨二病を拗らせたような二つ名ですね。
「はい。調べたところ、900年前に【サントゥアリーオ】に遊学にやって来た【エレビア】の皇太子がいた事が判明しました。その皇太子は遊学期間を終えて【エレビア】に帰国し王位を継承し、【エレビア】王家として現代に血脈を繋いでいます。【サントゥアリーオ】には【エレビア】の皇太子が遊学中に関係を持っていた現地妻のような愛人がいました。その愛人は【エレビア】の皇太子が帰国した時に、手切金を受け取り別れたのです。ところが、その愛人は【エレビア】の皇太子の子供を妊娠していて、落胤が生まれました。この落胤は、その後【エレビア】の王となった元皇太子から王位継承権を持たない庶子として認知されました。【銀の銃弾】のリーダーのシルバー・ロードなる者は、その【エレビア】王の庶子の子孫で遺伝子検査の結果でも、それが証明されています。ウエスト大陸だけで片付く事なら、妾の一存で如何ようにも対処出来ますが、【エレビア】が絡むとなると現地の守護竜【バルドル】にも了解を受けなければいけませんので、【銀の銃弾】に対して、あまり強引な事も出来ません」
「【バルドル】は何と言っておるのじゃ?」
「明らかな違法行為があるなら現地司法当局の対応を尊重するが、明確な違法行為がないなら出来るだけ穏便に対応して欲しい……と伝えて来ました」
「【クレオール王国】の女王スライマーナに銃口を向けたのじゃ。不敬罪という明確な違法行為じゃろう?」
「それがさ、スライマーナさんの分離体は、スライマーナ女王だとは名乗らずに、あくまでも【クレオール王国】の外交担当者として会ったから、【銀の銃弾】の連中はスライマーナさんが【クレオール王国】の女王だとは知らずに、魔物の【スライム】として銃口を向けたんだよ。だから厳密に法解釈するなら不敬罪には問えない」
グレモリー・グリモワールは説明しました。
「ならば、そのシルバー・ロードなる者を素行不良者として【エレビア】に強制送還してしまえば……と、現地に【転移座標】を持つ【転移能力者】がおらぬのか?」
「はい」
リントは頷きます。
「ノヒト。どうにかならぬか?」
ソフィアが私に話を振りました。
「話を聞く限り、ゲームマスターとしては介入出来ませんね。そもそもの話からすると、【銀の銃弾】某が【サンタ・グレモリア】の住民である【ワー・ウルフ】や、【クレオール王国】にいる【魔人】や魔物を攻撃して、万が一殺傷してしまっても、人種が【魔人】や魔物を攻撃したり殺傷するのも、逆に【魔人】や魔物が人種を攻撃・殺傷するのも、この世界的には自然な事です。それ自体は【世界の理】には違反しません。もちろん、それは【サンタ・グレモリア】や【クレオール王国】の国内法的には違法行為でしょうが、【銀の銃弾】が実際に【サンタ・グレモリア】の【ワー・ウルフ】や、【クレオール王国】の【魔人】や魔物に危害を加えたり、そうすると脅迫して金品を強請ろうとしても、【世界の理】に違反していない個別の違法行為に関して、私やゲームマスター本部が動く根拠がありません」
「つまり、ノヒトは何もせぬと?」
「はい。今回のケースでは、スライマーナ・トランスペアレントが女王だとは名乗らずに会ったとはいえ、【銀の銃弾】某は【クレオール王国】の外交担当者として会ったスライマーナ・トランスペアレントの分離体に対して銃口を向けた事では、外交に関する国際条約に違反していますし、脅迫罪や殺人未遂……あ、いや、スライマーナ・トランスペアレントは【スライム】だから、殺人には問えないか……。ともかく【銀の銃弾】某は国際法でも【クレオール王国】の国内法でも罰する事が可能な筈です。【銀の銃弾】に死人が出たのは不可抗力で【銀の銃弾】側の自業自得。スライマーナ・トランスペアレントが、国際法と【クレオール王国】の国内法に基づいて【銀の銃弾】を粛々と取り締まれば良いだけの話です」
「理屈はそうじゃが、【エレビア】が絡んで厄介な事になっておる……という話は如何する?」
「私には関係ありませんよ。少なくともゲームマスターの職責ではない事は確実です。せめて、スライマーナ・トランスペアレントが……ウエスト大陸の守護竜である【リントヴルム】から正式に【指名】された【クレオール王国】の正当女王……として【銀の銃弾】と謁見していたのなら、彼女に銃口を向けた事を、守護竜を中心にした秩序を踏み躙った【世界の理】違反というふうに多少無理矢理にでも拡大解釈して、私がゲームマスターとして介入する口実にも出来ましたが、今回はそうではありませんからね」
今回の場合、スライマーナ・トランスペアレントの分離体は、事を荒立てないように女王ではなく外交担当者として【銀の銃弾】と会ったのでしょうが、それが却って問題をややこしくしています。
時と場合によっては、あえて事を荒立てた方が穏便な解決になる事もありますからね。
「ノヒトはケチで薄情じゃのう」
「ケチで結構。ゲームマスターである私が情で動く方が問題です」
「リントよ。如何するつもりじゃ?」
ソフィアはリントに訊ねます。
「妾は、いっその事グレモリーが……【銀の銃弾】から喧嘩を売られた……という理屈で暴れて連中を潰してくれないか?と期待しているのですけれど。それなら……グレモリーと【銀の銃弾】の私闘……という事で処理して、【エレビア】との外交問題にならなくて助かるわ」
リントは身も蓋もない事を言い出しました。
「リントちゃん。私の事を一体何だと思っている訳?ま、連中が本当に私の身内に手を出したら潰すけれどさ」
グレモリー・グリモワールが抗議します。
「冗談よ。でも、そんな冗談も考慮するくらい、打つ手がないのも事実だわね。一応【バルドル】にも【銀の銃弾】にも……次にウエスト大陸で何か問題を起こしたら、やってしまうわよ……と警告はしておいたけれどね」
リントは溜息を吐きました。
すると、焼き上がった肉が各自のテーブルに運ばれて来ます。
「とりあえず、その話は食事の後じゃ」
ソフィアが言いました。
お読み頂き、ありがとうございます。
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・・・
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