第1103話。【エデン牛】肉祭。
【エデン】中央神殿の広間。
私、トリニティ、カルネディア、フェリシテ、カリュプソ、ウィローのゲームマスター本部チームと、【レジョーネ】、【ファミリアーレ】、【フラテッリ】、そしてグレモリー・グリモワール一行が揃いました。
私達は各々挨拶を交わします。
おや?
見慣れない人達がいますね。
「ノヒト、お疲れ」
グレモリー・グリモワールが見慣れない人達を引き連れてやって来ました。
見慣れない人達は、【ミノタウルス】の男女3人です。
因みに【ミノタウルス】の女性は【ミノタウレ】と呼び分けられていました。
【ケンタウルス】の女性も【ケンタウレ】と呼び分けられますが、種族名の男女を呼び分ける場合と一緒くたに呼ぶ場合とで、何か違いがあるのでしょうか?
良くわかりませんね。
「カルネディアや【ファミリアーレ】に加えて、今日は急遽【フラテッリ】の引率までお願いしてしまってすみません」
「全然問題ないよ。フロンちゃん達は【ドゥーム】の【ピラミッド】で【迷宮】慣れしているから、ランダムで構造が変わる罠も簡単に見付けるからね。ただ【フラテッリ】が馬鹿強過ぎて他の子の訓練にはならなかったけれど……。まあ、強い子の戦いぶりを間近で見学するだけでも勉強にはなるから、無駄ではないっしょ」
「ありがとうございました。何かすみません」
「【ドゥーム】を【秘跡】から【除外】して【時間加速装置】として利用している事とか、あのエロ・キャラのメディア・ヘプタメロンをソフィアちゃんの神殿にリクルートしたとか、ミネルヴァさんから色々と話は聴いているよ」
「ボチボチやっています。【古代・グリフォン】の所有権をソフィアに譲ってもらった事もありがとうございます」
「ギブ&テイク……ってか、むしろ私の方が貰い過ぎだから気にしなくて良いよ。ノヒトとミネルヴァさんには感謝しても、しきれないから。ソフィアちゃんとアルフォンシーナさんにもね」
「そう言ってもらえると助かります。で、そちらの方達は?」
「あっ、そうそう。ミネルヴァさんからランチは【エデン】で【エデン牛】パーティだって聞いて、慌てて【サンタ・グレモリア】の畜産・酪農の担当者を連れて来たんだ。ルパートには前に会った事があったかな?」
「確か、アリス侯爵の家宰フロレンシアさんの旦那さんでしたか……」
「うん、そう。ルパートにはウチの畜産・酪農関係の責任者を任せている。ルパートは元牧童だから、家畜の扱いや世話は得意なんだけれど、畜産業や酪農業の専門家って訳じゃない。牧草地の管理とかサイレージの方法とか、精肉や鮮度管理とかは、やった事がないからね。知っているだろうけれど、【サンタ・グレモリア】に【ガストロノミア】系列レストランが3店舗と、系列ホテルが2棟出店してくれる事になってさ。クイーンさんの指導のおかげで農業部門は何とかなりそうなんだけれど、ちょっと真面目に畜産と酪農をやって【ガストロノミア】系列店で使えるレベルの肉と乳製品を生産しないと、【ガストロノミア】系列で使う肉や乳製品は全部輸入しなきゃなんなくなる。それだと【サンタ・グレモリア】は商機を逃すし、【ガストロノミア】もコストが上がって利幅が下がるから良くない。ミネルヴァさんに頼んで、有名な【エデン牛】の生産現場を見学させて貰える事になったから、今日は勉強させてもらう事にした。ウチの畜産・酪農部門の幹部たちに有名な【エデン牛】を食べさせて、午後に牧場視察をという訳」
「なるほど」
一般的に畜産大国と云えば【リーシア大公国】、酪農大国と云えば【スヴェティア】というイメージがあります。
また、美食で知られる【ドラゴニーア】や【ガレリア共和国】、それから【パダーナ】も畜産と酪農で有名でした。
それらの国々に生産量では及びませんが、【エデン】や【タカマガハラ皇国】もブランド肉が世界的に有名です。
【エデン】のブランド・イメージを決定付けているのが【エデン牛】。
【エデン牛】の名前は、ユーザー消失後に【シエーロ】と五大大陸との往来が久しく途絶えて以来、半ば伝説と化しているそうです。
「まあ、【エデン牛】は有翼牛っていう魔物だから、何処まで乳牛や肉牛の飼育の参考になるかって話だけれど、飼料や飼育方法なんかは牛と共通するし、最高のブランド肉がどうやって生産されているのか有難く見学させてもらうよ。で、この人達が【サンタ・グレモリア】の畜産業と酪農業を現場担当として主導してもらう、ゲイリー・デーリーと奥さんのヘレナさんと息子のハリーのデーリー一家。みんな、ノヒトに挨拶して」
「グレモリー様から名誉ある家名を賜りました、ゲイリー・デーリーでございます。何卒宜しくお願い致します」
「ヘレナでございます」
「ハリーです」
デーリー一家は深く頭を下げて挨拶をしました。
「どうぞ宜しく」
畜産と酪農を行う一家の家名をグレモリー・グリモワールが名付けたのですね?
だから……酪農家。
安直です。
「ノヒト。そんでさ、【シエーロ】から最新のサイレージ・マシンを購入する事になったんだ。ミネルヴァさんから、どんなのが良いか見て選ぶように言われたんだけれど、後で見せて貰える?【ダビンチ・メッカニカ】と【ガリレオ・テックニカ】が【サンタ・グレモリア・スクエア】に代理店を出したから、サイレージ・マシンのカタログを見たんだけれど、高品質なサイレージが作れる農機って、別途大規模なバンカー型サイロやタンク型のサイロを造る必要があって工事費がクッソ高いんだよね。私は、北海道の牧場とかにある馬鹿デッカいラップみたいので牧草や藁をグルグル巻きにしたカマンベール・チーズのオバケみたいなのを作れるサイレージ・マシンをイメージしているんだよね。でも、【ダビンチ・メッカニカ】や【ガリレオ・テックニカ】ではアレはないらしい」
グレモリー・グリモワールは言いました。
サイレージとは家畜用の発酵飼料そのもの、あるいは発酵飼料の保存方法の事で、牧草や藁や穀物などを刈取りサイロで発酵させる事からサイレージと呼ばれています。
サイロに保存された新鮮な状態の牧草や藁や穀物は、乳酸発酵や酢酸発酵により酸性となり牧草の腐敗の原因となるカビや細菌の繁殖を抑制し保存性が高まりました。
また、単に保存が利くだけでなく、適切に発酵したサイレージは家畜の健康や肥育に役立つ栄養素も増える為、それを食べた家畜の肉や乳製品の品質も高くなります。
グレモリー・グリモワールが言っているサイレージ・マシンとは、牧草などをベール・ラップで包みロール・ベール・ラップ・サイロを作れるベーラーという農機の事でしょうね。
たぶん【シエーロ】では、グレモリー・グリモワールがイメージする通りのベーラーが製造されている筈です。
ただし私は、サイレージ・マシンについては何も聞いていませんね。
ミネルヴァとグレモリー・グリモワールとの間では合意形成が済んでいるようですが、どういう段取りになっているのでしょうか?
「え〜っと……」
チーフ……午後【コンシェルジュ】が案内します。
ミネルヴァが【念話】で伝えて来ました。
「午後【コンシェルジュ】が案内します」
私は、ミネルヴァが言った通りに伝言します。
「あんがとね〜」
「ノヒト、グレモリーっ!其方ら、早く席に着かぬかっ!食事が始まらぬではないかっ!我は食事を待たされるのが大嫌いなのじゃっ!」
既にテーブルに着いて前掛けをしたソフィアが大声で言いました。
「わかりました」
「あ〜、ごめん」
私達は、急いで着席します。
私達がテーブルに着くと、待ち構えていた給仕係の【コンシェルジュ】達が説明を始めました。
「本日のコースは、お任せとなります。ライス、パン、サラダ、サイド・ディッシュ、スープ、フルーツ、ドリンク、デザートなどは、あちらから、お好きなモノを自由にお選び下さいませ。メインは【エデン牛】の熟成肉を薪のグリルで焼き上げます。ソースはお好みのモノをお使い下さい。第一皿は熟成【エデン牛】のリブ・ロースの薄切りと、第二皿は熟成【エデン牛】のポーター・ハウスのグリル・ステーキでございます。リブ・ロースの薄切りはg数と焼き加減をお伺い致します。ポーター・ハウスのグリル・ステーキは500gが規定サイズですので、焼き加減だけお伺い致します。如何致しますか?」
【コンシェルジュ】が淀みなく説明した後に、訊ねます。
リブ・ロースの薄切りというのは牛のタタキ的なモノですね。
ポーター・ハウスのグリル・ステーキはガッツリのステーキです。
絶対に美味しいヤツですよ。
しかし、ポーター・ハウスのグリル・ステーキは500gで固定ですか?
ポーター・ハウスとはヒレとサーロインが両方付いた所謂Tボーンの部位です。
しかし、Tボーンでもポーター・ハウスと称する場合にはヒレとサーロインの割合が決まっていた筈。
以前日本のイタリア料理店で食べたポーター・ハウスのグリル・ステーキは5cmくらいの厚さがありました。
あの厚さがデフォルトなのかもしれません。
だとすると、小さく切り分けると肉の部位の規定上ポーター・ハウスではなくなり、料理法としてのビステッカ・アッラ・フィオレンティーナでもなくなるので500gが規定サイズという事なのでしょう。
500gは結構な量ですね。
でも、美味しいステーキなら意外とペロリです。
異世界転移以来、私は腹痛はもちろん、胃もたれも胸焼けもしない無敵体質に変わりました。
地球での私は、痩せの大食いで沢山食べる割には胃腸が弱い、どちらかと言えば虚弱体質だったのですが……。
なので量的な問題はありません。
万が一、食べきれなくても【収納】に入れておけば腐りませんからね。
「え〜と、リブ・ロースの薄切りはミディアム・レアで300g。ポーター・ハウスのグリル・ステーキの焼き加減もミディアム・レアでお願いします」
「畏まりました」
焼き加減とかは正直なところ良くわからないのですよね。
料理によって最適な焼き加減は違うと聞いた事もありますが、私は焼き加減を訊かれたら毎回ミディアム・レアでお願いしています。
私的には、ウェルダンが良く焼きで、レアは中に赤みが残り、ミディアムはその中間という理解ですので、つまりミディアム・レアなら中間より気持ち生に近い……みたいな?
何となく無難な感じがするので、これ以外を試した事がありません。
トリニティとカルネディアも私と同じミディアム・レア。
グレモリー・グリモワールはレア?
なるほど、攻めましたね。
ディーテ・エクセルシオールとウィローは……ブラック・アンド・ブルー?
何ですか、それは?
「ブラック・アンド・ブルー?何それ?」
グレモリー・グリモワールがディーテ・エクセルシオールに質問しました。
「ブラック・アンド・ブルーは、高熱や直火による短時間の加熱で外側を強めに焦がして、中はほぼ生の状態にする焼き方よ。昔英雄が言っていたけれど、神界では……ピッツバーグ・レア……とも呼ぶらしいわ。一般的にレアと言っても肉のタンパク質が変質する75度程度の熱が入るから、レアは加熱されていて生ではない。でも、ブラック・アンド・ブルーの肉の中に入る熱は65度以下。食べて美味しく感じる暖かさはあるけれど、肉の中心は限りなく生に近い状態が維持される。だから焦げ目のブラックと、生肉を意味するブルーという事ね。今回は最高の品質管理がされた【エデン牛】だから食中毒の心配はまずないし、脂身が少ない赤身の熟成【エデン牛】で、薪グリルでの調理でしょう?だったら焼き加減は絶対にブラック・アンド・ブルーがお勧めよ」
ディーテ・エクセルシオールが説明します。
ウィローも、その知識を知っていたのか頷いていました。
ディーテ・エクセルシオールもウィローも、ゲーム時代から存在するユニークNPCですので、かつて【エデン牛】を食べた事があるのでしょう。
つまり、ブラック・アンド・ブルーとは、藁焼きの鰹のタタキみたいな事でしょうか?
家庭でステーキを焼いて失敗した時に外が焦げて中が生という事がありますが、プロの料理人がワザと家庭の失敗みたいな状態を狙って焼くという事なのかもしれません。
「へえ……なら、私もブラック・アンド・ブルーで」
グレモリー・グリモワールが焼き加減を変更しました。
あ……私も焼き加減を変更しようかな〜……。
ディーテ・エクセルシオールの話を聞いたら、それが良いような気がして来ました。
「皆の者。注文は済んだか?」
ソフィアが言います。
「「「「「おーーっ!」」」」」
みんなが気勢を挙げました。
焼き加減の変更を言い出すチャンスを逸してしまいましたね。
まあ、良いです。
後でブラック・アンド・ブルーという焼き加減も試してみましょう。
食べきれなければ、【収納】に放り込んでおけば良いのですから。
「よーーしっ、【エデン牛】肉祭の開始じゃーーっ!」
ソフィアがランチの開始を宣言しました。
途端ソフィアとトライアンフに跨ったウルスラ、ハリエットとイフォンネッタ、【フラテッリ】がダッシュでサイド・メニューのバイキングに向かいます。
私は慌てませんよ。
別にサイド・ディッシュはなくなったりしないのですから。
むしろ何をサイド・ディッシュに持って来るか戦略を組み立てる時間として有効に活用しましょう。
肉がガッツリなので、付け合わせは軽くサラダとかにして……白飯は?
迷いますね〜。
肉をワン・バウンドさせて白飯を掻っ込むというジャパニーズ・ストロング・スタイルも捨てがたいのですが、今回は肉を喰らう事を主眼において、あえて炭水化物は抜くというアクロバットもありかもしれません。
いや、一応半ライスは貰っておきましょう。
肉を食べる時は……肉汁が染みた白飯を食べる為に肉がある……みたいなところもありますからね。
私は頭の中で完璧なシミュレーションをしました。
ソフィア達がサイド・ディッシュを山盛りにしてテーブルに戻って来たタイミングで、私とトリニティとカルネディアとフェリシテは、ゆっくりサイド・ディッシュを選びに向かいます。
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